公開日:2014/4/1
学生の自律学習を支える対面授業とe-Learning
発信型の総合的な言語運用能力の向上を目指し、対面学習とe-Learningを融合したBlended e-Learning型授業を推進する山口県立大学。『CaLabo EX』や『CaLabo Bridge』『Glexa』の導入により、学生の自律学習への意識が高まっている。
山口県立大学
1941年、山口県立女子専門学校として開学。戦後になって山口女子短期大学、山口女子大学を経て、学部の拡充を重ね、1996年、名称を山口県立大学に改めると共に、男女共学に移行した。
山口県山口市桜畠3-2-1
TEL 083-928-0211
http://www.yamaguchi-pu.ac.jp/
「Inter-local人材」育成を支える環境整備
文部科学省の平成24年度『グローバル人材育成推進事業(タイプB特色型)』に採択された山口県立大学は、「Inter-local人材」の育成を掲げる。Inter-localとは、従来の文化の根幹を超えるという意味の「Inter-cultural」に、世界のさまざまなエリアと直接つながる力(Inter-regional)という意味も加えた言葉だ。「I」には、ICTを使える力、自発的な学びや自学自習を進める力(Initiative and Independence)、自己を確立する力(Identity)、柔軟でオープンなアイディアを生み出す力(Idea)を育成するという意味も込めている。そして「Local」には、地域に根ざした公立大学としての使命である「地域社会への貢献」という意味を込めた。
「Inter-local人材」を育成するうえで求められる語学力は、学術的思考力と表現力を身につけた発信型の「総合的な言語運用能力」であると、グローバル人材育成推進事業統括のシャルコフ・ロバート教授は考える。そして、「総合的な言語運用能力」を向上させるために求められたのは、正課授業と正課外授業が連携した環境整備だった。
事業を推進するにあたり同大学では、マルチメディア教材を備えたCALL教室(LaLabo)を新設し、『CaLabo EX』を導入して、アクティブラーニング型の語学授業やインタラクティブな授業を展開できる外国語学習環境を充実させた。
『CaLabo EX』の導入に至った経緯を、国際文化学部の林炫情教授は「平易な操作性で『簡単に』、明るいインターフェイスデザインで『楽しく』、そして将来的な拡張性も含めて便利に使えそうだという意味で、可能性を強く感じました」と振り返る。最も重視されたのは、①簡単操作②画面や音声のモニタリング③会話機能とグループワークなどに関する機能の充実④簡単なテスト問題作成の対応⑤多言語の対応の5つのポイントだった。そして、2012年4月、『CaLabo EX』の本格利用が始まった。
対面授業とオンライン授業をブレンド
LaLaboには、30台の学生用コンピュータを有するCALLシステムを整備した。現在は英語、中国語、韓国語の授業で活用されており、e-Learning教材を用いた自主学習、ディクテーション、発音練習、シャドーイング練習などの語学強化学習、言語学習用の動画や音声の視聴など、授業の目的に合わせて、アクティブかつインタラクティブな学習スタイルを展開している。
1年生の「韓国語II(初級)」を担当する林先生は、週2回の授業のうち、1回を普通教室での対面授業、もう1回をLaLaboでのオンライン授業としている。同大学ではこうした授業展開を「Blended e-Learning型授業」【図1】と称し、13年度後期より、韓国語や英語の授業で試行してきた。普通教室の授業では、主に語彙テストと文法説明に重点を置く。そして、LaLaboでは、発音指導や会話練習に重点を置いた、より実践的なコミュニケーション能力の向上を目指した授業を行う。
CALLシステムと併用して、同大では授業進行をサポートする授業支援システム『CaLabo Bridge』(LMS)も導入した。授業内容の管理から、授業で使用する教材や資料の提示、学生の学習状況の確認・管理などに役立てている。林先生は「韓国語II(初級)」の授業前に、『CaLabo Bridge』のアクティビティにシラバス、毎回の授業の課題ファイル、講義内容をアップロードしておく。学生は授業を受ける前にアップロードされた内容を確認し、自宅で予習や復習をしたうえで授業に臨む。
授業が始まるとまず、林先生は『CaLabo Bridge』で出席管理をする【図2】。その際、実際に学生の顔と名前も確認しながらチェックしていく。そして、事前学習課題の解説が始まる。学生には事前に『Glexa』で作成したe-Learning教材から課題が提示され、授業までに解答し、「ファイル提出」をしておくことになっている。場合によっては授業内で追加問題を提示し、その場で解答させることもある。
続いて、本時の学習項目として、教科書の内容に関連した表現や語彙の説明が始まる。すると、『CaLabo EX』を使って学生たちに教材ファイルが一斉に配布され、同時に、『CaLabo Bridge』にも教材ファイルがアップロードされる。
そして、本題となるロールプレイによる会話練習へ移行する。「ランダム」で自動的に組まれたペア同士が、配布された資料の表現を会話形式で練習する。林先生はその様子を随時「モニタリング」機能を使って確認し、発音を「インカム」で個別指導する。そして、練習が早く終わった学生には、テキストの音声ファイルを聞いて発音練習するように指示を出す。ある程度、練習が進むと、「モデル」機能により、一組のペアの音声を全体に聞かせ、学び合う。ペアで録音した音声は、「ファイル提出」機能により各自が提出し、林先生が次週までにコメントをつけてフィードバックを行う。
授業の終盤は、「ことばと文化の学び」をテーマとし、『CaLabo Bridge』の「フォーラム」に個々が感じたことを書き込み、他の学生の意見をお互いに読み合いながら、感想を記入する活動も取り入れている。
林先生は1年生から3年生までを指導しているが、授業や学年によって使用する機能は異なり、学生のレベルに応じて使い分けているという。3年生には『CaLabo Bridge』を通じて、提出期限を設けて課題を提示し、課題文の音声を聞きながら、その内容をまとめ、ファイル提出をさせたり、『CaLabo EX』に搭載されている「ムービーテレコ」を通じて発音した音声を録音して、ファイル提出させたりする。そして、提出された音声を聞き、個別に文法などの間違いを指摘し、学生へフィードバックしている。
学ぶ意欲を高めるe-Learning教材
同大学の国際文化学部は、所属する学科や系・コースによって卒業時の言語能力の到達目標を設定している。国際文化学科の言語コミュニケーション系は、TOEIC®テスト700点以上、または中国語検定2級、ハングル能力検定準2級、スペイン語技能検定3級以上。国際文化系はTOEIC®テスト600点以上、または中国語検定3級、ハングル能力検定3級、スペイン語技能検定3級以上を目指す。また、文化創造学科はTOEIC®テスト550点以上、またはスペイン語技能検定3級以上が目標となる。さらに、『グローバル人材育成推進事業』の採択に伴い、12年度は言語教育スタンダードの体系化に重点を置いた。カリキュラムの見直しとともに、各言語の学習到達目標を、CEFR(ヨーロッパ参照枠)を基盤とし、大学独自の総合的な言語運用能力を盛り込んだ「Can-Doリスト」が新たに設定された。
そして、学習到達目標の達成に向けて、学生が主体的に学ぶことができるよう、LaLaboを「自主学習室」として開放した。学生は、授業で使用している以外は、いつでも自由に使え、平日は放課後20時まで、土曜日は9時から17時まで開室し、学生サポーターが自主学習に取り組む学生を支援する。学生サポーターは、留学経験者や留学希望者の3、4年生、大学院生、留学生を対象とし、学期ごとに募集、選考を行う。現在13名の学生サポーターが活動し、言語学習のアドバイスやCALLシステムやe-Learning教材の基本的な使い方を指導している。
学生サポーターは言語ごとに自主ゼミ形式で学習会を運営し、学生のニーズに合わせて学習内容を決定する。たとえば、韓国語学習会では、検定過去問を解いたり、出題されやすい単語学習を行っている。これまで、図書館で所蔵するハングル能力検定用の教本は種類が少ないため、限られた人数でしか学習することができなかった。だが、語学検定対策や語彙学習用に、教員が『Glexa』で作成した独自のe-Learning教材などを活用することで、希望者全員が教材を共有でき、自分のペースで学習を進めることができるようになった。そして、わからないことがあれば、その場で学習サポーターに質問して疑問を解決し、弱点を補強することができる。検定終了後の学習会では、発音や会話練習、K|POPを活用した単語やフレーズ練習など、楽しみながら学べる内容も取り入れ、語学学習への意欲を高めている。
『CaLabo Bridge』を普通教室でも活用したい
CALLシステムや授業支援システムを導入し、同大学では学期初め(15回の授業の1回目)と学期途中(15回の授業の7回目)でアンケートを実施した。その結果によると、「コンピュータ学習への抵抗感」が全体的に少なくなり【図3】、「e-Learning教材や『CaLabo Bridge』の利用」が増加している【図4】ことが明らかになった。また、「CALL教室での授業が自分の語学向上に役に立ったと思うか」の問いでは、1回目の調査では「非常にそう思う」が30・0%であったのに対して、2回目の調査では42・3%に上昇したことから、学生自身が効果を感じていることがうかがえた【図5】。
LaLaboの運営を担当する言語演習コーディネータの森原彩助教は、LaLaboで授業が行われる際、TT(チーム・ティーチング)でサポートに入る。CALLシステムを導入した初年度前期は、システムを使用することに戸惑う教員もいた。そこで、森原助教がTTで授業に入り、教員や学生が分からないことや困ったことがあれば、その場で対応できるようにしたという。
「システムに不慣れだった教員も、便利さや学生たちの学習意欲の高まりなど、いい面が印象付けられたようで、後期にはLaLaboの利用予約を取るのが難しいくらいの人気を集めることになりました」と、森原助教は、短期間での教員の意識の変化を喜ぶ。
現在、同大学で設置したCALL教室はまだ1室。そのため、林先生の韓国語の授業をはじめ、英語や中国語などの授業でもLaLaboを使用するため、教員が「使用したいときに使用できない」という課題がある。
「今後は、普通教室でも『CaLabo Bridge』を活用し、Blended e-Learning型授業の可能性を広げていきたい」と意欲を見せる林先生。『CaLabo EX』と『CaLabo Bridge』を連携したよりよい授業づくりのために、他の教員とも情報交換の場を設け、レベルアップしていくためのFD(Faculty Development)活動を予定している。
発信型の総合的な外国語運用能力を備えた「Inter-local人材」を育成すべく、同大学では今後も外国語教育のさらなる充実と教育環境の整備が望まれる。
学生の声
韓国語をさらに学びたい気持ちが高まりました
毎週の小テストを通じて、たくさんの単語を覚えることができました。また、いろいろな文を自分で作って活用することもできました。まだまだ、始めたばかりの語学なので、これからもがんばりたいです。また、LaLaboでの学習も、みんなと一緒に会話練習ができてとても意欲が高まりました。
(国際文化学部国際文化学科1年 授業アンケート結果より)
製品導入の経緯
●『グローバル人材育成推進事業』採択に伴い、語学学習環境の整備が求められた。
●簡単な操作性、モニタリング、充実した機能、テスト問題作成、多言語対応といった最重視していた点を網羅していた。
導入後の変化
●授業での効果的な活用ができ、教室授業とCALL教室授業での「Blended e-Learning型授業」が実現できた。
●授業の予習復習をはじめ、語学検定試験対策など、学生の学習意欲が高まった。
課題と今後の展望
●CALL教室が1室しかないため、普通教室でも『CaLabo Bridge』を活用してCALL教室同様の授業を展開したい。
●教員同士の情報共有を深めて「Blended e-Learning型授業」をさらにレベルアップしたい。
グローバル人材育成推進事業
言語演習コーディネータ
森原 彩 助教
国際文化学部
林 炫情 教授
グローバル人材育成推進事業
総括
シャルコフ・ロバート 教授