いつでも使えるICTのすすめ ~授業のすきま時間も効果的に活用~
小学校におけるICT活用事例のご紹介
―東京都―
立川市立第二小学校
2020年度の新学習指導要領の本格実施に向けて、小学校におけるICTの導入と活用が急がれている。
本特集では、ICT活用のためのデジタル教材として、チエルのフラッシュ型教材と個別学習用「検定式」教材を今年3月に導入した立川市立第二小学校を訪問し、ICTを活用した授業の様子を取材するとともに、導入の経緯やICTが学びにもたらす効果について先生方にお聞きした。
立川市立第二小学校
〒190-0012 東京都立川市曙町3丁目23−1
1929(昭和4)年に開校。学校教育目標「健康で明るい子」「進んで考え学習する子」「心豊かで思いやりのある子」を育成するために地域社会や近隣中学校と連携をしながら、教育活動を進めている。児童数440名。
学校におけるICTの利用状況
立川市立第二小学校では、タブレットPC導入に先駆け、ICTに慣れ親しむための下地づくりとして数年前に実物投影機を各教室に導入している。その後、2016年秋頃に、タブレットが立川市内の全小学校に一斉に導入された。
学習者用も指導者用も数が十分にあるわけではないので、指導者用については、学級担任が1台ずつ確保し、担任をもたない教員の間で、残りの2台を工夫して使いこなしている。
フラッシュ型教材との出会い
「チエルのフラッシュ型教材との出会いは、数年前に私が教職大学院で1年間学んだときでした。それまでICTについて全く触れることのなかった当時の私にとっては、デジタル教材が、こんなにもシンプルな活用イメージがもて、かつ、基礎・基本の定着がはかれることに衝撃を受けました。その時は、まだICT環境が整っていなかったので、その後の教育の情報化を見据え、まずは実物投影機の導入から進めていくことにしました」と話すのは、主幹教諭の丹野優子先生。
一方で、「短時間で効率よく子どもたちに習得させることができる」というフラッシュ型教材の効果については、本校の学力向上担当教員が紙のフラッシュ型教材の校内研修会を夏季休業中に行ったことで、教員の間ではよく知られていた。一部の教員は市販のフラッシュ型教材を個別に購入したり、紙やパワーポイントを使って時間をかけて作成したりするなど、創意工夫をしながらの授業づくりを続けてきたという。
デジタルのフラッシュ型教材の活用が軌道に乗りそうな下地が整ったところで、「学力向上の予算」を使い、3月に導入の運びとなった。活用を開始したのは、今年度4月のことだ。
事前に学級担任の先生方に製品を見たり、使ったりしてもらい、教材の特長や使い方、必要性について十分な意見交換したうえで、導入を決めたという。
すぐ使えるシンプルさが魅力
驚くことに、今回の『フラッシュ 基礎・基本』などのデジタル教材導入にあたって、特に研修会は開いていない。「導入し、いつでも使える状態になっています」というお知らせのみで、使うか使わないか、どのように使うかは全て教員に任せている。「皆忙しくてマニュアルを読む時間もない。でも開けば誰でも使えます。マニュアルを見ないとわからないような複雑なしくみではないからこそ、授業に合わせた柔軟な使い方ができるのが魅力の一つです」
タブレットPCを開いたら、全ての学年のフラッシュ型教材が入っており、使いたいものがすぐに分かること、違っていてもすぐに戻って探せること、そして操作が易しいことも、時間がない教員にはありがたいのだそうだ。
「ICTは、あくまでも授業の主役ではなく、要所要所で短時間で使うもの。私にとって、チエルの教材は、まるで引き出しに入った宝箱のようなもので、『今日の授業で使えるのあるかな?』と、とにかく軽い気持ちで開けてみる。使えそうなのを見つけたら、『やったー』と」丹野先生は頬を緩めた。
授業で使うタイミングとしては、単元の導入時や授業の前半5分、または後半5分ほどで、前の時間の復習をしたり、その日のまとめに使ったりすることが多いという。
無駄な時間がなくなる
教材を使い始めて実感しているのは、授業の準備に費やしていた時間はもちろんのこと、授業中の無駄な時間がなくなったことだ。
授業中は、どうしても「すきま時間」ができてしまう。例えばクラス枠を越えた習熟度別クラスの場合、子供たちが教室にやってくる時間に差が出ることがある。そんなときに、この教材を大型テレビで映し出しておくと、教室に入ってきた子は画面を注視しながら着席し、徐々に授業が始まる雰囲気が整っていくという。授業中に課題が早く終わった子や、帰りの会で早く支度ができた子にも使える。
そうやって、今まで無駄になっていた数分間のすきまが埋まっていく。「たった数分でも、1日にすると結構な時間ですよね」と丹野先生。
全学年揃った教材によって学年を越えた振り返りが可能に
導入を決めた時点(2月)では、どの教員がどの学年を受け持つことになるか未定だったこともあり、「とにかく全学年分入れよう」ということになった。今、そのありがたみを実感しているという。
授業中、子供たちの理解度によっては、現在の学年までに学んだ内容を復習する必要性が出てくる。ところが「学年を越えて学習内容を遡る」という行為は教員にとって非常に厄介で、今までは事前に他学年から問題集などを借りてプリントを作成したり、授業中にどうしても必要な場合は、子供たちを教室に残して急いで印刷をしに行ったりしていたという。
「今では『ちょっと待ってね。探してみるから』とタブレットPCを開けばいい。時間と労力の節約を肌で感じています」
「これ、いいよ」ではなく、
「それ、いいね」と言わせたい
本校には経験を積んだベテラン・中堅の教員が多く、それぞれが良いと思うものを既にもっている。主幹教諭である丹野先生の立場としては、新しい教材を押し付けるのではなく、いつでも使える環境を整えたうえで、「良ければどうぞ」という姿勢で導入したという。
「最初から『これ、いいよ』と勧めてもなかなか伝わらない。まずは自分が授業で率先して使い、適切な使いどころを示したうえで、他の先生に『それ、いいね。今度使ってみたい』と言ってもらいたいんです(笑)」
[事例紹介製品] 教師用 フラッシュ型教材
小学校の フラッシュ 基礎・基本(全6巻)
5年生 算数習熟度別指導授業 (丹野優子先生)
「図形の角」
「三角形の外角」と「その外角と隣り合わない2つの内角の和」の間には、どんな関係が成り立つのだろう。
①【実物投影機を使って教科書を投影しながら、黒板で丁寧に図解】
算数習熟度別授業では、受け持つクラスによっては単純な計算に時間がかかることもあるという。
丹野先生は、教科書の該当箇所を実物投影機で大型テレビに映し出し、黒板には教科書と同じ三角形を丁寧に描き、図解。次に、内角と外角の関係、三角形の内角の和、と1つずつ段階をふんで子供たちに考えさせ、答えを導き出させた。
「外角」「内角」という言葉は、教科書には出てこないが、あえて使うことで逆に理解しやすくなり、さらに子供たちは、中学の学習内容を先取りしている優越感で、意欲がより喚起された。
②【フラッシュ型教材『フラッシュ 基礎・基本』を使って発問を繰り返し、授業の理解度をチェック】
法則性が導き出されたところで、色々な三角形について考えてみる。
フラッシュ型教材で次から次へと映し出される問題に、子供たちの集中力は一切途切れない。
「1秒以内に全部答えられた子から、終わりにしていいよ」
授業の終わりをフラッシュで締めくくる。
「答えられなかった子だけもう一度」のはずが、答えられた子も最後まで教室に残って、自主的に学習を続けていた。
[事例紹介製品] 教師用 フラッシュ型教材
小学校の フラッシュ 基礎・基本(全6巻)
3年生 社会 (池本 憲昭 先生)
「地図記号について知ろう」
「この中で知ってる地図記号があるか、探してみよう」
そう言って池本先生が子供たちに配ったのは、色々な地図記号と意味が載っている紙のプリント。地図記号の学習は子供たちにとって初めてという。
紙のプリントを2分間眺めて知っている記号に○をつけさせたところで、『フラッシュ 基礎・基本』の出番である。テレビに1つずつ映し出される記号の意味を皆で一斉に答えていく。わからない子でもプリントを参照して答えることができるため、教室中に元気な声が響く。意味や成り立ちの説明を付け加えながら、全ての地図記号が終了すると、今度は、順序を覚えてしまった子供たちに対して、『フラッシュ 基礎・基本』の「ランダム機能」を使った出題によって理解度の確認を行った。
「地図記号は意味の推測ができないものが多いので、最初からクイズで出すのではなく、地図記号に対する興味をもたせるための導入として、地図記号の一覧をプリントにして配りました」と池本先生。
ICTと紙媒体を併用しながら、子供たちを惹きつける魅力的な授業が展開された。
1年生 国語 (石井 裕美 先生)
「ひらがなを正しく読む」
大きな声で元気よく「あ、い、う、え、お」と画面を読み上げるのは、まだ入学して3ヶ月の1年生だ。 フラッシュ教材を1秒間隔で再生し、それに合わせて子供たちが読み上げる。「あいうえお」から始まり、「じゃじゅじょ」など難易度の高いものへ、レベルを上げていく。1年生のこの時期だからこそ、同時に「口形」の指導も行っていく。
「どっちが正しい?」
ひらがなの読み方を復習したところで、この日は初めてのパターンのフラッシュに挑戦した。「きのう」と「きのお」など、間違いやすい表記について、左右どちらが正しいか選ぶ問題だ。石井先生は、このフラッシュの存在に当日気付き、授業にぴったり組み込めそうと考え、取り入れたという。左右のうち、正しい方の手を挙げるように説明し、フラッシュをスタート。子供たちは新しい内容に全く躊躇することなく、張り切って手を挙げる。
最後は皆を教室の前に集めて、ひらがなの読みをもう一度、1秒間隔で行った。子供たちができたあとに全身で喜ぶ姿が印象的だった。
[事例紹介製品] 教師用 フラッシュ型教材
小学校の フラッシュ 英単語/英語表現(全3巻)
5年生 英語 (古川 恵美子 先生)
「ABC」 「What do you want?」
5年生の英語の授業は、アルファベットが1文字ずつ書かれた、マグネット付きのカード26枚が古川先生によって教室内のあちらこちらの席にランダムに配られるところから始まった。そして、一人の児童が中心となって、クラス中に散らばったカードをABC順に回収し、黒板に貼っていく。アルファベットの順序を全員で確認し、復習するのが目的だ。
次に、『フラッシュ 英単語』を開き、アルファベットのフラッシュに合わせて、全員で「A、B、C」と発音練習を行った。始まる前に表示される「Three, two, one… Go!」や、一連のフラッシュが終わった後に表示される「Excellent!」などの音声に対しても、しっかりと忠実に発音しているのが微笑ましい。
その後は、CDに合わせてABCソングを歌い、さらに、Zから逆順、子供たちが黒板上でカードを自由に並べ替えた順と、ABCソングに様々なアレンジを加えながら歌い、アルファベットの復習を終えた。
そしていよいよ、新しい学習内容となる、「What do you want?」に挑戦だ。該当の英語表現が『フラッシュ 英語表現』に収録されていることに気づいた古川先生は、「これは使える!」と直感的にイメージが湧いたそうで、自然な流れで授業が進んでいった。
『フラッシュ 英語表現』の中で、該当単元は会話形式になっており、「何が欲しいの?」という質問に対して、様々な回答の音声がイラストと共に収録されている。
「答えは今は気にしなくていいから、自信持って一緒に質問してみよう」という古川先生のアドバイスに応えるように、子供たちは初めてでも臆することなく、流れるネイティブスピーカーの音声をよく聞きながら質問文の発声を繰り返していた。
文章の発音に慣れたところで、先生は子供たちにアルファベットの書かれた小さな紙のカードを机に広げさせた。
「What do you want?」の質問に対して、「I want a B card.」のように、任意のアルファベットのカード(この場合はB)を欲しいと答える練習だ。初めはフラッシュのランダム機能によって画面上に出されたアルファベットに合わせて答え、それが終わると、友達同士で応答を繰り返し、自分の名前のアルファベットを揃えていくグループ学習が行われた。
最後は振り返りカードに各自記入し発表し合って、45分間の授業はICTを効果的に活用しながら展開された。
[事例紹介製品] チエルの「検定式」デジタル教材
基礎・基本 計算検定
3年生 放課後チャレンジ教室
第二小学校では、放課後の時間を使って、各学年ともに「放課後チャレンジ教室」という補習教室が開かれている。子供達を見守るのは先生と地域の学習支援員の方々だ。
そこで活用されているのが、『基礎・基本 計算検定』である。タブレット(またはPC)を使ったクラウド型の個別学習用「検定式」教材で、各学年の学習内容に沿って細かく級分けされている。また、1つの級につき設問は2〜3問と少なく、その場で合否の検定結果が出る。デジタル教材といっても、基本的には紙と鉛筆で計算をし、タブレットに答えを入力するのが本製品の特長である。
「紙のドリルも使用していますが、『基礎・基本 計算検定』は設問の数が少なく、負担感が無いようです。勉強のあとがノートに残るのもいいですね。解き直すと星が増えるので、さらにやる気が出るようです」と前出の丹野先生は言う。
「補習だけでなく、私が担当する5、6年生の算数の授業の中では、進度の早い子の時間調整としても使っています。タブレットの数が限られているので、『課題が終わった人から、先着○名ね!』と言うと、みんな計算検定がしたいがために、早く終わらせようと必死に頑張るんですよ(笑)」
紙のドリルだと残りの問題数があらかじめ見えてしまっているが、本教材は今まで何問解いたか、残り何問あるのかが見えず、全体の問題数を意識することがない。子供たちにとっては、画面が変わる度に気持ちがリセットされることで、負担を感じにくく、やる気につながっているという。