主体的・対話的で深い学びを「かく活動」で実現

2020年に向けたICT環境整備と活用 〈学校〉

「The 16th 広島市立藤の木小学校 ICT活用公開研究会 since2010」より

文部科学省の2009(平成21)年度「教育情報化支援モデル事業」に始まり、総務省「フューチャースクール推進事業」実証校、文部科学省「学びのイノベーション事業」実証研究校として、早くから一人1台のタブレットを導入してきた広島市立藤の木小学校。同校における「第16回 ICT活用公開研究会」が2017年12月に開かれ、公開授業や研究主任による研究提案、指導に携わってきた二人の研究者による講演・対談が行われた。

なぜ「かく活動」なのか?

 「本校では2009年から、一人1台のタブレットを活用していますが、活用当初は試行錯誤の連続でした。最大の課題は、タブレットを使った後、子供たちのノートに何も残っていなかった、ということでした」と島本圭子校長は振り返る。

 そこで藤の木小学校では「学んだことは必ずノートに書き残そう」と、研究部がノートの書き方のモデルを示し、全職員で同じようにノート指導に取り組んだ。「ただし、先生がまとめた板書をノートに書き写すだけでは、子供たちの頭(思考)は働いていません。『かく活動』=思考活動、と位置付け、子供たちが思考しながら『かく』のはどのような活動があるか、そのためにはどういったスキルが必要なのかを、今年度まとめました」と島本校長は語る。

 それが「かくスキル11」だ。

 「書く」ではなく「かく」なのには理由があると、研究主任の村中智彦先生は説明する。「単に文章を『書く』だけではなく、図や式で考えを表現したり、資料を読んでキーワードに下線を引いたり、そのキーワードをノートに書き出してキーワード同士をつなげてまとめたりするなどの活動を、『かく活動』と位置付けています。このような『かく活動』を通して、子供たちに思考させるのがねらいです」

 そこで、この「かく活動」を授業の中で確実に行うために、「学習過程モデル」を更新した。

 「かく活動」を行うのは「自分の考えを持つ」「自分の考えを伝え合う(深める)」「考えをまとめる」の3つの場面と設定。45分の授業時間を15分ずつに3分割し、15分ごとに「かく活動」を取り入れている。

 村中先生によれば、この「学習過程モデル」と「かくスキル11」を定めたことで、すべての先生が授業の中で、日常的にスキルを鍛える場面、そのスキルを活用する場面を意識して設けられるようになったという。

図1 身につけよう 「かくスキル11」
図2 「かく活動」を位置付けた学習過程モデル

公開研究会 研究授業

「ICTを効果的に活用した授業作りの追求」

研究主任 村中 智彦先生

 2017年度は、「豊かな言葉で主体的・対話的で深い学びに向かう子供の育成の研究主題のもと、「ICTを効果的に活用した授業づくりの追究 〜鍛えて発揮する『かく活動』を通して〜」を研究してきた。村中先生はこのねらいを、「『かく活動』をすることで、子供は主体的に考え、自分の意見をしっかり持てます。自分の意見を持つことは、対話的な学びに必須です。そして、『かいた』ものをもとに対話的な学びを行うことで、より深い学びになっていくと考えます」と説明した。

 そして「『かく活動』により、自分の意見を思考し、何が大切な情報であるかを判断し、整理してまとめる表現も行うことになります。新学習指導要領が求める『思考力・判断力・表現力』の育成にもつながります」と付け加えた。

 この「かく活動」を充実させる手段として、一人1台のタブレットや電子黒板などのICTを活用するのが、同校のスタンスだ。「かく活動」におけるタブレットの用途は、「デジタルワークシート」と「デジタル資料」の2通りで(写真)、教科や単元に合わせて使い分けている。すべての「かく活動」でタブレットを使うわけではない。タブレットをよく使うのは、「かくスキル11」の3、4、6で、それ以外はノートやホワイトボードに「かく」ことが多い。

 さらに「かく活動」にICTを取り入れることで、新学習指導要領がすべての学習の基盤となる資質・能力と位置付ける「情報活用能力」も育めている。村中先生は「ICTを適切に用いて情報を入手し、複数の情報を結びつけて整理し、発信・伝達するという情報活用能力を、子供たちは『かく活動』を通して鍛え、『かく活動』で発揮しています」と述べて発表を終えた。

広島市立藤の木小学校
校長 島本 圭子先生
広島市立藤の木小学校
研究主任 村中 智彦先生

公開研究会 講演

新見公立短期大学 幼児教育学科
教授 梶本 佳照先生
東京学芸大学 教育学部 総合教育科学系
准教授 高橋 純先生

「これからの教師とICT活用」

新見公立短期大学 梶本 佳照教授

 続いて、2年前から同校の実践指導にあたっている新見公立短期大学の梶本佳照教授が「これからの教師とICT活用」と題して講演した。

 まず「かくスキル11」について、梶本教授は「1番から順に段階的にスキルを習得し、学習の質を高められるように工夫されています」と評価した。そして、「タブレットを『かく活動』で活用することで、キーワードに線や丸、矢印を書いたり消したりと試行錯誤しやすく、考えが深まっていき、『思考錯誤』できます」とその利点を解説した。

 また「学習過程モデル」についても、「まずは一人ひとり個別に考えさせてから、話し合い活動を行って意見を集約し、各班の意見を発表し、クラス全体で考えをまとめるというパターンを、どの教科、どの単元でもしっかり取り入れています。自分の意見をしっかり持った上で話し合う活動に臨んでいるため、対話的な学びもはかどり、思考が深まり、深い学びになっています」と評価した。

 続いて公開授業の講評として、授業研究と教材研究がしっかりなされていることを賞賛した。6年生の社会科では、担任の先生が自作したデジタル資料を電子黒板とタブレットで見せて読み解かせたが、「この授業のねらいは何で、そのためにはどのような資料を与え、ICTでどういった活用をさせれば、ねらいに迫ることができるかがしっかりと研究されています」と評価し、すべての先生が日頃から授業研究や教材研究に熱心に取り組むことで、授業が改善されるとともに、授業力や指導力が向上していると称えた。

「これからの学びとICT活用」

東京学芸大学 高橋 純准教授

 続いて、2016年度から同校の指導にあたっている東京学芸大学の高橋純准教授が講演した。高橋准教授は、まずOECDの「国際成人力調査」を紹介。これによると、日本人の大人は読解力も数的思考力も1位だが「ICTを活用した問題解決能力」は世界10位に低迷しているという。
そして「今後はICTを活用した問題解決能力を高めていく必要があります。だからこそ、早い段階から一人1台のタブレットを日常的に授業の中で活用し、子供たちのICT活用能力を鍛えてきた藤の木小の実践は意義深く感じます」と述べ、「私は全国各地の学校を視察していますが、子供たちのICT活用能力は、藤の木小が文句なしの全国一です」と評価した。

 さらに、子供たちのICT活用能力が高いからこそ、タブレットの活用方法とその効果にも、他校との差が出ていると言及。「タブレット使用歴の浅い学校では、カメラ機能を使って実験や運動などの様子を撮影して振り返るという実践がよく行われています。しかし、これだけでは『浅いわかり』に終わってしまいます」と語る。

 例えば、理科の実験の様子を動画で撮影して振り返ったとしても、「見てわかる」ことは限られており、それは「浅いわかり」で終わってしまう。「深い学び」にするためには、撮影するだけでなく、温度などを計測してデータを取り、そのデータをタブレットなどで表やグラフに整理してまとめ、考察していく実践が必要になる。髙橋准教授は「大人が仕事でPCを使うようなICTの活用をさせなければ、『深い学び』にはなりません」と指摘した。
同校の公開授業では、子供たちがカメラ機能を使う場面が一度もなかったが「日頃から子供たちの『深い学び』につながるタブレットの活用をしているからこそ、理解が確実に深まっているのです」と評価した。そして「注目してほしいのは、ICTを研究の中心に据えるのではなく、あくまで『教具の一つ』と考え、新学習指導要領が求める学びを実現するためにタブレットを有効活用する方法を研究し、実践に取り組んでいる点です。ぜひ見習ってほしいと思います」と結んだ。

公開研究会 対談

「これからのICT活用」

 最後に、梶本教授と高橋准教授が「これからのICT活用」をテーマに対談した。まず、梶本教授は「先生の発問に対して、すぐ挙手して口頭で答えさせるのでは、考えがまだ浅く、挙手した子供しか考えていません。全員に『かく活動』をさせることで、考えが深まり、まとまります。全員が自分の意見を持つことにより、全員が主体的・対話的で深い学びを行うことができるのです」と説いた。

 高橋准教授も「思考し、理解するには、必ず『言語』が介在します。言語を用いた活動としては、『話す』『聞く・聴く』『読む』『かく』などがありますが、この中で一番難しいのが『かく』です。『かく』ためには、自分でしっかり考え、整理し、まとめなければなりません。だから『かく』ことで、子供たちは必然的に主体的に学ぶようになっているのです」と述べた。

 さらに、「かく活動」を通して、教科内容の理解が深まるだけでなく、将来も役立つ力が身についているとも指摘した。高橋准教授は、「『かくスキル11』は、どの教科やどの単元でも通用する普遍的なスキルであり、社会に出てからも有効なスキルです。このスキルを育み、学習方法も習得した子供たちは、大人になってからも『かくスキル』を仕事や学びに活用して、主体的・対話的で深い学びを続けていくでしょう」と語った。

図3 総合的な学習の時間での探究的な学習における児童生徒の学習の姿

一人1台のタブレット活用の未来

 対談では、「一人1台のタブレット活用の未来」についても意見交換した。
高橋准教授は、「子供たちに探究的な学習をさせるには、『課題の設定』→『情報の収集』→『整理・分析』→『まとめ・表現』、そしてまた『課題の設定』と、これらの『学習過程』を上昇スパイラルで繰り返していく必要があります」とを示しながら説明した。

 例えば理科の実験なら、課題を設定して実験し、データを取り、グラフや図に整理し、その結果を考察し、まとめて発表するのだ。

 両者は、これまでの教育では、各学習過程で必要なスキルを鍛え、そのスキルを学習過程の中で子供自身に発揮させる必要があるにもかかわらず、それを子供にさせてこなかったことが課題であると指摘する。先生が教科書の内容や子供たちの意見を整理して、構造化し、板書にまとめていては子供が考える機会を奪ってしまう。これでは思考しているのは子供ではなく、先生にすぎない。だが、同校では、先生が「整理・分析」せず、「かく活動」で子供に「整理・分析」を委ねている。髙橋准教授は、6年生の社会科の公開授業(コラム参照)は子供が思考を深め、主体的・対話的で深い学びにつながっていたことを紹介し、「先生ではなく、子供の頭がフル回転する授業づくりを心掛けましょう。そのためにタブレットを有効活用しましょう」と会場に呼び掛けた。すると、梶本教授も「子供が自分で情報を調べ、整理し、まとめる道具として、一人1台のタブレットを活用しましょう」と言葉を添えた。

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