公開日:2024/10/11
生徒が一人でも授業を開講
遠隔授業の先進的な取り組み
―高知県―
高知県立岡豊高等学校 教育センター分室(遠隔授業配信センター)
高知県では、中山間地域などの小規模な高等学校などを対象に遠隔授業を実施している。授業を受け持つのは、高知県立岡豊高等学校 教育センター分室(遠隔授業配信センター)の専任教員だ。全国からも視察に訪れる同センターでは、『InterCLASS®Cloud』を通じて一人一人の生徒に寄り添った遠隔授業を行っている。
高知県立岡豊高等学校
教育センター分室(遠隔授業配信センター)
〒781-5103
高知県高知市大津乙181
高知県教育センター内
高知県は2015年以降、文部科学省研究事業の指定を受け、遠隔教育における学校体制の構築と生徒の能動的な学習を支援する学習指導方法の研究を実施した。2020年には教育センター内に新たに「高知県立岡豊高等学校 教育センター分室(遠隔授業配信センター)」を設置。単位認定を伴う遠隔授業の配信を開始した。
小規模校などを対象に専任教員が遠隔授業を実施
高知県遠隔授業配信センターの一室。同センターの加藤大輔先生の視線の先には、「情報Ⅰ」の遠隔授業を受ける高知県立室戸高等学校の1年生の生徒たち。2進数や16進数の計算を、対面の授業と同じように電子黒板を使いながら、画面の向こうにいる生徒に説明する。もう一つの大きなモニターに映し出されるのは、生徒が授業で使っている Chromebook™ の画面を一斉に表示する授業支援ツール『InterCLASS®Cloud』(インタークラス クラウド)の画面だ。
加藤先生は現在、室戸高等学校を含む高知県内の3つの高等学校で情報の遠隔授業を受け持っている。各授業の生徒数は7人から17人。それでも遠隔授業としては多い方だと、同センター副校長の宮地誠也先生は話す。
高知県では人口減少に伴い、中山間地域の小規模校で生徒数の減少が著しく、教員の配置が限られることが課題となっていた。「都市部の大規模校と違って、小規模校では大学受験に必要な科目を対面授業で開講することが困難な場合があります。地理的条件や学校の規模に左右されず、大学への進学など多様な進路希望を実現できる教育環境を整備するために、高知県では早くから遠隔授業に関する検討や研究を進めてきました」(宮地先生)
高知県で遠隔授業の具体的な取り組みが始まったのは2015年のこと。文部科学省研究事業の一環として、最初は本校から分校、続いて同一町内の2校と、学校間をつなぐ遠隔授業の実証が3年間行われた。2018年から翌年にかけても同省の研究事業を受託し、研究が進められた。
2019年には、高知県教育センターの中に「遠隔教育等を担当する次世代型教育推進部」が設置され、同センターと中山間地域の高等学校に遠隔教育システムを整備。教育センターの指導主事などによる遠隔での補習授業が始まった。さらに翌2020年には、教育センター内に「高知県立岡豊高等学校 教育センター分室(遠隔授業配信センター)」を設置。管理職を含めた専任教員を配置し、補習だけでなく、単位認定を伴う遠隔授業が同年度から開始された。
『InterCLASS®Cloud』で生徒の進度に合わせた指導
2024年度の遠隔授業は、高知県内の高等学校14校、267人の生徒を対象に延べ39講座、週109時間が実施されている。その中には生徒数1人という遠隔授業も少なくない。現在は非常勤を含めて11人の先生が、教育センター内の4つの配信スタジオから遠隔授業を行っている。
遠隔授業を開始した当初はビデオカメラと電子黒板、プロジェクターを用いてテレビ会議のような形式で遠隔授業を行っていたが、高等学校における1人1台端末の環境整備により、高知県では2022年に県立高等学校の全生徒に Chromebook が配布され、Google アカウントを介した生徒とのやり取りが日常的に行われるようになった。情報Iの遠隔授業が開始された2023年10月には、『InterCLASS®Cloud』のために31・5型の大画面モニターが追加された。モニターが大きくなったことで、先生は生徒全員のパソコンの画面が格段に確認しやすくなった。
『InterCLASS®Cloud』の利点について加藤先生は、「生徒を個別に指導できるのがありがたい」と話す。「情報の授業では、文字を打つのが速い生徒と遅い生徒がいるなど課題に対する進度がまちまちですが、誰がどのような状況かを一つの画面で確認することができます。ある生徒には遅れをフォローしたり、別の生徒にはさらに進んだ課題を出したりと、個々の生徒に合わせた対応ができます。私にとってはたいへん使いやすいツールです」(加藤先生)
遠隔授業の実現に必要な環境の継続的改善と運用ルール
高知県では早くから遠隔授業に取り組んできたこともあり、遠隔授業配信センターには全国から多くの人が視察に訪れる。現在では普通に行われている遠隔授業も、当初は苦労が絶えなかったと宮地先生は振り返る。
「遠隔授業を始めるに当たっては、遠隔教育システムの機器選定・設置も大切ですが、それ以上に各学校における遠隔授業への理解が大切です。当時、私は教育センターの一員として配信先のすべての高等学校を回り、遠隔授業を行う意義や利点について丁寧に説明しました。また、教員には遠隔授業で生徒にどう教えれば良いかというノウハウがありませんでした。現在は対面授業においても Chromebook や『InterCLASS®Cloud』が使われている上、遠隔授業では Google フォームなどを用いて生徒の理解度を確認したり、1人1台端末の画面を見ながら演習の様子などを見取ったりしています。こうしたノウハウを教員間で共有し、改善を続けています」(宮地先生)
遠隔授業の実施を検討している他県の学校や教育委員会に対して、宮地先生は提案する。「各県の状況に合わせて、システムや機器環境を含めた環境の改善を継続的に行う必要があります。そのためには、現場の教員が意見や要望を発信して、教育委員会に伝えて要望を予算化するという手順が重要です。また、高知県では遠隔授業配信センターと各学校との連携を円滑にするため、運用のルールを細かく設定しています。遠隔授業が円滑に行われるよう、想定される不具合を事前に取り除くことが大切だと思います」(宮地先生)
※Chromebook は、Google LLC の商標です。
遠隔授業配信センター
副校長
宮地 誠也 先生
遠隔授業配信センター
情報科 教諭
加藤 大輔 先生