「大学における教育の情報化」

遠隔授業、LMS、eラーニング……
– 現状と今後の展望

 ICT技術のめざましい進歩、そして高度情報化社会の到来は、教育界にも大きな変化を及ぼした。学校現場へのICT機器や情報システムの導入、そして授業でのICT活用と児童・生徒への情報教育。この「教育の情報化」の波は、大学にも押し寄せている。離れた教室間をインターネットでつなぐ遠隔授業、学習履歴や教材の配信等を統合管理するLMSなど、次々と最先端の機器やシステムが導入されている。
今後、「大学における教育の情報化」はどこへ向かうのか。そしてどんな課題が待ち受けているのか。大学教育の情報化に詳しい先生方、大学教育の情報化に携わる職員の方にお集まりいただき、現状と今後の展望について語っていただいた。

「大学における教育の情報化」の現状

盛んな「遠隔授業」もさまざまに…

峰内暁世・立正大学情報メディアセンター(以下峰内)
今日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。立正大学情報メディアセンターの峰内です。
今日の座談会のテーマは、「大学における教育の情報化」ですが、この10年ほどで、教育の情報化は劇的に進みましたね。

小張敬之・青山学院大学経済学部教授(以下小張)
日本の大学も情報化が進んできましたが、世界はさらにその先を行っています。私は一昨年にVisiting Research Fellowとして、イギリスのオックスフォード大に8ヵ月ほど留学していたのですが、遠隔授業も盛んに行われていました。
オックスフォード大は日本語教育も盛んなのですが、慶應義塾大のゼミとオックスフォード大の日本語クラスを遠隔授業システムでつないで、慶應義塾大の学生は英語で、オックスフォード大の学生は日本語で、討論をしていました。学生のモチベーションも高く、熱気を感じましたね。
また学生同士だけでなく、教員同士も遠隔授業システムを使って交流しています。オーストラリアの大学と遠隔授業システムでつなぎ、教授同士の研究発表会も行っていました。

峰内 立正大でも遠隔授業を行っています。 本学は熊谷(埼玉県)と大崎(東京都品川区)にキャンパスがありますので、この離れたキャンパス間を結ぶべく、平成17年に文部科学省のサイバーキャンパス整備事業で、採択され大規模な、遠隔授業システムを導入しました。_x0003_ その一方で、skype*やmeeting24.tv*といった、フリーソフトや無料サービスを活用した遠隔授業も行われています。
たとえば哲学科の生命倫理を学ぶ授業や社会学科の社会調査関係の科目では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病の患者さんの自宅や障害者施設と教室をskype等でつなぎ、学生たちとコミュニケーションを行っています。まず病や障害に関する書籍や資料で勉強し、skype等を使って患者さんと話した上で、実習として患者さんのいる施設を訪問し、その後も論文を執筆しながら随時skype等で連絡を取り合う。こういった学習サイクルで、授業が進められています。

萓忠義・学習院女子大学国際文化交流学部国際コミュニケーション学科専任講師(以下萓)
skypeを使った授業では、学生数はどのぐらいなんですか?

峰内 科目によりますが倫理学は150名、社会調査実習は25名ぐらいですね。150インチ程度のモニターに映し出していますが、鮮明な映像で、ビデオカメラと併用すると、さらに画質はよくなります。_x0003__x0003_小張 私もskypeを使って、台湾の大学生たちと私のゼミ生とを交流させたことがあります。回線が時々途切れることはありましたが、すごく盛り上がりました。

峰内 遠隔授業に関しては、多額の予算をかけて拡張性の高い大規模なシステムを作るのがいいのか、それとも安価なソフトを使ってより多くの授業で活用してもらうのがいいのか。そこが難しいですね。

小張 状況に応じて、使い分ければいいと思います。skypeは、パソコンとインターネットさえあれば、手軽に遠くの人と会話ができるのが利点。峰内さんがおっしゃった患者さんと交流する授業のように、個人の方と少数の学生とがつながる遠隔授業なら、skypeのようなフリーソフトが手軽でいいでしょう。
その一方で、大教室と大教室とを結んで授業をするような場合は、高画質・高品質な大規模システムの方が向いている。早稲田大のように、大規模なシステムを通じてイギリスの大学院の講義を日本の学生たちに受けさせている例もあります。

今や「LMS」導入が当然の時代に…

峰内 LMS(Learning Management System学習管理システム)も、多くの大学で使われるようになりましたね。

小張 私の知り合いから、ロンドン大ではBlackboard*というLMSが使われていると聞きました。LMSに参考文献や教材、宿題などがアップされ、学生はそれをダウンロードして勉強をする。夏休みに日本に帰国している間も、自宅からLMSにアクセスして勉強できるので、便利だということでした。
今、イギリスの大学の約50%は、LMSを導入しているはずです。今の時代、LMSを使うのは当たり前ですね。

峰内 私が以前勤務していた上智大では、3種類のLMSを運用していました。現在は、約400名の教員がLMSを使っていると聞いています。上智大は、LMSの導入と活用に成功した好例でしょうね。

小張 関西大もLMSが進んでいます。独自のシステムを開発して、大学のホームページからLMSにログインできるようになっている。非常に優れたシステムです。

峰内 LMSで使えるフリーソフトでは、moodle*とSakai*が有名ですね。

小張 今世界的に一番名前が通っているのは、sakaiですね。オックスフォード大も、もともとは独自のWeb Learnを使っていましたが、Sakaiに移行しつつあります。

峰内 Sakaiという名前から日本のソフトかなと思いがちですが、アメリカ生まれなんですよね。

小張 そうそう。当時日本で流行っていた某料理番組のシェフの名前にちなんでいる。

峰内 立正大ではWebClass*が導入されています。市販のコンテンツが豊富で良いと思いますが、すべての先生の授業ニーズに合うLMSは無いようなので、moodleとSakaiをテスト運用して本学に最適なLMSを模索予定です。上智大に勤務していたときも、複数のLMSを運用していました。チエルのSMART-HTMLは、市販コンテンツが豊富なので導入しました。学生には好評でした。大学側よりも学生側の方が、便利なモノ新しいモノに敏感ですね。

 LMSにもいろいろありますが、コンテンツが充実しているかどうかも選択する際に重視すべきなんですね。

小張 とくに資格試験の勉強は、eラーニングが得意とする分野です。eラーニングならインプットの量が増えますから、点数も簡単に上がります。学生が使いたいと熱望するのも、当然でしょうね。

「eラーニング」の向かう先は…

峰内 eラーニングのお話が出ましたが、海外ではeラーニングがもっと盛んですよね。

小張 オックスフォード大では、著名な教授の講演会や、Inaugural address(就任演説)はほとんど、講演の後に、ポッド・キャスティングで配信しています。講演を聞けなかったとしても、いつでも見られるようにしています。
オックスフォード大は歴史ある大学なので、古典などを学ぶのを重視する傾向にあるのですが、そのオックスフォード大が01年にOxford Internet Institute(http://www.oii.ox.ac.uk/about/)を設立し、博士課程まで作ったのには驚きました。さらに注目すべきことに、Department of Educationには、数年前のことですが、eラーニングで修士号が取れるようにもなっています。[MSc Education(e-Learning)http://www.education.ox.ac.uk/courses/masters/eLearnmast/

峰内 アメリカの大学も、eラーニングに積極的ですね。

小張 マサチューセッツ工科大がそうですね。21世紀初頭に、MIT OPEN COURSEWARE (http://web.mit.edu/ocw/)を立ち上げ、講義や教材をwebサイトから利用できるようにした。世界はそこまで進んでいる。これがデジタル時代の大学教育だと思います。
今後は、3G携帯電話やiPhone, iPod、PSPなどを使ったモバイル・ラーニングも広まっていくでしょう。モバイル端末に教材や資料などを読み込み、授業の合間などの”スキマ時間”に学習させる。大学における教育の情報化は、ユビキタスに向かって進んでいくでしょう。

峰内 授業の合間に学習させるという点では、SNS(Social Networking Service)も有効です。私が以前勤務していた上智大でも、学生間のコミュニケーション・ツールとしてmoodleのforumなどを使ってました。授業以外の時間にSNS上で情報交換し、次の授業の準備をしていました。SNSを活用している大学は増えていますね。

小張 ヨーロッパの大学では、Facebook*などのSNSがよく使われています。
今後は、こういったさまざまなシステムやソフトを上手に融合した教育を実現することが大事になるでしょう。
たとえばLMS上で他大学の学生と意見交換等をして下地を作り、遠隔授業システムを使って直接交流する。その後LMSで振り返りや意見交換、討論を進めて、SNS等でゼミ生同士の情報交換も行っていく。このスパイラルを繰り返せば、学習はさらに深まっていくでしょう。

「大学における教育の情報化」の今後の展望

さらなるシステムの導入を実現するには…

 私の勤務している学習院女子大では、まだLMSが入っていないんです。予算の問題や、問題が起きたときの責任の所在等がハードルになっていて、なかなか進まないのです。既にLMSを導入して成功している大学は、どうやって推進したのでしょうか? トップダウンで進めていったのでしょうか?

峰内 ふた通りあると思います。一つは、おっしゃったようにトップダウンで進める方法。「今やLMSが無ければ、大学として成り立たない!」という強い危機感を持って、トップダウンで導入を推進した大学も耳にします。

小張 ICUや熊本大などは、トップダウン型で導入しましたね。

峰内 もう一つは、ICTの好きな先生が使い始め、草の根で広まっていくパターンもあります。

小張 自分で使ってみて、「これは素晴らしい!」と思ったら、周りに勧めていく。それがどんどん広がっていけば、大学側も腰を上げる。ボトムアップ型で導入を促すんです。
また、「ICTの教育効果はすごい!」というデータを見せるのも有効ですね。LMSを使うと成績が飛躍的に向上した、といった論文やデータを、説得材料として使うんです。動かぬ証拠を見せられれば、大学側も予算をつけやすいですしね。

教員のニーズに合ったICTを…

峰内 ただトップダウンにしろボトムアップにしろ、全教員が同じICTを使うようにするのは難しいのかなとも感じます。たとえばLMSの種類によって得意不得意な機能がありますし、使い勝手も異なります。穴埋め問題や択一問題などの教材を手軽に作るのに向いているLMSもあれば、資料のアップロードやレポート提出機能に優れたLMSもある。それぞれに良さがありますし、同時に先生方のニーズも違います。テスト問題作りに使いたい先生なら前者のLMSを好むでしょうし、資料や教材をたくさんアップしたい先生は後者を使いたがるでしょう。
ニーズが異なる先生方に使ってもらうには、どうすればいいかが、課題ですね。あらゆるニーズに応えられるようにたくさんの機能を搭載すると、今度は使い勝手が悪くなってしまうことも考えられる。実際、多機能高性能なLMSを導入したものの、使いこなせなくて、もっとシンプルなLMSに切り替えたという話も聞きます。

小張 理想的なのは、教員一人ひとりが自分のニーズや使い方に合わせて、機能やインターフェイスをカスタマイズできることでしょうね。青学大で使っているLMSはこういうカスタマイズができるので、便利ですよ。

インフラだけでなく、サポート体制が必須

峰内 「大学における教育の情報化」を進めるには、多くの教員がICTを活用することが重要になります。しかし、「高いお金をかけてICTインフラを整備してもまったく使っていない」という話もチラホラ耳にします。ICTが好きな教員、使いこなすスキルがある先生は使うけれども、苦手な先生は二の足を踏んでしまっているケースも多いようです。

小張 何千万円もかけて導入したシステムが、ホコリを被ってしまっている話はよく聞きますね。導入当時は最先端のシステムだったのに、使われないまま旧式化してしまっている。もったいない話です。

 ICTに苦手意識を持っている、ICTを毛嫌いしている教員は未だに多いですね。

峰内 極端な話、ワープロさえも使えない先生もいるんです。そういう方々に、「LMS入れました」とポンと渡しても、使ってもらえない。インフラを整えるだけでなく、サポート環境を整えることも大事だと思うんです。
たとえば、海外の大学と遠隔授業するにしても、一人の教員が全てをセッティングするのは大変です。先に述べた、病や障害の患者さんとの交流も、情報センターのスタッフがサポートしています。

小張 私も台湾の大学と遠隔授業するとき、ファイアウォールの問題でなかなかうまくつながらなくて四苦八苦した経験があります。情報センターのスタッフにはずいぶん手伝ってもらいましたよ。

峰内 教育の情報化というとインフラ整備だけが語られて、こういうサポート体制の大切さが見落とされがちな気がします。
90年代後半にLMSを導入するときに海外事情を調べたんですが、アメリカの大学ではサポートセンターがすごく充実しています。修士や博士クラスのスタッフが、24時間体制でサポートしてくれるんです。

小張 日本は、そういうサポート体制の整備が遅れてますね。CALL教室にしても、教員一人で運用しようと思ったらパンクしてしまう。TA(Teaching Assistant)などのサポートがあってこそ、授業効果を得られるんです。

峰内 そこで立正大では、今年4月から「授業支援室」を立ち上げました。これは、教員向けのICTよろず屋みたいなもので、機材の貸し出しから、教材作りのアドバイス、ICTの操作方法に関する質問受付など、何でもやる。困ったときに電話すれば助けてくれる、サポートデスクのようなものです。
この授業支援室を立ち上げて2ヵ月経ちましたが、先生方から寄せられた質問で一番多いのは何だと思いますか? 「プロジェクタがうまく映らないんだけど、どうすればいい?」。この質問が、実に全質問数の半分近くを占めているんです。
このデータからもわかるとおり、ICTが苦手な教員はまだまだ多い。だからこそ、サポートする体制が必要なのです。使いたいと思ったときに、安心して気軽に使える環境を整えることが大事。ICTに詳しくなくても、スキルや技術がなくても、日常的にICTを授業に活用できるような体制を整えるべきでしょう。

小張 授業支援室では、他にどんなサポートをしているのですか?

峰内 今計画しているのは、USBカメラ付ノートパソコンを先生方に渡し、そのカメラを通して授業の様子をWeb会議システムで授業支援室からモニタリングすることを考えています。一人のスタッフが三つ程度の授業を受け持ち、何か問題が起きたら、すぐにWeb会議システムでアドバイスする。また授業の様子を録画しておき、分析して今後のサポートに反映させることも考えています。
ある大学では、教室に設置された監視カメラを使って、情報センターにいるサポートスタッフが授業をモニタリングし、何か起きたら電話でアドバイスや指示をできるようにしているそうです。

そして、サポート体制の強化も欠かせない!

小張 サポート体制を整えるには、サポートにあたる職員の能力向上も欠かせませんね。

峰内 そうですね。SD(Staff Development)を進めて、教員をサポートするスキルや知識を磨いていかなければと思います。

小張 大学の情報化が進むかどうかは、SDが進むかどうかにかかっていると言っても過言ではありませんね。

峰内 サポートするスタッフの質を高めるだけでなく、数の確保も今後の課題ですね。
大学で遠隔授業を行うには、「指導補助者」を配置しなければならないと大学設置基準第25条第2項で定められていますが、この指導補助者は当該分野の学士以上であることが条件。立正大で遠隔授業を行う際には、指導補助者の手配で苦労しています。
しかし、サポート体制がしっかりしていれば、授業も成功する。これは私見ですが、サポートする職員と教員が協力しあって、学生が授業の前後のどこかで遠隔のつなぎ先の方と実際に会って進めた授業は、とても盛り上がり、深い学びにつながる傾向があると思います。そういう意味でも、我々職員の責任と役割は重大ですね。

教員一人ひとりの意識改革が望まれる!

峰内 しかし、インフラとサポート体制が整っただけでは、まだ足りません。ICTの活用といった教育の情報化を促進するには、教員も変わらなければならないと思います。「ICTを使って、こんな授業をしたい。こんな学習をさせたい」という熱意を持ってほしいと思います。

小張 今の日本は、教員の意識よりも、とにかくインフラを整備しようとハードやソフトの導入が先行しているのが現状。このギャップの解消が今後の課題でしょうね。

峰内 熱意さえ持ってくれれば、技術的、専門的な問題は、私のようなスタッフがサポートします。「こんな機器やソフトをこのように使ってみてはどうですか?」とアドバイスしたりして、お膳立てをします。でも逆に言えば、「こんな学習をしたい」という熱意もアイデアもない状態では、手助けのしようがないんです。

小張 夢みたいなアイデアでもいいですよね。「現実的ではないかもしれないけど、こういう授業をしてみたい」と提案さえしてくれたら、あとはサポートする職員が頑張って実現化してくれる。サポート・スタッフはまさに「ドラえもん」と思って、どんどん頼ればいいんです。

 教員も積極的にICTを使うように意識改革しなければなりませんね。語学の教員は受け身の傾向が強く、「そういうシステムがあるなら、ちょっと使ってみようかな」というスタンスが多いように思われます。そうではなく、「こういう授業をしたい」という”目標”をまず持って、そのためにICTという”手段”を選択できるようになるのが理想でしょう。

小張 大学教育の情報化を進める上で大きなハードルになっているのが、確かに教員の消極的な姿勢です。日本の教員は、とにかく失敗を怖がる。失敗するのが恥ずかしいから、新しいモノに挑戦しない。この意識を改革しないと、教育の情報化はなかなか進みません。
私なんて新しいモノ好きだから、すぐにチャレンジしますよ。学生たちに「先生も今日初めてこれを使うから、失敗するかも知れないけどいいか?」と、断りながらやっています。その結果、失敗してしまうこともありますけどね(笑)。でも、人間なんてそんなもの。失敗から学び、挑戦することで成長する生き物なんです。新しい授業にチャレンジすることは、学生にとってもいい経験になりますよ。

 ICTに消極的な先生が多いのは、ICTを使った授業を経験せずに育ってきたからではないでしょうか。ICTは便利そうだなと漠然とは思っても、ICTを使った教育を受けたことがないから、実感できないのでしょう。
先生たちの意識を変えるには、ワークショップなどでICTの利便性を実感できる体験をさせるのがいいと思います。
今年の1月に、スタンフォード大学のHubbard博士などを中心とするTESOL学会内の委員会より、語学教員が授業を行う際に必要なICTスキルをまとめたガイドラインが発表されました。この中で、今後語学教員になるのであれば、このぐらいのICTスキルは持っておくべきだという指針が示されています。数年内には、日本にもこういうICTスキルのガイドラインが上陸するのは間違いないでしょう。「私はICTに疎いから、授業では使いません」といった言い訳は、もう通用しなくなります。

さらに、学生への教育も必要!

 教員への教育だけでなく、学生への教育も必要だと思います。今の学生たちは、幼い頃から身の回りにICTがある状態で育ってきたので”Digital Natives”とも呼ばれますが、その割にはICTスキルが低いのです。携帯電話を使いこなすスキルはすごく高いけども、基本的なソフトのスキルは高くありません。

峰内 中途半端なんですよね。中途半端にできるから、自分では「ICTスキルがある」と錯覚してしまう。でも、少し高度な操作をやらせようとすると、できない。

小張 青学大でも、一年時にITのスキル教育として基本的なOfficeの使用を含め、ITの検定も行っています。

峰内 ICTスキルは今や学習に不可欠な基礎技能の一つなのだから、それをしっかり教えようという方針で、教育を受ける側である学生もスキルアップしないと、「大学における教育の情報化」は進みません。

今後は、Blended-Learningの時代へ…

小張 忘れてはならないのは、ICTはあくまでも授業をサポートするものだということ。教員にとって、授業は「命」です。学生たちに強いインパクトを与えるのは、やっぱり授業におけるface to faceのインストラクション。ICTをバリバリ使った授業よりも、昔ながらのチョーク一本で教える授業の方が、迫力があって楽しいという学生の声も聞きます。パワーポイントで作られた教材資料は確かに見映えはいいが、それをただ見るだけでは心に何も残らないという意見もある。ICTは便利なモノですが、ICTに頼りすぎて肝心の授業力が置き去りになってしまうのは危険です。

 授業をしっかりできていないのに、LMS等を導入しても効果はないですよね。

小張 そうです。今後は授業とeラーニングが融合したBlended-Learningが進んで行くでしょうが、いくら最先端のICTを導入しても、肝心の授業の部分がしっかりしていないと無意味です。
教員が授業力を高め、しっかりと授業を行った上で、ICTならではの良さを活かしていけばいい。人が教えるよりも、ICTに任せた方が効果的なことはたくさんあります。たとえば、英語の発音トレーニングもその一つ。最近は、優れた発音トレーニング・ソフトが多く出ています。教員が発音指導するよりも、学生一人ひとりがeラーニングで個人レッスンした方が、練習量が増えて効果も上がります。

峰内 学生の多様なニーズに対応し、多様な授業を提供するという点でも、ICTは有効ですね。90分間という限られた授業時間を最大限に使い、学生たちを飽きさせずに授業を進める点で特にICTは効果はある。
でもやはり、対面授業の大事さは忘れてはいけない。先生と学生がface to faceで教わってこそ得られるものもあるし、コミュニケーションも深まる。学生のモチベーションを高められるのも、教員の役割の一つ。ICTはあくまでも補助的な手段であることを、忘れないようにしたいですね。

 昔ながらの教育方法を全否定する必要はないですし、それは危険です。昔ながらの教育方法にも、良い点はたくさんあります。今までやってきた授業にプラスアルファする感覚で、ICTを追加すればいいと思います。

小張 教員は自己を変革して授業力を高めつつ、ICTが得意なことはICTに任せて、役割分担する。これからは”住み分け”する時代です。バランス良く使い分けていくことが、「大学における教育の情報化」を成功させる鍵だと思います。

(終)

立正大学
情報メディアセンター
峰内 暁世

青山学院大学
経済学部教授
小張 敬之

学習院女子大学
国際文化交流学部国際コミュニケーション学科専任講師
萓 忠義

この記事に関連する記事