アクティブ・ラーニングを 支えるICT

次期学習指導要領で変わる高校英語教育

文部科学省 初等中等教育局国際教育課 教科調査官
向後 秀明氏

2020年度から実施される次期学習指導要領の改訂に向けて、2016年8月、文部科学省中央教育審議会の教育課程部会と教育課程企画特別部会による「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」が公表された。「言語活動の高度化」が求められる高等学校の英語教育は、今後どのように変わるのか。また、アクティブ・ラーニングの視点に立った学びにおいて、どのようにICTを活用していくべきなのか。文部科学省初等中等教育局国際教育課教科調査官の向後秀明氏にお話を伺った。

次期学習指導要領の三つの視点

 学習指導要領は、これまで約10年ごとに改訂されてきました。1998〜1999年の改訂では「基礎・基本を確実に身につけさせ、自ら学び自ら考える力などの『生きる力』の育成」が目標とされ、2008〜2009年に改訂された現行の学習指導要領では、「生きる力」の育成とともに、基礎的・基本的な知識・技能の習得と、思考力・判断力・表現力等の育成のバランスが求められています。授業時数を増やすことなどによって指導内容の充実を図り、小学校の外国語活動も導入されました。

 そして、2020年度の改訂に向けて議論されてきたのは、①何ができるようになるか、②何を学ぶか、③どのように学ぶか―の3点です(図1参照)。これまでの学習指導要領は、「何を学ぶか」を中心に組み立てられてきましたが、これからの時代においては、「何ができるようになる」ために「何を学ぶか」、そして、それを「どのように学ぶか」という構図を明確にすることが重要になります。その学び方において、課題の発見や解決に向けた主体的・協働的な学習が求められます。「アクティブ・ラーニング」が注目されるのは、こうした観点からなのです。

 「何ができるようになるか」については、生きて働く「知識・技能」の習得とともに、未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」を育成すること、さらに、学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性」を涵養することが求められます。そして「何を学ぶか」については、小学校における外国語の教科化を含め、新しい時代に必要となる資質・能力を踏まえた教科・科目等の新設や目標・内容の見直しをしていきます。さらに、「どのように学ぶか」では、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の視点からの学習過程の改善を図ります。つまり、アクティブ・ラーニングは、深い学びの過程を可能にするための手段となります。

高等学校の英語教育はどう変わる?

 高等学校では、高大接続改革の動きも踏まえながら、教科・科目選択の幅の広さを生かし、育成すべき資質・能力を明確にして教育課程を編成することが重要です。社会で生きて行くために必要となる力を共通して身につける「共通性への確保」と、一人ひとりの生徒の進路に応じた多様な可能性を伸ばす「多様性への対応」の観点を軸としながら、各教科・科目構成を見直しています。

 外国語科において、高等学校では「授業を英語で行うとともに、言語活動を高度化(発表、討論、交渉等)」することが求められています(「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」より)。それに伴い次期学習指導要領では、これまで国際的な基準であるCEFRのA2〜B1相当程度以上(英検準2級〜2級程度以上)の高校生の割合を5割とする取り組みを進めてきたことを踏まえ、その着実な実現に向けて、「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やりとり:interaction)」「話すこと(発表:production)」「書くこと」の5つの領域ごとに小・中・高等学校で一貫した指標形式の目標を国が設定するということになります。

 科目構成については、「言語活動の高度化」を大きく二つに分けています(図2参照)。まず、聞くこと、読むこと、話すこと、書くことを総合的に扱う科目群として「英語コミュニケーションⅠ・Ⅱ・Ⅲ(仮称)」を設定し、そのうち「英語コミュニケーションⅠ(仮称)」を共通必履修科目とします。また、発表や討論・議論、交渉等の場面を想定し、外国語による発信能力を高める科目群として「論理・表現Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ(仮称)」を設定します。

 必履修科目の「英語コミュニケーションⅠ(仮称)」には、現行の選択科目である「コミュニケーション英語基礎」の要素を含め、高校生全員が中学校段階での学習内容の確実な定着を図ることができるようにします。「英語コミュニケーションⅠ・Ⅱ・Ⅲ(仮称)」では、いずれも高等学校の素材を用いて、「英語を使って何ができるようになるか」という明確な目標に基づき、それを達成するための技能統合型の言語活動を行います。

 「論理・表現Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ(仮称)」は、現行の「英語表現Ⅰ・Ⅱ」をさらに発展させます。これは決して個別の文法事項の習熟を図る科目ではなく、発表、討論・議論、交渉等の言語活動を幅広く行うことが重要であり、その過程において、必要に応じて語彙・表現や文法面での補強を行います。具体的には、スピーチやプレゼンテーション、ディベート、ディスカッションといった技能統合型の言語活動を中心に行う授業となります。従来の「英語表現Ⅰ・Ⅱ」の教科書では、文法を先に学んでから活動に移るということが多かったようですが、今後はその流れが逆になり、基本的にはまず話したり書いたりといった活動が先にあり、その活動をより質の高いものとするために語彙・表現や文法を学ぶことになるでしょう。

 また、英語科を設置している学校や国際高等学校等で設定されている専門教科「英語」の各科目も見直し、「総合英語Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ(仮称)」「ディベート&ディスカッションⅠ・Ⅱ(仮称)」「エッセイ・ライティングⅠ・Ⅱ(仮称)」といった科目構成に大きく変わります。これらは、幅広い話題について、多様な表現を用いて議論や討論をしたり書いたりすることができる力を育むことをめざすものです。

 到達目標については、昨年度実施した「英語力調査」では、多くの高校3年生の英語力はCEFRのA1相当にしか達していませんでしたが、次期学習指導要領では必履修科目でA2レベル、選択科目でB1レベルを指標形式の目標として設定することになります。高い目標値であると思われるかもしれませんが、10年後を見据えたとき、このレベルにまで英語力が高まっていなければ、現在進めている英語教育改革は意味を成さないでしょう。

高等学校の英語教育で養う資質・能力

 次期学習指導要領では、小学校の中学年で外国語活動が始まり、高学年で外国語が教科となります。中学校では「授業は英語で行うことを基本とする」ことになります。小学校や中学校での学びとの連携を緊密に図り、グローバル社会で活躍できる人材を育てることを念頭において、授業を改善していく必要があります。そして、小・中・高等学校の英語教育改革と同時に、大学入学者選抜における英語の試験も、従来のような文法や語彙の知識量を重視する試験から、知識・技能を実際の場面で活用できる思考力・判断力・表現力等を重視する試験へと転換することが求められています。すでに、私立大学を中心に、世界標準となっている外部の資格・検定試験の活用が広がっていますが、文部科学省は2016年8月、従来の大学入試センター試験に代わって、2020年度に導入する大学入学希望者学力評価テスト(仮称)の英語について、国が認定した民間の英語資格・検定試験の結果を活用する案を発表しました。

 ただし、高等学校の英語教育は、大学入試をゴールとするものではありません。「外国語を通じて、言語や文化に対する理解を深め、他者を尊重し、聞き手・話し手・読み手・書き手に配慮しながら、コミュニケーションを図ろうとする態度の育成とともに、日常的な話題から時事問題や社会問題まで幅広い話題について、情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝え合ったりする能力を養う」ことをめざしていきます。

なぜ、アクティブ・ラーニングなのか

 では、そのような資質・能力を養うためには、どのような英語教育が求められるのでしょうか。それは、スーパーグローバルハイスクール(SGH)における英語を取り込んだ「課題研究」を参考にすることができると思います。SGHでは課題研究への取り組みを通じて、生徒が主体的・対話的に学ぶとともに、それこそが「アクティブ・ラーニング」であり、次期学習指導要領の方向性として示されている「どのように学ぶか」に通じるものです。アクティブ・ラーニングというと、何か新しい学習の方法論のように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は現在でも小・中・高等学校で取り組んでいる「総合的な学習」での学び方と同様であり、今後は時代の進展のなかで、さらに付加価値のある学びとして、もう一度、見直していくことになるでしょう。

 生徒たちが今後出て行く変化の激しい社会では、イノベーションを起こすことのできる人材が求められます。アクティブ・ラーニングの視点に立った課題解決型の学習を通して、主体的に学ぶ姿勢が身についているかどうかが問われるのです。アクティブ・ラーニングを取り入れた学習は、単にペアワークやグループワークをすればよいのではありません。教師は生徒に「なぜその活動をするのか」という目的を明確に示し、生徒はその目的に沿って適切な活動に取り組むことが大切です。

 アクティブ・ラーニングの視点から英語の授業を組み立てる場合、たとえば、教科書で扱った問題に対する解決策を生徒各自がリサーチをし、得られた情報をグループで伝え合い、グループとしての意見をまとめて発表するといった活動が考えられます。その際、各自が持っている情報が違うことが大切であり、それが「やりとり」をする意味となります。英語を使って話し合うため、他の教科・科目等と比べて学びを深めていくことは難しいかもしれません。しかし、中学校までに学習したことを最大限に活用し、自分の言葉で伝えることが大切です。そして、ただ話し合うだけでなく、話した内容を書いてまとめるという活動を入れることも、言語の質を向上させるために役立ちます。準備して書いた文章を読むだけの活動になることは避け、話す→話した内容を整理しながら表現に注意して書く、というプロセスで行うことが大切です。先生方にはそうした授業の構成を考えていただきたいと思います。

 アクティブ・ラーニングを取り入れることで注意したいのは、学ぶ量は変わらない、ということです。アクティブ・ラーニングを取り入れて活動型の授業を展開することによって、生徒の学ぶ量が減ってしまうということがあってはなりません。そして、先生方には、活動型の授業において、生徒の学びをどのように手助けするかを考え、時には手助けをしない、という見極めも必要です。生徒が教室でお客さんのように受動的に学ぶのではなく、あくまで能動的に活動しながら学ぶことができるようにするために、先生方がどのように関わるかということを考えていただけるとよいと思います。

ICTはアクティブ・ラーニングを支えるツール

 このようなアクティブ・ラーニングの視点に立った学びは、ICTの活用によってより効果を発揮します。

 例えば、「主体的な学び」については、ICTを「学習のふりかえり」に活用することができます。ポートフォリオにICTを取り入れて学習記録を蓄積し、学習過程でどの部分がうまくいき、うまくいかなかったのかということを、生徒各自が自己評価するのです。

 「対話的な学び」でいえば、生徒各自がインターネットなどを通じて得た情報を収集・整理して、生徒同士で情報交換しながら、プレゼンテーションなどに活かすことができます。

 「深い学び」においても、グループでの調べ学習をはじめ、教科書の発展として関連教材を音声や動画で提示したり、国内外の生徒とEメールやテレビ会議、ビデオレターなどで交流をすることで実際のコミュニケーションの場面で英語を用いることができるでしょう。生徒の学びをより充実させるために、ICTを使わなければならない状況を設定して授業を構成していくのです。

 アクティブ・ラーニングによる言語活動中心の授業において、ICTは有効なツールです。だからこそ、国や自治体は、学校でICTを常時、手軽に使えるような環境整備をさらに進めていかなければなりません。そして、チエルの『eTeachers』のような授業に役立つデジタル教材を共有したウェブサイトや、全国の先生方がICT活用の実践例を共有できるネットワークを構築していくことも必要でしょう。また、教員によるICTリテラシーの差異を縮めるために、ICT活用のための教員研修の場を設定することも求められます。こうした課題を解決していくことが、ICTを活用した授業の充実につながると思われます。

三つの視点を大切に生徒の学びを深める

 最後に、英語学習におけるICT活用の利点を整理します。

①英語に対する興味関心を高める

・ 動的、インタラクティブなコンテンツの提供
・ 一人ひとりの能力や特性に応じた学びが可能

②学習効果を高める

・ ネイティブ・スピーカーの音声による教材
・ コミュニケーションツール等の活用による他地域・海外との交流学習

③進捗確認・課題発見に役立つ

・ デジタルなログ管理
・ 家庭学習、他の学校との連携

 高等学校においては今後ますますICTが活用され、アクティブ・ラーニングを取り入れた生徒の活動が中心となった授業が行われることになります。生徒の英語力を高めるのは、最終的に「どれだけ英語に触れたか」ということがカギとなります。それには、教室ではICTを活用した生徒の言語活動中心の授業が行われ、教室の外では、いつでもどこでも英語に触れることのできるeラーニングに取り組むというように、生徒が主体的に英語を使って学びを深めていく場を設定していく必要があります。その際には、あくまでも、「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」の視点を忘れてはなりません。アクティブ・ラーニングとは、学校において質の高い学びを実現し、生徒たちが学習内容を深く理解して資質・能力を身につけ、生涯にわたってアクティブに学び続けるようにするためのものなのです。

新刊のお知らせ

 今回お話しいただいた、文部科学省 初等中等教育局国際教育課教科調査官の向後秀明氏が執筆に携わった『「アクティブ・ラーニング」を考える』(教育課程研究会編著)が、2016年8月、東洋館出版社より刊行されました。

 学習指導要領改訂において「アクティブ・ラーニング」はキーワードのひとつとなっています。本書は、アクティブ・ラーニングについて、文部科学省職員、中教審委員、研究者等が「主体的・対話的で深い学び」を実現するため、さまざまな側面から論じています。学習指導要領改訂を見据え、子供たちが未来の創り手となるために、求められる資質・能力を育む、「主体的・対話的で深い学び」を実現するために、教育関係者必読の1冊です。

※向後秀明氏の執筆は「Chapter3 アクティブ・ラーニングと各学校段階等・各教科等との関係」よりP.210「外国語教育とアクティブ・ラーニング」です。

東洋館出版刊・教育課程研究会編著
定価2,160円(税別)

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