教科等の指導におけるICTの活用『教育の情報化に関する手引』を読み解く
ICTを活用した学習活動の分類
今回の手引の第4章で示されている「学習場面に応じたICT活用の分類例」は、文部科学省委託事業「学びのイノベーション」(2011~2013年)の実証校において、1人1台の学習者用コンピュータ、普通教室に大型提示装置や無線LAN環境が整備された環境で行われた学習活動を元に整理されたものです(図1)。第3節「各教科等におけるICTを活用した教育の充実」では、この10の分類例を付記する形で、各教科の学習場面における具体的な学習活動を挙げています。これらの学習活動の例は、これまでの実証研究の成果がとりまとめられているとともに、各教科の教科調査官がそれぞれの教科の観点に基づいて挙げたものです。これから整備される1人1台環境で授業実践に取り組むに当たって、先生方にはぜひ参考にしていただきたいと思います。
失敗を恐れずチャレンジを
手引に掲載されている学習活動の例が、これからの学校におけるICT活用の中でどのような位置づけとなるか、2点お話ししておきたいと思います。
1点目として、特に1人1台の環境をこれから活用していこうという学校にとっては、これらの学習活動が簡単ではない場合があるということです。学校の実態に応じて、まずはここに掲載されているものよりも易しい活動から始めるのもよいでしょう。
2点目として、この学習活動は決してゴールではないということです。もちろん、長年の実践研究から生まれた成果は大いに参考にすべきものであり、現段階ではこれがベストだといえるでしょう。しかし、世の中全体がものすごいスピードで変化していくこれからの時代、授業や学習の方法について将来ずっと同じものが有効かどうかはわかりません。
以上の2点をふまえた上で、先生方にお伝えしたいことは「失敗を恐れずにどんどん使ってみるべき」ということです。これからの時代は、子供だけでなく大人にとっても初めて経験することばかりです。失敗しないとわかっている方法ばかりを選ぶのではなく、我々もチャレンジャーでなければならないのです。
経験を積んで感覚をつかむ
「デジタルトランスフォーメーション」という言葉がありますね。ICTが生活に溶け込むことで、生活がより良いものになっていきます。私はよく「感覚」という言葉で説明していますが、ICTが生活に溶け込むというのは言い換えれば、そこにいる人々が、ICTが生活に溶け込んだ「感覚」を手に入れることです。学校の授業においては、教師と子供たちがその感覚をつかみ、養うことが大切なのです。課題を解決しようというときに、どのツールをどのように使うことが有効か、感覚的にわかるようになることが必要なのです。
そのためには「慣れるしかない」という当たり前の結論になってしまうのですが、失敗も含めて経験を積む以外に方法はないと思っています。水性ペンで書いてにじんでしまった経験があれば、次からは油性ペンを使いますよね。それと同じことです。世の中の変化がここまで激しくなければ、大人が十分に試し、体験してから子供に提供する方が賢明かもしれません。でも、このところの変化のスピード感を見ていると、それでは追いつかないと思わざるをえません。
変化を前向きに受け止める
2019年12月に初等中等教育分科会が公表した「新しい時代の初等中等教育の在り方 論点取りまとめ」では、育成を目指すべき資質・能力として「変化を前向きに受け止め、豊かな創造性を備え持続可能な社会の創り手として、予測不可能な未来社会を自立的に生き、社会の形成に参画するための資質・能力」と書かれています。これがどういうことか考えてみましょう。
近年、これだけイノベーションが活性化しているのは、トライ&エラーが何度も高速にできるようになったからだと言われています。1万人にアンケートをとろうと思ったらすぐに実行できますし、イメージの中の立体は3Dプリンタを使ってすぐに試作することができます。熟考を重ねて仮説を立てるよりも、まずは実施してみて、ダメだったらフィードバックを受けてやり直したほうが早いのです。AIもまさにそうですよね。膨大なデータを元に仕組みを構成していますが、絶えず新しいデータを得て、仕組みを再構成しながら賢くなっていきます。
以上のことをふまえると、これからの学びにおいて、問いに対する答えの出し方は従来とは変わってくるかもしれません。そういった変化を前向きに受け止めるためには、前述のようにICTの「感覚」を身につけることが必要です。そして、実践を重ねる中で、世の中の急速な変化に対応できる新たな指導方法や新たな考え方、それぞれの学習場面での新たな活用方法等が生まれてくることを期待しています。
教師に求められること
ICT活用の基礎体力ともいえる情報活用能力については、学校によって大きな格差があることは否めません。これも前述した通り、学校の実態に応じて簡単なことから始めるとよいでしょう。情報活用能力というと機器の操作のことをイメージする先生方が多く、「教えなくても子供は自然と覚える」と思っている先生もいるようですが、情報を主体的に選択したり、整理・比較したり、得られた情報を分かりやすく発信・伝達したりする能力は適切に指導しなければ身につきません。先生方自身が「情報活用能力」とは何かをきちんと理解することが必要です。
育成を目指すべき資質・能力を正しく理解し、失敗を恐れずに子供たちと共に経験を積み重ねることが、これからの時代の教師には求められています。