全ての自治体・学校を取りこぼさない「協働」「自走」の仕組みをつくる!

GIGA StuDX(ギガ スタディーエックス) 推進チームとは!?

文部科学省は、2020年末に立ち上げた「GIGA StuDX(ギガ スタディーエックス) 推進チーム」の体制を強化するべく、2021年4月、全国から小・中学校の教師8名をメンバーに加えた。都道府県教育委員会等と日常的にやりとりを行って全国の教育現場の情報を収集・発信したり、優良事例や現場の課題等をくみ取って政策に反映したりすることを目的とする。チームリーダーを務める初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長・板倉寛氏にお話を伺った。

96%の自治体にアウトリーチを

 2021年3月末時点で全学校設置者のうちほとんど全ての自治体で端末整備が完了し、いよいよ1人1台端末・高速大容量ネットワーク下での学びが始まりました。これから先、全ての学校の全ての教師がこの環境を活用した実践を行い、全ての子供がICTを活用した学習を行う必要があります。

 教育現場でのICT活用について実際の事例を集めていると、入ってくるのはどうしてもICT先進地域の情報ばかりになってしまいます。しかし、多くの自治体ではやっと環境が整ったところです。実際、96%の自治体において、1人1台環境の活用に本格的に取り組むのは2021年度以降というデータもあり、現時点ではまだ「取り組み始めたばかり」の段階です。GIGA StuDX推進チームでは、こういった自治体へのアウトリーチ、つまり、積極的な働きかけを最も重視しています。

 教育ICTの分野では、「こんなにすごいことができる」と先進的な例ばかりを提示しすぎると、活用の進んでいない自治体にとっては壁をつくってしまうことになりかねません。初歩的なことを大切にし、「みんなに届くもの」にすることが重要です。これから1人1台の活用に取り組もうとする先生方の間に「やってみたい」というムードをつくるため、「手始めにこんなことをやったらいいですよ」と提案しています。最初からパーフェクトはありません。一歩ずつ、試行錯誤しながらのステップアップが大切です。

新メンバーのチームワーク

 GIGA StuDX推進チームが新たに迎えた8名は、学校現場を具体的にイメージしながら情報を発信できるメンバーです。そのおかげでプロジェクト全体が非常に良い方向に向かっていると思います。

 現場で授業をしていた先生方が突然、文部科学省に来て、都道府県教育委員会とやりとりをするなど初めての業務を次々と行うのですから、初めはかなり苦労もあったと思います。仕事の進め方については丁寧にOJTを行ってきて、今では滞りなく業務を遂行できています。

 8名は全国の各自治体から集められたメンバーで、地域ごとの文化の違いに戸惑うこともあるようですが、しっかり意思疎通ができているので、それぞれの違いや個性を組織の強みにすることができていると思います。

 実際の職場の様子を見ていただければわかると思いますが、信頼関係がしっかりと築けていて、かなり良い雰囲気で仕事をしていますね。関係がフラットでコミュニケーションもよくとれていて、素晴らしいチームだと思います。

 日常の業務をクラウド上で行っていますが、まさに将来的に学校で活用されるツールの使い方を業務上で実践していることになります。現場経験のあるメンバーばかりなので、現場の先生方の視点を持って普段の業務にもあたってくれています。

「GIGA StuDX 推進チーム」の体制
「GIGA StuDX 推進チーム」の体制

慣れるまでのステップアップとその先のチャレンジ

板倉 寛 氏

 GIGA StuDX推進チームでは、情報の発信と共有のための特設ホームページ「StuDX Style」を運営しています。主に1人1台端末の具体的な活用シーンについて優良な事例等を紹介することを目的としていますが、事例を大きく次の3つに分けていることが特徴です。それが、「慣れる・つながる活用」「各教科等での活用」「STEAM教育等の教科等横断的な学習」です。

 この中で、これから初めてICT活用に取り組む先生方を含め、全ての先生方に関係するのが「慣れる・つながる活用」と「各教科等での活用」です。

 96%の自治体が初めて1人1台端末環境の活用に取り組むという状況の中で、まず重要なのは「慣れる」「つながる」の2つであると考えました。「慣れる」では、1人1台端末の環境に慣れ、ICTを文房具や教具として当たり前に使えるようになることを、「つながる」では、「教師と子供」「子供同士」「学校と家庭」「職員同士」等、さまざまな場面で、ICTによってコミュニケーションの頻度や質が高まることを目的としています。

 「慣れる」「つながる」ができてきたら、次のステップとしてぜひ取り組んでもらいたいのが「各教科等での活用」です。文部科学省には、教科調査官という教科等の専門家がいます。教科等の専門知識に、GIGA StuDX推進チームによる技術面でのサポートが加わって、「ICTを使って教科教育をいかに良くするか」「今までできなかったことをいかにできるようにするか」を形にし、教科等ごとのポイントや実際の事例を紹介しています。

 さらに、ICT活用を一定程度できている自治体や学校でチャレンジしてほしいのが「STEAM教育等の教科等横断的な学習」です。「教科等横断的な学習」は、学習指導要領の重点項目の1つです。学習の基盤となる資質・能力としてあげられる、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力の中でも、特にSTEAM教育と親和性があるのが問題発見・解決能力です。課題を発見・設定し、さまざまな教科等の力や観点をもって課題を解決することを目指します。子供たちが将来、社会人になったときに必要となる資質・能力の育成を、学校教育の中でも常に意識していくことが重要です。

 一気に何もかもやろうとする必要はありません。今どの段階なのかを意識しつつ、着実にステップアップしてもらえればと考えています。

自治体によって異なる「3OS」汎用性のある情報を

 全ての自治体・学校の底上げをすることを目的に情報を発信していますが、もちろん、全ての自治体・学校が同じ環境というわけではありません。真っ先にあげられるのがOSの違いです。

 そこで「StuDX Style」では、文書作成、表計算、アンケート、ウェブ会議システム等、各OSに共通で備わっている機能を有効に使うことを重視しています。有料のアプリケーションを使わずとも、基本的な機能だけで何ができるかをきちんと理解しておくことが、生涯にわたって役立つICT活用能力のポイントの1つとなります。ウェブ上で完結するアプリケーションもどんどん増えています。細かく見れば、それぞれのOSでしかできないことももちろんありますが、ベーシックな部分をしっかり理解して使いこなすことが大切です。

GIGA StuDX 推進チームの職場風景
GIGA StuDX 推進チームの職場風景

 「StuDX Style」では、3OSそれぞれのポータルサイトへのリンクを張ったり、メールマガジンで各OSの研修資料を共有したりしています。各教育委員会にはそれらをうまく使っていただいて、自分たちが使っているOSにより合ったやり方を各自で研修し、学んでいただければと考えています。

特設ホームページ「StuDX Style」
特設ホームページ「StuDX Style」

クラウド・バイ・デフォルトを前提に業務の効率化を

 1人1台端末環境は、子供たちの学びの質の向上だけではなく、先生方の業務の効率化にも寄与するものです。そのためには、セキュリティに対する意識の変化も必要になってきます。

 2017年に策定された「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」は、GIGAスクール構想を受けて2019年に第1回、2021年5月に第2回の改訂が行われました。コロナ禍にGIGAスクールの整備が前倒しされたことで発生した新たな課題に対応するためです。

 ポイントは、「ネットワーク分離を必要としない、認証によるアクセス制限を前提とした構成」を「目指すべき構成」として位置付けたことです。これまで情報セキュリティ対策で重要視されてきた「ネットワーク分離」から一転、校務系システム・学習系システムを共にクラウド化し、最小限の機器のみ設置することで、 利便性向上とコスト削減を目指す、つまり、クラウド・バイ・デフォルトの考え方です。さまざまなデータをクラウドに保管することでデータの利活用にもつながりますし、セキュリティ面でも技術的対策や人的対策を併せて実施することで十分確保することが可能となっています。

 今後、学習系と校務系のデータの連携は非常に重要になると考えています。端末をフル活用し、学習だけでなく校務の効率化にもつなげてほしいと思います。「StuDX Style」では、校務の効率化の事例も多く掲載しています。例えばアンケートにオンラインのアンケート機能を使うなど、校務のデジタル化は非常に大きな効率化になります。

 最終的にはさまざまなシステムを統合することが望まれますが、地域によって基盤となる環境には差があります。今ある資源をフル活用することを目指していただきたいです。工夫次第で、1人1台端末環境だけでもできることは相当あると思っています。

目指すのは「協働・自走」のためのプラットフォーム

 同じように、打ち合わせや研修でもICTの活用が重要になってきます。従来、我々と都道府県教育委員会との打ち合わせは電話で行っていましたが、ウェブ会議システムを取り入れたことで、複数人での会議が手軽に効率的にできるようになりました。このような手法があらゆる場面で当たり前になってほしいとの考えもあり、オンラインでの打ち合わせを推進しています。

 約1800の自治体全てに我々だけで個別に対応していくことは難しいですが、各市町村の状況も把握した上で、都道府県教育委員会とのやりとりを中心に支援していきます。今はこちらから連絡をとる「プッシュ型」で支援をしていて、それをきっかけに自治体が動き始めることに手応えを感じています。

 各自治体の「自走」を支援することはもちろんですが、1人1台活用に蓄積のある自治体が、活用を始めたばかりの自治体をサポートすることも大事です。「自走」しながらも「協働」していくこと。この2つのバランスをとることで、良いサイクルが生まれると考えています。

 従来は、文部科学省から都道府県教育委員会、そこから市町村、学校へと単線的になっていたところを、いろいろなところで、地域や学校間を超えて、ネットワークづくりをしていく。「慣れる・つながる活用」の事例でも強調していますが、ICTを活用することで、人と人とのつながりはより手軽に、より多様なものになります。今までは直接つながりがなかったようなさまざまな階層同士が絡み合うネットワークが構築されることで、GIGAスクール成功の道が見えてくると思っています。

8名のメンバーの中から、代表して2名、小学校の現場から派遣されているS先生、教育委員会から派遣されているK先生にお話を伺った。

どんなことを意識して業務にあたっていますか?

どんなことを意識して業務にあたっていますか?

S先生 例えば都道府県の担当者と話していて、何か課題があったときに、元をたどっていくとそこには必ず子供がいます。先生方や子供たち一人ひとりの顔はなかなか見えませんが、現場の目線で「こんな情報があったらいいな」とか、「現場はこんな状況だろうから、このタイミングではこういう情報が必要かな」と考えながら、提供する情報を選んでいます。そのように、見えないところを想像できることが私の立場の強みだと感じています。

K先生 「汎用性」をキーワードの1つとしています。こちらから発信する情報はあくまでも一例で、それを見た教育委員会や現場の先生方が「これに使えるなら、ほかのことにも使える」と発想してくださるところまでを意識しています。整備されている環境は自治体によって異なるので、どの自治体でも使える、全ての人に役立つ情報を提供することを目指しています。

「情報交換プラットフォーム」との関わり方は?

S先生 都道府県教育委員会が主催するオンライン研修に、GIGA StuDX推進チームのメンバーが参加することもあります。ウェブ会議システムを使った情報共有は、顔を見た瞬間に距離が縮まる感覚があって、課題を本音で話すことができるように思います。

K先生 OSごとの機器の操作など細かい部分での課題は、実際に機器に触って操作するハンズオン研修等を各自治体が行うことで解決するケースが多いように思います。今後それをさらに拡大して、都道府県同士や、その中にある市区町村同士、さらには学校間での情報交換を密にし、細かい課題や悩みの解決につなげることを目指します。

現場に対してどのような変化を期待していますか?

K先生 実際にやってみないとイメージできない部分が大きいので、私たちの中でも例えば朝の会や帰りの会をやってみて、どこからどこまでをオンラインでできるのか改めて整理するなど、ハイブリッド化の試みが進んでいます。現場でも、初めから何もかもICTで、と力むのではなく、メリットを生かしながらうまく取り入れる発想が定着するといいなと考えています。

S先生 ICTの活用事例を収集・発信していると、「これを使って私も授業をしてみたい!」と思うことがよくあります。現場の先生方も一緒だと思うのです。特に、ハンズオン研修のような体験を通して、「これならできそう」と感じると、もっとやりたい、もっと知りたいと感じると思うんですよね。その最初の一歩になるような情報を提供できればと考えています。

現場に対してどのような変化を期待していますか?

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