何故令和の教育改革なのか、GIGAスクール構想なのか?

情報リテラシー連続セミナー@東北大学 第68回

文部科学省 初等中等教育局
学校デジタル化プロジェクトチームリーダー
武藤久慶氏

文部科学省 初等中等教育局 学校デジタル化プロジェクトチームリーダー 武藤久慶氏
文部科学省
初等中等教育局
学校デジタル化プロジェクト
チームリーダー
武藤 久慶氏

東北大学の連続セミナー「情報リテラシー連続セミナー@東北大学~情報リテラシー教育のこれからを考える~」の第68回が2023年5月27日(土)にオンラインで開催され、学校現場の教育関係者など約300人が参加した。今回は文部科学省の武藤久慶氏に「何故令和の教育改革なのか、GIGAスクール構想なのか?」をテーマに講演いただいた。日本の教育DXのキーマンが本音で語る「ネクストGIGA」など、講演内容のサマリーを紹介する。

学習指導要領、働き方改革、
GIGAスクールは三位一体

 現在の学習指導要領には「前文」が設けられています。学習指導要領の歴史上初めて書かれた前文には教育理念が示されており、特に注目していただきたいのは次の箇所です。

 これからの学校には……(略)一人一人の児童(生徒)が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在して尊重し、多様な人々と協働しながらさまざまな社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。

 クラスに数人の目立つ子供だけでなく、一人一人が自分のよさや可能性を認識するようになってほしい、社会的変化を乗り越え、持続可能な社会の構成員ではなく創り手を育てる――。なぜ、このような前文がわざわざ設けられたのでしょうか。その背景には、「グローバル化」「人口減少・少子高齢化」「デジタル化(Society5.0)」「変化の激しい、不確実性の時代」「人生100年時代」など大きな外的トレンドがありました。

 従来の日本型学校教育は、国際的にトップクラスの学力や規範意識・道徳心の高さなどの成果をあげました。一方、今日の学校教育は、子供たちの多様化、情報化への対応の遅れ、生徒の学習意欲の低下、教師の長時間労働などさまざまな課題に直面しています。

 これらの課題を乗り越えるために多くの学校関係者の参画によってまとめた新しい学校教育のコンセプトが「令和の日本型学校教育」でした。「学習指導要領の着実な実施」「学校における働き方改革」、「GIGAスクール構想」を三位一体で進めることで「正解主義」や「同調圧力」への偏りから脱却し、一人一人の子供を主語にする教育を実現していこうというものです。

 その際のキーワードが「個別最適な学び」と「協働的な学び」です。「個別最適な学び」は教師視点では個に応じた指導であり、一人一人に応じた学習活動・学習課題の提供です。クラスの中には、多様なバックグラウンドや認知特性を持った子供もいるでしょう。そんな子供たちに対して、同じ内容を同じペースで同じように教える紙ベースの一斉指導を続けることは子供のウェルビーイング(Well-being。幸福な状態)から遠ざかってしまうのではないでしょうか。

 GIGAスクール構想が始動して3年が経過し、全国の学校では日常的な活用が進んでいます。臨時休校が終わっても、授業のライブ中継を継続しているところでは、不登校の子供や保健室登校の子供も学びにつながることができています。黒板横の実物投影機を1人1台端末に中継し、教室の後ろの子供にも「大きく見せて分かりやすく教える」工夫をこらしている学校もあります。また、アクセシビリティ機能の充実により特別支援のお子さんにとっても教育環境は大きく改善しました。総じて言えば、学びの保障の観点からGIGA端末は不可欠のインフラになりつつあります。

 GIGAスクール環境は「個別最適、自己調整」の学習でも効果的です。例えば、小学校でミシンの使い方を学ぶ単元があります。ある学校では、布を移動させる動きが遅すぎる場合と速すぎる場合など何種類かの動画を用意し、子供たちは自分にふさわしいほうで、自分のペースで学べるようにしています。進度も認知特性もさまざまな子供たちに、同じことを同じペースで提供しても土台限界があります。デジタルやクラウドが可能とするさまざまな学びの手段の提示や非同期性は、多様性を増している子供集団により良く対応する上で極めて大きな武器になります。

 子供と先生がそれぞれ1人1台端末を持っていることは、先生の働き方改革にもつながります。例えばグループウェアを使った採点やアンケートの自動化、AI(人工知能)による音読のテスト……。機械が正確にできることは機械に任せる。業務の種類や内容によっては全面的にICT化して、生徒とともにいる先生だからできる仕事に注力する取り組みは、もっと積極的に進めても良いのではないでしょうか。

 先生方の校務でのクラウド活用、特に授業研究や校内研修ではまだ道半ばの印象です。欠席・遅刻連絡、配布物やアンケートなど対保護者業務におけるデジタル化はさらに実施率が低いと言わざるを得ません。

 一般的な企業では社内外の連絡はデジタル経由が普通です。お知らせや配布物をデジタル化すれば、多くの保護者は喜びますし、学校に対する評価も高まるでしょう。

 また、NHK for Schoolを始めとした多様で質の高いデジタル動画教材の効果的活用も考えるべきです。デジタル環境を最大限活用した自前主義からの脱却はどんどん進めていきたい。GIGAスクール構想は先生の働き方改革でもあるとの認識は学校現場でもっと高めていただきたいですし、私たちもアピールしなければいけないと考えています。

GIGA端末更新を控えた
「今」は極めて重要な時期

 デジタル教科書」が増えていきます。このデジタル教科書を中心に、音声や動画、AI機能付きといった多様な教材と、オンラインでファイルの共有・共同編集、対話などを可能にする学習支援ソフトウェアが連携する。

 このことによって、授業のみならず家庭学習・地域学習でも自分のペースでさまざまな資料にアクセスできたり、授業外でも情報共有や共同作業が可能になったりします。1人1台端末の持ち帰りを前提に、主体的・対話的で深い学びを家庭・地域でも実現する方向で進めたいと思います。

 GIGA端末の日常活用の「その先」については、現場の先生方お一人お一人でいろいろな考え方があるでしょう。2027年には学習指導要領の改訂が実施される見込みで、通常は2年前の2025年から中央教育審議会で本格的な議論が始まることが想定されています。この2025年は多くの自治体でGIGA端末の更新期に当たります。

 以上のタイムスケジュールを踏まえると、「今」は令和の日本型学校教育とGIGAスクール構想にとって極めて重要な時期です。これからの2年間、整備された端末とクラウド環境を“使い倒す”ことで、子供たちは従来に比べ大事な資質や能力が身に付いた、先生方もトレンドとして働きやすくなった、と保護者を含め関係者が実感できるようにすることが大事です。

■端末の日常活用の「その先」は?(出典:内閣府総合科学技術・イノベーション会議『Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ』を改変)
■端末の日常活用の「その先」は?
(出典:内閣府総合科学技術・イノベーション会議『Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ』を改変)

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