ABLish×モバイル学修のシナジーで実現する場所を選ばないアクティブ・ラーニング

―関西外国語大学 ―

2016年9月にVer.2がリリースされた『ABLish』。ポイントは、教育現場から最も要望の多かったスマートフォンへの完全対応だ。『ABLish』の共同開発者であり、週3回配信される英語ニュース教材の監修も手掛ける関西外国語大学・英語キャリア学部の松宮新吾教授に、モバイル活用による英語学習の展望について伺った。

英語キャリア学部 英語キャリア学科 教授 松宮 新吾 先生

語彙力強化が思考を再構築し、行動を変えるチカラとなる

 「芸術家であれ、政治家であれ、何十年も前に発せられ、誰かの心を動かした言葉というものは、人から人へと伝わり、受け継がれながら息づき続けるもの。そんな『言葉のチカラ』を理解してほしい」。『ABLish』の共同開発者であり、週3回配信される英語ニュース教材の監修も手掛ける関西外国語大学の松宮新吾教授は、そう語る。

 そして「言葉のチカラ」の大前提として、松宮教授が重要視するのが語彙力だ。紙媒体やインターネットを通じた活字情報の”読者”にも、会話や映像配信の相手である”視聴者”にも、自分が情報の発信者となった場合に、伝えたい相手の立場や状況、伝える場面に応じて、最適な言葉・語彙を選ぶことがコミュニケーションを円滑に進めるために重要だという。

 「逆のパターンを考えた場合、自分が情報を見聞きすれば、多少なりとも知識や世界観が広がっていくはずです。情報に触れて知識が増え、思考の引き出しや判断材料が多くなれば、行動も変わるでしょう。思いが変われば行動も変わるのです。私は授業を通して、この言葉によって形成される〝思考”と”行動”がつながるプロセスを実体験として理解してほしいのです」と語る松宮教授の言葉からは、試験の点数で表される成果だけを追求するのではなく、言語学習を通じて人間力そのものを磨いてほしい、という思いが伝わってくる。実際に、日々の人間関係においても、ビジネスにおいても、さらには紛争や、それを解決するための平和構築においても、言葉が人々の行動を誘発していることは明白であり、真理とも言える。

 「言葉は、思いや情報を伝えるための手段であると同時に、自らが思考するための手段でもあります。そこで、私の『アカデミック・リーディング』という授業では、15回の授業のうち12回、学生にエッセイを提出させています。文章を書くという作業では、自分で資料を読み込んで調べた内容を整理し、自分の言葉で表現する力を高めることができます。その内容は個別のスピーチやグループでのプレゼンテーション、学生同士でのディスカッションのベースにもなり、『読み・書き・聞き・話す』の総合力が高まっていくのです」と松宮教授。「そのはじめの一歩となるのが、さまざまなテーマを提供してくれる『ABLish』であり、それに基づくエッセイ・ライティングなのです」と強調した。

関西外国語大学・英語キャリア学部のカリキュラム・ポリシーの一つとして設定されている「英語キャリア基礎力」の概念図。

ABLish活用事例1
主役である学生の主体性・自発性を伸ばす

 『ABLish』の強みは、政治や経済、教育、国際問題など、社会科学を絡めて英語を学べる点にある。学生は、ベーシック・イングリッシュの”1500語+α”を使った上質な英語に触れながら、学際的で複合的、分野横断的な学習ができる。

 そしてもう1点、松宮教授が強調する『ABLish』の優れた機能が、「思い込みに揺さぶりをかける」というものだ。配信されるニュースのテーマは「正解」のないものばかりだからこそ、主体的な思考を促し、「私はこう思う」「自分はこうしよう」と意見を持たせ、行動に移させることができるのだという。

 「私がめざすのは、『世界を読み解き、聞き知り、書き記し、語り継ぐ』というスキルを学生自らが広げていけるようにすることです。もちろん教員として授業の設計・デザインは行いますが、あくまでも主役は学生。学生が主体性を持って学び、考え、表現していってほしいのです」と語る。

 この言葉どおり、松宮教授は”無理強い”をしない。『ABLish』の管理機能を用いて学生のログイン履歴をチェックし、学習意欲を”推測”することはできるというが、「ログインのためのログイン」では本末転倒。松宮教授はログイン履歴ではなく、あくまでも「結果」を重視する。その成果は、エッセイの質と量の着実な向上として表れている。

 「学生はレポート課題などやるべきことが多いので、しっかりと自己管理をしながら”ハードワーク”しています。効率的に勉強をしようと、自発的に工夫をする例として、スマホなどのモバイル・ディバイスで、『ABLish』の教材をネタに、時間さえあれば留学生らと活発に議論を行う学生が増えてきています」と話す松宮教授。ITが教育にもたらした変化を、日々最前線で感じている。

ABLish活用事例2
時代は〝TOUCH & STUDY”加速するモバイル学修


 通常の授業での課題に加え、教職課程やクラブ、サークル、ボランティア活動、アルバイトなどで多忙を極める現代の学生。欧米の学生と比較して少ないとされる「授業外学習時間」を増やすべく、頭を悩ませる教育関係者が少なくないなかで、「学生の生活スタイルの変化を考えたときに、モバイル活用は必須であり必然です」と松宮教授は考える。『ABLish』は2016年9月のバージョンアップで、スマートフォンに完全対応。「スキマ時間を有効活用した学修時間の確保」を可能とした。

 「教育はモバイルをフル活用すべき時代に突入しています。手軽に指一本で始めて終えられる”TOUCH & STUDY”の時代ですね」。松宮教授の理想は、教室外でスマートフォンやタブレットを使い、「いつでもどこでも誰とでも勉強できる環境」だという。

 「『ABLish』にはディスカッション機能もありますので、タッチ一つですぐに学生同士がつながることができます。今後は、他のクラスの学生や他の大学の学生、海外の大学生など、ボーダーレス&グローバルにディスカッションできるようにしたいのです。そうした活発なコミュニケーションが、学生の主体的な思考をより一層促進し、英語力の向上はもちろんのこと、多様性理解や多文化共生も進むはずです」と松宮教授。『ABLish』にSkype®のようなテレビ会議機能を融合させるなど、リアルタイムの意見交換によって、ダイナミックでアクティブな授業を展開したいというビジョンを描いている。

 一方で、学びの主役である学生の声も聞くことができた。ある学生は、「現状ではパソコンの方が速く文字を入力できるので、エッセイを書く際にはパソコンを使うことが多いです」と前置きしたうえで、「授業の空き時間に、『ABLish』で配信されるニュースをスマートフォンで読んだり、設問に答えたりする機会は増えています」と回答した。モバイル対応を果たした『ABLish』を存分に活用しているようだ。また別の学生は、「松宮教授の授業は、楽しくて90分があっという間に終わってしまうのが残念なほどです。『スマートフォン完全対応だから勉強しろ』と言われているわけではありませんが、気づくとスマホで自習している自分がいるのです」と回答した。高い向学心が醸成され、行動に生かされている好例に出合うことができた。

お話を聞いた英語キャリア学部の学生のみなさん。

学生にインタビュー アクティブな発信者になれる授業

田中 公康さん
『ABLish』では芸能ネタなども配信されるので〝身構える〟必要もなく、自分の考えを発信しやすいです。あとは、勉強したいと思ったときに手軽にできるように、アプリ版の登場が待ち遠しいです。
四方 花季さん
覚えるよりも考える授業で、『ABLish』では社会問題にも詳しくなり、他の科目にも役立ちます。エッセイやディスカッションを通して、自分自身を見つめ直すようにもなりました。
クィンタナ 真理さん
私は日本人学生とのディスカッションによって、日本語の細かなニュアンスも学べています。自分の意見を固めるために、根拠となる資料をスマートフォンですぐに調べる習慣も身につきました。
藤田 竜誠さん
パッシブな「傍聴者」ではなく、アクティブな「発信者」になれます。『ABLish』は、さまざまなジャンルの中に、何かしら興味を抱けるトピックがあり、一般教養的な学びにもなっています。
杉中 星河さん
エッセーを書く前に、『AB
Lish』のディスカッション機能を使って周囲の考えを聞くようにしています。そうすると内容に深みが出るんです。新着情報を通知してくれる機能があるとうれしいですね。

授業のひとコマ
学生に自信と充実感をもたらす「〝学生版”ABLish」

 松宮教授が指導する、1年次の『アカデミック・リーディング』という授業では、学生3人が1チームとなり、10分間のプレゼンテーションに取り組んでいる。興味を持ったテーマを自由に選び、チームで調査・分析した結果と、そのテーマに関して学内の留学生にインタビューを行った結果に基づいて発表するという、いわば「学生版ABLish」だ。発表時に使用するスライドには、インタビュー時の動画を埋め込むことが条件となっている。インタビュー動画には、バックグラウンドの異なる複数の外国人留学生が登場し、さまざまな視点で回答する様子が伝えられる。

 学生が選ぶテーマは、「教育」「未婚率」「LGBT」「国際結婚」などだ。発表の途中で学生全員を「賛成派」と「反対派」に分け、ランダムに学生が学生を指名してその理由を発表させるチームもあれば、聞く側もグループに分けたうえで、グループとしての意見を発表させるチームもある。最後に発表者側がコメントして終了する。

 学生たちは、堂々と意見を発表し、時に恥ずかしがりながらも、自分の気持ちや意見を自分の言葉で話していた。

 「議論するからこそ、『そういう意見もあるのだな』と他者の考え方や価値観を受け入れられるようになりました。それがプラスの刺激となり、もともと自分が考えていた内容との化学反応が起きて、新たな気づきにもつながっています」と語る学生の表情には、自信と喜び、そして充実感があふれていた。



とことん考えさせること自体がアクティブ・ラーニングの真髄


 人工知能の進歩によって、通訳や翻訳といった作業が自動化される未来が現実味を帯びてきた昨今、生身の人間はいかにあるべきか、学生はいかに成長していくべきなのか。

 この問いに対して松宮教授は、「『判断して行動する』という、人間にしかできない頭脳をつくりあげなくてはなりません。育てたいのは、スピーディーかつ複眼的に物事を考え、新たな価値観を創造でき、”未曽有の”と形容される事象に対処できる学生たちです」と答える。もちろん、言われたことをこなすだけでは不十分であり、自ら問題を見つけ、解決できる学生を育てたいという。そのチカラを養う手段の一つが、「アクティブ・ラーニング」と総称されることの多い、学生主体のグループワークであり、プレゼンテーションだ。

 「当然ながら教員の授業デザイン力も肝心ですが、『ABLish』のニュースを題材にしたグループワークやディスカッションは、学生を主体的に思考させ、意見形成と情報発信させる能力を高めるために最適なのです。注意すべきは、アクティブ・ラーニングとは、『授業の進め方』ではないということ。『脳を活性化させること』自体がアクティブ・ラーニングなのです」と締めくくった。

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