「英語の教科化」には、むしろ期待が膨らむ

外国語活動の先進事例 福岡県 大牟田市教育委員会

15年前に「英語活動」をはじめた大牟田市

学習指導要領で小学校高学年での外国語活動が全面実施されたのは、平成23年度のこと。それに先立つこと10年以上も前から、大牟田市では、市内のすべての小学校で英語活動に取り組んできた。その苦労と工夫と成果の数々…。先駆者・安田昌則教育長にお話を伺った。

「英語活動」の準備期間はわずか1か月

教育長 安田 昌則 先生

 平成12年2月。大牟田市教育委員会で指導主事を務めていた安田昌則先生は、当時の教育長から呼び出された。

 そして、「来年度から、市内全小学校で英語活動をやろう。キミがリーダーになって進めてくれ」と。

 寝耳に水だった。安田先生は社会が専門。英語が得意なわけでもなかった。戸惑う安田先生に、教育長は、その理由について、「小学校の先生は、英語を教えた経験がない。不安を感じ、どんな授業をすればいいのかと戸惑うだろう。そういった気持ちを理解できるのは、英語が専門の先生よりも、素人の方がいいのだ」と。

 来年度から、というものの、もう2月。準備期間は、わずか1か月しかない。安田先生は、すでに英語活動を行っていた北陸地方の某市へ視察に飛んだ。そこでは、年間数千万円の潤沢な予算を使って、まさに先進的な実践が行われていたという。

 「すごかったですよ。でも、すごすぎて参考にならなかった。大牟田市には、数千万円の予算なんてない。それどころか、英語活動の初年度予算はゼロだったんです」

 現実的な予算の範囲内で、今後もずっと続けていける英語活動を作ろう。安田先生は教育長とそう話し合い、英語活動の方向性を固めていった。「聞く・話す」を基本とし、遊びやゲームなどで、子どもと教師がともに楽しめる活動とする。そして、コミュニケーションを図ろうとする意欲や態度を育む。目指す姿が、徐々に見えてきた。

大牟田市では、英語活動の実践事例などをまとめた分厚い冊子を、初年度から毎年発行。授業事例のほか、手引、基本単語やフレーズのリストまで網羅している。

まずは、先生方の不安を解消

 だが、学校現場には動揺が広がっていた。しかも市教委は、「全校一斉」「授業は学級担任主導で進める」と、打ち出した。ほとんどの先生が、英語を教えた経験などなかった。

 「学級担任は、子ども一人ひとりの実態をよく把握しており、学級の状況に応じた授業を行えます。だからALTなど外部講師に頼るのではなく、担任主導で行おうと考えたのです」

 しかし、現場からは不安の声が上がった。その声に耳を傾けた安田先生は、二つの不安があることに気づいた。

 「『英語の授業をしたことがない』という指導の不安と、『英語に自信がない』という自分の語学力への不安です。そこで、市教委の支援で、この不安を取り除こうと走り始めました」

 まずは「研修」を充実させた。英語活動の授業づくりを学ぶ研修と、教師の英語力を高める研修の両面から、さまざまな研修を実施。あえて悉皆研修にはせず、希望研修にしたという。

 「強制したのでは続かないし、定着しません。教委が押し付けるのではなく、みんなでいっしょに、大牟田市の英語活動を作り上げていきたいと願ったのです」

 その思いは、先生たちに届いた。研修会場はぎっしりと埋まり、最初の3年間ですべての先生が何らかの研修を受講したという。「こんな研修をしてほしい」というリクエストも寄せられ、研修メニューも年々増加。それにとどまらず、先生たちは自分たちで研修会を作り、自主的に学び始めた。大牟田市は”一丸”となった。

授業計画や教材を手作りで支援

 とはいえ、研修の成果が出るには時間がかかる。もうすでに英語活動は始まっていたし、授業は毎週あるのだ。安田先生を先頭にフル回転でサポートにあたった。

 「まず、市教委で授業計画案を作り、各校に配布しました。教材も作りました。中学校のALTに協力してもらい、単語やフレーズの音声教材をテープに吹き込み、ダビングして配りました」

 手作業で何千本とダビングしました、と安田先生は当時を懐かしむ。平成14年度に、各学校を光ファイバーで結ぶイントラネットが完成すると、ICTの活用にも乗り出した。ネット上に、英語活動用ポータルサイトを開設したのだ。もちろん手作りである。

 「授業展開案や単語・フレーズ集をはじめ、授業で使える動画や音声を盛り込みました。英語が苦手な先生方を助け、ネイティブの発音に触れる機会を増やせるという点で、ICTはとても効果的です」

 学校間での情報交換を促す仕掛けも作った。市内の小中学校の児童生徒が文化会館に集まり、子どもたちが普段の実践を実演して見せるフェスティバルを毎年開催。保護者への周知徹底にも力を入れた。保護者向け講演会や授業参観、『英語活動だより』を発行し、理解を求めた。その結果、保護者も大牟田市の英語活動に協力的となり、ボランティアとして教材づくりを手伝ってくれるまでになった。

英語の教科化に、むしろ期待が高まる

 初年度は6年生からスタートした英語活動は、すぐに全学年に広がった。2年目からはALTも採用したが、「あくまで主役は、担任教師」というスタンスは変わっていない。安田先生は、その後、英語活動研究指定校である明治小学校の校長に就任したが、今でも目に焼き付いて離れない光景があるという。

 「あるALTのお母さんが、重い病気になったのです。それを知った3年生の子どもたちは、千羽鶴を作り、知っている限りの英単語を使って思いを伝え、ALTに渡しました。その言葉が、『you, mother, sick, happy』でした。文法的にはめちゃくちゃですよね。でもそれを聞いて、ALTは号泣。子どもたちも頬を濡らし、私ももらい泣きしました。気持ちって、言葉を越えるんですね」

 自分の気持ちを一生懸命伝えようとする姿勢を育みたい。大牟田市が目指してきたものが、実を結んだのだ。

 そんな大牟田市では、英語の教科化を見越して、すでに動き始めている。

 「これまで大牟田市が築いてきた英語活動を捨てるのではなく、今までの『話す・聞く』に加えて、『読む・書く』をリンクさせる方法をすでに研究しています。教科化への不安ですか? まったくないです。これまでの経験を活かしながら、焦らず、ぶれずに、続けていけば大丈夫。むしろ、わたしはワクワクしていますよ。小学校の英語科を作っていけるんですからね」

大牟田市教育委員会 小学校英語活動事例集

http://www.e-net21.city.omuta.fukuoka.jp/english/

大牟田市が自作した「英語活動事例集サイト」。
学年別、単元別、場面別や目的別などで動画や音声、単語やフレーズが整理されている。

先生用サイト:あいさつの仕方、英語ゲームの遊び方などが動画で閲覧できる。

大牟田市立銀水小学校の英語活動

「英語活動」は、特別なことでなく、授業や指導の基本は、他の科目と変わりなし

平成13年度から、大牟田市の英語活動に取り組んできた大牟田市立銀水小学校の宮田久美子先生。前任校の明治小学校では、研究主任として、英語活動を推進した。英語活動で、子どもや教師はどう成長したのか。長年の経験を踏まえてお話いただいた。




教師の意識も変化

 「英語活動を始めた頃は、授業が盛り上がれば成功だと思っていました。楽しく英語に触れさせようと、ゲーム中心の授業をしていましたね」

 しかし、それは勘違いだと、宮田久美子先生はすぐに気づいたという。

 「ゲームは、英語に慣れ親しむための手段の一つでしかありません。それよりも、この単元が終わった時、子どもたちにどうなってほしいか。その姿を想像した上で、授業計画を立てるようになりましたし、子どもたち自身にも意識させられるようになりました」

 これは英語活動に限らず、すべての教科に通じることですよねと、宮田先生は言う。英語活動は特別ではなく、他の教科と同じだと悟ったのだ。

授業計画のポイントも他教科と同じ

他校の6年生が演じた英語劇をDVDで見て、子どもたちの意欲は明らかに高まっていた。

 この日の6年生の英語活動でも、その理念は発揮されていた。『Hi, friends!』のレッスン7。最終的に英語で劇を作るこの単元の1時間目で、宮田先生は子どもたちの意欲を引き出すことを主眼に、授業計画を立てた。

 まずは『Hi, friends!』を電子黒板に映し出し、物語を英語で説明した音声を、いくつも子どもたちに聞かせた。

 「この単元は、劇作りが中心になるので、英語を聞く機会が少ないんです。ですから、1時間目にできるだけたくさん英語を聞かせようと心がけました」

 それから宮田先生は、1本のDVDを見せた。前任校の明治小学校から借りてきたというこのDVDには、明治小学校の6年生たちがイキイキと英語劇を演じる様子が収録されていた。それを見ていた子どもたちの目は次第に輝きを増し、あちこちから「すごい!」「早くやってみたい!」と歓声が上がり始めた。

 「この単元に限った話ではないですが、英語活動ではいかに子どもの意欲を高めるかが重要。モチベーションを高めるために、DVDを見せました」

蓄積された教材とノウハウ


銀水小学校の「英語教材コーナー」。用途別・ジャンル別などに整理された英語教材がずらり。

 銀水小学校では、全教室に電子黒板があり、英語活動でも大活躍中だ。高学年は『Hi, friends!』を使うことが多いが、中学年以下は大牟田市が作った「英語活動ポータルサイト」で、動画や音声教材を活用している。

 「ICTを使えば、ネイティブの発音をたくさん聞かせることができます。私も英語が得意ではないので、助かっています」

 その結果、子どもたちは英語に耳が慣れ、自然と英単語やフレーズを覚え、使えるようになったという。

 教材の話になったので、宮田先生に尋ねてみた。「大牟田市のどの小学校にも『英語教材コーナー』があると、安田教育長から伺ったのですが、銀水小学校にもありますか?」。すると、宮田先生はうなずき、職員室のすぐ隣にある一室に案内してくれた。ひと目見て、圧倒された。ジャンル別にフォルダにまとめられた紙のフラッシュカード。アクティビティで使う、作り物の野菜や果物。大判の英語絵本、チャンツのCD。そして本棚には、これまでの実践事例を綴じた分厚いファイルがずらりと並んでいた。まさに、これまでの英語活動で積み上げてきた宝の山が、そこにあった。

 「英語活動の授業計画を練る時は、ここに来て『何が使えるかな』と考えをめぐらします。もしなければ、他校から借りることもあります」

 大牟田市は「横のつながり」がとても強い。さきほどの英語劇のDVDも他校から借りたものだし、イントラネット経由で、デジタル教材やプリント教材、資料の貸し借りも日常的に行われている。

 「市教委の支援、他校との協力があったからこそ、英語活動を続けてこれたのだと思います」

「楽しい!」が成功の秘訣

6年3組担任 研究主任
外国語活動担当者会部長
宮田 久美子 先生

 「英語活動で、子どもたちはどんな成長を見せていますか?」と尋ねると、宮田先生は「積極性が身についたことですね」と即答した。

 「自分から積極的に話しかけるようになりました。たとえば修学旅行で長崎に行った時などは、外国人観光客を見かけると、”Hello!”と声をかけていました。英語を試したくなるんでしょうね」

 安田教育長の「コミュニケーションを図ろうとする意欲や態度を伸ばすことが英語活動の目的の一つなのだ」という言葉が脳裏によみがえる。

 さらに宮田先生は、「英語活動が学級経営にいい影響を及ぼしている」とも語った。
「普段の授業ではなかなか発表できなかった子が、英語活動では積極的に手を挙げて発言したり、男女間でも英語を使って積極的にコミュニケーションするようになりました。その良い雰囲気は、英語活動以外の授業や普段の生活にも広がり、学級の仲がとても良くなりました」

 学級担任が英語活動を進めるのは、学級経営にも活かすためと、安田教育長は述べていた。まさに、ねらい通りだった。

 最後に「大牟田市の英語活動が成功した理由は何だと思いますか?」と、聞いてみた。
「子どもにとっても、教師にとっても楽しいからではないでしょうか。単に楽しいのではなく、子どもたちが成長している手応えを、自分たち教師も感じています。それが楽しいのです」

 大牟田市では、外国語活動の教科化に、胸をおどらせている。

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