1人1台の先に広がる「教育の情報化」の未来像

なぜ今、「GIGAスクール構想」がスタートしたのか

東北大学大学院 情報科学研究科
堀田 龍也 教授

子供たちに1人1台の端末や校内無線LANを整備する「GIGAスクール構想」がスタートした。
なぜ国は巨額の予算を投じてまで整備に乗り出したのか。
この環境を用いて、今後どのような教育を行い、子供たちにどんな力を育めばよいのか。
堀田龍也教授に語っていただいた。

東北大学大学院 情報科学研究科 堀田 龍也教授

GIGAスクール構想で進める新たな時代の授業インフラ

学習指導要領を実施するには「学びのデジタル化」が不可欠

 GIGAスクール構想が今、大きな話題になっています。国は巨額の予算をつけてでも、1人1台の端末や校内通信ネットワークの整備を進めようとしています。なぜでしょうか。

 この4月には、新学習指導要領の全面実施がまず小学校から始まりました。学習指導要領は約10年に1回改訂されますが、今回は大きな変更が加えられました。

 これまでの学習指導要領は、「何を知っているか」を重視し、知識の習得に力を入れてきました。しかし今や、単なる知識であればインターネットで検索できます。これからの時代に求められるのは、必要な情報をインターネット等を使って自分で探し出す力や、多様な情報や習得した知識を活用して自分の意見を形成したり、表現する力。しかも自分だけで行うのではなく、考えや文化が異なる多様な人たちと協力しながら、進めていく力。そして先生に課題を与えられるのではなく、自分で課題を発見し、解決に取り組み、未来を切りひらいていく力などです。こういった力を育むために、「何を知っているか」を重視するコンテンツ・ベースから、「何ができるか」を重視するコンピテンシー・ベースへと、今回の学習指導要領はシフトしたのです。

 教育内容を変えるだけでは、こういった力は育めません。教える方法も変える必要があります。先生が教壇に立って教えるだけでなく、子供同士が話し合い学び合いながら、課題解決に取り組んでいく。時には学校の枠を越えて、校外の子供や大人とコミュニケーションを図り、学んでいく。このような多様な学びを増やしていかねばなりません。このような学びを、紙の教科書やノート、黒板とチョークだけでできるでしょうか。

 しかも今後は少子高齢化が進んで社会保障費がますます膨らむので、教育予算を増やすのは難しいところです。労働人口も減るので、先生の増員も困難です。限られた予算と限られた人員で、このような多様な学びを実現し、効率的かつ効果的に子供たちを育んでいくには、「学びのデジタル化」が不可欠だと、国は結論づけました。

令和の授業インフラを国が積極的に整備する

 民間企業では、ずっと以前から仕事のデジタル化を進めています。スマホやPCなどの端末やインターネット、クラウドなどのICTを用いることで、場所や時間を選ばず仕事ができ、迅速な情報共有や意思決定が図れています。いわゆる「デジタルトランスフォーメーション」によって、効率的かつ効果的に働けるようになりました。

 しかし学校現場はどうでしょうか。相変わらず紙の教科書や黒板に頼った授業、紙の書類による校務が行われ、仕事量は増える一方です。先生はますます多忙化し、辞めていく先生も後を絶たず、教員採用試験の受験者数も減っています。教育の情報化の遅れが、このような過酷な労働環境を招いたのです。

 なんとか教育の情報化を進めようと国はずいぶん前から働きかけてきましたし、地方交付税交付金で財政的な支援もしてきました。しかしそれでもICT環境整備を進めない自治体はなくならず、格差は広がるばかりです。

 自治体に任せているだけでは、なかなか整備が進まない。今回の学習指導要領が求める授業を実現するために必要な1人1台の端末や校内ネットワークを、「令和の新しい授業インフラ」として、国が責任を持って整備すべきではないか。そんな思惑で、GIGAスクール構想が立ち上がったのです。

 GIGAスクール構想では地方財政措置を含め、令和5年度までに小学校1年生から中学校3年生までのすべての児童生徒に1人1台の端末を整備するとしています(図1参照)。端末を学習の道具として用いるにはネットワークが不可欠ですから、端末の整備に先んじて、希望するすべての小・中・高等学校及び特別支援学校に、校内無線LANを整備します。そのために、2318億円という巨額の予算が組まれました。そこには「自治体もしっかり協力して整備してください」という国からの強いメッセージが込められています。

インフラ整備はスタート地点情報活用能力を身に付けよう

 こういった授業インフラの整備は、ゴールではありません。むしろスタートです。

 1人1台の端末や無線LANが整備されれば、子供がPCやインターネットを使う機会が飛躍的に増えます。そうなった時に子供たちに必要になるのは、情報活用能力です。

 たとえばタイピングがうまくできなければ、せっかく1人1台の端末があっても、検索するにも一苦労ですし、プレゼンを作るにも手間取り、せっかくいい意見やアイデアが浮かんでいても表現できません。まずはPCやインターネット等の基本的な操作スキルを習得する必要があります。加えて、求める情報をネット等から探し出し、情報の真偽を確かめながら読み解き、さまざまな情報を整理・分析して総合的に判断し、自分の意見を形成していくような力も必要です。操作スキルと情報を上手に扱う力の両方が必要です。

 こういった情報活用能力は、これからの子供が必ず持つべき力です。学習指導要領でも、「学習の基盤となる資質・能力」だと位置づけられています。情報活用能力を身につけていれば、上手にPCやインターネットを使って情報を集めたり、意見をまとめて表現できます。友だちや校外の人たちとインターネットでつながって学び合ったり、課題解決に取り組めます。逆に情報活用能力が身に付いていなければ、タイピングや操作に時間がかかり、単元のねらいや目標にたどりつく前に授業が終わってしまいます。

 先生方はそういう事態を懸念しているから、子供たちにPCやインターネットを使わせるのを怖がっているのでしょう。でも心配しないでください。1人1台が整備されて、子供たちに日常的に使わせていけば、情報活用能力は身についていきます。逆に言えば、PCやインターネットが整備されず、子供が日常的に使えるようにならなければ、情報活用能力は身につきません。

 OECD(経済協力開発機構)の生徒の学習到達度調査(PISA)2018年調査(図2参照)で、日本の子供たちの「読解力」が低下したことが大きなニュースになりましたが、これも実は、子供たちが日常的にPCやインターネットを使える環境がなく、情報活用能力が育ってないのが、大きな原因と見られています。

 2015年から、PISAの調査はコンピュータを使ったテストいわゆるCBTになりました。たとえばオンライン科学雑誌の記事や大学教授のブログなど複数のデジタル資料が与えられ、子供たちはPCを操作して目当ての情報を探し出したり、信憑性を評価ながら自分の意見をまとめてタイピングするといった問題が出題されています。

 こういう学習を普段から経験していなければ、正答率が下がるのは当然です。OECDの調査でも、日本の子供たちは学習でPC等を活用した経験が最も低いことが明らかになっています。教育の情報化の遅れが子供の能力育成を阻み、国際競争力を失わせているのです。

 CBTにも慣れる必要があります。民間では、英語などの資格試験でCBT化が進んでいますし、社員研修などをeラーニングで行う企業も増えています。大学でも、語学教育をCALLシステムでeラーニングするのが一般的になっています。それなのに、小学校と中学校は極めて遅れています。紙でテストし、人間が採点するのが当たり前だと思っています。学校現場の「当たり前」は、もはや社会の「非常識」だと認識しましょう。

図1 GIGAスクール構想の実現のロードマップ
図1 GIGAスクール構想の実現のロードマップ
(文部科学省「GIGAスクール構想の実現パッケージ」資料を元に作成)

日常的なICTの活用で子供たちの情報活用能力を育てる

1人1台の授業インフラをどう活用していくべきか

 GIGAスクール構想で授業インフラを整備した後、この環境をどう用いていけばいいかを述べたいと思います。

 1人1台環境でまず使うのが、学習者用デジタル教科書でしょう。学習者用デジタル教科書には、紙の教科書にはない良さがたくさんあります。たとえば国語の題材文に線を引いたり切り取ったりして、読み解きや話し合いを深めやすくなります。算数なら図形を回転させたり切ったり、補助線を書いたり消したりして、試行錯誤を繰り返して理解を深めやすくなります。

 学習者用デジタル教科書は特別支援教育でも有効です。文字の色や大きさを変えたり、漢字にルビを振ったりすることで、一人ひとりの困難に合わて学習できるようになるため、学習面での「合理的配慮」を実現できると、注目されています。

 2019年4月に学校教育法が改正され、学習者用デジタル教科書で学んでも、紙の教科書で学んでも、どちらでもよいとなりました。当面は紙の教科書が中心でしょうが、今後は教科や学習場面によって、あるいは学年や子供たちの情報活用能力の高まりに合わせて、学習者用デジタル教科書の重要性もますます高まっていくでしょう。

 資料集やドリル、ワークブック等の教材も、デジタル化されたものが次々と開発され、デジタル教材として普及していくはずです。将来的には、タブレットPCを自宅に持ち帰って、デジタルドリルで家庭学習し、その場で人工知能が採点し、よくできた子にはより難しい問題を、正答率が低かった子にはより基礎的な問題を出題するなど、「個別最適化」された学習ができるようになるでしょう。そして一人ひとりの学習状況を先生はクラウド経由で把握し、授業での指導に活かすようになっていくと思います。

 授業そのものも変わっていくでしょう。1人1台でデジタル教科書やデジタル教材などを使った学習体験を重ねていくことで、子供たちには情報活用能力が身に付いていき、先生方のICT活用指導力も向上していきます。子供も先生も慣れて力が付いていくにつれ、「こんな学習をさせてみよう」と新たな授業が生まれていきます。授業のデジタルトランスフォーメーションが始まるのです。

 1人1台が整備されたらすぐに授業が変わり、効果が出ると期待しがちですが、実際は数年かけて少しずつ変わっていくと思います。先生が教壇に立って子供に教える学習もなくなりはしないでしょうが割合的には減少し、子供がICTを使って主体的・対話的に学び、自ら課題を見つけ解決に取り組み、学びを深めていくような学習の割合が増えていくでしょう。

図2 世界から見た日本の学習到達度調査(PISA)の平均得点の順位の推移と「読解力」の定義図2 世界から見た日本の学習到達度調査(PISA)の平均得点の順位の推移と「読解力」の定義
図2 世界から見た日本の学習到達度調査(PISA)の平均得点の順位の推移と「読解力」の定義 (文部科学省「PISA2018の結果とポイント」を元に作成)

1人1台で何が変わるのか

1人1台時代に先生方は何をすべきか

 今回のチエルマガジンにも、GIGAスクール構想で1人1台を整備した後に何をすべきかがわかる記事が掲載されています。

 学校の先生や教育委員会が、教育の情報化のためにすべきことをを示しているのが、今回改訂された「教育の情報化の手引」です。教育を情報化する必要性や社会的背景の解説から、どのような情報活用能力をどんなカリキュラムで育めばよいか、各教科ごとに具体的な事例も紹介されています。さらにはプログラミング教育で育む資質・能力や事例、校務の情報化やICT活用指導力を向上する方法、そして必要なICT環境についてなど、教育の情報化に関する事柄が網羅されており、教育の情報化を進めていく上でのバイブルと言えます。

 特に各教科等の指導におけるICTの活用について、東京学芸大学准教授の高橋純先生が詳しく解説してくれています。1人1台の端末を使うことで、子供たちは様々な試行錯誤を行いやすくなります。その結果、結論への到達速度が早まったり、次の課題を持ちやすくなったりするといった学習の連鎖が起きるだろうと、高橋先生は述べています。

1人1台で何が変わるのか

 1人1台で子供たちが用いる学習者用デジタル教科書の基本的な使い方やメリットについては、東京学芸大学准教授の加藤直樹先生が解説しています。そして東京都公立小学校における活用事例では、学習者用デジタル教科書でどんな授業ができるのか、子供たちの学びにどんな変化が生じるのかが紹介されています。

 デジタルドリルやワークテストなどのデジタル教材は、知識の習得や習熟を目的とした学習の個別最適化にとても有効です。通常学級の子供はもちろんのこと、特別支援学級の子供にとっては特に、一人ひとりの困難に合った最適な学習を実現できる点で効果が期待されます。そこで求められる教材の種類や活用方法については、荒川区立汐入小学校の事例が、とても参考になるでしょう。

 子供たちが1人1台の端末を日常的に活用している学校は、まだ多くありません。1人1台の活用を先んじて行っている東京学芸大学附属小金井中学校の実践は、とても参考になります。特に先生の意識が変化していった点に注目してください。最初はこう使おうと考えていたものの、実際に使わせてみると違和感を覚え、子供の様子に合わせて柔軟に修正しています。

 逆に言えば、先生が思ってるようには最初はうまくいかないということです。でも恐れることはありません。先生方がこれまでもそうしてきたように、子供の様子を見ながら改善していけばいいのです。まずはいろいろ使わせてみて、子供同士で教え合ったり、子供に先生が教わったりしながら、試行錯誤していきましょう。こうすることで、先生のICT活用指導力も、子供の情報活用能力も高まっていきます。

1人1台で何が変わるのか

先生の「ICT活用指導力」と
子供の「情報活用能力」を同時に高めていく

自治体や教員養成大学は何をすべきか

自治体や教員養成大学は何をすべきか

 熊本県高森町は、町を上げてICTを整備をし、早い時期から1人1台の端末を子供たちに整備してきました。地域の未来を担う子供たちにどんな教育を行うべきか、そのためにはどんなICT環境が必要で、それをどう活用すべきかということを、町長をはじめ、教育委員会や学校現場が一丸となって考え、取り組んでいる好例です。

 高森町には山間部の小規模校があり、学校の規模に影響されずに質の高い教育を提供するために、遠隔教育システムを上手に活用しています。たとえばALTは町に1人しかいませんが、遠隔教育システムを用いれば、町の中心から離れた山間部の小規模校にも、頻繁にALTの授業を提供できます。こういった授業を頻繁に行うことで、子供たちはICTに慣れ、情報活用能力も飛躍的に向上しました。それを受けて、先生方も授業の仕方を工夫することで指導力が向上しています。

 ICT環境整備と活用にいくら積極的な自治体であっても、学校単独で質の高い教育を行うには限界があります。そこで今回の学習指導要領では、「社会に開かれた教育課程」が提唱されました。地域の方々や遠方の専門家の力を借りて、よりよい教育を実現することが、学校の管理職や教育委員会には求められます。

 そんな高森町と連携している外部機関の1つが鹿児島大学教職大学院です。鹿児島大学教職大学院では、高森町に限らず、離島を含め県内の学校に対して、大学院生がプログラミング教育の授業を提供しています。学校が遠方の場合は、テレビ会議を使った遠隔教育システムを利用しています。これは双方のICTが整備されているからこそ為せる技です。

1人1台で何が変わるのか
自治体や教員養成大学は何をすべきか

 このような連携は、プログラミングの授業の経験があまりない学校の先生方や自治体にとってもプラスですし、大学側にとってもプラスです。将来先生になる若い学生たちが、教員養成課程の段階で、遠隔授業を経験できます。遠隔授業のコツをつかめますし、授業経験を積み重ねることで授業力の向上も期待できます。さらにICTを使って自治体の教育に貢献するノウハウを、大学側は蓄積できます。新しいタイプの教員養成、大学と自治体の連携の好例として注目しましょう。

今これからのICT環境の整備の有無が
子供たちの未来を決める!

子供たちの未来のために授業インフラの整備を!

東北大学大学院 情報科学研究科 堀田 龍也教授

 国は今後、GIGAスクール構想で「1人1台や無線LANは整備された」という前提で、教育施策を次々と打っていくでしょう。つまり今すぐ整備しなければ、これからの国の教育施策を実施できず、置いてけぼりになるということです。たとえば学習者用デジタル教科書が主流になった時、1人1台の端末やネットワークが整備されていなかったら、大変なことになります。

 これからも国が教育の情報化を推進していくのは間違いありません。そのために必要な環境を、自治体は整備しましょう。昨年6月に施行された「教育情報化推進法」は、国が進めていく教育の情報化の方針を示すとともに、「学校の設置者は学校教育の情報化の推進のために必要な措置を講ずる責務を有する」と明記しています。自分の学校や自治体の情報化がどの程度進んでいるのかは、JAETの「学校情報化認定」事業によって客観的に把握することができます。

 とはいえ自治体の財源だけで整備するのは難しいので地方交付税交付金が出されてきましたし、1人1台の端末を急いで整備するためにGIGAスクール構想が立ち上がり、国が特別に補助することになりました。授業インフラの整備までは国が手伝いますが、そこから先は自治体が自分でやっていかねばなりません。

 国が1人1台の端末を整備しようとしているのは、子供たちが将来必要になる力を育むには、こういう環境が必要だからです。なのに整備をしないでいることは、子供たちの未来を奪うのと同義です。自治体も、教育に投資しなければならないことはよくわかっているでしょう。しかし予算には限りがあるので、「これまでもICT無しでやってこれたのだから、このままでも大丈夫だろう」と、現状維持を保とうとしがちです。これを覆すには、首長や教育長など責任ある立場にある人が、発想を変えて、かなりのエネルギーを投入して進めなければなりません。

 まずは早急に、教育の情報化に不可欠な授業インフラをGIGAスクール構想で整備しましょう。それが、子供の未来を預かる我々大人たちの責務です。

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