どの地域においても生徒の可能性を最大限引き出す質の高い教育を

遠隔授業の目指すべき方向性

北海道高等学校遠隔授業配信センター(T-base) センター長の元紺谷尊広先生に聞く

人口減少を背景に、地方では都市部と遜色ない教育環境の整備を目的に遠隔授業への注目が高まっている。広域分散型の北海道では十数年前から、子供たちがどの地域にいてもより良い教育を享受できるようにと遠隔授業の導入がスタートした。北海道高等学校遠隔授業配信センター(T-base)センター長の元紺谷尊広先生に、北海道の遠隔授業のこれまでの変遷と課題、今後の展望について伺った。

出張授業の補完として2008年から遠隔授業を開始

テレビ会議システムを使った「1対多」対応の授業を配信する様子
テレビ会議システムを使った「1対多」対応の授業を配信する様子

 北海道高等学校遠隔授業配信センター(T–base)は、大学進学などの進路希望に対応した教科・科目の開設が困難な状況を抱える地域の小規模校を遠隔授業の配信により集中的に支援するため、2021年4月、北海道有朋高等学校内に開設された。

 「夢は、地元でつかみ取る。」をキャッチフレーズに、T–baseは、どの地域においても生徒自らの可能性を最大限伸ばしていくことのできる多様で質の高い教育の提供を目指す。授業は国語、数学、英語、歴史、地理、現代社会などの共通教科・科目に加え、専門性の担保が求められる物理などもカバー。各専任教員がライブ配信を行っている。音楽と書道の芸術科目にも対応しており、ゆくゆくは美術も配信できるよう研究する方針だ。

 2022年度の配信対象校は地域連携特例校(小規模校)27校と離島の道立高等学校2校の計29校。2023年度も特例校が2校増加する予定で、少子化や教員数の不足などから今後も受信校が増えることが予想される。

 広域分散型の地域特性を持つ北海道では、北海道教育委員会(以下、道教委)により「地理的状況などから再編が困難」かつ「地元からの進学率が高い」1学年1学級の小規模な高等学校は存続を図る施策が10年以上前から講じられてきた。

 2006年に、「新たな高校教育に関する指針」で、小規模校に対する教育環境の維持充実が示され、2008年には、同一通学区域内の高等学校から小規模校に対して、出張授業とその補完的役割として遠隔授業が導入された。つまり、初めて遠隔授業が配信されたのは、T–baseが開設される10年以上前である。

 「2013年、道教委を通じて、文部科学省から『遠隔授業による単位認定に係る研究開発』の委託事業を受けて以来、北海道有朋高等学校は遠隔授業による教育課程などを研究してきました。道教委が構築した教育クラウド基盤『ほっかいどうスクールネット』の通信回線やテレビ会議システムを活用することで、対面授業と遜色ない授業が可能であるとの研究成果が認められた結果、2015年に文部科学省が定める遠隔授業での単位修得に必要な対面授業の時間数の規定が緩和されました」(北海道有朋高等学校 校長 兼 北海道高等学校遠隔授業配信センター〈T–base〉センター長の元紺谷尊広先生)

 元紺谷先生は、「GIGAスクール構想により各高等学校にWi–Fi環境が整い、2022年度からは1学年の生徒に1人1台のデバイス端末が導入されました。町教委が配布を支援し全学年に配布している自治体もあります」と明かす。

 こうした流れを受け、T–baseでは研究も兼ねてテレビ会議システムとデバイス端末を併用する授業と、タブレット端末のみの授業が行われている。テレビ会議システムの授業は基本、生徒を集団として捉えるのに対し、デバイス端末は教員と生徒が「1対1」のコミュニケーションを深めることができる。

 「2022年春、生徒全員のタブレット端末をWi–Fiで同時接続するとデータ容量が大きくなり動作が遅くなるといったトラブルがよく起こりましたが、生徒側のカメラを適宜オフにし、ネットアプリケーションの同時接続数を制限するといった工夫を凝らしたことで、現在は途切れることなく授業配信ができています」(元紺谷先生)

地域学習を重ねた小規模校の子供たちは地元を大切にする

 T–baseの進学サポート計画は、①分かる②知る③つながる――の3つの要素で構成している。少人数制の「①習熟度別授業」をベースに、「②模擬試験」で学習の定着度を測定。3年生を含めた全学年で、外部模擬試験で全国レベルでの順位を測ることを各校へ推奨している。長期休業中は「③講習」を配信する。

 「小規模校には道内トップレベルの大学を目指す生徒は1人いるかいないかで、切磋琢磨できる仲間が身近にいません。受験は団体戦とよく言います。全道への同時配信の講習を通して、同じゴールを目指す仲間とのつながりを作る狙いがあります」(元紺谷先生)

 生徒だけでなく、教員方への支援も手厚い。地方の小規模校へ赴任するのは若い教員が多く進学校での指導経験がないため、トップレベルの大学を目指す生徒への進路指導は手探りになってしまう。そこで、T–baseは進学校での指導ノウハウを持つ教員を集めて小規模校へアドバイスを行うサポートも行っている。「進路指導担当の教員方同士でオンライン会議を行ったり、外部講師を招聘して研修会を実施したりしています」(元紺谷先生)

T-baseの進学サポート計画
T-baseの進学サポート計画
配信ブース内で「1対1」対応の授業を配信する様子
配信ブース内で「1対1」対応の授業を配信する様子

 また、遠隔で他校との交流も図れるよう、2つの高等学校へ授業を同時配信する合同授業も実施している。このような授業を行う際には課題もある。A校は1時間目が8時40分から、B校は8時45分からといったように、授業の開始時刻が異なるからだ。対策として、授業の配信時刻を8時40分と8時50分と2つ用意し、受信校サイドでもA校が5分待機するなど調整をしていると言う。「地方は路線バスで通学する生徒も多く、到着時刻が時間割に影響しています。公共交通機関の協力を得て、2023年からは開始時刻を統一する予定です」(元紺谷先生)

 T–baseは、子供たちの学びを通して地域を活性化することを目標に掲げている。「18歳まで地域学習を重ねた子供たちは、都会に出ても地元を大切にし、戻ってくる確率が高いとの研究もあります」(元紺谷先生)。小規模校の教育の充実が、将来にわたり地域に明るい変化をもたらすだろう。

北海道有朋高等学校 校長<br>北海道高等学校遠隔授業配信センター(T-base)<br>センター長<br>元紺谷 尊広 先生

北海道有朋高等学校 校長
北海道高等学校遠隔授業配信センター(T-base)
センター長
元紺谷 尊広 先生

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