これからの大学入学者選抜のあり方とは

記述式や英語の民間試験導入など大きな改革の波が…
センター試験から大学入学共通テストへの転換

独立行政法人
大学入試センター

大杉 住子審議役


2020年度に向けて、学習指導要領の改訂と同時に、高大接続改革も進んでいる。高等学校教育と大学入学者選抜、そして大学教育を三位一体で行う今回の改革への注目度は高い。先頃には、現行の大学入試センター試験に代わる、大学入学共通テストの実施方針の発表や試行調査の実施などもあった。今、育むべき学力とは何か。そして、大学入学者選抜はどのように変わろうとしているのか。独立行政法人大学入試センターの大杉住子審議役にお話を伺った。

「高大接続改革」の意義とは

 2020年度から段階的に実施される新しい学習指導要領では、幼稚園から小学校、中学校、高等学校、それぞれの段階における質の高い学びを保証しつつ、学びの成果を円滑に接続していくことを大切にしています。そのためには、発達段階に応じた学習の目的や教育の特質について、校種を越えて深く理解し合うことが求められます。

 初等中等教育から高等教育へ移行する高大接続においては、より深い理解と工夫が求められます。大学教育には学習指導要領や教科書はありません。専門とする学問分野において、より主体的に課題を見つけて探究して学ぶ段階へと移行します。指導する側も、学生が自ら学びを深めていくことができるように教授していくことになります。そうした大学教育の特質を高等学校の先生方にはご理解いただき、大学の先生方にも、高等学校までにどのような教育が行われてきたのかをご理解いただくことが、互いの教育の違いを理解しつつ成果を接続していくことにつながります。

 学習指導要領と同様に教育の目的や内容を可視化するものとして、大学では、アドミッション・ポリシー(入学者受入れ方針)、カリキュラム・ポリシー(教育課程編成・実施の方針)、ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与の方針)の3つのポリシーの公表が義務化されています。これらを通じて、大学がめざす教育の方向性と育てたい人物像が明らかになっていますので、高等学校の先生方にはこの3つのポリシーをしっかりと把握していただきたいと思います。

 さて、今回の高大接続改革が注目を浴びているのは、高等学校の教育と大学入学者選抜、そして大学の教育を「同時に」改革するという点にあります。これまでにも、高等学校では、高等学校教育の共通性と多様性を明確にし、充実を図るということがなされてきています。また、大学においても教育の質的転換が求められ、アクティブ・ラーニングの充実が小・中・高等学校に先駆けて行われてきています。これらの改革を異なるタイミングで進めるのではなく、同じタイミングで互いの理解を深め合いながら進めていくことが重要であると考えられたのです。このように、三位一体で改革を進めることにより、高等学校と大学が、子供たちに質の高い学びを保証するという目的を共有しながら進めているということに非常に大きな意味があると言えます。

入試問題は大学からのメッセージ

 今回の改革では、次に挙げる資質・能力をバランスよく育むことが求められています。

①知識・技能
②思考力・判断力・表現力等
③学びに向かう力・人間性

 大学は、学生が高等学校までに培った力をさらに向上・発展させて、社会へ送り出す責務を負っています。そうした責務をしっかりと果たすため、アドミッション・ポリシーに基づき、入学時点で求める大学教育の基礎力を評価するのが大学入学者選抜です。

 鍵を握るのは、入試問題の質です。アドミッション・ポリシーで示された大学の求める基礎力とは何かを具体化したものが、入試問題であると言えます。つまり、入試問題は大学からのメッセージであると捉えていただくとよいでしょう。

 たとえば、歴史的事象について、単に年号を問うような問題を出し続ければ、その大学が求める基礎力は年号の暗記であるというメッセージとして伝わります。一方で、その出来事がなぜ起きたのかという背景や、その出来事によってもたらされた影響などの理解を問うような出題であれば、知識の深い理解や思考力が必要であるというメッセージが伝わります。受験生が大学のメッセージを受け止めることで、受験に向けた学習の成果も大学の求める基礎力に結びつく。入試問題とはそうあるべきだからこそ、常により良い内容を追求していく必要があるのです。

知識と思考力を問う新しい枠組み

 2020年度から実施される「大学入学共通テスト(共通テスト)」では、①知識・技能と②思考力・判断力・表現力に対応し、すべての教科・科目で「知識の理解の質を問う問題」や、「思考力・判断力・表現力を発揮して解く問題」が重視されます。ただ、こうした力はセンター試験で全く問われてこなかったわけではありません。実際に、2018年1月に実施されたセンター試験でも、国語の評論文で図版も含めた多様なテキストを基に考える問題や随筆を読んで科学の法則について考えさせる理科の問題なども出されています。

 センター試験ではこれまでも、高等学校の先生や有識者の方々の意見を踏まえ、知識の理解や思考力を問うための作問の工夫を重ねてきました。こうしたセンター試験の蓄積を生かしながら、より深い知識の理解や思考力を問うためのさらなる良問作成に向けた工夫・改善を図るために、共通テストという新たな枠組みに移行することになったのです。

 なお、共通テストは2020年度から実施されますが、その年度の受験生は現行の学習指導要領で学んできた生徒たちです。知識の理解や思考力の育成は、現行の指導要項でも重視されています。高等学校の先生方には今の段階から「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善に取り組んでいただき、どのような場面でも生きて働く知識や、未知の状況に対応できる思考力の育成に向けた指導の充実を図っていただければと思います。そして、新学習指導要領のもとで学んだ生徒が初めて受験するのは、2024年度となります。その際には、共通テストも新しい科目構成に基づいたものになります。

文部科学省 平成29年7月13日公表資料より

なぜ、記述式問題を導入するのか

 共通テストはなぜ、「知識の理解の質」と「思考力・判断力・表現力」を重視しようとしているのでしょうか。それは、グローバル化や知識基盤社会の進展、人工知能(AI)などの技術革新などの変化が加速度的となり、将来の予測が困難となる社会では、自分が出会った場面で必要な情報を得ながら、身につけた知識を活用し、問題を解決していくことが求められるからです。こうした生きて働く知識・技能を習得する過程でも、実際に活用する際にも、思考力・判断力・表現力は欠かせません。

 これまではいわゆる”受験対策”として、問題文を読まなくても、選択肢をチェックして、正誤を判断すれば正解を導き出せるといった指導があるといったことも指摘されてきました。しかし、こうした受験テクニックだけでは、大学教育の基礎力として本当に求める力を身につけているとは言えないでしょう。そこで、共通テストでは、選択肢から選ぶのではなく、自らの力で考えをまとめ表現する「記述式問題」を国語と数学に導入するほか、他の教科・科目のマーク式問題についても、問題の構成や内容の見直しを行うこととしています。

 2017年11月には共通テストの試行調査を行いました(英語の試行調査は2018年2月実施)。上に例示したように、どの教科・科目も問題文をしっかりと読み、提示された資料やデータを読み解く力がなければ解答することができない問題が出題されています。また、複数のテキストを扱う出題もありました。このような問題に対応できる力をつけるには、日頃から、複数のテキストを比較しながら読む、資料やデータに基づいて考える、学んでいることと日常生活のつながりを意識した課題を与える、与えられた問いについて、どのようにして答えを導き出したのかを話し合いながら、お互いの解決方法の違いに気づかせるといったことに、授業で取り組む必要があるでしょう。まさに、「主体的・対話的で深い学び」の成果が、入試で発揮されるということです。

平成29年度試行調査「国語」より
平成29年度試行調査「数学Ⅰ・数学A」より

授業での学びの成果が表れる

 奇をてらったようなことを授業で行う必要はありません。今回の試行調査では、教科書には載っていない資料を題材としましたが、これは、資料そのものの知識を問うのではなく、あくまで題材として扱っています。授業で学んだ知識を用いて、その資料を捉えることができるかということが問われるのです。高等学校の先生方には、教えるべきことは教え、その知識をいろいろな場面で活用できる力を培うことを意識していただきたいと思います。

 現行の学習指導要領においても、知識の理解の深まりと思考力・判断力・表現力の育成は示されていますので、各教科・科目の目標を踏まえつつ、単元を見通して、どのような知識の理解を深め、思考力等を鍛えていくのか、指導のねらいを明らかにし、題材の選択や学習場面を設計することが必要です。そして、各教科・科目や総合的な学習の時間などでの探究活動を通じて、身につけた知識や思考力等を課題解決に生かす場面を設けることが重要となるでしょう。

 みなさんに誤解していただきたくないのですが、「知識」編重から「思考力」重視に移行するのではありません。知識と思考は切り離すことはできないものです。学んだ知識がなければもちろん、思考することはできませんが、思考しなければ知識を深めることはできません。学んだ知識を思考に生かし、またそのことが知識の理解に返ってくるということであり、相互の関係にあるのです。試行調査の問題はいずれも、知識と思考力の双方を重視した出題としています。

試行調査の結果を踏まえて作問

 今回の試行調査では、問題文の量の多さに驚かれた方が多かったと思います。試行調査では、すべての分野にわたって探究の過程等を扱う場合の例を示す必要がありましたので、題材の量が多くなっていますが、実際には、試行調査の結果を踏まえて、テキストの量はメリハリをつけていくことになります。今回すべての分野で探究の過程を重視した出題をしましたが、特定の科目・分野に限って新しいねらいの出題をすることにより、共通テストでもそのように出題されると誤解されないようにするためです。共通テストでは、知識の理解をシンプルに問う問題もあれば、深い理解と思考力を問う探究的な問題もあるというように、問題の出し方にもメリハリがつくようになります。

 大学入試センターのホームページには、試行調査で出題されたモデル問題だけでなく、小問ごとのねらいや問いたい資質・能力、作問のねらいとする思考力等を科目別にまとめたイメージなども公開していますので、ぜひご確認ください。今回の試行調査の問題構成や内容は、そのまま共通テストに受け継がれるものではありません。今年11月に実施する予定の試行調査(下表)では、共通テストにより近い形の問題構成や内容になっていきます。現時点でお伝えできることは、知識の理解の質を問う問題、思考力等を発揮することが求められる問題が、これまで以上に重視されるということでしょう。

英語教育改革の方向性を踏まえて

 英語については、共通テストの枠組みにおいて、民間の資格・検定試験を活用した4技能の評価を行うこととなる点で、センター試験とは大きく変わります。4技能を測る民間の資格・検定試験の評価を、「大学入試英語成績提供システム」を通じて提出することになり、受験生は高校3年生の12月までに2回まで民間の資格・検定試験を受験することができます。制度変更による影響を考慮し、2023年度までは、そうした民間試験の活用だけでなく、大学入試センターが実施する英語の試験(筆記とリスニング、マーク式)のいずれか、または両方の利用を選択可能ということに決定しました。

 2018年2月に実施した試行調査では、筆記の問題を「読むこと」の評価として焦点を当てました。センター試験で出題されてきた発音問題、アクセント問題、会話文の語順入れ換え問題などは出題していません。そのような間接的に話すことの力を問うような問題は、民間の資格・検定試験で4技能が評価されることを踏まえれば、無理に出題する必要はないのではとの専門家の声もあります。そうした考え方を踏まえ、今回の試行調査からは外し、読むことの力を評価することに特化しています。

 リスニングについては、より会話の場面や目的を明確にすることを意識しました。そして、受験者を2つのグループに分け、リスニングの文章を従来のセンター試験同様に2回読むグループと、2回読みの問題と1回読みの問題を混ぜて出題するグループに分けて、その結果を検証します。民間試験のリスニングテストは1回が主流であること、日常生活のなかでも同じことを全く同じ文章で2回聞く、という場面は少ないであろう、ということを踏まえた検証です。さらに、センター試験ではアメリカ英語での読み上げですが、イギリス英語や非母語話者の英語も混ぜるなどの検証も行うこととしています。

平成30年度 試行調査(プレテスト)計画

独立行政法人大学入試センター「平成30年度試行調査実施概要」より

区分 A日程(B日程と合わせて10万人規模) B日程(1科目数千人規模《検討中》)
s①趣旨 平成29年度 試行調査(プレテスト)で行う記述式やマークシート式の問題等の検証に加え、新たに試験の実施運営等も含めた総合的な検証を行う
②実施日程 平成30年11月10日(土)13:00~18:00
《時間割については検討中》
平成30年11月10日(土)、11日(日)の2日間
(現行の大学入試センター試験とほぼ同様の時間割・タイムスケジュール)
③実施教科、試験時間等 国語(100分)、数学①(70分)、自己採点、アンケート 国語(100分)、数学①(70分)、数学②(60分)、地理歴史(60分)、
公民(60分)、理科①(60分)、理科②(60分)、英語(80分)、
リスニング(45分)、自己採点、アンケート、実施大学からの聞き取り等
④受検対象者 高校2年生以上 原則高校3年生
⑤実施会場 全都道府県で、原則として現行の大学入試センター試験の全大学会場を対象に実施予定 全都道府県で、現行の大学入試センター試験の大学会場を対象に実施予定
⑥試験監督等 大学教職員

(注1)本表は、現時点(平成29年10月1日現在)での考え方を示したものであり、予算編成の過程や、今後の検討を踏まえ変更する可能性がある。
(注2)国語、数学①については記述式試験を含む。
(注3)リスニングは、個別音源機器以外の方法で実施する予定であるため、試験時間は45分としている(現行の大学入試センター験では60分)。
(注4)現行の大学入試センター試験全利用大学において、原則としA日程・B日程いずれかの日程で実施することを想定。
(注5)各大学におけるプレテストの実施規模ついては、センター試験場設置や高校生の交通利便性なども踏まえつつ検討中。

高・大の学びをつなぐ大学入試

 英語教育の目的とは、国際社会の共通語である英語を通じて、情報や考えなどを的確に理解したり、適切に表現したり、伝え合ったりするコミュニケーションを図る力を培うことにあります。読んだり聞いたりする受信の力だけではなく、自分の考えや気持ちを相手に伝え、目的に応じた言葉を選んで表現するという発信力もコミュニケーションにおいては重要です。小・中・高等学校を通じて積み重ねてきた英語教育の成果を、大学につなぐ入試に転換していく必要があると考えています。

 現行の学習指導要領でも、「読む・聞く・話す・書く」の4技能をバランスよく養うことをめざしていますが、実際には、読むこと、聞くことに比べて、話すこと、書くことの指導・評価を実施している割合は低くなっています。それは、大学入試が話すこと、書くことの力を測ってこなかったことの裏がえしとも言えるでしょう。だからこそ、英語4技能の評価を導入し、入試を通して「大学入学時点で求められる英語力はどのようなものか」を示すことは、高校生の学習意欲や高等学校の先生方の指導改善に大きく影響すると考えられます。

 「主体的・対話的で深い学び」の成果が評価できるような質の高い問題を出題すれば、学習や指導改善がそちらへ向かうという好循環が期待されます。そうして高等学校教育の成果が高まれば、大学教育の基礎や、その先の社会で活躍していくために必要な力の育成につながるでしょう。それは、学習指導要領に基づく高等学校教育から、各大学の教育理念を反映したカリキュラムに基づく大学教育への接続のあり方を考え、実現していくことでもあるのです。


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