学力向上のための山田小流授業づくりとICT活用
ICTを活用した授業改善の研究に取り組み、わずか4年間で劇的に学力が向上した恩納村立山田小中学校。その秘密を探ろうと、山田小中学校で行われた公開研究会には、県内外から400名もの教育関係者が集結した。
沖縄県恩納村立山田小中学校
400名もの参観者が集結し、ICT活用に熱視線を送る
公開授業を行う教室の中は、満員電車のようなすし詰め状態。入りきれなかった参観者が廊下まであふれ、歩くことすら困難だ。その数、実に400名。北は青森県から、南は八重山の離島まで、山田小学校の実践を一目見ようと多くの教育関係者が訪れた。
「なぜ、山田小は劇的に学力を上げることができたのか」。その謎を解き明かそうと、参観者たちは目を光らす。特に彼らが熱い視線を注いでいたのが、ICTだ。1年生から6年生まで、全ての学年で、タブレットPCや電子黒板、フラッシュ型教材などのICTが効果的に使われているのだ。まずはその実践事例の数々を、山田小学校・研究主任の大城智紀先生と、4年間にわたって同校を指導してきた東北大学大学院の堀田龍也教授のコメントも添えて、お伝えしよう。
実践事例 1フラッシュ型教材を、全学年全教科で毎時間活用
フラッシュ型教材は、毎日の授業に欠かせない教材。『フラッシュ基礎・基本』など市販教材だけでなく、授業内容に合わせて先生方もフラッシュ型教材を自作。授業の導入で、既習事項の復習用に使うことで、定着を促す。
6年生の社会では、「参政権」「非核三原則」などの重要キーワードを、自作フラッシュで学習。答えを隠す箇所を調節することで、難易度を上げながら繰り返し学習できていた。
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堀田教授のここがポイント!
授業の導入でフラッシュ型教材を使って復習するのが、山田小の定番。定番化することで、フラッシュ型教材を使った学びが「習慣化」します。習慣化するから、短時間で素早く効果的に学習できるようになる。そして、「基礎・基本の知識が定着しやすくなる」のです。
実践事例 2ワークシートや問題をタブレットに配信
ワークシートを子供たちのタブレットに配信。タブレット上で発見や気付き、意見を書き込む。これも山田小の定番で、ドリルや教科書の問題などもよく配信する。
タブレットなら、カラーのワークシートに、カラーで書き込める。考えを整理しやすく、表現力も増す。
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大城先生のここがポイント!
教科書の問題をしっかり理解させたい時には、タブレットに教材を配信し、解いて発表する活動を行います。紙の資料やプリントを配るよりも早いので、以前よりも授業時間を有効に使えるようになりました。また、以前よりも教科書を意識的に活用できるようになり、基礎・基本の知識が定着しやすくなりました。
実践事例 3実物投影機で、「お手本」を見せる
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堀田教授のここがポイント!
これは、「答え方」を教えているのです。「答え方」がわからなければ、子供は方向を見失ってさまよってしまう。「答え方」がわかれば、それが手がかりになり、答えに向かって迷わず前進することができるのです。
実践事例 4一人ひとりの進捗状況を「可視化」する
授業支援システム『らくらく授業支援』を使えば、子供たちのタブレット画面をリアルタイムに一覧表示が可能。一人ひとりの進捗状況を、ひと目で把握できるので、つまずきを見逃さず、すぐ指導できる。
回答結果も一覧表示できるので、誰を指名するかも決めやすい。
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大城先生のここがポイント!
「可視化」も、タブレットの重要な効果。一人ひとりの状況が、ひと目でわかるので、以前よりも支援や指名がしやすくなりました。
実践事例 5タブレットを使って、発表する!
タブレットに配信されたワークシートや問題に、考えや答えを書き込み、電子黒板に映して発表する活動を、日常的に行っている。
指名した子供のタブレット画面を瞬時に映せるので、発表にかかる時間を短縮でき、多くの子供に発表機会を与えられる。
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堀田教授のここがポイント!
電子黒板で発表しながら、書き加えたり、修正したりできるのも特長。説明しながら友達の意見を聞いて、ブラッシュアップできます。「子供同士で、練り合っていく」ことが可能になりました。
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大城先生のここがポイント!
山田小では、タブレットを使った発表を1年生から実践しています。自分のタブレット画面を見せながら解説すればよいので、1年生でもできるのです。幼い頃から発表する経験をたくさん積むことができるので、伝える力が高まります。
学力も劇的に向上!その理由は?
公開授業の興奮冷めやらぬなか、引き続き体育館で各種の講演が行われた。
山田小・研究主任の大城先生が登壇し、同校の学力の推移を表すグラフを映し出すと、参観者から「おぉ…」と感嘆の声があちこちで聞かれた。
国語A・B、算数A・Bとも全国平均を下回っていたが、わずか3年で全国平均を上回った。
ほんの3年前まで、全国平均より10点以上低かったのが、今年度は逆に全国平均を10点以上も上回るという、すさまじさである。会場がどよめくのも無理はない。
だが、本当のクライマックスは、この後に訪れた。公開研究会の最後を飾る堀田教授の講演で、会場は再度どよめいたのだ。
「授業をご覧になってどうでしたか? タブレットがやっと出てきたと思ったら、あれ? これだけ? と拍子抜けした方もいるのでは?」
堀田教授がそう問いかけると、まさに図星で苦笑する人の姿も。そんな会場を見渡して、堀田教授は続ける。
「これが、成功する使い方なんです。山田小が研究しているのは『ICTの活用』そのものではないのです。『授業を改善する手段』を研究しているのであり、ICTは改善の一手段に過ぎません」
皆ハッとなった。きらびやかなICT活用につい目を奪われて、本質を見落としていた。慌てて配布された資料をめくり、山田小の研究構想図(下図)に目を走らせると、一目瞭然だった。
堀田教授が示した、「学力の積み上げモデル」。下からコツコツと積み上げていくことが大事。
大城先生がICT活用を語る時、「以前に比べて~できるようになった」というフレーズを盛んに使っていた意味が、ようやくわかってきた。堀田教授は、下のピラミッド図を提示した。
「皆さんの学校は、どこを研究していますか? 黄色ですか? 青ですか? 一番下の『学習規律/学習習慣づくり』の研究は完了しているから、その上位の研究をされているんですよね?」
参観者たちが、息を呑む音が聞こえるようだった。
「山田小は、このピラミッドの下三つを、がんばって研究しました。だからA問題もB問題も学力が伸びたのです。青や黄色を伸ばすには、そこだけを研究すればいいのではなく、その下にある土台があってこそなのです」
山田小の研究構想図。「日常授業の改善」を大目的に、「基礎的な学力の定着」をさせる指導法の研究と、「校内研修」方法の研究と徹底を推進。「ICT活用」は、それを実現し推進する手段の一つと位置づけている。
子供を伸ばすのは、「ごちそう」ではなく「毎日の食事」
たとえば「学習規律」では、「山田スタンダード」を設け、全員に周知徹底した。
スタンダードを徹底したのは、子供に対してだけではない。教師も、教え方を統一した。その典型例が、「漢字指導」である。
「これからはどの学校も若い先生が増えます。学校内で指導方法が統一されスタンダードがあれば、経験の浅い先生も迷わないで済む。先生が迷わなければ、子供も迷わないんです。
ICTが得意な先生しかできない特別な授業を研究するのではなく、みんなが毎日できる授業方法を研究した方がいい。名人にしかできない授業は、食べ物に例えれば『たまに食べるごちそう』です。『ごちそう』は確かに美味しいけど、血となり肉となって身体を成長させるのは、『毎日の食事』ですよね。学力も同じです」
その理念は、山田小のスローガンにも現れている。「一人の百歩より 百人の一歩の大切さ」。この言葉を、大城先生は何度も何度も口にしていた。そして堀田教授は、最後にこう締めくくった。
「これからは、『習得』と『活用』の両方が求められる時代です。そのためには、『何のために校内研究を行うのか』を見直し、学校が一丸となって『チーム学校』として、このピラミッドの土台から、着実に築き上げていきましょう」
「山田スタンダード」で、学ぶ姿勢が整った!
校内のあちこちに、「山田スタンダード」のポスターが貼られている。
タブレットは普段机の横にかけておき、使うときだけ机の上に置く。その位置も決まっており、全員が守っていた。
新出漢字を一日2文字、書きも読みも筆順も練習する!
帯の時間を使って、毎日10分間、新出漢字を練習する。その練習方法は多彩だ。