「質の保証」に「国際化」、さらには「就業力の育成」…喫緊の課題に直面する「大学の教育改革」

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 学生の学力低下も大きく関連している「大学教育の質保証」、高等教育のグローバル化に伴った「国際的通用性の確保」、超氷河期と言われる就職難に立ち向かう「キャリア教育」は、国内のいずれの大学においても、喫緊の課題として強く求められている。
 文部科学省では、これらの大学の教育改革に対して、GP事業を中心に数々の支援を行っている。
 ここでは、GP事業を通して、緊急を要する大学の教育改革の実態、現状を探ってみた。

GP事業を通して三大教育改革を探る

 昨今の大学を取り巻く環境は、入学前から卒業後まで、間断なく教育改革を要する厳しい状況にあり、かつ国際的な通用性を失いつつあるとの懸念の声も聞かれる中、多くの大学が喫緊の課題に立ち向かっている。
 以前、本誌特集で紹介した『学士課程教育の構築に向けて(答申)』(中教審・平成20年12月)において、大学教育改革の実行にあたり最も重要なのは、各大学が「学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)」「教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)」「入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー)」の三つの方針を明確にすることであり、国は大学の取組に対して、適切に支援していくことが必要である、と述べていたように、国の支援のもとに、大学教育改革の充実をめざした数々のGP事業が着実に実践されている。
 「GP」とは、文部科学省からの資料によると、「大学改革のキーワードであり、各大学・短期大学・高等専門学校等(以下「大学等」)が実施する教育改革の取組の中から、優れた取組を選び、支援するとともに、その取組について広く社会に情報提供を行うことにより、他の大学等が選ばれた取組を参考にしながら教育改革に取り組むことを促進し、大学教育改革を進めている。この『優れた取組』を”Good Practice”と呼び、略称としてGPと表している」と示されている。
 そして、「教育改革の参考となる『優れた取組』を見つけ出す上で、国立・公立・私立といった枠にとらわれることなく広く公募し、申請のあった取組の中から特に優れた取組を選ぶこととしている。選定にあたっては、公正な審査を担保することが必要であり、有識者や専門家等から構成される委員会による第三者評価によって審査を行う。さらに、『優れた取組』を選定し、財政支援するだけでなく、選定された『優れた取組』をすべての大学等の共有財産として、多くの大学等が自らの教育改革を進める議論に活用してもらうため、『優れた取組』に関する情報を多くの大学等に積極的に提供することが不可欠で、とても重要な意味を持っている」と述べている。
 さっそく、ここでは先の三つの方針の中にも重要事項として指摘されていた、大学における三大改革とも言うべき「大学の質保証」「国際化」「就業力の育成」にまつわるGP事業を取り上げ、それぞれに選定された主な大学の具体的な取組内容を紹介することとする。
 改革に向けた昨今の大学の姿勢・動向が見えてくるはず。ぜひ、参考にしてほしい。

大学の質保証

大学教育質向上推進事業 (大学教育・学生支援推進事業)平成23年度予算…46億円

・大学教育・学生支援推進事業
【テーマA】大学教育推進プログラム
  平成22年度 申請数298件 選定数30件(大学23件)
  平成21年度 申請数649件 選定数96件(大学75件)
・大学教育・学生支援推進事業
【テーマB】学生支援推進プログラム
  平成21年度 申請数450件 選定数400件(大学315件)
(プログラムの目的)
 各大学・短期大学・高等専門学校から申請された、各大学等における学士力の確保や教育力向上のための取組の中から達成目標を明確にした効果が見込まれる取組を選定し、広く社会に情報提供するとともに、重点的な財政支援を行うことにより、我が国の高等教育の質保証の強化に資することを目的とする。

 ここでは、【テーマA】において、平成22年度に選定された30件の中から3件の取組概要を具体的に紹介しよう。まさに、『学士課程教育の構築に向けて(答申)』に基づいたテーマがほとんどであり、大学の現実の悩み、問題点が浮き彫りになっている。
 【テーマB】は、多くが「就職支援」に関する取組であり、紙面の都合上、後述の「大学生の就業力育成支援事業」に委ねることにする。
 なお、【テーマA】で選定された30件の取組は〈表1〉に、【テーマB】については、主な30件を〈表2〉にまとめてみた。参照願いたい。

◆秋田大学(国立)『高大接続教育の実践的プロジェクト』
 高校と大学の連携推進により、教育課程の接続を実質化し、初年次生が着実に大学での学習に取り組めるよう支援するための実践的プロジェクトである。教育課程編成のためのカリキュラム・トランジッションセンターを学内に構築し、高大間で集積した情報を未修得状況にある学習内容に活用する。対応策として、高大接続テキスト、リメディアル学習用のe-Learningシステム、高大接続確認テストを用意し、学生に修復を促す。
◆芝浦工業大学(私立)『PDCA化とIR体制による教育の質保証』
 ディプロマ、カリキュラム、アドミッションの3ポリシー(三つの方針)について、全体方針と各教学部門での方針を明確化・具体化することで、定量的評価のための目標アウトカムズ(成果)を設定し、PDCAサイクルにより学士力を保証する。工学教育改革・実質化を推進する全学組織の整備、これを中心的に担う教職員の育成、および全学の教員の教育力向上を図る。
◆東京慈恵会医科大学(私立)『学生一人ひとりを育てる学習評価システム』
 学部教育での総合試験による数量的評価結果と演習・実習評価による学生個人への質的評価結果を一元管理し、学生一人ひとりの学習ポートフォリオを構築し、結果をフィードバックすることで学生の時間軸での成長を具現化することを目的とする。また、大学としても問題を抱える学生に対し、早期に支援ができるようになり、医療者としての適切な行動力を育成するものである。

大学の国際化

大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業
平成23年度予算…29億円 *旧「国際化拠点整備事業(グローバル30)」を再構築<

平成21年度 申請数22件 選定数13件
(事業の目的)
 急速なグローバル化や世界の有力大学間の競争が激化する中、優れた留学生の獲得や戦略的な国際連携により、大学の国際競争力の強化、留学生等に魅力的な水準の教育等を提供するとともに留学生と切磋琢磨する環境の中で国際的に活躍できる高度な人材を養成するため、英語による授業等の実施体制の構築や、留学生受入れに関する体制の整備、戦略的な国際連携の推進等、我が国を代表する国際化拠点の形成の取組を総合的に支援するもの。

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 文部科学省は平成21年7月、我が国を代表する国際化拠点をめざす大学として、東京大学をはじめとした13大学を選定し、「国際化拠点整備事業(グローバル30)」を行ってきたが、平成23年度からは、「大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業」として組み立て直し、国際化の拠点としての総合的な体制整備を図るとともに、産業界との連携、拠点大学間のネットワーク化を通じて資源や成果の共有化を図り、留学生の受入れや、日本人学生の海外派遣の飛躍的な増大などに取り組むことにより、より一層、大学の国際化を推進することとなった。
 13の拠点大学は、東北大学、筑波大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の国立7校と、私立6校、慶應義塾大学、上智大学、明治大学、早稲田大学、同志社大学、立命館大学である。
 現在、7か国8都市に、日本留学の窓口となる「海外大学共同利用事務所」を設置し、日本の大学全体の情報の提供や入学説明会の開催、入学審査支援などのサービスを行っている。設置場所および事務所の運営大学は、右記の図を参照のこと。

 各大学の構想の概要、昨今の取組は、次の通り。「国際化」に向けた積極的な活動・施策が見て取れる。(『国際化拠点整備事業―グローバル30』文部科学省・独立法人日本学術振興会発行より抜粋)
◆東北大学
【構想の概要】世界リーディング・ユニバーシティにふさわしい、質の高い国際的な教育環境のもとで、国際社会における指導的人材の育成・輩出をめざす。
【おもな取組】
①「グローバル30推進室」を設置
②大学間交流協定の拡大(134件⇒146件)*平成21年度
③留学生受入れ体制の充実(「総長特別奨学生制度」の創設など)
◆筑波大学
【構想の概要】国際的に活躍できるリーダーの育成をめざして、先進国・途上国を問わず、環境問題、感染症、国際紛争など喫緊の地球的規模課題の解決に貢献する人材の育成を主眼とする。_x0003_
【おもな取組】
①「国際化推進委員会」「国際戦略室」を設置
②大学間交流協定の拡大(172件⇒195件)*平成21年度
③留学生受入れ・派遣体制の充実(「つくばスカラシップ」の新設など)
◆東京大学
【構想の概要】インド・ベトナムを受入れ重点国として設定し、優秀な留学生の受け入れを推進。欧米諸国からの留学生受入れ、日本人派遣学生についても対応。大学全体としてより均整のとれた国際化の実現をめざす。
【おもな取組】
①「国際センター」を設置
②大学間交流協定の拡大(324件⇒350件)*平成21年度
③日本語教育体制の強化/日本人学生の国際化
◆名古屋大学
【構想の概要】これまで実施してきた質の高い学部・大学院教育を留学生にも広く提供し、日本人と留学生が共に学ぶ新たな環境を構築し、「世界のNagoya University」への転換をめざす。
【おもな取組】
①「国際ゾーン」を設置
②大学間交流協定の拡大(259件⇒275件)*平成21年度
③名古屋市と連携した日本留学の推進
◆京都大学
【構想の概要】京都大学の持つ世界最先端の独創的な研究資源を活かし、地球社会の現代的な課題に挑戦する次世代リーダー育成のための教育を行い、将来、世界のリーダーとなる国際人を育てることをめざす。
【おもな取組】
①ASEAN大学連合との学術交流協定を締結
②留学生受入れ体制の充実(受入れ関連文書の多言語化など)
◆大阪大学
【構想の概要】「地域に生き、世界に伸びる」の基本理念のもとに、教育の多様化と高度先端的研究の進展を図り、積極的な大学の国際化と留学生、外国人研究者の受入れ支援体制の更なる充実をめざす。
【おもな取組】
①「国際教育交流センター」を開設
②留学生受入れ・派遣体制の充実(留学生…1455人[平成21年5月]⇒1638人[平成22年2月]、派遣学生…227人[平成21年3月]⇒260人[平成22年2月]
◆九州大学
【構想の概要】アジアを中心に8か国・地域(中国・韓国・台湾・ベトナム・タイ・インドネシア・エジプト・オーストラリア)を受入れ重点国として設定し、「アジア重視戦略」を展開。世界に開かれた教育研究環境を構築し、アジアを代表する世界的研究・教育拠点大学をめざす。
【おもな取組】
①「国際教育センター」を設置
②国際(英語)コースを開設
③大学と地域(福岡県・福岡市)が一体となった留学生支援の強化
◆慶應義塾大学
【構想の概要】これまで相対的に強かった地域(欧米)からの留学生の受入れを一段と強化するとともに、中国および東南アジア(ベトナム等)からの留学生受入れを質量ともにてこ入れする。
【おもな取組】
①「日本語・日本文化教育センター」を設置
②大学間交流協定の拡大(244件⇒255件)*平成21年度
③ダブル・ディグリープログラムの開発
◆上智大学
【構想の概要】海外留学プログラムを新設・拡充して、平成32年度までに現在の400人から1000人に増加させる。他方、受入れ留学生については、英語コース(環境)の新設、多様な短期プログラムの開講、奨学金の充実等により、平成32年度までに現在の1000人を2600人の受入れをめざす。
【おもな取組】
①新たな教育連携・奨学金プログラムの開発
②大学間交流協定の拡大(平成21年度は、中国・清華大学など4大学と締結)
③留学生支援ネットワークの構築
◆明治大学
【構想の概要】(財)アジア学生文化協会、(株)JTB法人東京、(株)ベネッセコーポレーションと国際教育パートナーズを結成。それぞれのノウハウを活かし、留学生の海外募集→入学→就職までのトータル・ソリューション・モデルの確立をめざす。
【おもな取組】
①「国際連携機構」を設置
②留学促進共同プラットフォームの整備
③大学間交流協定の拡大(95件⇒117件)*平成21年度
◆早稲田大学
【構想の概要】地球の至るところで異文化社会に溶け込み、地域に存在する様々な問題を解決するために行動し、その社会や日本、ひいては人類社会全体に貢献できる人材の育成をめざす。
【おもな取組】
①「国際アドミッションズ・オフィス」や「翻訳センター」を設置
②海外大学との教育連携等の推進
③教員・職員の国際化
◆同志社大学
【構想の概要】海外有力大学のスタディ・アブロードプログラムの受入れセンターと日本語・日本文化教育センターの連携の緊密化を図るとともに、学生との交流を活発化し、キャンパスの国際化を推進する。
【おもな取組】
①大学間交流協定の拡大(85件⇒124件)*平成21年度
②ダブル・ディグリープログラムの開始
③留学生の日本企業への就職支援
◆立命館大学
【構想の概要】立命館アジア太平洋大学での経験と実績を最大限活かし、立命館大学を4000人超の留学生を受入れる国際化拠点として展開することにより、『留学生30万人計画』の達成に向けた牽引役を果たす。
【おもな取組】
①「留学生キャリア支援システム」を開発・運用
②大学間交流協定の拡大(389件)*平成22年3月現在
③日本人学生の海外派遣の促進_x0003_ (「グローバル・ゲートウェイプログラム」を開始)

 「大学の国際化」は、それぞれの大学も事業計画を立案、懸命に実行に移しているところであるが、いわば上記の13大学が「日本の代表」として文部科学省から財政支援を受け、海外8か所の「共同利用事務所」も運営し、大学全体の窓口となることから、より一層スムーズに各大学の国際化が進められることが期待される。

就業力の育成

大学生の就業力育成支援事業 平成23年度予算…29億円

平成22年度 申請数441件 選定数180件(大学157件)
(事業の目的)
 現在の厳しい雇用情勢のもとで、各大学・短期大学の学生の卒業後の就業につながる資質能力の向上のため、産業界との連携による課題解決型授業などの優れた取組を支援し、学生の卒業後の社会的・職業的自立につながる就業力を身につけさせることを目的とする。

 ここでも、選定された3件の大学の取組概要をご紹介しよう。超氷河期と称される就職戦線に立ち向かう各大学の意気込みが、それぞれの特徴とともに反映されている。
(選定された主な30件は〈表3〉を参照ください)
◆小樽商科大学(国立)『キャリアデザイン10年支援プログラム』
 本プログラムは、①キャリア教育高大連携事業②キャリア教育学内コア事業③キャリア教育地域・企業連携事業によって構成されており、その特色は、在学生に加えて高校生および若年社会人をも対象としている点であり、本学在学期間に高校3年間と卒業後3年間程度を加えた10年間を見据えた、一貫性を重視した独自のキャリア教育プログラムである。
 本取組がねらいとする多面的な就業力は、単なる就職活動支援ではなく、大学進学率向上に伴う学習動機の希薄化、就職活動の長期化に伴う大学教育の空洞化、若年社会人の離職率増加等の現代的課題に応え、社会に有益な職業人材を供給することを目的として、本学が中核となり、本学同窓会、高等学校、民間企業等の学外機関と連携して実施する統合的キャリア教育プログラムの開発および実践である。
◆高崎経済大学(公立)『産学協働による次世代地域リーダー人材育成』
 本学は、創立以来、高崎市をはじめとした地域の知の拠点として、地域社会との連携、地域に根差した教育・研究を強く進めてきた。
 本取組は、次世代地域リーダー人材育成プログラムを中心とした就業力支援システムの開発である。学生が充実した大学生活を送り、初年次から卒業まで、実学から「学び・育ち・巣立つ」仕組みを全学的に地域産業界と一体となって構築する。高い課題発見・解決力を有し、国内外諸分野の第一線で大いに活躍しうる自立型人材を育成、輩出することをめざしたプログラムである。
◆亜細亜大学(私立)『インタビュー実践による人間基礎力の育成』
 本取組は、学生自身による主体的な「インタビュー実践」の学習を通して、従来のキャリア教育において実現しにくかった「就業力」を学生に身につけさせることを目標としている。ここでの「就業力」とは、単に就職ができることだけを指すのではなく、幅広い意味で中長期的に社会に貢献できる人材が備えている基礎的な「人間力」のことである。
 本取組では、学生が主体となって社会との接点を作り、成果を企業に発表報告し、コメントをいただくことで就業力を高めていく。インタビューやインタビュー先については、本学のある地元地域・産業界との連携を深め、協力を要請していく。
 「就業力」の把握は、五大要素(①聴きとる力②行動する力③自立する力④生き抜く力⑤文章を作る力)の観点から総合的に評価を行い、就業力認定マイレージとして可視化することにより行う。

 大学にとっての最後の関門「就職」。文部科学省と厚生労働省の共同調査によると、平成23年3月卒業予定者の就職内定率は、平成22年12月現在、大学68.8%、短期大学45.3%、高等専門学校94.7%と、昨年同期比4.3ポイント減、2.1ポイント減、2.2ポイント減と公表された。いずれもこれまでにない厳しい状況であり、両省は急遽「卒業前の集中支援」を各地で実施する異例の事態となっている。
 「国際化」の推進により、2020年をめざした『留学生30万人計画』も遂行されており、海外からの優秀な留学生が日本国内に就職することも考慮すると、日本人学生にとっては今後ますます厳しい状況が続くことは間違いのないところである。

 いずれにせよ、各大学に対する「質の保証」「国際化」が強く求められ、出口での「キャリア教育」で大学としての大勝負が待っている…。今ほど「独自性」「特色」が重要と実感できる時があっただろうか。現状の教育改革を通して、大学独自の思い切った「脱皮」が肝要であると言えよう。

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