公開日:2022/12/9

教育YouTuberが見据える教育の未来 ~公教育をどう支援できるかを考える~

特別座談会

「動画」という教育の新たなかたちを示し、多くの子供たちの支持を集める教育YouTuberは、公教育とどのようなコラボレーションが可能でしょうか。教育YouTuberのフロントランナーであり、東京学芸大学の先輩後輩である3人に、授業動画づくりのこだわりや学校の授業との連携などを語り合っていただきました。

葉一(はいち)さん
市岡元気先生(左)とタカタ先生(右)。葉一さん(中央)はオンライン参加。

子供たちに動画を見てもらう工夫を教えてください

葉一さん 私の動画の内容は教科書レベルで、学校の授業で困っている子供たちをメインターゲットとして制作しています。動画の冒頭にその回の学習内容を全て書いたホワイトボードを映し出すようにしています。「今回は10問やるよ」と最初に「終わり」まで示してあげると、最後まで見続けてくれやすくなると考えています。

元気先生 私の場合、8分以上の動画の週2回公開が原則ですが、2021年の年末から1分程度の縦型画面のショート版も公開しています。スマホの動画投稿アプリ「TikTok」が流行り、10秒程度で次の動画に遷移してしまう子供たちが増えていると感じていたので始めました。

葉一さん 2012年から動画を配信していますが、確かにここ5年くらいで飽きやすくなった子供が増えたように感じています。かつては「スタート15秒のつかみが大事」でしたが、近頃は「最初の4秒が勝負」と一層短くなっている印象です。

タカタ先生 SNSが浸透し今は皆が情報発信者の時代なので、真似てもらいやすい顔の表情や声の出し方、言葉などは意識しています。

 

また、動画の構成でもメリハリを重視しています。最初に問いを投げかけ子供たちを「ん?」と引き寄せ、言葉や動きでつなぎ、最後に「なるほど!」と腹落ちさせる。「?」で始めて「!」で締める動画を楽しんで見てもらえることが大事だと思っています。

元気先生 動画の内容という点では、学校の理科室ではできない実験を動画として収め、子供が科学に興味を持つきっかけになったらと考えています。

 

最初は、見た目のインパクトがある動画のほうが視聴回数が多いのではと考えていましたが、実際には、机に置ける小さな器具で磁石の周りの磁力線を可視化した回や「マスクは何回まで洗って使えるか、電子顕微鏡で確認した」といった、身近な題材や子供たちが置かれている状況に合った動画の再生数が伸びており、学びに私の動画を使っていただいているなと思っています。

葉一さん 私は小学3年から高校生までを対象にしたさまざまな科目の授業動画を公開しています。「板書をきれいに書く」などといった自分のスタイルをコツコツ10年間貫いてきました。このキャラクターだからついてきてくれる子供たちが多いと感じています。私の動画は、本当に基礎的な内容を取り扱っているので、網羅性の高い動画を制作することは意識しています。

学校の先生とのつながりを教えてください

葉一さん 学校現場とのつながりが急速に増えてきています。高校の先生の研修講師に呼んでいただいたこともありました。授業動画を始めた10年前には絶対あり得なかったことです。ただのYouTuberが教育者と同じフィールドに立たせていただいていると思うと感慨深いです。

タカタ先生 私は4つの学校で教壇に立っていた経験があります。それぞれの学校やクラスで授業のレベル感は異なりますし、生徒の反応も違う。どうすればより多くの子供たちが自分の話に耳を傾けてくれるか悩みました。

 

そんな教員時代に授業の準備として参考にしていたのが、YouTube™ の教育系動画です。「この単元を動画ではどう教えているのか」と、複数の動画を見比べるなどして自分の授業づくりの参考にしました。

葉一さん 多くの学校の先生は、さまざまな個性の生徒に向き合い日々努力されています。タカタ先生も元気先生も私も授業動画を魂込めて制作していますが、先生たちの実際の授業を見せていただくと「すごい……」と感じることも多いです。

元気先生 最近、「学校の授業で『GENKI LABO』の実験動画を使わせていただきたい」という問い合わせをよくいただきます。非常にありがたいご連絡で、これからもぜひたくさんの学校現場で使ってもらいたいと思っています。

ICT化が急速に進む学校現場と連携した
今後の取り組みの可能性

元気先生 私は、サイエンスの勉強の楽しさを伝え続けたいと考えています。学校以外の場所で子供たちに科学の面白さを伝えるプロと一口に言っても、エンタメ系のパフォーマーから科学館などで解説するコミュニケーターまでいろいろな方がいらっしゃいます。

 

私自身は、今後はもう少し公教育に寄って、子供たちの身近な素材をモチーフにした動画でサイエンスの勉強の楽しさを伝えたい。将来的には、YouTube動画などを織り交ぜたデジタル教科書づくりにも参加できたらいいなと思っています。

タカタ先生 オーストラリアの数学教師のエディ・ウー先生は、自分の授業をYouTubeで配信し始めました。配信当初はYouTubeで授業を配信することに反対意見が多く、自分の姿が映るのを嫌がる生徒が続出したそうですが、内容が分かりやすいと話題になると、むしろその授業を受けたい生徒が押し寄せ、入学を希望する生徒も増えたそうです。

 日本でも動画が注目を集め、その学校の入学希望者が増えるようなロールモデルが出ると、公教育と教育YouTuberの関係が進化するかもしれません。

葉一さん 学び方の多様化や先生の働き方の変化はこれからもっと加速していくと思います。

 

現在、先生を目指す学生が減っており、そこに大きな危機感を持っています。そこの課題はいろいろありますが、その中でも先生と子供や保護者との距離感が一つの要因だと思うのです。普段の学校内では気付けない先生方の魅力や素の姿を私のチャンネルから発信できたらと思っています。そのためにも、学校の先生とのコミュニケーションを増やしていきたいですね。

タカタ先生 私たち3人は教員志望が多い東京学芸大学教育学部出身です。母校に、学生と未来の公教育を語り合う企画の開催を呼びかけてみましょうか。

葉一さん・元気先生 いいですね! ぜひ実現させましょう。

葉一(はいち)さん
葉一(はいち)さん
東京学芸大学教育学部卒。10代を対象に4200本以上の授業動画などを配信するYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」は登録者数179万人、総再生数5.8億回。2児の父。
市岡 元気 先生
市岡 元気 先生
東京学芸大学教育学部卒。科学の面白さを多くの人に知ってもらう活動を幅広く展開。YouTubeチャンネル「GENKI LABO」は登録者数56万人、総再生数2.9億回。3児の父。
タカタ先生
タカタ先生
東京学芸大学教育学部卒。数学教師芸人。中高数学教員歴11年。2017年日本最大の科学イベント「サイエンスアゴラ」で“お笑い数学”でサイエンスアゴラ賞受賞。

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