GIGAスクール3年目スタート 令和の日本型学校教育の実現に向けて今年度すべきことは

東北大学大学院 情報科学研究科
東京学芸大学大学院 教育学研究科
堀田 龍也教授

GIGAスクール構想で整備された、1人1台端末やクラウドの活用が、いよいよ3年目を迎える。
活用が広く定着した一方で、「現時点での課題も見えてきた」と東北大学大学院 情報科学研究科/東京学芸大学大学院 教育学研究科の堀田龍也教授は指摘する。
今年度は、何をすべきか。何を目指すべきか。 学校や教育委員会への提言をお聞きした。

東北大学大学院 情報科学研究科 東京学芸大学大学院 教育学研究科 堀田 龍也教授

学校間・自治体間の「格差」が
露わになってきている

「GIGAならでは」の良さを発揮できているか

 新年度が始まります。GIGAスクールも、早い学校は今年度が4年目。多くの学校は、3年目を迎えます。毎日端末やクラウドを使って授業が変わり始めた学校がある一方で、まだあまり活用していない学校もあるなど、学校間・自治体間の「格差」が、露わになってきています。

 2022年11月、文部科学省は、1人1台端末活用状況の調査結果を公表しました。図1は、小学6年生が授業でどのぐらい端末を使っているかを、都道府県別に集計したグラフです。「ほぼ毎日使っている」学校は、全国平均で55・4%。端末の活用が、かなり日常化してきたように思えます。

 しかし、都道府県別に見ると、どうでしょうか? 毎日使っている小学校が7割を超える自治体がある一方で、2割3割に低迷しているところもあります。皆さんの自治体はいかがですか?

図1 1人1台端末を授業で活用している学校の割合(小学校・都道府県別 ※政令市除く)
図1 1人1台端末を授業で活用している学校の割合(小学校・都道府県別 ※政令市除く)
(出典:文部科学省「1人1台端末の利活用促進に向けた取組について(通知)」令和4年11月)

 さらにこの調査では、「どんな場面でICTを使っているか」も調査しましたが、まだまだ十分でない実態が見えてきました。例えば「自分で調べる場面でICTを使っているか」では、「ほぼ毎日」と「週3回以上」を合わせても約6割(小学校の場合)。せっかくネットにつながった自分専用の端末があるのに、調べる時に使わなくて、いつ使うのでしょうか?

 「教職員と生徒がやりとりする場面でICTを使っている」も低く、「週3回以上」と合わせても全国平均で42・1%に過ぎません(小学校の場合)。クラウド上で子供が先生に質問したり、先生が助言やコメントをしたりするといった活用を、皆さんの学校では進めていますか?

 「教室にいるのだから、対面で話せばいいじゃないか」と思われるかもしれません。ですが、端末とクラウドを使えば、いつでもどこでも、自分がしたい時に、誰とでもコミュニケーションを取れます。端末を持ち帰った子供が、夕食後や登校前に、授業で分からなかったところをチャットで教え合ったり、ニュースを見て思ったことを書き込んで議論が発生したり。進んでいる学校では、そんな姿が日常化しています。

 にもかかわらず、「端末の持ち帰り」も進んでいません。文科省の調査によると、「毎日持ち帰り・毎日利用」と「毎日持ち帰り・時々利用」を合わせても、全国平均で23・4%(小学校の場合)。都道府県の格差も顕著で、「毎日持ち帰り・毎日利用」が5割近いところもあれば、「非常時のみ持ち帰っている」「持ち帰ってはいけない」ところもあります。教育委員会には今一度考えてもらいたいのですが、非常時にたまに持ち帰ったとして、果たしてうまく使えるでしょうか? ましてや、持ち帰りを禁止するとは、子供の学びを阻害していないでしょうか?

 この調査結果を見ると、端末やクラウドを使い始めたものの、まだまだ「GIGAならではの便利さ」を発揮するレベルには、至っていないと感じます。

 1人1台端末とクラウドを使えば、子供たち一人ひとりが、自分の課題に合った学びを、自分のペースで進めるようになります。同じ教室の中でも、先生や友達に相談する子もいれば、黙々と資料を調べまとめる子もいるなど、「学習の個性化」が進みます。一人ひとり学びが違っても、クラウドなら可視化できるので先生も指導しやすく、「指導の個別化」も進みます。クラス全員が一斉に、同じ学習をしていた「同期・集合」の授業から、一人ひとりが、何を、いつ、どう学ぶかを選択して進める「非同期・分散」の学習に変える力を、GIGAは持っています。

一人ひとりが、何を、いつ、どう学ぶかを
選択して進める力をGIGAは持っている

GIGA先進校では「途中経過」を共有する

 端末やクラウドをどう使えば、「GIGAならではの便利さ」を発揮できるのか。その結果、授業がどう変わっていくのか。その事例が今号に掲載されています。

 座間市立中原小学校や徳島県上板町立高志小学校は、「クラウドの良さを活かそう」と心がけています。特徴的なのが、「途中参照・他者参照」。例えば Google Jamboard™ を使って情報を整理したり、まとめている「途中経過」を、子供同士で見合ったりすることを推奨しています。

 学びの途中経過を参照できると、子供はとても助かります。何をどうすればいいか分からずとどまってしまった子でも、友達の学びを真似すれば、学びの第一歩を踏み出しやすくなります。「他者の真似をしたのでは、その子の学びにならない」と、眉をひそめる先生もいるでしょう。最初は真似にとどまるかもしれません。しかしそのうち、他者との違いを出そうと、自分なりに工夫を凝らすようになっていきます。これも、協働的な学びです。

 「GIGAならでは」の良さを活かした授業を目指す。これを今年度の目標にしましょう。今まで通りの授業では、端末やクラウドならではの特長を活かすのは困難です。逆に端末やクラウドの良さを活かそうとすると、個別最適な学びや協働的な学びが充実し、授業が変わっていきます。これこそが、今後目指すべき、令和の日本型学校教育です。

子供一人ひとりの入力スキルを正確に把握し
練習の機会を作ろう

キーボード入力さえ困難な子供たちも

 GIGAを用いて令和の日本型学校教育を実現するには、情報活用能力の育成が欠かせません。文科省は2022年1~2月にかけて、情報活用能力調査を実施しました。小5・中2・高2それぞれ約5000人を対象とした、大規模な調査です。

 この調査では、情報活用能力を9つのレベルに分け、児童生徒の分布を調べました。高校2年生の約1割が最高のレベル9に達した一方で、気になるのが小学5年生です。レベル1が10%、レベル2が15%もいました。レベル1や2は、基本的な操作や情報を読みとるなどの、ごくごく初歩的なレベルに過ぎません。

 「1分間あたりの文字入力数」(図2)を見ると、ことの深刻さがよく分かります。小学生の平均文字入力数は約16文字ですが、それ以下の子供がこんなにたくさんいます。これでは目当てのキーを探すのに精一杯で、思考は働きません。

 小学校の学習指導要領総則編には、「学習活動を円滑に進めるために必要な程度の速さでのキーボードなどによる文字の入力」を身に付けさせると明記されています。近い将来、全国学力調査はCBT(Computer Based Testing)に移行します。この情報活用能力調査もCBTで行われました。端末を使って入力する機会はますます増えるのに、キーボード入力さえおぼつかない子が、まだまだたくさんいる。憂慮すべき事態です。子供一人ひとりの入力スキルを正確に把握し、練習の機会を作るなどの手立てを講じましょう。これも、今年度頑張ってほしいことの一つです。

図2 キーボードによる1分間あたりの文字入力数
図2 キーボードによる1分間あたりの文字入力数
(出典:文部科学省「児童生徒の情報活用能力の把握に関する調査研究【情報活用能力調査(令和3年度実施)】~速報結果~」令和4年12月)

外部の製品やサービスを上手に利用する教育委員会

 学校現場のGIGA活用を支える教育委員会の取り組みも、今号では紹介しています。

 多くの離島を抱える長崎県五島市では、小規模校間で遠隔授業や交流学習を実施しています。クラウドを使えば、A小学校とB小学校の学級が、まるで同じクラスのように学べます。こうした学びを支えるために、五島市では、学習者の画面共有や資料一斉配布などを簡単に行えるInterCLASS® Cloudを利用しています。また甲府市は、Google の研修サービスを利用しています。

 教育委員会の人員は限られていますし、ICTに詳しい人が不在なこともあります。すべて自前でやろうとせず、定評のある製品やサービスを利用するのは、とても賢い選択だと思います。

ネットワーク環境のアセスメントを行おう

 盛岡市では、各学校のネットワーク状況を可視化し、安定化する製品Tbridge®を導入しています。学習に支障がない通信速度を保てているかを常に把握し、もし問題が発生しても、素早く解決できるようにしています。

 文科省も2023年2月、「ネットワーク環境のアセスメントを行ってください」と、自治体に依頼を出しました。また国として、ネットワーク環境の実態も調査(図3)。これによると、ネットワーク環境のアセスメントを行っている自治体は、約4割。その約半数で改善すべき課題が見つかっています。一方で、アセスメントを行っていない自治体が、まだ5割近くもあります。先生が安心して授業を行い、子供が安心して学ぶためには、ストレスのない安定したネットワークが必要不可欠。その環境を作るのも、教委の大事な仕事です。

図3 ネットワーク環境の評価(アセスメント)の実施状況(令和4年9月1日時点)
図3 ネットワーク環境の評価(アセスメント)の実施状況(令和4年9月1日時点)
(出典:文部科学省「校内通信ネットワーク環境整備等に関する調査結果」令和5年2月)

先進事例を知りつつ一歩一歩前進していくには

 さまざまなセミナーや書籍などで、GIGAの先進事例を学ぶ方も増えています。今号でレポートしている「JAET春日井大会」では、GIGAの成功例として、全国の先生方を始め文科省も注目している春日井市の実践を紹介しています。こうした先進事例に触れ、「今後進むべき道」を知っておくことは、とても大切でしょう。

 しかし、先進事例を真似しても、すぐうまくいくものではありません。一歩一歩進んでいきましょう。文科省のサイト「StuDX Style(https://www.mext.go.jp/studxstyle/)」には、「まずはここから始めよう」という事例が掲載されています。まずは慣れることから始め、「クラウドの良さ」を活かした活用へと進んでいきましょう。

 今号では、東北大学で開催された「データ活用の指導」に関するセミナーも掲載されていますが、教育の未来、情報社会の未来を学べるセミナーなどが、毎週のように各所で開催されています。オンラインで受講できるセミナーも多数あります。先生方も毎日多忙でしょうが、「生涯にわたって学び続ける子供」を育てるには、先生自身も学び続けましょう。

学習者用デジタル教科書は
子供の学習を支える「プラットフォーム」

これから学校教育はどう変わっていく?

 日本の学校教育が向かう数年先の将来についても、お話ししたいと思います。

 まず、学習者用デジタル教科書について。ご存知の通り、2024年度から、小学校と中学校の「英語」で、学習者用デジタル教科書が導入されますが、これからは「学習者用デジタル教科書」「外部のデジタル教材」「クラウド等の学習支援ソフトウェア」を組み合わせて用い、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」を図っていくことになります(図4)。

 まず学習者用デジタル教科書は、紙の教科書と同様、検定を受けて質が担保された主教材です。この学習者用デジタル教科書に軸足を置いて、子供は多様なデジタル教材やネットなどを行き来しながら、学びを深めていきます。言わば、子供の学習を支える「プラットフォーム」です。

 学習者用デジタル教科書から外部のデジタル教材へは、「学習指導要領コード」を使ってリンクを張るので、今学んでいる単元に関係するデジタル教材に、素早く簡単にアクセスできます。教科書会社や教材会社も、この学習指導要領コードの導入を鋭意進めています。チエルでも、教育YouTuberの動画に学習指導要領コードを割り振り、検索しやすくするサービスを開始しました(ページ下部の囲み記事参照)。

図4 デジタル教科書・教材・学習支援ソフトウェアの関係について
図4 デジタル教科書・教材・学習支援ソフトウェアの関係について
(出典:中央教育審議会 個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた教科書・教材・ソフトウェアの在り方について」~審議経過報告~ 令和5年2月)

1人1台端末では性能的に難しい
高度な学習の場としてコンピュータ教室は必要

地方財政措置2年延長
今、整備すべきこと

堀田 龍也教授

 国も、ICT環境整備に関する支援を継続します。2018年度から2022年度まで「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」に基づいて、単年度1805億円の地方財政措置が講じられてきましたが、これを2年延長することが決まりました。

 当初は2022年度までの予定でしたが、この数年で1人1台端末が整備されるなど、大きく環境が変わりました。そこで延長する2年間で次の環境整備計画をしっかり検討し、その間に自治体には、大型提示装置や先生用端末、ICT支援員の配備など、GIGA関連に予算を使って後回しになった部分を整備してもらう。そんなメッセージが込められています。

 コンピュータ教室の整備も、その一つです。1人1台端末が整備されたのでコンピュータ教室を廃止した地域もあるようですが、「それは心得違いですよ」と、文科省は2022年12月に通知を出しました。高度なプログラミングや映像制作、STEAM教育など、「1人1台端末では性能的に難しい高度な学習を行う場として、コンピュータ教室は必要」と念を押したのです。この機会に、コンピュータ教室の充実を図っておきましょう。

今年度の目標は「GIGAならでは」の活用を

 今号では、奈良県と奈良教育大学が連携して教員養成を進めている記事も掲載されています。国や県の意向を踏まえて、地元の学校教育を支えてくれる若い先生方の養成に努めているのです。

 JAET便りも毎号掲載されていますが、JAETの「学校情報化認定」を受ける学校も増えてきました。それだけ、教育の情報化に本腰を入れる学校が増えてきた証拠だと思います。

 GIGA1年目は、とりあえず使ってみようという段階でした。2年目は、授業でどう使おうかと工夫を凝らし始めた時期でした。3年目にあたる2023年度は、ぜひ、「クラウドならでは」「1人1台端末ならでは」の活用に進んでいきましょう。

※Google Jamboard は、Google LLCの商標です。

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