公開日:2010/9/21

県内高校外国語科教員対象 「夏季CALL研修会」を訪ねて…

 8月26日(木)、神奈川県立白山高等学校において、県内高校外国語科教員対象「夏季CALL研修会」が開催された。白山高校では年に2回、神奈川県内の外国語科教員を対象に、英語科の先生と、日ごろよりCALLシステムを活用されている先生を講師としてお招きしてCALL研修会を行い、その研修プログラムは毎回好評を博している。今回は、白山高校英語科の西部優先生による授業実践報告、東洋学園大学の下山幸成先生による「高校の授業でのCALLシステムの活用法」と題したご講演が行われた。
 さっそく、この伝統あるCALLワークショップの様子を紹介しよう。

■授業実践報告
「国際教養プログラム」で異文化を体験!

神奈川県立白山高等学校 教諭 西部  優 先生 

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 白山高校の国際教養コースには、年間を通して異文化理解を図ることを目的とした「白山国際教養プログラム」が用意されている。生徒は英語研修や国際交流のイベントなど、様々なプログラムを体験して自然と異文化に触れることができるのだ。
 西部先生は「白山国際教養プログラム」の1つ「レシテーション」の授業でCALL教室を利用されており、全体のカリキュラムの中で、どのようにCALL教室を利用しているかについて報告された。

「内容理解」後に、「暗唱」トレーニング

 教材は「オバマ大統領のプラハでの演説」の動画。高校生にとっては、少し難しそうな内容のように思われるが、西部先生の授業では、CALLシステム『CaLabo EX』を駆使して、内容の理解をさせたあとに、暗唱のトレーニングができるように工夫されている。
 その流れを、次のように紹介された。
①日本語訳のテキストを配布しておき、10分程度の字幕付きの演説の映像を見せる。
②日本語訳の中で「わからない言葉」をピックアップさせ、図書館やインターネット(CALL教室)を利用してグループで調べ学習を実施。ここで、演説の内容を理解させる。
③内容が理解できたところで、比較的わかりやすい部分を1分程度抜き出して、その部分の暗唱トレーニングをCALL教室において『ムービーテレコ』を使って行う。
 生徒にとっては、歴史や文化的な知識の習得と併せて、リスニング力も磨かれ、まさに一挙両得の学習ができていることになる。
 会場では、授業の組み立て全体を説明されたあと、③のCALLシステムで行っている暗唱トレーニングの活動を、参加された先生方が実際に体験。『ムービーテレコ』で暗唱の練習をするわけだが、この暗唱トレーニングの動画教材に工夫が施されていた。
 演説が短く1節ずつに区切られ、はじめにその部分の英語テロップが表示される。テロップが消えると、同じ部分の演説が再生され、それが繰り返されるという仕組み。なんと、このテロップ入りの教材は西部先生がMicrosoftの『Windows ムービーメーカー』を使って作成したもの。さらに先生は、『Windows ムービーメーカー』の使い方の手順を実際に作業しながら説明され、簡単に字幕入りのビデオ教材が作成できることを実践された。

テストの際には、ほとんどが「暗唱」済み!

 テロップ入りの教材でトレーニングを重ねたあと、最後にテストを行うが、多くの生徒はほとんど暗唱してしまっているという。
 「いきなり暗記させるのは難しいことですが、システムを使い、擬似的に同時通訳のようなことをさせて、少しずつ暗記する部分を増やしていく。パソコンに向かって一人で練習するだけでなく、時にはクラスメイトと練習し合うなど、パターンを変えて練習させることによって、集中力をもって、楽しく学習することができます。その結果、いつの間にか暗唱してしまうようです」と西部先生は話された。CIMG0383.jpg
 会場では、授業や生徒の発表の様子を映し出したビデオも投影された。まさに楽しそうに授業に参加している生徒の様子が見られ、英語そのものの学習のほかに、図書館やインターネットでの調べ学習をさせるなど、総合的な学習の中でCALLシステムを取り入れている西部先生の授業実践報告に、
 「授業の組み立て方の具体例がわかってよかった」
 「大変実践的な内容でアイデアも豊富に いただいた」
といった感想が数多く寄せられた。

 

講演:
「高校の授業でのCALLシステムの活用法」
― CALL機能はどの場面でどう使うか ―

東洋学園大学 人文学部・専任講師 下山 幸成 先生

CIMG0388.jpg 下山先生は10年前から授業でCALLシステムを活用されている。特に、高校でも長くCALL教室での授業を担当されていたご経験もある。今回はそうしたご経験に基づき、CALL機能はどのような場面で活用するか、また、CALL教室で授業を行う際に配慮すべきことについてご講演された。

CALL教室では、「学び方を教える」ことが主になる

 はじめに、CALL教室に設置されているプロジェクタ、センターモニターなどの機器とCALLシステムのモニタリング、音声・動画教材個別再生などの標準的な機能について説明された後、「CALLシステムによる効果的な授業とは?」と先生方に問いかけ、自由に書き出させた。先生方が各自、効果的な授業についてイメージし、書き出したところで、下山先生は「学力が向上する授業」「自律した学習者を育てる授業」という考えを披露。すかさず、これをCALL教室での授業に当てはめるとどういうことになるか、とお話を進めた。
 結論は「生徒の個別学習の時間が増える」という点に集約された。つまり、「個別学習の時間が増える」ことで、CALL教室における教員の役割は変化し、個別指導のノウハウ、特に「外的観察」「内的観察」「学習過程の観察」がより重要になってくるという。
 CALL教室では、普通教室で行っていた活動と比べて、個人を主体とした活動が増える。当たり前のことに思われるが、CALL教室では生徒一人ひとりにパソコンとヘッドセットが配置されているため、生徒にとっては
 「リスニングやシャドーイングなどを集中して取り組める」
 「ディクテーションも、聞き取れないところを何度も聞き直しながら自分のペースで行える」といったメリットがある。
 また、教師側には、
 「学習の過程を先生が確認し、指導の過程を見せることが   効率よく、より多くの生徒に対して行える」
 「アナライザ機能を使って、その場で生徒の理解度を把握し、指導内容を変更することもできる」
 「ペアやグループワークの実行が容易になり、指導も偏らずまんべんなく行える」などと、効率よく授業を進行できるメリットについてわかりやすく説明された。
 CALL教室では「知識の伝授」だけでなく、むしろ「学び方を教える」ことの方が主になる、という先生のお話はよく理解できた。

「効果的な授業」には、「生徒視点/教員視点」が大切

 さらに、実践事例として、CALLシステムの機能をポイントになるところでどのように使っているかのご紹介があり、要所ごとに、
 「CALL教室での悪さ防止には、モニタリングしていることを 生徒に教えること。時にはクラス全員分のモニタ画面をわざとスクリーンに提示したりする」
 「一人ひとりモニタしているとき、声をかけて集中している生徒の邪魔をしたくないが、コメントがないと『自分のことをちゃんと見ていてくれない』と不満に思う子もいる。そんなときには、メッセージ送信機能を使い、文字でコメントを送るようにしている」といった具体的で細やかなアドバイスも加えられ、参加された先生方は、熱心にメモをとられていた。その他にも、授業で使えるフリーソフトもご紹介いただくなど、盛りだくさんの内容であった。CIMG0396.jpg
 「効果的な授業」を考えるとき、常に「生徒視点/教員視点」で考えることが大切、とおっしゃっていた下山先生のことばが印象的なご講演だった。

 

 

 

 

『ローマの休日』のアフレコで、会場は大盛り上がり

 このほか、『ムービーテレコ』用の教材『ローマの休日』を使ったアクティビティを体験するコーナーもあり、
 「映像を見てスクリプトの穴埋め問題を解く」
 「一場面を使ってシャドーイングする」
 「登場人物になりきってアフレコする」
といった活動に取り組まれた。
 アフレコ体験では、登場人物のアン王女かジョンのどちらかを選択し、映像にあわせてセリフを吹き込む。録音後に再生すると、あたかも有名な俳優とセリフを交わしているように見える。映画のシーンをそのまま使っているので、セリフは速く感じられるが、参加された先生方は皆、表情豊かに感情を込めてセリフを録音されていた。
 全員の録音が終わったところで、実際の授業のように、CALLシステムの「モデル」機能で、指名された先生が代表として録音後の“作品”を発表された。その声がアン王女のイメージにぴったりで、会場は大いに盛り上がった。

 今回のプログラムは、西部先生の授業実践報告や『ムービーテレコ』教材の体験から授業に役立つヒントを得られたという先生方の声が多く聞かれ、また、下山先生のご講演にはCALLシステムの活用とCALL教室での授業の仕方について改めて考える機会となり、実践と理論の両面からCALLシステムへの理解がより深まる充実した内容の研修会であった。

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