第3回「学習モデルを定めて効果的にICTを活用〜韓国・ハンビット小学校が広島市立藤の木小学校を視察(2)」

児童主体型の授業で、調べ、考え、発表する力をつける

IWBに地図を映し、自動車部品がどこで作られているかを確認

 すべての教室を見学した後、視察団は5年生の社会の授業を見学した。教壇には先進的ICT担当である小島史子先生が立つ。

 インタラクティブ・ホワイト・ボード(IWB)に自動車の絵が映し出される。「自動車はどのような部品でできていましたか」。小島先生の問いかけに対し、子どもたちはドア、タイヤ、シート…とテンポよく答える。続いて「車を組み立てているのは大きな部品だけですか」と尋ねると、布やクッション、バネ、ねじといった小さな部品が次々と挙がった。そうした子どもたちの発言を聞いた小島先生は、黒板に種類別に部品を書き分けた。

動画資料などを使って調べ、自分の考えをノートにまとめる
教室を巡回して一人ひとりの理解度を丁寧にチェックする

 授業の単元は「自動車をつくる工業」だ。小島先生は「自動車の部品は、どこでどのようにつくられているのだろうか」という学習のめあてを示した。IWBに「国内からやってくるいろいろな部品」の図が表示され、小島先生は「この図からどんなことがわかりますか」と再び質問する。そして、日本の各地で部品が作られていることがわかったところで、「このような部品を送り出す工場を関連工場と言います」と説明した。

 授業の中盤には、「関連工場でどのように部品を作っているのか」を「安全に・早く・正確に・丁寧に」の4つの観点から、一人ひとりがタブレットパソコン(TPC)でデジタル教科書を開き、文字情報や図、写真、動画などの資料を使って「調べ学習に取り組んだ。10分ほど経過すると調べた結果を発表し合い、友達の考えを聞いて、さらに考えを深めた。授業終盤に差し掛かると、「関連工場を使った生産の良さ」について隣の席の友達と意見を交換し合い、その根拠となる資料をTPCで探す活動も取り入れられた。さらに、授業を通じてわかったことをノートにまとめ、小島先生は一人ひとりのノートを見て理解度を確認し、次の授業の学習内容を告げて授業を終えた。

体系化された授業で落ち着いて学び、学力も向上


 授業見学後、ハンビット小学校視察団と藤の木小学校の森川康男校長、島本教頭、小島先生による協議の時間が設けられた。視察団の先生方は、藤の木小学校の子どもたちが落ち着いて学ぶ様子に感心した様子で、シム校長の「授業が体系化されて理解しやすいことや、どの先生も自信を持って授業を行っていることに感銘を受けました」という言葉に一同うなずいていた。


 そして、「小島先生の授業では、各自で資料を読み取ってわかったことを発表させていましたが、デジタル教科書と紙の教科書とでは、情報の読み取り方にどんな差が生じますか」という質問があがった。小島先生は「紙の教科書の場合は、見開きページ全体にある全ての資料から読み取らなければなりませんが、デジタル教科書の場合は、読み取ってほしい情報のある資料を指導者の裁量で操作できるので、個々の児童の読み取る力の差が出にくくなります」と説明した。

 また、「子どもたちが活発に意見を言えるようになるには、どのような工夫をしていますか」の質問に対して小島先生は、「一人でまず調べて考える時間を10分程度取り入れたうえで、隣の席やグループで話し合う時間を作るようにしたところ、何も話せないという子どもがいなくなりました。その10分が学習の充実につながっていると感じます」と述べた。


 活発な意見交換が進むなか、保護者への理解をどのように促すかということにも話題は及んだ。カン・ドンフン教務部長が「韓国では保護者の理解を得ようと事前に説明をしても、クレームがあがることがあります」と告げると、森本校長が「本校では年度初めに家庭に『学びのガイドブック』を配布し、ホームページにもPDFを提示しています」と説明。『学びのガイドブック』とは、藤の木小学校がめざす学びと、そのための授業のあり方、ICTの位置づけなどを示すガイドブックだ。「そのため保護者の理解も得られていますし、基本的な生活習慣や学習のルールを全校で統一して具体的に示しているため、子どもたちも落ち着いて学ぶことができています。その結果として学力向上にもつながっています」。森川校長の言葉に、視察団は大いに勇気づけられた様子だった。

「今後もお互いの研究結果を共有し、情報交換をしながら、交流を深めていきましょう」と、シム校長は森本校長と握手を交わし、視察団は藤の木小学校を後にした。

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