公開日:2021/11/14

GIGAスクール成功のポイントと県教委としての取り組み

広島県教育委員会では、2014年12月「広島版『学びの変革』アクション・プラン」を策定。知識ベースの学びに加え、子供たちが自ら課題を見つけ、その解決のために、学び、考え、行動できる力を身につけることができるよう、10年先を見据えて改革に取り組んできた。そんな改革の真っ只中、2018年に教育長に就任した平川理恵氏に、これまでの取り組みや公教育の未来について語っていただいた。

ICT抜きに教育は語れない!
GIGAスクール「2つのポイント」

 GIGAスクール構想によって、全国の学校でICTの整備が急速に進んでいます。広島県においても、端末整備、通信環境整備が積極的に行われているところです。

 ICTは、いまや私たちの生活に必要不可欠なツールであるだけでなく、私たちの在りようや社会そのものに時代を画するような大きな変化をもたらしています。つまりICTなしでは、これからの社会を生き抜く力を育てることはできないのです。急速に進化するICT環境を活用し、これからの社会に必要な教育を実現するためのポイントは、「デジタル・シティズンシップ教育」と「教師がファシリテーターとなること」の2つです。

(撮影:かわもと じゅんいち)
(撮影:かわもと じゅんいち)

①デジタル・シティズンシップ教育

 全国に目を向けると、一部の学校ではいまだに安全性に不安があるなどという理由で、クラウドを禁止にしたり端末の持ち帰りを制限したりしているようです。そのような不安をベースとする情報セキュリティ教育や情報モラル教育では、「これはダメだ」「これが危険だ」という議論になりがちです。

 しかしICTはいつも私たちの身近にあり、仲良く付き合っていくべきものです。さらに、日々進化していくものですから、その付き合い方を常に学び続ける必要があります。したがって、表面的なトラブルを回避することに終始していては、教育としては不十分なのです。

 必要なのは、目の前で起きうる事象に対してクリティカルに考える姿勢を育む教育です。例えばSNSをきっかけに生じる人権や表現の自由の問題について議論することも有効でしょう。これがデジタル・シティズンシップ教育といえるものです。SNSでは世界中が簡単につながるのですから、「地球市民」を育てる教育と言ってもいいと思います。

②ファシリテーターとしての教師

 端末や通信環境の整備が進んだところで、授業そのものがおもしろくなければ意味がありません。では、おもしろい授業とはなんでしょうか。それは、児童生徒一人一人が自分のこととしてとらえ、学びへの興味をもてる授業です。そのような授業を実現するためには、物事をクリティカルに考える「本質的な問い」を軸にしたカリキュラム・マネジメントが必須となります。

 そこで、教師は「ティーチャー」ではなく「ファシリテーター」となる必要があるのです。なぜなら、子供たちから出た「問い」を授業に展開したり、子供たち同士の話の流れを整理したり、相互理解をサポートしたりする役割が求められるからです。ICT環境は子供たちの活発な学習活動の土台となります。その環境を充実させることとともに、教師にも成長が求められているのです。

 さらにいえば、校長にはカリキュラム・コーディネーターとしての役割が求められます。校長が日頃から積極的に先生方の授業を見るなどして、子供たちが「おもしろい」「参加したい」と思える授業づくりに学校全体で取り組む必要があります。

広島県教育委員会としての取り組み

 教育現場で改革を進めるポイントは、組織的に、かつ現場に寄り添って進めることです。

 広島県教育委員会(以下、県教委)では、2019年4月に新たに個別最適な学び担当課、2020年4月には学校教育情報化推進課という部署を設置しました。個別最適な学び担当課は、文字どおり「公正に個別最適化された学び」の推進に取り組んでいます。また、学校教育情報化推進課は、学校でICTを活用した授業に実績のある先生や専門的知識を有する職員等で構成されており、県立学校の情報化の推進をミッションとしていますが、市町の教育委員会の情報化も支援しています。先行してPCを導入している県立高校の教員が近隣の小中学校の教員に研修を行う例もあります。

 個別最適な学び担当課では、教職員の研修も担当、ICTを活用した統合的な教職員研修を実施しています。この研修は、「本質的な問い」を軸とした授業の設計手法を理解することを目的とし、さらにこれまで別々に行っていた「ICT活用研修」や「学習評価研修」を統合した研修です。一人一人にG Suiteのアカウントを付与して行うため、受講者同士でオンライン上での学びの在り方を体験することができます。初めてG Suiteを使う先生も多いため集合研修の形をとっていますが、同じ班の人をあえて別々の部屋に配置して遠隔の環境を体験するといった工夫もしています。

小中学校の教育に「チョイス」を

 以上のような、GIGAスクール構想の後押しに加え、教育に「チョイス」を作る取り組みを県の立場からも積極的に行っています。

 1つ目は、インターナショナルバカロレア(IB)校の設置やイエナプラン教育の推進です。広島県立広島叡智学園中学高等学校は、インターナショナルバカロレアのカリキュラムで学ぶ中高一貫校で、広島県の「学びの変革」を牽引する学校です。福山市立常石小学校は、2022年4月に開校予定の、公立校としては日本初となるイエナプラン教育校であり、1~3年生・4~6年生の異年齢集団を基本単位として教育活動を行います。「社会に出るといろいろな年齢の人が混ざって仕事をするのに、なぜ学校は違うのだろう」と、私は子供のころから不思議に思っていました。異年齢集団では子供同士が教え合い、さらに、教える側にも学びが生まれます。また、ここでは子供たちは自分で時間割を作ります。子供本人に課題意識がないまま進む授業とは異なり、自分自身が疑問に思ったことを探究することで、より主体的に取り組むことができるのです。

 このような教育が公立の小学校でできるのか、という質問をよく頂きます。しかし、小学校の学習指導要領には「合科的な指導」というものがあります。国語や算数などの知識は基礎的な力として担保しつつ、子供たちから出た興味や疑問を授業に落とし込んでいき、あとから知識をおさえるという形です。

 2つ目は、教室でも家でもない第3の学びの場の創造です。スペシャルサポートルームの設置や東大ROCKET in広島の取り組みがこれにあたります。

 スペシャルサポートルームは、不登校児童生徒等をはじめ、教室での授業になじめない子供たちへの支援を行う校内フリースクールのような存在で、2020年度は、県の指定校としては、小学校5校、中学校6校に設けています。

 東大ROCKET in広島は、不登校等、学校での学習になじめない児童生徒に、知的好奇心を喚起し、学び続ける力の育成を目指すプロジェクトです。東京大学先端科学技術研究センターと協力して実施しています。

 小中学校では、GIGAスクールの整備が進んでいますが、ICTもこうした「学びのチョイス」を生み出す重要なツールだと思っています。各自治体と連携し、教員研修や子供たちの居場所づくりを通して、今後も教育改革を進めていきたいと考えています。

*G Suite(Google Workspaceに改称) は、Google LLC の商標です
*記事中の名称は取材当時のものです

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