公開日:2013/9/30

フューチャースクールをやってきたからこそわかった成功の秘訣とその効果

●全校一斉導入の意義、ICT支援員の重要性、子どもたちの成長……

フューチャースクール実証校として、2010年度から一人1台のタブレットPCを導入し、研究と実践を重ねてきた徳島県三好郡東みよし町立足代小学校。主幹教諭である中川斉史先生が語る成功の秘訣とその効果は、これから「一人1台の情報端末」を導入しようとする自治体や学校にとって、大いに参考になるに違いない。

東みよし町立足代小学校 主幹教諭
中川 斉史先生
ICT 支援員
高橋 あゆみ さん

自分専用のタブレットPCが
学校にあるという意義は大きい

 「自分専用のPCが、学校にあり、学習ツールとして日常的に使える。この意義の大きさを、この3年間で実感しました。マイPCだからこそ、気になった時にすぐ調べられる。メモもできる。デジタル教材を使って個別学習や練習もできます。共用PCのように、順番を待つ必要もないし、時間が限られてもいない。文字通り、『パーソナル・コンピュータ』。しかもそれが、学校の中にあり、自分専用の学習ツールとして使える。この意義はとても大きいです」

 実際、足代小の子どもたちは、タブレットPCを完全に自分のモノとして使いこなしていた。たとえば、机の上へのタブレットPCの置き方も、子ども一人ひとり違う。机の左にタブレットPC置いてキーボードの上に教科書やノートを広げる子もいれば、机の右に置いて画面を少し回転させて見やすくする子もいた。

 「子どもたちは自分のPCに愛着を持ち、自分なりに使いやすいように工夫しています。これも、自分専用のPCとして、3年間使ってきたからこそ。経験の中で、自分なりのスタイルを編み出し、完全に自分のモノにしている。学習ツールとして我が物としているのです」

1年生から始めることが大事。
全校一斉導入の効果は大きい

 「フューチャースクールとして実際に研究を進めてきて、『全校一斉に』そして『1年生から』タブレットPCを使う意義はとても大きいと実感しています。まず、1年生からタブレットPCを使うことで、長期的視点に立ったカリキュラムを立てられます。1年生でこんなPCスキルを習得させてこんな活動をさせて、2年生ではこれを習得させて…と、校内で議論を重ね、6年間のカリキュラムを立てました。そのカリキュラムは、スモールステップで、比較的ゆるやか。あれも学ばせたい、こんな活動もさせたいと詰め込みすぎになりがちですが、6年かけて育めばいいと余裕を持って考えられるのがいい。『高学年だけ』とか『4年生以上だけ』という限定プロジェクトだったら、こうはいかなかったでしょうね」

 1年生から取り組めるメリットは他にもある。1年生は、教師の言うことを素直によく聞く年頃だ。「タブレットPCはおもちゃではなく学習の道具です」「先生の指示がないときは触ってはいけない」といった指導をよく聞く。学習のしつけの部分の指導がよく通る。タブレットPCを学習の道具として使わせるにはとても重要なことで、授業の大前提になる学習規律を1年生から鍛えることができるのだ。

 さらに、「これから一人1台の情報端末を入れようとしている自治体や学校は、まずは高学年から導入しようとするケースが多い。予算の関係で全学年への一斉導入が難しく、学力向上に直結する高学年から入れたいという事情もわかります。でも実は、低学年からやったほうがいい。全学年に一斉導入したほうがいい。これはフューチャースクールを実際にやったからこそわかること。そうするだけの価値は絶対にあると断言できます」と話された。

タブレットPCとスレートPC
おすすめなのはどっち?

 中川先生の答えは、「キーボードは絶対に必要」。「今はiPadのようなスレートPCも流行っていますが、2台目として採用するならまだしも、1台目は、しっかりしたキーボードがついたタブレットPCの方がよい。キーボードは絶対に必要です。スレートPCではタッチタイプができないので、思考しながらキーを打つステップに進みにくい。子どもへのアンケートでも、『キーボードは絶対に必要』と9割以上が回答しています」

ICTは授業を改善する
きっかけになる

 「フューチャースクール実証校となり、公開研もあるため、タブレットPCを使う授業実践が多くなりました。一人1台のタブレットPCの良さを発揮させるために、授業デザインを見直さざるを得なかった。でもそれが、授業を改善するきっかけになったのです」

 たとえば、一人1台のタブレットPCが導入されたことで、普通教室での個別学習でPCを使えるようになった。どんな学習活動ができるか、どんな利点があるかを考え、それぞれの先生が授業計画を立てていった。時にはタブレットPCありきになってしまうこともあったという。はたして授業として成立しているのかと、絶えず自問自答を繰り返したそうだ。

 「本校ではタブレットPCをはじめ、ICTが校内にゴロゴロしています。そしてタブレットPCやICTを使う授業を日常的に行っています。それでも、子どもたちのICTへの興味関心はまったく薄れていません。タブレットPCを使う授業を楽しんでいるし、楽しみにしている。飽きが来ることはありません。だから授業にも集中できる。学習意欲も高まる。これほど魅力のある道具なのだから、授業でどんどん使えばいいのです。シンプルな話です」

 一人1台のタブレットPCで使うデジタル教材は、教師が自作していたものが中心となった。特にパワーポイントを重宝したという。

 「左側にシートのサムネイルが一覧表示されるので、ページの区切りがよくわかる。子どもは紙のワークブックと同じ感覚で使えます。ペンで操作できるし、画像や動画も貼れる。使い勝手のいいソフトです。一般的にもよく使われているので、教師に操作方法を説明する手間もあまりかかりません」

ICT支援員の重要性を
もっと認識してほしい

 「本校がフューチャースクールとして実証を重ねてこられたのは、ICT支援員が常駐してくれたおかげ。みなさんが思っている以上に、ICT支援員はとても重要な役割を果たします。機器の設定やトラブルの対応や、ICTが苦手な教師を補佐する程度のイメージを持たれがちですが、これらは業務の一部でしかありません。ICTの活用で学習を充実させる、『授業コーデイネーター』として、なくてはならない存在です」

 足代小では、ICT支援員が毎日午前9時から午後5時まで常駐。1年目は、環境整備やトラブルシューティング、機器の操作方法について先生に教えることが多かったという。しかし2年目からは、「この教科のこの単元で、ICTを使ってこんな授業がしたい」という先生からの相談が増加。授業前後の支援や打ち合わせを重ね、授業デザインや教材研究をも担当するようになった。授業中の支援も、ICT機器の操作補助から、T2としての支援へ変化していったそうだ。

 「ICT支援員の髙橋あゆみさんは、教育現場未経験でした。でもそれがよかった。教育現場を知らないからこそ、多くの授業をしっかり見学。わからないことはストレートに教師に質問し、積極的に学んでくれました。教育現場をかじったことのある人だったら、ここまで素直に学べなかったかも知れませんね。ICT支援員はT2として授業にも参加するので、髙橋さんは低学年の先生にずっとついて授業に入り、教室での立ち位置から一度に出す指示の量、学年に応じた言葉や支援のタイミングなどを学習しました。ICT活用以前の、授業の基本を学んでくれたのです。そして本校の誰よりも、ICTを活用した授業を見学し、参加しました。だから、ICTを活用した授業への評価やコメントは、誰よりも鋭いんですよ」

 その髙橋さんに、ICT支援員として心がけていることをうかがってみた。

 「先生方は、目的があってICTを使おうとしています。子どもにこんなことを気づかせたい、こんな発見をさせたい。本時の学習課題に入る前に、ICTで『しかけ』を作りたいという先生も多いです。そういった先生方のねらいをICTで実現できるか、授業計画にICTが役立つかを、常に心がけています。テクノロジー・プッシュ(技術先行)にならず、デマンド・プル(要望先行)になるようにも心がけています。ICTはいろいろなことができるし、いろいろな使い方ができますが、先生のねらいに合わせて的を絞るように心がけ、先生の意図をくんで、提案しています」

 このコメント一つとっても、単なるICT操作の補助ではなく、授業の支援者として貢献していることがわかる。

 「髙橋さんのような優秀なICT支援員が来てくれて、育ってくれたことは、本校の貴重な財産です。今後一人1台の情報端末を導入する学校が増えるでしょうが、優れたICT支援員を確保できるかどうかが成功の鍵を握っているといっても過言ではない。誰でも常駐さえすればいいというものではありません。質が重要なのです」

パワーポイントで作成したタブレットPC用個別学習教材

  6年生の算数の授業で使われた、タブレットPC用デジタルワークシートも、パワーポイントで作成。ペンを使って画面にタッチし、図形を拡大したり縮小したりして、課題を解いていく。何ページ目かがわかりやすいように、各シートの下段に「○ページ目」と明記。ページ数を書いた帯の色もページごとに変え、「○ページを開いて。茶色のページです」と、指示が通りやすいように工夫されていた。

 「ただ、このような方眼紙のワークシートの場合、マス目にタッチしても動かないようにするには、スライドマスタに書かなければなりません。固定させたいもの、自由に動かせるようにしたいものを任意に容易に設定できるようになれば、もっと便利なのですが」(中川先生)

環境とたくさんの経験が
子どもたちを成長させた

 タブレットPCをはじめ、さまざまなICTを活用することで、子どもたちはメキメキと成長したという。

 「その成長をひと言で表すなら、
“フルーエンシー(流暢さ)”ですね。どんな端末だろうが機器だろうが、どんなアプリだろうが、自由自在に上手に使いこなす力を子どもたちは獲得しました」

 たとえば6年生の国語で行った「学校の自慢できるところ 残念なところ」を紹介する活動では、まずグループでiPadを使って写真を撮影。班内で話し合って、画像をメモに貼るなどして発表資料をまとめ、4・5年生に向けて体育館でプレゼンを行ったという。プロジェクタでプレゼン資料を映しながら、写真を拡大したり、強調したいところに丸をつけるなど、臨場感のあるプレゼンだったとか。しかもこれだけの活動を、わずか3校時でやってのけたというから驚く。1時間目に校内探検して写真を撮り、2時間目にグループ内で話し合って資料をまとめ、3時間目にはもうプレゼン本番という濃密さだ。普段から鍛えられているからこそ、できることだろう。

 「子どもたちの力は、おもしろいほど伸びています。ICTを活用する機会、発表する機会の多さが、子どもたちを鍛えています。また、『子どもたちにこんな学習活動をさせたい』と教師が思った時、それを簡単に実現できるICT環境が常設されていることも、子どもたちの成長に貢献しています」

 体育館の天井からプロジェクタを吊り下げていつでも使えるようにしてあるのも、その一例。体育館にもICTを常設することで、活用の機会が拡大し、日常化する。朝礼で使ったり、体育の授業で使ったり、そしてプレゼンで使ったりできるのだ。

 「機会を与えて環境を整えてあげれば、子どもはぐんぐん成長します。クラスであまり目立たなかった子がメキメキと力をつけ、プレゼンの達人になったケースもあります」

これから一人1台の情報端末を
導入する学校へのアドバイス

 最後に、これから一人1台の情報端末を導入しようとする自治体や学校に向けて、アドバイスをいただいた。

 「まずは、目指す子ども像をハッキリさせましょう。こんな子どもが理想だ、こんな学力をつけさせたいというイメージを、教師一人ひとりが持ち、そして学校全体で共有することが大切です。わかっているつもりでも、一人ひとり微妙に異なっていたり、ぶれたりしがちです。それではICTに振り回されてしまいます。目的がハッキリしないまま、共有できないまま、『一人1台の情報端末が流行りだから、やってみよう』と周りに引きずられて取り組み始めるのは危険です。それでは成果を得られませんし、『一人1台の情報端末なんて、役に立たないじゃないか』と全否定に走ってしまいます。せっかく多額の予算をかけてもそんな結果に終わっては、自治体も学校も先生も、そして子どもも不幸になってしまいます。そのためには、学校や教師が絶えず刺激を与えてもらうことも大事。自分たちの取り組みを公開研で見てもらったり、発表したり、本を書いたり。そして周りの人たちから得た反響を精査し、実践にフィードバックするのです」

 フューチャースクールとして、多くの実績と手応えをつかんだ足代小。この成功例は、後に続く自治体や学校にとって、大いに参考になるだろう。

パワーポイントで作成した一斉学習用デジタル教材

 3年生の国語の授業で使われた、一斉学習用デジタル教材も、担任の吉岡七奈子先生がパワーポイントで作成。慣用句の意味を学ぶ教材だが、慣用句の解説文が子どもが持っている辞書とまったく同じに作ってあるので、わかりやすい。30分ぐらいでサッと作ったという。

『足代小学校
フューチャースクールのキセキ』

発行元:株式会社 教育同人社
定 価:1,000円(税込)

総務省「フューチャースクール推進事業」の実証校である足代小学校のたどってきた2010〜12年度における授業実践記録本。好評発売中。

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