公開日:2021/11/12
13万台のChromebookを導入スピーディかつ安全な運用を
―北海道―
札幌市教育委員会
学校のICT化に向けた環境整備が加速している。コロナ禍での学びの確保から、前倒しが図られているGIGAスクール構想。札幌市では全300校の小・中学校、13万人の児童・生徒を対象にChromebookを令和2年度内に導入した。1人1台端末活用の取り組みを追う。
札幌市教育委員会
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圧倒的なコストの低さがChromebookの評価に
人口200万の政令指定都市である北海道札幌市は、以前より教育の情報化を積極的に推進している。モデル校を軸に電子黒板や教室PCなどの活用を広げ、小学校では40台のタブレットPCを配備したPC教室が標準にある。
GIGAスクール構想は、こうした動きをさらに加速させている。そこで課題となるのは、円滑かつ安全なICT教育を実現する環境整備だ。ポイントは大きく2点。学習ツールとなる1人1台の端末を児童生徒にスムーズに行き渡らすこと。そして学校における高速大容量のネットワークを確立させることだ。
札幌市が採用した端末はグーグルのChromebook(クロームブック)。「圧倒的なコストの低さがシンプルに評価につながりました」と事務方を担う札幌市教育委員会生涯学習部総務課の学校ICT推進担当、西澤俊之係長は明かす。1台ベースでは、タブレットPCとそれほどコストに差がないように思えても、対象となる児童と生徒は13万人に上るため、端末のライセンスや管理・設定に係るコストを勘案すると大きな差が生じる。
当初は、プログラミング教育の実施を想定し、一部の学年で先行し4年間をかけて全学年に行き渡らす計画だったが、新型コロナウイルス感染症を危惧する市民や保護者からの声の高まりを受けて、令和2年(2020年)度中に全学年分を確保するよう舵を切り替えた。4万5千台の納入予定が13万台と3倍近くに増えた計算だ。
校内での通信ロスをTbridge®で軽減する
高速大容量のネットワークの実現に向けては、以前より課題があった。札幌市の小・中学校は、個別校からインターネットに接続するのではなく、ネットワークを効率的かつ安全に運用するためのネットワークセンターを構築し、1本の集約回線としてインターネットにつなげるセンター集約型を採っている。数年前より、複数台数の同時視聴で動画コンテンツが遅延するといった現象が懸念されていた。外回線を太くする措置は補助金の対象外であり、校内でネットワークの安定化を図る方策を求めていた。
無線通信の状況を把握するため試験的に導入したTbridge®によって見えてきた対処は、学校内のネットワークを整えることと学校とネットワークセンターとの通信状態をきれいに保つことだ。ある学校のトラフィックが高くなれば他の学校も引きずられ、再送パケットが発生し、端末での通信速度が遅くなるからだ。
「校外に向けたネットワークを想定以上に使っていたことが分かりました。しかし、センター集約型の回線を増強するには莫大なコストが必要ですので、校内での通信ロスを軽減するTbridge®の運用がどうしても必要だったと思います」(西澤氏)。校内LANを安定化させる仕組みを持つTbridge®を全学校に導入し、回線の負荷を抑え、セッション過多を未然に防ぐ措置をした。
クラウド利用を前提にフィルタリングツールを検討
令和3年(2021年)4月の全校での運用開始から、1学期が経過した。まずは、「グーグルが学校教育用に標準で用意しているソフトを通じて “調べ学習”や協働学習、生徒総会といった特別活動などで活用している状況」(西澤氏)で、カリキュラムは、各学校の教職員が試行錯誤を重ねているという。札幌市教育委員会では定期的に、「GIGAスクール通信」を教職員向けに発行し、授業での実践内容など具体的な取り組みを含め、情報を発信している。
端末の家庭への持ち帰り学習については、3つのモデル校で始めており、2学期以降、全校に展開する予定。フィルタリングツールには、Chromebook向けInterCLASS® Filtering Serviceを採用した。「13万台の運用を想定すると、端末毎にソフトウェアをインストールし、ネットワークセンターでフィルタリングを実施するのは現実的ではなく、クラウドでの利用を前提にしました」と同学校ICT推進担当、高村慎太郎氏は説明する。「導入から1カ月程度で、各端末での利用が可能な状況になり、スピーディさも評価しています」(高村氏)
センター集約型というシステム上の性格を理解し、スピーディで効率的な学校ICT環境の整備を進めてきた札幌市教育委員会。今後、授業内容が多様化していく中で想定されるのは、各学校への権限移譲だ。フィルタリング1つ取っても、現状は、一度札幌市教育委員会へ連絡しなければ設定の変更ができない。「今後、学校の管理職に委譲していけば、特定のユーチューブ動画を当日の授業で用いるといった対応もスムーズになると思います」(西澤氏)
各学校の管理職に権限を委譲していけば、ソフトの新規導入の際にアカウントの個別設定などで、手間や負担が増えることが想定される。共通IDを持つなどデータの整理方法も模索する課題だ。
もちろん、セキュリティの担保は大前提。文部科学省の「教育情報セキュリティポリシーガイドライン」でも、新たなセキュリティ対策の充実やクラウドサービスの活用を前提としたネットワーク構成に令和3年5月の改訂で言及した。
「学習ネットワークのみならず、校務ネットワークのクラウド化など、教育現場全体のシステム構成についても常に見直しが必要な状況になってきていると感じます。安全を優先しつつ、質の高い学びの機会を関係者と共に追求していきたいと考えています」(高村氏)
生涯学習部総務課
学校ICT推進担当 係長
西澤 俊之 氏
生涯学習部総務課
学校ICT推進担当
高村 慎太郎 氏