公開日:2024/5/10

第49回 全日本教育工学研究協議会 全国大会(青森大会) 参加レポート

~ICTの活用で子供たちの可能性を引き出す令和の日本型学校教育の構築を目指して~

チエル粟田が行く

本レポートでは、2023年10月27日・28日に開催された日本教育工学協会(JAET)が主催する第49回 全日本教育工学研究協議会全国大会(青森大会)の様子をお届けします。本大会は、青森県初の大会で全国から参加者が会場に駆けつけました(チエル粟田)。

大会概要

子供たちが生きる未来の日本。
子供たちが生きる未来の日本。

 1日目の午前中は青森県上北郡六ヶ所村で20の授業が公開されました。午後は、三沢市公会堂で会長の高橋純先生による開会式、学校情報化先進校表彰式、文部科学省 初等中等教育局修学支援・教材課 課長の武藤久慶氏による基調講演、東北大学大学院 情報科学研究科・東京学芸大学大学院 教育学研究科 堀田龍也先生による特別講演が行われました。

 2日目は研究発表およびワークショップが開催されました。その後トークセッション「ICTの活用で子供たちの可能性を引き出す令和の日本型学校教育~公開校4校の実践に学ぶ~」、そして閉会行事で締めくくられました。

 GIGAスクール構想で整備された端末は、早い地域では4年目、多くの学校では3年目に入りました。公開授業、基調講演、特別講演、トークセッションでは自分の学校のICT利活用のヒントを得ようと熱心にメモを取る参加者の姿が目につきました。2日間を通し、本大会への期待や熱気を感じることができました。

基調講演

 文部科学省の武藤久慶氏による基調講演は、なぜ今、GIGAスクール構想が必要かもう一度再確認しようとの呼びかけから始まりました。「従来の日本型学校教育は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)が高度に融合したソサエティ5.0社会を生きていく子供たちに、マストアイテムのPC環境を十分整備してこなかった。GIGA端末が行き渡り、一人ひとりに応じた学習活動・学習課題の提供が可能になった」と指摘しました。

 

 「令和の日本型学校教育」のキーワードである「個別最適な学び」と「協働的な学び」とデジタルは相性がよい。デジタルやクラウドによって可能となったさまざまな学びの手段は、子供たちが問いを立て、議論したり提案したりすることを容易にし、他者と対話や合意を図る学びを得られる。しかし現状は、授業のほか、授業研究や校内研修といった校務においてもクラウド活用は道半ばの印象だ。先生が整備された端末とクラウド環境を“使い倒す”ことで、子供たちは従来に比べて大事な資質や能力が身に付いた、持続可能な社会の担い手となるだろう。これからは先生たちのさらなる「マインドチェンジ」が必要だ。

 武藤氏は、多くの先生方はGIGA環境を子供主体の学びの実現につなげようと努めているとした上で、「先進的な取り組みをしている先生や学校の事例を『他者参照』しながら、指導の個別化を図ってほしい」と会場内外の先生にエールを送りました。

特別講演

「個別最適な学び」と「協働的な学び」のイメージ。
「個別最適な学び」と「協働的な学び」のイメージ。
現行の学習指導要領における資質・能力の3つの柱。
現行の学習指導要領における資質・能力の3つの柱。
2020年7月27日開催の中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会(第118回)の議事録。
2020年7月27日開催の中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会(第118回)の議事録。

 東北大学大学院・東京学芸大学大学院の堀田先生による特別講演では、現在は端末導入・整備の「ファーストGIGA」から実践フェーズの「セカンドGIGA」への端境期にあるとの認識が示されました。講演内ではGIGA環境の可能性について次のように説明されました。

 社会の変化が速くキャリア・チェンジが一般的になっていく中、学校を卒業して仕事に就いても、自ら学び続けていかなければならない時代となっている。不確実性が高い世の中だから、自ら学びとることができることに重点が移っている。ICTは授業改善を促すツールである。セカンドGIGAにおける1人1台端末は、単に端末を使うことで終わるのではなく、授業改善を伴う用い方が大事だ。協働作業を通じて「白紙共有」「途中参照」「他者参照」に慣れ、最後の「振り返り」で次なる学びの手がかりをつかむ。児童生徒自身に学ぶスキルが身に付いてくるような学習指導になっているかが重要だ。

 堀田先生は「従来の日本型学校教育でも子供の個性を重視する教育を模索していた。GIGA端末はその実践のための方法論を顕在化してくれたツールだ。2023年6月に閣議決定された、『経済財政運営と改革の基本方針2023』、いわゆる『骨太の方針』に1人1台端末は公教育の必須ツールと明記されたのも、そのような背景があるからだ」と学校現場での一層の利活用を求めました。

トークセッション

第49回  全日本教育工学研究協議会全国大会のプログラム

 トークセッションには、公開授業校の4校の先生とそれぞれのアドバイザーの研究者が登壇し、授業実践を手がかりにICT活用で子供たちの可能性を引き出す議論を深めました。

 GIGA環境における授業の質向上のキーワードとして挙がったのが「振り返り」です。一見すると端末を軽快に使っているが、自分の頭で考えず“作業”に陥っている児童生徒もいる。このようなケースでは、授業の最後に丁寧な「振り返り」を行うことで、子供たちは「自分ができたところ、できなかったところ」が整理でき、次第に自律的な学習者になるとのアイデアが披露されました。

 さらに、先生がGIGA環境を有効活用するには、子供たちの「振り返り」の様子から授業を再設計する姿勢が重要との意見がありました。設定した課題のレベルは適切だったか、学習への動機付けは十分だったかを先生自身が「振り返り」、カリキュラムマネジメントに活かすというわけです。このような能動的に学び、新しいチャレンジをする先生の姿は、子供たちにとって前向きな刺激となるでしょう。

 「1人1台端末が整備されたからといって、児童生徒にすべて任せればいいのではない。先生も子供たちと一緒に考え、自らの授業観を変える努力が必要だ」とのコメントが非常に印象的でした。

 公開授業校の一つの六ヶ所村立南小学校では、すでに2015年からタブレットを活用した授業を行っています。「今後は蓄積してきたデータの利活用にも取り組んでいきたい」と語る本大会は、我々にとっても非常に示唆に富む機会でした。


※ご紹介させていただいた所属・役職は2024年3月1日現在のものです

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