1人1台 教育現場は今

―東京都―
立川市立第一小学校

2019年12月に打ち出されたGIGAスクール構想。コロナ禍を受けて整備が前倒しされ、2020年度中の整備が全国的に進められた。
早くから1人1台の環境を実現できていた学校もある一方で、なんとか整備を間に合わせ、少しずつ利活用の幅を広げようと奮闘している学校も多いのではないだろうか。
2021年度の「GIGAスクール元年」、実際の学校現場ではどんな1年を迎えていたのか。1人1台環境の導入時期、その際の課題や苦労、現在の取り組みなど、公立小学校の等身大の「今」を取材した。

1人1台 教育現場は今
立川市立第一小学校

立川市立第一小学校
〒190-0023 東京都立川市柴崎町2丁目20−3

明治3年創立の歴史ある学校。「自分で考え行動する子」「心豊かで思いやりのある子」「体をきたえ元気な子」を学校教育目標とする。

1人1台端末の整備時期

 GIGAスクール構想以前、立川市立第一小学校で児童用に用意していたタブレットPCは全校で1クラス分の40台ほどだったという。児童が授業中にPCを使う機会はほとんどなく、教員用PCから大型提示装置にデジタル教科書などを映し出すのが主な活用方法だった。

 そんな同校で1人1台端末の整備が始まったのは2020年9〜10月のこと。立川市内の公立小学校で一斉に、まずは教員用と4〜6年生用の Chromebook™️ が配付された。翌年度2021年5月に1〜3年生用のChromebookが配付されたことで、全校児童と教員用の端末が全て揃った。

ICT担当教員による研修で慣れない教員を徹底サポート

 1人1台の導入時、Chromebook に触るのは初めてという教員がほとんどだった。そこで配付直後からICT担当教員が校内研修を何度も重ねることで、教員は基本的な操作から活用方法までを学んでいったという。

 同校では田中光晴校長の経営理念のもと、特に若手を中心とした各教員が学校運営におけるさまざまな役割を担うことで、学校という1つのチームをつくり上げているのが特徴だ。「オリ・パラ教育部」、「学校図書館活用部」、「体力向上部」など多岐にわたる中で「GIGA・ICT教育推進部」として校内のICT活用の推進役を担っているのが戸井田健宏先生を始めとした若い教員3名だ。

 「Chromebook って何ができるの? そもそもGIGAスクール構想って何?というところから、自分で調べたり校外研修で学んだりしたことを元に校内研修をスタートしました」と戸井田先生。研修では、 Google Classroom の機能を使った課題の配付の仕方を中心に、便利な機能を一つひとつ紹介していった。今でも月1回ほど行う活用面の研修のほか、活用ルールについても立川市教育委員会から新たな通知や変更等がある度に別途研修を行っているという。「活用ルールについて保護者向けに説明する場もつくりました」と同じくICT担当で特別支援学級「あおぞら学級」担任の清水希巳先生は言う。

 ICT担当として特に心がけたことは?という問いかけに、彼らは「困っている先生方が自分たちICT担当に対して、いつでも気軽に質問したり相談したりできる風土づくり」だと口を揃える。

1人1台環境の今

●高学年(4年生)

 校内研修や管理方法の検討など1ヶ月の準備期間を経て、2020年10〜11月にはいよいよ4〜6年生の1人1台環境がスタートした。

 子供たちには、学習目的の利用に限ることやモラルを徹底した上で、まずは電源の入れ方、パスワードの入力方法から始まり、Google Classroom の使い方、そしてコロナ禍でいつオンライン授業になっても対応できるよう、Google Meet™️ の使い方を徹底的に教えたという。

 「高学年から導入したこともあり、子供たちの適応の早さを肌で感じました」と話す戸井田先生のクラスでは、雨天時の休み時間や給食後の空き時間などを利用して子供たち自らタイピング練習を行っている。今では彼らのタイピング速度は大人顔負けだ。「早く打てる方がカッコイイ、という感覚が子供たちの間にあるようで、競い合うように練習しています(笑)」(戸井田先生)

 取材当日、4年生の社会の授業で行われていたのは「都道府県スリーヒントクイズを作ろう」。クイズを作って解き合うことで都道府県の位置や特産物を覚えるのが目的だ。

 子供たちは地図帳を見ながら好きな都道府県を1つ選び、それを説明する3つのヒント(文章)を考える。Google スライド™️ 上で、インターネット検索で拾った画像も組み合わせながら手際良く作成していく。作成後はそれぞれ自分の端末を片手に移動し、お互いに問題を出し合い、最後に Google Classroom 上の振り返りシートに各自感想を書き込んで終了した。

 戸井田先生は「1人1台」の便利さを実感している。「子供たちの見取りがしやすくなりましたね。Google Classroom で課題を配布したり、授業中に子供たちの意見が一覧表示されるので意図的な指名を行いやすくなったり。教材研究もスピードアップし、自分にとってプラスに働いています」

数人ずつでお互いにクイズを出し合う
数人ずつでお互いにクイズを出し合う
まずは地図帳を広げて場所選び
まずは地図帳を広げて場所選び
振り返りシートに感想を書き込む。タイピングはお手のもの
振り返りシートに感想を書き込む。タイピングはお手のもの
Chromebookの画面を大型モニターに投影し、クラス全員に出題
Chromebookの画面を大型モニターに投影し、クラス全員に出題

●低学年(2年生)

 2年担任の石川真履先生は、「機械慣れは子供たちの方がずっと早かったです。正直なところ私の方が『わからないからあまり使いたくない』という気持ちが最初はありました」と苦笑する。子供たちは最初のうちこそ「端末を立ち上げ、パスワードを入れてログインする」という一連の操作にてこずったものの、夏休みの持ち帰りが功を奏し、2学期になってからは、パスワードも覚え、スムーズに立ち上げられるようになったという。

 授業では、低学年でも使いやすいカメラ機能の活用から始めた。生活科では、育てていたナスとピーマンの違いについて写真を撮って考えたり、撮影した生き物の写真を見ながら絵を描いたりしたという。

 国語の「仲間の言葉と漢字を集めよう」という学習では、Google Jamboard™️ を活用して意見の交流を図った(画像①)。ただ、Google Jamboard の「共有」機能については「子供たちがいたずら書きしてしまうので、授業では使いづらい」と石川先生は1人1台環境下で見えてきた低学年特有の課題も口にする。「また、1〜2年生はローマ字を習っていないし、そもそもタイピングができないので、文字は手書き入力するしかありません」。とはいえ、子供たちは「自分の端末」という感覚で喜んで使っているという。

 音楽では同学年の他クラスの先生が「リズムづくり」の教材を作成し、学年の教員間で共有し活用した(画像②)。「昨年は紙で作ったのですが、チョキチョキ切るので周りがゴミだらけ。作成後もバラバラにならないよう管理が大変でした。これなら子供たちがすぐに遊べるし、『1つできたら次のもあるよ』などの声かけも簡単。使い方によってはとても効果的だと感じました」(石川先生)

 そんな2年生の間で今、石川先生が1人1台環境を日常的に活用しているのが算数の授業だ。かけ算の意味を捉えるための「おはじき」(画像③)や「九九カード」(画像④)は、Google Jamboard や Google スライド による石川先生の自作教材だ。

 「フリー素材をコピーして貼って、画面上でおはじきを動かせるようにしただけなのですが、子供たちはすごく意欲的に取り組んでくれました。授業が終わったら各自端末を閉じるだけ。算数セットやブロックを使った今までの授業と比べて、何より後片付けがラクでした」

 冬休み前に「せっかく端末を持ち帰るなら意味のあるものを持たせたい」との思いから作成した九九カードについては、「単語帳のような九九カードを作って子供たちに共有したら、子供たち自ら操作できたんです。例年購入していた九九カードを、今年は買わずに済みました」と笑顔を見せた。

 「子供たちのために今後のICT活用頻度を高めたい」と話す石川先生。市の小学校教育研究会の情報教育部に自ら参加し、そこで得た知識も参考にしながら教材作りや日々の活用にチャレンジしている。

 「『使わなきゃ』と焦りがちですが、その時の授業の狙いからずれてはいけないとも思っています。あくまでも道具の一つ。ノートやワークシートの代わりとして、使う場面を選びながら活用の幅を広げていきたいです」(石川先生)

①国語「似た意味の言葉」(Google Jamboard)
①国語「似た意味の言葉」(Google Jamboard)
②音楽「リズムづくり」(Google スライド)
②音楽「リズムづくり」(Google スライド)
③算数「おはじき」(Google Jamboard)
③算数「おはじき」(Google Jamboard)
④算数「九九カード」(Google スライド)
④算数「九九カード」(Google スライド)

●特別支援学級「あおぞら学級」

 およそ25人の児童が在籍する「あおぞら学級」では現在、3〜6年生を中心に1人1台の活用を進めている。

 使わせ方やルールなど、基礎の部分の組み立てについて重点的に検討し準備をしたことで、特別支援学級でも既存の実物投影機の活用に加え、効果的な1人1台端末の活用が可能になってきている。

 漢字の学習では、縦画・横画・点などの「画」を組み合わせて漢字を作る教材を Google Jamboard で用意したところ、子供たちはタッチ操作を通して意欲的に活動に取り組んだという。「子供たちが触りながら操作できる教材をその子たちの段階に応じて簡単に作って配付できるようになったことは、すごくプラスに働いていると思います」(清水先生)。他にも、自分たちの発表練習を Chromebook で動画撮影し、様子を振り返るなど活用方法はさまざまだ。

 「将来の“パソコンを使う就業”に向けて、小学校時期の1人1台環境は技能の修得につながるでしょう。今後は、特に低学年の子供たちが触れる機会を全校で今以上に増やしていきたいです」と清水先生はICT担当としての責任感と意気込みを覗かせた。

新しいものを取り入れながら変えない部分を残す

 田中校長は自らの経営理念に「不易流行」を挙げる。「物事には変えてはいけない部分と時代に応じて変わらなくてはいけない部分とがあります。学校教育における後者がまさにGIGAスクール構想です。新しいものをしっかり取り込むことで学校の経営力を高め、子供たちの学びをより良いものにしていきたいと考えています」。

※Chromebook、Google Meet、 Google スライド、Google Jamboard は、Google LLCの商標です。

副校長<br>丹野 優子 先生

副校長
丹野 優子 先生

特別支援学級担任・ICT担当<br>清水 希巳 先生

特別支援学級担任・ICT担当
清水 希巳 先生

4年担任・ICT担当<br>戸井田 健宏 先生

4年担任・ICT担当
戸井田 健宏 先生

2年担任<br>石川 真履 先生

2年担任
石川 真履 先生

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