GIGAスクール2年目! 学習指導要領が求める資質・能力を育むために1人1台端末とクラウドで授業を変えていこう

東北大学大学院 情報科学研究科
東京学芸大学大学院 教育学研究科
堀田 龍也教授

GIGAスクール環境の利活用が、いよいよ2年目に突入する。 今年度は、GIGAスクール構想本来の目的である学習指導要領で求められる 資質・能力を育むために、1人1台端末やクラウドを使っていくことになる。 学習指導要領では「能力観」が大きく変わったため、 「授業観」も変えていく必要があると、堀田龍也教授は指摘する。

東北大学大学院 情報科学研究科 東京学芸大学大学院 教育学研究科 堀田 龍也教授

「激動の時代」に突入した今、「今までの学習指導要領とは違う」と肝に銘じよう

1年目でしっかり「慣れた」か振り返ろう

 GIGAスクール構想で整備された1人1台端末やクラウドの本格活用が始まって、1年が経ちました。先生方がとても頑張った1年間だった、という印象です。

 端末が来た当初は、不安だったと思います。使い始めてからも、試行錯誤の連続だったでしょう。そんな日々の奮闘を経て、今や1人1台端末やクラウドに先生も子どもも、すっかり慣れたのではないでしょうか。端末を使わない日はないというぐらい、利活用が定着したはずです。GIGAスクール1年目は、1人1台端末やクラウドに「慣れる」期間だったと言えます。2年目に入る前に、この1年でしっかり慣れたかを確認しましょう。

 まず、子どもたちに「情報活用能力」が身についたでしょうか。例えばキーボード入力は、学習に支障がないレベルに、全員が到達していますか? クラウドの操作スキルは身についたでしょうか? こうした「情報活用能力」は、すべての「学習の基盤」となる力だと、学習指導要領に明記されています。すべての教科で、情報活用能力が身についている前提で授業が進められます。ですから、ICTが得意な子どもだけでなく、すべての子どもに情報活用能力を身につけさせなければなりません。子ども一人ひとりが「学習の道具」として端末やクラウドを使える情報活用能力が身についたか、今一度点検しましょう。

 すべての子どもをそうした姿へ成長させるには、ICTが得意な先生だけでなく、すべての先生が、端末やクラウドを用いた授業を行えるようにならねばなりません。校内が一丸となって取り組めるように、管理職はカリキュラム・マネジメントを行い、できていないところがないか点検し、適切な手立てを講じましょう。

 出遅れたことを自覚している学校や自治体も、あると思います。端末を使わせる前から厳しい使用ルールを定めてしまい、子どもたちの活用を妨げてしまったり、子どもがトラブルを起こし失敗を犯すのを恐れるあまり、先生が指示した通りにしか使わせなかったり。これでは、子どもも先生も慣れません。まずは使ってみて、慣れることを優先しましょう。

GIGA2年目は本来の目的に迫る

 1年目が「慣れる」期間だったとしたら、2年目はGIGAスクールの「本来の目的に迫る」フェーズに入ります。「本来の目的」とは、学習指導要領が求める学習を実現し、資質・能力を育むことに他なりません。

 図1を見てください。これが、学習指導要領の「立て付け」です。「個別最適な学び」や「協働的な学び」といった学習活動を一体的に充実させて、「主体的・対話的で深い学び」になるように授業を工夫し、改善していく。そうすることで、これからの時代に必要な「資質・能力」を、子どもたちに育んでいく。そのために必要な「インフラ」として、GIGAスクールは整備されたのです。

東北大学大学院 情報科学研究科 東京学芸大学大学院 教育学研究科 堀田 龍也教授
図1 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実
出典:文部科学省「学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料」を基に作成

 注意してほしいのは、学習指導要領の考え方が、今までのそれとは大きく様変わりしている点です。「今までの学習指導要領とは違うんだ」と、肝に銘じてください。

 今までの学習指導要領は、「社会があまり変化しない」前提で、作られていました。しかし皆さんも肌で感じているように、今、社会は「激動の時代」に突入しています。いつ、何が起きるか、誰にも予測できません。新型コロナウイルスの世界的流行を見れば分かるように、誰も経験したことのない未知の事態に、試行錯誤しながら対応していかねばなりません。働き方やキャリア設計も、一昔前とはずいぶん変わりました。昔は終身雇用が当たり前でした。

 しかし今や転職するのは当たり前で、「ここに入れば一生安泰」と誰もが憧れたような大企業でも、新型コロナで屋台骨が揺らいだりしています。人生百年時代と言われる長寿社会ですし、新卒で入った会社で一生働くようなことは、むしろ珍しくなっていくでしょう。

 このような時代ですから、学校を卒業した後も、自分で学び続けなくてはなりません。自分でキャリアプランを描き、そのために必要な勉強に取り組み、キャリアチェンジをしながら、自分の人生を創り上げる。チャレンジの連続で人生を切り開く。そうした力、そうした生き方が、求められる時代なのです。

「非認知能力」がキーワードに!
周囲と協働で課題を解決する力が求められる

育むべき能力観が大きく変わった!

 社会が変われば、学校教育で育むべき力も変わります。今までのような、テストで高得点を取る「学力」だけでは、足りません。そもそも学習指導要領では、「学力」という言葉に代わって、「資質・能力」という言葉を用いています。

 基礎的・基本的な「知識・技能」の習得は、依然として重要です。しかし習得して終わりではなく、その「知識・技能」を用いて「思考・判断・表現」する力や、「生涯にわたって学び続ける力」を育むことを、学習指導要領は強く求めています。

 最近「非認知能力」というキーワードが注目されていますが、失敗してもめげずに学び続ける姿勢や、周囲の人たちと協働して課題を解決する力なども、点数で測るのが困難な「非認知能力」です。こうした力を、学校教育で育んでいかねばなりません。求められる「能力観」が拡大したことを、まず理解してください。

 子どもに育むべき「能力観」が変われば、教育方法や学習方法も変わらざるをえません。最近、「自己調整学習」や「個別最適な学び」が話題です。「個別最適な学び」と聞くと、AIドリルがその子に合った最適な問題を自動で出題してくれる様子をイメージしがちですが、これは誤りです。機械が「最適化」してくれるのを受け身で待つのではなく、子どもが自分で学びを「最適化」できるようになるのが目標です。

 自分が学びたいことを発見し、自分なりのやり方で、自分のペースで学んでいく。学習計画や学習方法を必要に応じて修正し、ゴールにたどり着いたら、新たな課題を見つけて探究し続ける。こうした力を身につければ、社会に出てからも学び続けられます。

 「個別最適な学び」が広がっていくと、従来の一斉指導、チョーク&トークで先生が教え込む授業では、対応できなくなります。子どもたちは、多様です。クラスの7・7%が発達障害の可能性があり、家で日本語をあまり話さない子も約3%にのぼるなど、多様化はますます進んでいます(図2)。だからGIGAスクール構想で1人1台端末やクラウドを整備し、子ども一人ひとりが自分で「個別最適な学び」をできる環境を整えたのです。

東北大学大学院 情報科学研究科 東京学芸大学大学院 教育学研究科 堀田 龍也教授
図2 教室の中にある多様性・子ども目線の重要性
出典:内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 教育・人材育成ワーキンググループ「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ<中間まとめ>」を基に作成

 そうなると、先生の役割も変わります。教え込む役割から、子どもの学びを見守り、導いてあげる役割へシフトします。「ティーチングからコーチングへ」と変わるのです。

 学習の主導権も、先生から子どもへと移っていきます。先生が「今日はこの課題を勉強します」「さぁ話し合って」「じゃあ発表して」と逐一指示するのではなく、子ども一人ひとりが最善の学習活動を選択して、自分のペースで進めるようになります。

 「能力観」が変わったことで、「授業観」の変化が要求されている。この大変化を、先生方や教育委員会の方々は、理解しているでしょうか?理解した上で、端末やクラウドを整備し、活用しているでしょうか?「端末やクラウドの効果的な活用方法を教えて」と、よく質問されます。結論から言うと、今までの授業に端末やクラウドを当てはめようとしても、うまく行きません。

 一斉授業の中で、先生が子どもに教え込む道具として端末やクラウドを使おうとしても、「これなら紙で十分。今まで通りでいいじゃないか」と感じるでしょう。今までの授業は昔の「能力観」や「授業観」に基づいて作られ、「紙に最適化」されているので、そういう結論に至ってしまうのです。

「学習の主導権」は子どもが握っている「個別最適な学び」を実現しよう

授業が変貌し始めた藤山台小学校

授業が変貌し始めた藤山台小学校

 端末やクラウドをいち早く活用し始めた学校では、授業そのものが変わり始めています。春日井市立藤山台小学校の久川慶貴先生の学級は、その最たる例です。

 久川先生はまだ中堅の年代ですが、とても授業力の高い先生です。GIGAスクールが本格化する前から実物投影機などのICTを使った、子どもに「分かりやすく教え込む」授業にも長けていました。先生が課題を提示し、子どもたちに活動を指示し、発表させ、最後に先生がまとめる。こうした旧来の授業方法に熟達していました。

 しかし1人1台端末が入り、子どもたちが喜々として自ら学ぶ姿を目の当たりにし、「授業を変えてみよう。子どもたちに学習を任せてみよう」と、大きく舵を切ったのです。

 先生が大まかな課題は提示しますが、その課題をどう掘り下げるかは、子ども一人ひとりに委ねます。その課題に迫っていく方法も、子どもに任せます。教科書を見てもいいし、友だちと話し合ってもいいし、先生に相談してもいい。クラウドで友だちの学びを参考にしてもいい。

 そして授業の最後には、一人ひとりが学びをまとめ、振り返ります。まさに「個別最適な学び」であり、「学習の主導権」は子どもが握っています。

 このような授業が、すべての教科で行われています。久川学級に限らず、春日井市ではすべての市立小中学校で、授業が変わり始めています。今までの授業でよいのかと先生一人ひとりが問い直し、授業はこうあるべきだという固定観念を捨て、学習指導要領が求める資質・能力を育むために、終わりなき授業改革を続けています。

 春日井市で行われている授業は、今までの授業と大きく異なります。それが可能なのも、学級経営がしっかりしていて「学ぶ集団」になっているからです。学習規律が徹底され、情報活用能力が身についているからです。そして何より、子どもたちに「学び方」を習得させています。課題を解決するにはどんな手順で学習を進めればいいかが分かっているから、全員が迷わず学んでいけるのです。

 こうした子どもたちの姿は、「大人が仕事をする姿」に、とてもよく似ています。我々大人も、上司から「今日の課題はこれだ」「今から10分間同僚と話し合え」などと、指示されたりしませんよね。「自分で課題を見つけて、解決しろ。方法は任せる」が当たり前です。この春日井市の事例こそ、GIGAスクールで今後目指すべき姿です。ぜひ一読し、刺激を受けてください。

反転学習で、授業が学びをアウトプットする場へ

 屋代高等学校附属中学校は、中高一貫の県立校ですが、ここでも授業が変わり始めています。反転学習を取り入れることで、先生から教わりインプットする場であった授業が、自分が学んできたことをアウトプットする場へ変貌したのです。

 反転学習は以前から注目はされていましたが、あまり行われていませんでした。紙の教科書やノートでは、限界があったからです。それが1人1台端末の導入で、状況が一変しました。端末を持ち帰ることで、授業前に調べたり、まとめたり、自分なりの考えを持つことが容易になったのです。

 授業は、事前学習で得た自分の意見を発表することからスタートし、ディスカッション中心で進行します。下調べが終わった状態で授業にのぞむので、友だちとの対話や先生からの助言によって、学びがどんどん深まっていきます。大学でも、こうした反転学習が増えてきています。1人1台端末があってこそ、実現可能な学びです。

 先生の役割も変わっています。教え込む役割から、子どもの学びを見守り、導いていく役割にシフトします。多くの先生は子どもに教えるのが好きでしょうから「教える」のを我慢するのはかなり辛いでしょう。特に中学・高校の先生は専門性が高いので、教えたくてうずうずすると思います。

反転学習で、授業が学びをアウトプットする場へ

 でも、大学の卒論指導を思い浮かべてください。大学の先生も高い専門性を持っていますが、学生が自分のテーマを探究していくのを導く立場を貫いています。

 反転学習の導入によって、「家庭学習」の位置づけも変わります。今までは、今日の授業で分からなかったことを解決する「後手」の学習が中心でしたが、「明日の授業のための準備」という「先手先手」の前向きな学びになります。それに伴い、子どもたちの主体性や学習意欲も高まっています。

 もう1点、この学校では月に1回「オンライン授業の日」を設定していることにも注目してください。新型コロナとの戦いは未だ先が見えず、各地で学級閉鎖などが相次いでいます。コロナ対応という観点だけでなく、地震や台風、大雪等の災害で、登校できない場合も出てくるでしょう。そんな時、先生も子どももオンライン授業に慣れていれば、「学びを止めない」で済みます。不登校や病気療養中の子どもに、学びを保障することにもなります。

 そもそも大人は、オンラインで学ぶのが当たり前です。そうした意味でも、義務教育段階でオンラインでの学びを経験させることは、大きなプラスになるでしょう。

先生は「教え込む」役割から「子どもの学びを見守り、導く」役割へ

教育委員会がビジョンを持って、主導しよう

教育委員会がビジョンを持って、主導しよう

 東海大学の柴田隆史教授は、人間工学の専門家です。GIGAスクールで子どもが端末を毎日使うようになった今、健康を害さない使い方を子どもたちに身につけさせようと提言されています。まさにおっしゃる通りで、健康を守る使い方の習得は、今後必須となるでしょう。

 大分県玖珠町は小学校6校、中学校1校の小さな町ですが、教育委員会が「ビジョン」を持ってICT環境を整備し、活用を促しています。学習指導要領が求める新たな「能力観」を踏まえた上で、「我が町の自然や歴史を知り、世界とつながる子どもたちを育てたい」と玖珠町は考えました。

 そして端末とクラウドはそのための手段だと捉え、Chromebook™ を整備しました。周辺自治体のほとんどはWindowsを採用したのですが、Chromebook の方がクラウドの利活用に向いていると、毅然とした判断を下したのです。

 教育長のリーダーシップの下、行政出身の担当者と教育現場出身の指導主事らが上手に連携し、見事な利活用を進めています。子どもたちが作成した玖珠町の魅力を伝える情報を、町のホームページで発信するなど、「子どもが実社会とつながる」活用を進めているのも特徴です。「教育委員会主導」の大切さを、知ってほしいと思います。

ごく普通の小学校が一丸となって前進した記録

 以上4つの事例は、1年目から学習指導要領が求める学びを実現している先進的な事例です。対して立川市立第一小学校の事例は、ごく普通の小学校が、迷いながらも数々の苦難を乗り越え、少しずつ前進していった、GIGA1年目の奮闘の記録です。

 皆ICTが特別得意なわけではない、普通の先生方です。端末やクラウドが入ってきた当初は、不安や不満も出たと思います。そこに田中光晴校長先生は、「不易流行」という経営理念を示しました。教育の目的はいつの時代も変わらないが、教育の方法は時代に応じて変えねばならない――。その校長先生の思いを受けて、丹野優子副校長先生が、教職員みんなで頑張っていく雰囲気と環境を作りました。 無理をしなくていい、できるところから始めたのでいい。分からないことは、先生同士教え合い、頼り合おう。実践をみんなで共有し、学び合おう。まさに「一人の100歩」ではなく、「100人の1歩」です。

 普通の公立小学校が、いかにGIGAと向き合い、歩みを止めずに進んできたか。共感しながら学べる事例だと思います。

ごく普通の小学校が一丸となって前進した記録 ごく普通の小学校が一丸となって前進した記録

GIGAの利活用を支える環境を構築

 都城市教育委員会と葛飾区教育委員会は、教育委員会がしっかりとビジョンを持って、GIGAの利活用を支える製品を導入した好例です。

 都城市教育委員会は、1人1台端末とクラウドを用いて個別最適な学びを充実させたいと、考えました。そのためには、個々の学習の様子を先生が簡単に把握できる仕組みが必要だと判断し、InterCLASS® Cloudを導入しました。

 葛飾区教育委員会は、子どもたちが端末でストレスなく学ぶには、IDとパスワード管理を簡便にする必要があると考えました。そこで、IDとパスワードを一元管理できるExtraConsole®ID Managerを導入しました。IDとパスワードの管理は、GIGA2年目でますます重要になってきます。デジタル教科書が、これからどんどん入ってくるからです。

 教科書会社ごとに違うIDとパスワードを子ども自身に管理させるのはとても大変で、学びを妨げる恐れがあります。認証が一度で済むシングルサインオンにしてあげれば、子どもも先生も楽になり、円滑に学習できます。

 そうした状況を見越して先行投資した教育委員会の先見の明が、素晴らしいと思います。

2040年に向けた学習指導要領も検討開始
新しい教育を創造していこう

次の学習指導要領の検討がもう始まっている

東北大学大学院 情報科学研究科 東京学芸大学大学院 教育学研究科 堀田 龍也教授

 GIGA1年目は、端末やクラウドに「慣れる」期間でした。GIGA2年目は、学習者用デジタル教科書なども用いて、端末を本格的に活用していく期間に突入します。まだ端末に慣れていない、操作もおぼつかない、タイピングスキルも身についていないようでは、この流れに乗り遅れてしまいます。

 中央教育審議会では、次の学習指導要領の検討が始まっています。2040年を見据えて、学校教育や教育制度をどう変えるべきかが、議論されています。

 日本の教育は、これからも変わっていきます。今までの授業観や能力観に固執していたのでは、時代の変化に取り残されてしまいます。子どもたちのためにも、新しい教育を創造していきましょう。

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