4Kの高精細画像・映像で画面共有 グループワーク促す空間を構築
―石川県―
金沢工業大学
「教卓のスクリーンでは後ろの学生が見づらい」「『密』防止のため講師の周りに集まって説明を聞く授業が難しい」。このような悩みを抱える学校は少なくない。金沢工業大学は、S600-OPをベースにした画面配信システムで講師と学生の円滑な情報共有を実現した。
金沢工業大学
〒921-8501
石川県野々市市扇が丘7-1
(扇が丘キャンパス)
学びの柱は、チームによる問題の発見、解決策の創出、作品制作やアイデアの検証を学ぶ「プロジェクトデザイン」と、学科ごとの専門を学ぶ「専門」の2つ。1・2年次はプロジェクトデザインで実践的な課題解決力を獲得。3年次以降は後者で自身の研究を掘り下げる。
低い天井と6本の柱の演習室
学生の視界を大きく遮る構造
金沢工業大学は1965年開学の理工系総合大学で、工学部、情報フロンティア学部、建築学部、バイオ・化学部の4学部12学科に6200名超の学部学生と約500名の大学院生が在籍する。「教育付加価値日本一の大学」を目指し、入学時と比べた卒業時の成長を重視していることから、演習や課題など実際に手を動かすカリキュラムが多いことが特徴だ。
その学習拠点が学内にある演習室だ。プログラミング演習や実践的な技術習得では個別の実習が欠かせない。演習室にはPCがずらりと並び、講義内容や講師からの情報が得られる仕組みのほか、情報共有してグループワークに活用しやすい演習環境を用意していた。
「ただし、最近は学生が個人所有するノートPCの性能が上がってBYOD形式でどの教室でも講義ができるようになり、演習室の利用率が低下していました。2020年3月の演習システム入替時期に合わせ、室内にある数十台のモニタといった資産の有効活用のためにも、『いろいろな授業で使われる演習室』にバージョンアップする必要がありました」(金沢工業大学 情報処理サービスセンター システム部 システム課 技術係長の相沢英之氏)
演習室のバージョンアップの方向性として目指したのは、講師の手元のPC画面を学生たちとスムーズに共有でき、かつグループワークを促進する空間だ。
「例えば、プログラミングを効果的に学ぶ手法に2人一組で行う『ペアプログラミング』があります。1人がマウス操作やキーボード入力を担当し、もう1人がアイデア提案、エラーの指摘や質問をする。これにより質の良いコーディング技術の習得や制作時間の短縮が期待できますし、講義内でペアを替えることで新たな気付きを得られ、クラス全体のスキル向上も見込めます。このような学習スタイルは、1人で自分のノートPCに向かっていては難しいと言えるでしょう」(金沢工業大学 情報フロンティア学部 メディア情報学科 講師・博士の浦正広先生)
しかし、目指す演習室の実現には低い天井と6本の太い柱という構造的な問題をクリアしなければならなかった。天井が低いためモニタを吊り下げて画面共有するのは難しい。柱があることで室内空間は自然と区切られ、グループに分かれて学習するには便利だが、学生の視界を大きく遮るため、前方でスクリーンを使って説明するといった講義には不向きだ。
専用ハードウェアによる圧縮でリアルタイム配信が可能
そこで浮上したのが、チエル社の新ハードウェア画像転送システムのS600-OPを活用したプランだった。S600-OPは4Kの高精細画像に対応しており、CALL教室やアクティブラーニング教室、講義室などさまざまな場所で応用可能な画像転送システムで、専用ハードウェア(Video Over IP)による圧縮配信により遅延の少ないリアルタイム配信が可能だ。
金沢工業大学の演習室には2020年3月に導入。併せて室内をリノベーションして、学生は目の前のPCと、机の横にあるA系統とB系統と呼ぶ2台のモニタの計3画面で学習できる。A系統とB系統では異なる画面を表示でき、切り替えは講師が手元で行える。
「講師のPC画面を学生のすぐ横に表示できるため、『講師の作業を見ながら一緒にコーディングする』など、従来の教室では難しい教育を実践できます。本学での特筆事例は、電子回路を制御するプログラミングの講義です。講師の方がA系統で電子回路の動作、B系統でソースコードを示し、学生に実際の動作を見せながらコードを説明しています。システムの導入が、学生にとって理解しやすい講義を提供することにつながりました」(浦先生)
ソースコードは小さな文字を多く表示させるため、従来の教室のように教卓横のプロジェクタに表示して説明すると離れた席の学生は非常に見にくい。S600-OPをベースにした画面配信システムでは、低い天井や柱が多い教室でも、講師と学生の情報共有が容易だ。
クローズドなネットワーク
シンプルな構成で管理しやすい
金沢工業大学のシステム管理を担う金沢総合研究所の担当者は、「今回の画面配信システムは構成がシンプルなため導入コストが抑えられ、ソフトウェア面の心配もありませんでした。クローズドなネットワーク上で運用でき、セキュリティ管理なども特別意識する必要がないので全体的に管理しやすいと感じています。スイッチングハブに冗長性を持たせることで障害時にも対応できるようにしています」と話す。
新型コロナウイルス禍を経てオンライン授業の需要が高まる中、対面での学びが貴重な時間となる場合もある。それはオープンキャンパスなど講義以外の取り組みでも同様だ。「学外向けのオンラインイベントでは教職員がS600-OPのある演習室に集まり、役割分担しながら対応しています」(相沢氏)
学生の個人端末ではできない高クオリティな講義を対面の演習室だから実現できる。金沢工業大学では、授業支援システムのCaLabo® LXも活用しながら、オンライン型やハイブリッド型など学びの選択肢を充実させていく。
情報フロンティア学部
メディア情報学科
講師・博士(情報科学)
浦 正広 先生
情報処理サービスセンター
システム部 システム課
技術係長
相沢 英之 氏