公開日:2017/8/4

『CaLabo Language』を東京都立高校50校に導入

ICTの活用で発音教育を強化

―東京都教育庁―

2013年に閣議決定した「第2期教育振興基本計画」では、グローバル人材の育成に向けて、教育の国際化や英語力の目標などについての指針が打ち出された。これを受けて、東京都教育委員会でも都内の公立学校における英語教育の推進策を検討し、「東京都英語教育戦略会議」報告書をまとめた。そのなかで、「ICTの更なる活用」が掲げられ、とりわけ発音教育に重点を置き、東京都立高校の約3割にあたる50校に発音トレーニングとクラスの一括管理が可能な『CaLabo Language』が導入された。東京都教育庁の担当者に導入経緯と今後の展望を伺った。


指導部 指導企画課
課長代理
国際教育推進担当

渡邉 貴志氏

指導部 指導企画課
国際教育推進担当

西村 雅裕氏

指導部 指導企画課
指導主事
国際教育推進担当

関谷 さやか氏

指導部 指導企画課
国際教育推進担当課長

瀧沢 佳宏氏

グローバル社会で必要なのは、「使える英語」「伝わる英語」

 「4技能の中でもスピーキング能力の向上は待ったなし。求められるのは『使える英語力』であり、これを高めるためには英語に触れる機会の増加と、学習者の意欲向上が不可欠です」と指摘するのは、東京都教育庁で国際教育推進担当課長を務める瀧沢佳宏氏。

 「恥ずかしがらずに話してみることが大切」と指導する教員や、「異文化環境に飛び込んでしまえば何とかなる」「ジェスチャーを交えながらでも意思疎通はできる」と語る留学経験者は少なくないが、より正確に伝えることを求められるケースがあるのも確かだ。海外旅行をストレスなく楽しめるレベルで構わないとする学習者に対する英語教育の延長線上に、グローバルビジネスを牽引する存在としての活躍をめざす高校生や大学生に対する英語教育があると考えても、より正確に伝えるための英語教育が重要であることに間違いはない。もちろん、個々の到達目標に差異はあるが、「伝わらない可能性もある」という意識を持ち、「伝わるためのスタンダードとしての発音、基準となる発音」を身につけるべきであることは言うまでもないことだ。「ネイティブのように話せるようになってほしいわけではないのです」と瀧沢氏が話すように、英語でのコミュニケーションに必要な発音スキルを確実に身につけ、伝えるべきことを確実に伝えていってほしいという極めてシンプルな発想だ。


 瀧沢氏の考えるグローバル人材とは、「新しい価値を創造できる人材」である。国をまたいでのビジネスから、国家間の紛争解決、途上国支援まで、そこでは往々にして英語でのコミュニケーションが発生する。価値観の異なる相手の意見や、多様な文化的背景を理解・尊重しつつ、対話をしながら新たな秩序や価値観を生み出していくためには、自らも「伝わる英語」で意思を表明していくことが求められる。海外旅行で必要な英語を筆頭に、人工知能を駆使した翻訳ソフトで対処できる分野が拡大する反面、相手の気持ちを察し、真意を汲み取り、異文化理解・多様性理解を進めていくためには、生身の人と人との高度な英語コミュニケーション能力が不可欠だ。

 「日常的な場面で必要とされるBICSと呼ばれる伝達言語能力は、人工知能を活用した技術で一定程度まではカバーできる時代が来るはずです。しかし、学習場面で必要とされるCALPと呼ばれる学力(学習)言語能力は、授業のアカデミックな内容を理解しようとするなかで、感情も考慮しながら適切な方略を駆使して考えを相手に伝え合う必要があり、人工知能ではカバーし切れないと考えています。だからこそ、発音のしっかりした『使える英語』を身につけるべきなのです」と瀧沢氏は分析する。


ALT拡充などの多彩な施策で「生の英語」に触れる機会が増加

 東京都が、生徒に「使える英語」を身につけさせるために取り組んでいる内容は実に多彩だ。2014年度に策定された「東京都長期ビジョン」では、2024年度をめどに都立高校卒業時の英語力の到達目標を最低でも英検準2級レベル、上位層では英検準1級レベルとして設定している。同じく2024年度には、年間2000人の都立高校生を海外留学させる、という目標も掲げている。

 これに向けて、2014年度から教員の海外派遣研修の充実化を進め、アメリカやオーストラリア、ニュージーランド、カナダなどに年間で約150名の教員を派遣しているほか、教員向けに英検1級合格対策講座も開設。また、同じく2014年度には語学指導などを行う外国青年招致事業「JETプログラム」で招致した英語等指導助手を100校に100人配置。翌2015年度には189校200人へと拡大し、すべての都立高校と都立中等教育学校に配置した。生徒が生の英語に触れる機会を増加させるために、教員を質的にも量的にも充実させる取り組みが進められている。

 さらに2015年度には、東京や日本の文化を理解し、英語で発信する力の育成を目的とした東京都独自の英語教材『Welcome to Tokyo』(初級編・基礎編・発展編)を作成。2016年度からは、外国語活動や英語科目における補助教材として使用されている。

 そして、2015年度には「東京グローバル10」10校、2016年度には「英語教育推進校」40校を指定し、外部の検定試験による英語力調査を導入し、そのうち12校ではオンライン英会話学習も開始。「20年間の教師経験で常に課題だったのは、スピーキング能力の向上でした」と関谷さやか氏が語るように、発音教育・音声指導の重要性が教育の最前線で認識されているからこそ、4技能の中でも特にスピーキングのスキルアップに向けた施策が講じられている。

 しかしながら、現実的には発音練習・音声指導に特化した授業は少ないと言わざるを得ず、しかも、生徒は大学受験対策などを含め、4技能を総合的に向上させるために、スピーキング以外の課題もこなさなくてはならない。そこで注目されたのがICTの活用だ。

「生徒の学習履歴管理機能」でクラス管理も

 「発音教育・音声指導の理想は個別指導」と語るのは瀧沢氏。そこで白羽の矢が立ったのがICTの活用であり、チエルとHOYAサービスの共同開発による音声リーディングソフト『CaLabo Language』だ。東京都特別仕様として、東京都独自の英語教材『Welcome to Tokyo』の内容を収録している。

 重視したのは、モデル音声を聴いたうえで個別に練習させ、自動採点される機能だった。生徒のレベルに応じた速度調節が可能なため、基礎レベルから上級レベルまで対応することができるほか、自分のペースで発音の練習ができ、モデル音声と聴き比べながら発音スキルを高めることもできる。しかも、「発音」「アクセント」「イントネーション」「タイミング」の四つを得点化し、総合得点を算出する。数値としての得点が計算されるだけでなく、モデル音声との違いを視覚的に確認することもできる。学習者は、「単語モード」と「文章モード」による段階的な学習も可能だ。

 「単語の発音だけがいかに上手でも、リズミカルに話せなければ通じない可能性もあります。細かい発音もさることながら、リズム感やタイミングがカギになることもありますので、単語単位での練習のほか、文章を通しての発音練習ができる機能は魅力ですね。自分の発音を聞いて弱点を把握しながら、反復練習でスキルを高めていってほしいと思います」と瀧沢氏は評価する。

 さらに、音源の登録ができる拡張性や、生徒の音声を保存できる「学習データ自動保存」機能に加え、継続的な指導のために重視したのが「生徒の学習履歴管理機能」だ。教員は、生徒の録音音声や、学習回数、学習時間などの把握が可能なうえ、生徒へのフィードバックを書き込むこともでき、進捗やレベルに合わせた適切な指導につなげることができる。

 これらの機能を搭載する『CaLabo Language』を「東京グローバル10」10校と「英語教育推進校」40校の合計50校に導入し、1校あたり40台余り、合計で2000台を超える大規模な導入事例となった。2017年1月に教職員向けの説明会が実施され、本格運用が始まりつつある段階だ。



50校での活用状況を踏まえ、バージョンアップと導入校の拡充へ


 「まずは第1段階として導入した50校での活発な利用を促進していきます。その後、『Welcome to Tokyo』に掲載されている例文に加えて、ALTをはじめとする各校の教員がオリジナルのコンテンツを新たに登録するなど、拡張性を最大限活用してほしいと考えています」と語る関谷氏。使い勝手を検証しながら、バージョンアップさせていきたい考えだ。すでにすべての都立高校にALTが配置されており、ICTの活用によって培ったスピーキング力を試す相手が常に身近にいるのだ。「生きた英語力」を伸ばしていくための環境は整った。

 「他の教科も含めて、タブレットや電子黒板など、教育現場でのICT活用は進んでいます。『CaLabo Language』も1度使えば生徒はすぐに慣れると思います」と話すのは、外国語(英語)教員免許を持ち、年齢的にも生徒に近い立場でこの導入プロジェクトに加わった西村雅裕氏だ。

 一方で、渡邉貴志氏は、「高校生は、外国人を真似して発音することが恥ずかしいと感じ、不安になったり緊張したりすることもあります」と指摘する。「情意フィルター」と呼ばれる英語習得を妨げる心理的な障壁を生徒から取り除き、前向きな動機を持たせることが大切だと言うが、その点、いわばコンピュータとのマンツーマンで、周囲に聞かれることなく発音練習を重ねていける『CaLabo Language』への期待は大きいという。

 なお、レベルに応じた発音指導が可能なため、特に想定している学年はなく、全学年に対応。早い段階から優れた発音を身につけていけば、加速度的に英語力が高まる可能性も考えられる。

 チエルとしては、この東京都立高校での動向を見守り、サポートしながら、小・中・高・大学を問わず、多方面への展開を推し進めていく。

※トレーニング機能にはHOYAサービス株式会社の音声エンジンを使用しています。

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