今、英語教員に求められる指導・評価とは?

大学入試改革と中学・高等学校の英語教育を考える


近畿大学
文芸学部
文学科 英語英米文学専攻

藤永 史尚講師

学習院女子大学
国際文化交流学部
英語コミュニケーション学科

萓 忠義教授

2020年度より小学校を皮切りに実施される学習指導要領の改訂に伴い、英語科では、児童生徒が主体となって言語活動を行う技能統合型の授業への転換が求められる。小・中・高等学校を通じて培った英語力を正しく評価するためにも、大学入試のあり方は見直されなければならない。これからの教員にはどのような指導が求められるのか。学習院女子大学の萓忠義教授と近畿大学の藤永史尚講師に、中学・高等学校や大学での英語教育の現状について、語り合っていただいた。(文中敬称略)

小中高大にわたって改革が進む

萓 まず、「なぜ、英語教育改革が進んでいるのか」ということから考えてみましょう。日本では現在、知識・技能の習得に重点をおいた従来の授業から、コミュニカティブな授業への転換が求められています。しかし、世界では1970年代からすでに、アメリカの社会言語学者デル・ハイムズが「コミュニカティブ・コンピテンス」という概念を提案し、コミュニケーションについての知識の重要性が説かれてきました。その一方で、日本の学習指導要領に「コミュニケーション」という言葉が示されたのは、1980年代後半のことでありながらも、依然として文法訳読法を中心とした授業が広く行われているのが実情です。それからさらに時代は進み、グローバル化の進展に伴い、英語で真のコミュニケーションができる力を育てなければならないという社会の要請も受け、現在、国を挙げて英語教育改革が進んでいるのです。

藤永 2013(平成25)年6月に閣議決定された「第2期教育振興基本計画」において、生徒の英語力の目標を、「中学校卒業段階で英検3級程度(注:CEFR※のA1レベル相当と見なされる)以上、高等学校卒業段階で英検準2級〜2級以上(注:同A2〜B1レベル相当)以上を達成した中高生の割合が50%以上」と掲げています。しかし、文部科学省が2016(平成28)年度に、全国の中学3年生約6万人を対象に行った「英語教育改善のための英語力調査」(下表)では、「書くこと」「話すこと」についてCEFRのA1上位以上の割合が、30〜50%程度、「読むこと」「聞くこと」の割合は20%程度でした。その前年度の調査では、高校生も対象としていますが、「書くこと」ではA2以上が20%程度、「話すこと」が13%程度に留まります。このデータをもって「目標の達成度としては十分ではない」と考えられています。

萓 英語教育関係者の間で英語教育改革の必要性が認識されていながらも、現場で採択される教科書からもわかるように、実際には、まだ文法訳読法の要素が含まれた内容のものになっており、教員側の意識も必ずしも全員が同じ方向を向いているとは言えないという課題があると思います。実際に高校の現場で教えていた経験をお持ちの藤永先生はどう感じますか?

藤永 英語4技能を測るさまざま外部検定試験の利用が可能となっており、2020年度からの「大学入学共通テスト」においても、「民間試験の使用」について盛り込まれました。それに合わせて英語教育も大学入試も変革せざる得ない状況になっていくのではないでしょうか。

萓 大学入試はこれまでリーディングが中心の出題で、リスニングが少し入る程度でした。特にスピーキングを評価することはほぼなかったと思います。高等学校の英語教育で4技能を指導するようになれば、大学入試も4技能を正しく評価することが求められるでしょう。さらには、4技能を身につけた学生を受け入れる大学でも、英語教育のあり方を変えざるを得なくなりますね。

藤永 それこそが、高等学校教育、大学入試、大学教育を一体的に変えていくという「高大接続改革」ですね(図1)。私は現在、英米文学専攻の学生に英語を教えていますが、特に重視されるのは、リーディング力です。文献を読んで内容を理解する力が必要なのです。一方で、「プレゼンテーションスキル」という授業では、外国人教員が担当するクラスも開講しており、英語の発信能力を鍛えています。授業の内容に応じて必要なスキルは違いますが、学部全体で英語教育を見わたせば、4技能を教えていることになっています。

萓 私は英語コミュニケーション学科で教えていますので、4技能を使ったコミュニカティブな授業を行っています。大学の英語教育は学部によって必要とされる力が違いますね。しかし、今後は、どの学部であっても、高校までに4技能を身につけ、大学入試で4技能を測る試験が課されてきた学生が入学してきますから、これまでとは学生の英語力が違ってくるでしょう。大学教員も授業を変える意識を持たなければならないのではないでしょうか。

藤永 スーパーサイエンスハイスクール(SSH)やスーパーグローバルハイスクール(SGH)で、英語での課題解決学習やプレゼンテーションに取り組んできた学生も入学してきており、英語を使って活動することに抵抗のない学生が以前よりも増えてきていると思います。教員は、英語で専門的な内容をどのように扱うかということに直面するでしょうね。「英語で教えるのは難しいので、日本語で教授します」という言い訳が通用しなくなりそうです。

国立・公立学校全体のスコア分布

文部科学省「英語教育改善のための英語力調査事業報告書」より
※CEFR=ヨーロッパ共通参照枠

英語プラスαの力を身につける


萓 今後は、「英語を」教えるのではなく、「英語で」科目内容を教えるという、CLIL(内容言語統合型学習)的な教え方が求められるでしょうね。そのためには、大学教員も英語で専門分野を教える力を身につけておく必要があります。高大接続改革における「大学教育」の部分を、どのように変えるべきかを考える時期が来ています。社会では、英語力の基盤となる語彙や文法に加えて、プレゼンテーション能力や交渉力が必要です。相手に自分の言いたいことが伝わるような発音や表現力も求められます。また、事前に調査したり、結果を分析したりする力も大切です。グローバル化が進み、国内に居ても、英語は必要になります。小学校から段階的に、英語力、コミュニケーション能力、専門知識などを磨いていく教育が重要だと思います。

藤永 これまで、中学・高等学校の英語の授業では、正しい発音ができたか、正しい文法を覚えているかといった、知識・技能の習得に重点が置かれてきました。今後は、習得した知識を運用する力がより重要になります。

萓 これからの社会を担う子供たちにとって、英語は世界の共通言語であり、コミュニケーションのツールとして不可欠であることは確かです。

藤永 そうですね。その意味での社会的な必要性は高まっていると思います。

図1 「高大接続改革」の必要性
文部科学省ホームページ「高大接続改革」より

多様な人々とコミュニケーションする力

萓 インドの言語学者カチュルによれば、世界で話されている英語は3つの円(Kachru’s Three-circle Model of World Englishes)に分類されます(図2)。まず、Inner Circle(伝統的に英語を母語とする話者の英語)があり、その周りには、Outer Circle(英語を公用語または第二言語とする話者の英語)があります。さらに、Expanding Circle(英語を外国語として学ぶ話者の英語)があります。世界的に見れば、英語を非母語として話す人の数が圧倒的に多いのです。日本人にとっての英語とは外国語であり、母語話者の英語をめざす必要はありません。さらに、英語を使って話す相手は母語話者に限りません。今後は多様な英語を話す国の人々とコミュニケーションができるというレベルでの英語力が必要になるのです。

藤永 これは個人的な体験談に過ぎませんが、15年ほど前に韓国へ行った時は、どちらかといえば英語よりも日本語の方が通じたような印象を持って帰りました。最近、再訪したのですが、その時は英語での方がスムーズにやり取りできる場面に何度も遭遇しました。とりわけ、大学生ぐらいの若い世代だと英語でコミュニケーションをすることにさほど違和感はなくなってきているのかなと感じました。

萓 韓国での小学校の英語教育が必修化されたのが1997年。それから20年を経て、英語教育を受けてきた世代が、英語を使ってコミュニケーションを取っているのですね。英語教育の成果が上がっているのです。

藤永 日本で今、私が教えている学生たちを見ていると、いろいろなツールを駆使して、自分の英語力の現状がどうであれ、何とか英語を使ってみようとする姿勢は見られます。学生たちはオンライン辞書やGoogle翻訳などを上手に利用しています。コンピュータが出力した英語表現をたたき台にして修正を加えながら、自分なりの英文を作り上げていきます。英語で書いたり話したりすることへの抵抗は、少しずつ弱まってはきているのかもしれません。

萓 ICTの進展によるところは大きいですね。特に、ライティングに関しては、ICTを駆使すれば、ある程度の英語を書けるようになります。たとえば、オンラインサービスの「Grammarly」という英文校正ツールは便利に使えますよ。

藤永 スペルチェックや冠詞・前置詞のチェック、言い回しの指摘などをしてくれるので、基本的な間違いがないかをチェックするのにはいいですよね。

萓 同時翻訳機の精度もだいぶ上がり、最近では50言語の翻訳ができる製品も発売されました。入力された音声をクラウド上で処理して、翻訳された言語を瞬時に返すというものです。

藤永 そのような翻訳機を使う面白さの1つは、機械を通じたやり取りだとしても、face-to-faceでお互いに何を話すかを考えながら、実際にコミュニケーションが取れるということでしょうか。やはり授業でも、決まったフレーズをやり取りするパターンプラクティスに終始するのではなく、一歩踏み込んで、即興的な対応力を養う授業づくりが必要です。新学習指導要領でも、話すことが「発表」と「やり取り」の領域に分かれて示されたのも、そのような意図はあると思います。

萓 英語教育におけるICTの利活用には、課題もまだ山積みです。授業はコミュニカティブな場であるべきであり、もし授業で一人1台のタブレットやPCなどを使おうとすれば、特に公立の中学・高等学校では、経済的な格差の問題もあって、全員が同じ環境を整えることは難しいと思います。

藤永 ハード面での課題はありますね。教員がタブレットを使って、音声や教材を提示するという使い方であれば、授業でも活用できると思いますが、画面で物を見せて描写させるよりも、実物を見せて描写させた方が、生徒から面白い発話を引き出すことができる場合もあります。ですから、ICT利用の際は場面に応じた使い方を常に意識する必要があるのではないでしょうか。

図2 Kachru’s Three-circle Model of World Englishes
Kachru (1992) を参考に作成

場面に応じたICTの利活用とは

萓 私は、学生が書いた英文を回収したり、表示したりする場面では授業支援システムを活用した方が効率的なのでICTを使用しますが、学生の英文には必ず手書きでコメントを添えたものを返却しています。Wordでコメントをつけると、学生がスマートフォンでそれを見た場合、コメントが表示されない、文字が小さくなって見えづらいということがあります。手書きのコメントの方が、学生の心に届いていると感じられますね。

藤永 私も以前、高校現場にいたときには、通知表所見が電子化されたのですが、そのことに少し不満をもった生徒もいました。手書きの方が、自分のために書いてくれているという特別感があり、学習意欲が増すようなのです。ですから、すべてをICTにすればよいということでもないでしょうね。

萓 ICTを授業で使うには教室環境のつくり方も関係すると思います。うまくICTを活用されている大学を見ると、教室に教壇はなくフラットで、机も可動式のアイランド型、プロジェクタも3方向に設置されて、学生はどの方向を見ても画面が見えるので、ディスカッションもしやすいということがあります。

藤永 中学・高等学校の教室のメディアは今でも、紙と鉛筆、黒板が主流です。そこにいかにICTを取り入れるかということですね。音声提示、調べ学習でのインターネット使用、プレゼンテーションでのPowerPointの使用など、既存の設備のなかでできることとしてはそのような使い方でしょうか。

萓 家庭学習にICTを活用するという方法もあると思います。いわゆる反転授業ですね。まず家庭で、言語活動をするために必要な映像を見たり、情報を調べたりするなど、ICTを使って学習します。そして教室では、知識を得るのではなく、家庭で得た知識を教室に持ち寄って活動するという学習の流れです。それには、学習支援システムが必要になりますし、タブレットやPC、インターネット環境の整備も必要ですね。

藤永 それを思うと、なかなか家庭でのICT活用も難しいですね。反転授業を導入するには、生徒の家庭での学習状況を把握できるしくみも必要です。反転することで、むしろ教員側の労力は増えますから、どのように生徒に活用させるのかを冷静に考える必要があるでしょう。

学力の3要素を身につけるために

萓 今後は、「主体的・対話的で深い学び」を通じて「思考力・判断力・表現力」を養うことが求められますが、それにはプロジェクトベースやタスクベースで活動するといった授業でなければ、そうした力を養うことはできません。学習者自身が言語活動を行わなければ、即興的な対応力を身につけることなど到底できません。そのような力は短期間で身につくものではなく、小学校から中学校、高等学校と長期間にわたって培われていく力ではないでしょうか。

藤永 そうですね。さらに、今後は答えが一つではない問いに対して、生徒が自らの力で答えを見出していく力が求められます。これまでは、教員が求める答えに対して、どれだけ近いか、合致しているかということで評価されましたが、これからは生徒が身につけた力を活用して、どのように目標を達成し得たかを評価することになります。そのための授業設計が必要です。

萓 そして、教室で成功体験をいかに積ませ、学校外でも英語を使ってみようとする自律的な学習者を育てる指導が求められます。

藤永 そのためには、教員が生徒個々の到達度合いに応じて適切な助言ができるなど、目の前の生徒の実態に応じた指導がより一層求められるようになりますね。

萓 生徒が「主体的・対話的」に学ぶためには、例えば、単語を覚えるにしても、使うための語彙学習、つまり発表語彙を習得させることが必要です。これまでのような語彙指導では、ただ単語の意味を覚えただけで使える英語には結びついていませんでした。発表語彙を身につけるには、生徒が授業の中で、語彙を実際に使って成功体験を積んでいくことです。言いたいことがうまく言えなければ、教員が適切な指導をすることで、生徒は語彙の使用場面を理解できるようになります。

藤永 教員自身が、英語を使ってコミュニケーションを取った経験がないと教えることが難しいでしょうね。

萓 従来のドリル的な指導であれば、正解・不正解を示せばよく、教員に英語でのコミュニケーション経験は不要でした。しかし、言語活動中心となれば、その場に適したフィードバックが求められ、教員にはある程度の経験的知識の基盤が必要となります。

藤永 生徒が言いたいことを汲み取って、より良い表現方法に言い換えて示してあげる力ですね。さらに、場面に応じて、どのような表現が適切なのかも判断できなければなりません。そのためにはやはり教員自身の現実世界での英語の使用経験が不可欠なのです。

萓 パフォーマンスをどのように評価していきますか。

藤永 これまでの教育現場では、あまりパフォーマンス評価をしてきませんでした。まずは、評価ルーブリックの作成から運用までを考え、評価基準を生徒とも共有することが必要でしょう。評価基準が明確であれば、学習の指針にもなります。

萓 実際に英語を使う場面を考えれば、1技能だけを使うということはあまりありません。読んで話す、話して書くなど、私たちはいくつかの技能を統合しながらコミュニケーションを取ります。ですから、技能統合型の指導が今後は必要ではないかと思います。

藤永 複数の技能を組み合わせて使用する言語活動を、無理のない形で取り入れた授業展開を考えていかなければなりませんね。

萓 さらに小学校から中学校、高等学校へと上がっていくにつれて、アカデミックの度合いを上げていくことも必要です。たとえば、ライティングでは、友達にEメールを書くというレベルから、大学で卒業論文を書くというレベルまで段階がありますから、学術的専門知識も同時に伸ばしていくことになります。大学に入れば高度な英語力が求められますので、高等学校までの英語の授業は重要なのです。

藤永 大学で必要な英語を身につけるためにも、高校までにどれだけ基盤をつくることができるかということですね。


教員自身も学び続ける姿勢を

萓 高校の授業が変わり、大学入試が変わると、これまでのテクニック的な「入試対策」という指導はいらなくなると思われますか。

藤永 各大学が求める英語力を理解し、試験問題で問われる英語に対応できる力をつける指導をすることは必要でしょう。ただし、教育の目的は入試対策ではありませんから、試験で得点するための方略の習得を中心に考えるような指導計画を立てることは避けなければなりません。英語運用能力を高めるための地道な学習を続けることが、結果として入試への対応力の養成につながっていくような授業が理想です。

萓 教員の意識改革、指導法改善がますます求められますね。

藤永 しかし、中学・高等学校の教員は多忙であり、新しいことを学ぼうにも時間がつくれないのが実情です。新しい指導法、やってみたい実践などがあっても、共有する場が持てない。さらに、英語教員の専門分野は多様です。英文学専門の人もいれば、応用言語学専門の人もいる。それぞれの得意とする領域が違うので、理解し合うことも容易ではないかもしれません。それでも、教員間の横のつながりを大切にして、授業改善に努めなければなりません。忙しいからこそ、お互いに連携して、得意分野を生かした指導計画を立てるべきだと思います。

萓 学習指導要領では、「生涯にわたり学び続けようとする自律的な学習者」の育成が求められますが、教員も、自身の英語力を磨き続け、新しい知識や情報を常に取り入れ、学び続ける姿勢が必要なのではないでしょうか。そして、そのように教員が学び続ける姿勢を見せることが、児童生徒にとって身近なロールモデルとなり、学習意欲を高めることにつながるのではないでしょうか。

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