公開日:2021/11/12

「アウトプット」と「リアクション」のサイクルでこの町がもっと好きになる

学級でインスタグラムを運営

―北海道―
羅臼町立羅臼小学校

北海道・羅臼町立羅臼小学校6年生の児童が、写真・動画共有アプリ「インスタグラム」を使って地元の魅力を発信している。1人1台端末を活用し、総合的な学習の時間の一環としてこの活動を始めて約3ヶ月。そこにどのような学びが生まれているのだろうか。

「アウトプット」と「リアクション」のサイクルでこの町がもっと好きになる
羅臼町立羅臼小学校

羅臼町立羅臼小学校

〒086-1833 北海道目梨郡羅臼町本町41

世界自然遺産「知床」の豊かな自然のふところで人・自然・まちと触れ合いながら、ふるさとを愛し、自他のよさを認め合い、個性を磨き、「心豊かにたくましく生きる子ども」の育成を目指す。

「知床学」学習成果のアウトプットの場を求めて

 羅臼町はオホーツク海に長く突き出た知床半島に位置し、世界自然遺産「知床」に代表される大自然に囲まれた町である。古くから漁業が盛んで、中でも「羅臼昆布」は非常に希少な昆布として名高い。

 羅臼町立羅臼小学校では総合的な学習の時間の中に「知床学」を位置づけ、さまざまな角度からふるさとの魅力について学んでいる。

 その「知床学」で5年生が取り組む「昆布学習」では、例年、学習の成果として「昆布図鑑」を作成し、海洋教育の大会などに出向いて発表する機会があった。しかし2020年度はコロナ禍により、発表の場に直接出向く機会が失われてしまった。

 1人1台端末の本格的な活用方法を検討していたこともあり、対面での発表の代わりにインターネット上で学習成果を発信する手段を考える中で、担任の登藤英臣先生がたどり着いたのが、写真・動画共有アプリ「インスタグラム」だった。「遅かれ早かれ、子供たちはSNSに触れることになります。SNSとの上手な付き合い方や使い方も含め、指導していきたいと考えました」と登藤先生。

 そのような経緯から、登藤先生と羅臼小学校の6年生16人がインスタグラムのアカウントを開設したのが2021年6月。「日本初!?学級でインスタグラム」との触れ込みで投稿をスタートした。個人の写真は投稿しないというルールを決め、子供たちは各自のタブレットPCで写真を撮影し、投稿時は学級用の端末から、登藤先生の最終チェックを経て投稿している。

 「あくまで発信の手段として使い始めたインスタグラムですが、今では『知床学』の活動の軸になっているのは間違いありません。発信に対する『いいね』やコメントなど、すぐにリアクションを得られることも大きな変化ですし、毎日投稿しているので、その発信頻度という意味でも、子供たちの活動内容が一変しました」

地域や社会とのつながりがモチベーションに

地域や社会とのつながりがモチベーションに地域や社会とのつながりがモチベーションに

 子供たちが自分たちの町について学び、町の魅力をインスタグラムで発信する上で、キーワードの1つとなるのが「観光」だ。

 社会科で地方自治や税金の仕組みについて学習する中で、羅臼町の人口減少や税収の実態にも触れ、町のために自分たちができることを考えた。盛んな漁業と大自然が魅力の羅臼町。町の未来を考える上で重要なふるさと納税の仕組みを学んだり、観光業を盛り立てるために必要なPRについて話し合ったりもしてきた。

 「インスタグラムで羅臼町の魅力を発信すると、それを見た人が町に来てくれるなど、直接的な影響も十分考えられます」と話す登藤先生。実際、旅行先を選ぶ際にインスタグラムを参考にする人は多いといわれている。「みんなの発信がきっかけになって、羅臼町に行ってみたい、住みたいと思う人が増えたらすてきだね、と子供たちにも話しました」

 着々とフォロワー数が増えているインスタグラムには、「山がきれいですね」「自然がいっぱいでいいですね」など、多くのコメントが寄せられる。「今年羅臼町に行きました」というメッセージが届いたり、羅臼小学校の写真を投稿する人がいたりするなど、「学校の外の広い社会とのつながりを実感している」と登藤先生。

 小学生の子供たちにとって「日常」である学校や町の様子を「町の特別な魅力」として発信するためには、「自分にとっての“当たり前”が、実は羅臼町の大きな魅力であり観光資源でもある」という気づきが必要となる。子供たちはフォロワーのリアクションからその気づきを得て、それをまた次の投稿に生かすというサイクルが生まれているといえるだろう。

 登藤先生は、子供たち自身が積極的にアンテナを張って、インスタグラムに投稿するための“ネタ”を探すようになってきていると実感している。シャッターチャンスを見つければ休み時間にも撮影をしたり、他の学年にも撮影を依頼したりと、内容を充実させようという子供たちの意気込みが感じられる。

 「学校生活全般においても、自分たちで何でも主体的に取り組むことのできる子供たちなので、私は最終的な許可を出すだけです」と登藤先生が話す通り、インスタグラムについても、投稿の最終的な許可を出すのは先生だが、子供たち自身でお互いの投稿を確認したり、話し合ったりして内容を決めているという。

 児童の前田さんは、「始めたころは先生に言われてから投稿する内容を考えていたけれど、最近は自分たちでどんな写真を撮るか考えることが増えました。北海道以外の人もたくさん見てくれていると思います。応援してくれるコメント、すごいねというコメントがあってうれしいです」と話す。

 自分たちの発信が町の活性化に貢献する。その実感が、子供たちの大きなモチベーションとなっている。

写真の構図、文章の推敲など教科等横断的な学びも

羅臼町立羅臼小学校

 インスタグラムの投稿を作るにあたって、具体的にどのような指導が必要となるのだろうか。

 登藤先生は「見てくれる人のことを考えて、写真の撮り方や言葉づかいをよく考えるよう指導しています」と、図画工作科や国語科との関連も意識する。

 児童の菅原さんは「投稿を繰り返すうちに、写真が上手に撮れるようになってきたと思います。まっすぐ撮るだけではなくて、真上から撮ったり横から撮ったりと、工夫をしています」と話す。

 言葉づかいに関しては、この地域ならではの課題もあった。「小さな町なので、子供たちは知らない人と話す機会がほとんどないんです。そのため、インスタグラムのような不特定多数の人に向けた文章を作ることは非常に良い学習になっています。投稿する前に児童が作った文章を添削しながら指導しています」と登藤先生。

 文章は、見出しや最初の一文で読み手が続きを読みたくなるかどうかを考えたり、写真は、同じ被写体を撮った写真の中から最も魅力的に見える構図のものを選んだりしている。読み手を意識して1つの投稿を作るまでの過程が、さまざまな活動につながる。まさに教科等横断的な学びといえるだろう。

フォロワーとの交流も

 「たくさんの人に見てもらえないと意味がない」と話す登藤先生。フォロワーを増やすための工夫もしている。「自分たちを応援してもらうために、自分たちのことを知ってもらう投稿、それから、羅臼町のことを知ってもらう投稿。その2種類を軸に発信するように指導してきました」

 投稿をより多くの人に見てもらうため、「ハッシュタグ」も活用する。子供たちと一緒に羅臼町に関する他の投稿を見て、どういうハッシュタグが付いていると「いいね」が多いか、などの分析も行ってきた。

 「悪意のあるコメントが付く可能性も十分考えられますので、その場合は削除しようと思って見ていましたが、温かいコメントや応援のメッセージが多くて驚いています」と登藤先生。この取り組みに注目して楽しみにしてくれている人が多いという。また、コメントで「次はこういう写真も載せてみたらいいのではないか」「こういうハッシュタグを付けたら見る人が増えるよ」などのアドバイスを受けることもあり、登藤先生は「たくさんの方が子供たちの学びを見守ってくれているようでうれしいです」と話す。

 コメントへの返信についても、登藤先生の最終的な許可を経て児童が行っている。フォロワーの増加とともに多くのコメントが寄せられるようになり、「うれしい悲鳴」と話す登藤先生。「こんなふうに不特定多数の人とやりとりをすることは今までなかったので、新たな学びの機会が増えました。得たものは大きいですね」

1人1台端末とSNSの活用で生まれるサイクル

 今後は、これまでの人気のある投稿を比較分析して、反応の良さそうなネタをより多く投稿するなど、さらなるフォロワーの獲得にも力を入れていく予定だ。その過程にはたくさんの学びの機会が期待される。

 「いいねが付く、フォロワーが増える。たくさんの人が喜んでくれることが子供たちの何よりのモチベーションになっています。また、フォロワーからのリアクションによって子供たちは今まで気づかなかった自分たちの町の魅力に気づき、それが次の『アウトプット』をより良いものにしています」と登藤先生。

 1人1台端末とSNSを組み合わせることで実現したこの取り組み。子供たちのアウトプットに対して「フォロワーからのリアクション」と「地域の活性化」という2つの結果が返ってくることで、子供たちの活動へのモチベーションを上げ、学習をより主体的なものにしているといえるだろう。

 子供たちの「アウトプット」と読み手からの「リアクション」のサイクルが、フォロワーの増加とともにより多くの学びを生み出す過程に注目したい。

# こんな投稿をしています!!
教諭<br>登藤 英臣 先生

教諭
登藤 英臣 先生

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