BYOD時代のPC教室の意義
質の高い教育は安定的な環境から
―長野県―
長野県立大学
長野県立大学では、3つのPC教室のうち2教室を廃止した一方で、1教室では機器をリプレースし、現在も『CaLabo®LX』を用いて情報教育を行っている。学生が個人のパソコンを持ち込む「BYOD」への移行が進む中で、PC教室だからこそ可能なことがあるという。
長野県立大学
〒380-8525 長野県長野市三輪8-49-7
長野県短期大学を改組し、2018年に開学。「リーダー輩出」「地域イノベーション」「グローバル発信」の3つのコンセプトに基づいて、長野県の知の礎となり、未来を切り拓くリーダーを輩出し、世界の持続的発展を可能にする研究成果を発信することで、人類のより良い未来を創造し、発展させる大学を目指している。
PC教室の整備とともに『GLEXA』を導入
長野県立大学ではグローバルな視野を持つ人材の育成を目指し、2018年の開学当初から英語教育に力を入れてきた。学内には3つのPC教室があり、うち2つを語学教育、一つを情報教育のために設置し、各教室にはPC教室向けの授業支援システム『CaLabo®LX』(キャラボ エルエックス)と、中間モニタを映し出すシステムとして『S600-OP』(エス600オーピー)が導入された。時を同じくして、eラーニングの統合プラットフォームである『GLEXA』(グレクサ)も導入した。
長野県立大学で情報教育を担当する萱津理佳准教授が挙げた、『GLEXA』の利点は以下の5点だ。①科目ごとにポータルがあって分かりやすい、②資料の配付が容易、③回収したレポートに対するフィードバックも容易、④さまざまな形式で教材を作成できる、⑤モバイルでの学習ができる。「いずれも従来の学務ポータルにはないメリットでした」と萱津先生は言う。その後、2020年の新型コロナウイルス禍をきっかけに、学内で『GLEXA』を利用する先生が徐々に増え、2023年には同時接続数をこれまでの300~400から600に増強した。
個人PCは環境面でリスク
大画面は双方にメリット
一方で、コロナ禍を経て学生は個人用のパソコンを持つようになり、大学では従来のPC教室を存続すべきかどうかが問われるようになった。協議を経て、英語教育用の2つの教室は2023年度に廃止されたが、情報教育用の教室は存続し、2024年には機器のリプレイスが行われた。萱津先生は、情報教育は学生個人のパソコンを用いた「BYOD」より、PC教室が適していると言う。
「私が担当している1年生向けの情報リテラシーの授業は全学必修の科目で、新入生の中には初めて自分のパソコンを持つという学生も多くいます。中にはパソコンの基礎知識が不足しており、セキュリティソフトがインストールされているかどうかも把握していない学生もいます。パソコンの保守・管理を含めた授業を行うのであれば、BYODでも可能かもしれませんが、現状ではそこまで実施できていません。また、一人でもパソコンが動かなくなれば、授業がその都度ストップしてしまいます。PC教室では全員に等しく安定的な環境を提供できるので、授業を効率的に実施できています」(萱津先生)
学生が作業する環境がノートパソコンではなく、大きなモニタのデスクトップパソコンであることも重要なポイントだ。「学生にとっては、画面が大きい方がより効率的に操作できることを体験できますし、私が学生の様子を見るために机間を回る際も、ノートパソコンの画面より圧倒的に見やすいと感じています」(萱津先生)
次の演習に移るタイミングを『CaLabo®LX』の画面で確認
PC教室にはパソコンが44台と、『S600-OP』で制御される中間モニタが22台設置されている。この教室で萱津先生は、Microsoft Officeの使い方やプログラミングなどを、実演を交えながら学生に教えている。
以前の環境では『CaLabo®LX』も中間モニタもなかったと萱津先生は振り返る。「長野県立大学の前身である長野県短期大学でも、同じ教室で情報の授業を担当していました。その頃は大きなプロジェクターがあれば問題ないと考えていましたが、実際に『CaLabo®LX』を使ってみると、各学生の画面をミラーリングして見えるため、次の演習に移るタイミングを把握しやすくなりました。演習の進捗状況や、学生が間違った操作をしているのもすぐ分かります」
パソコンに慣れていない新入生は、例えば同じMicrosoft Officeであっても、それがブラウザで扱うクラウドのアプリか、あるいはローカルのアプリかを区別できずに、指示とは異なる操作をしてしまうことも多い。「以前の環境では、学生が使うアプリがどちらなのか見分けづらかったのですが、『CaLabo®LX』があれば一目で確認でき、たいへん便利です」(萱津先生)
また、以前のプロジェクターのみを使った説明では、学生がその都度体の向きを変えながら確認する必要があるが、中間モニタがあれば、学生は同じ目線、同じ姿勢で画面を見ながら作業できるため、作業負荷は小さくなる。「プロジェクターと違って後ろの席の人が見えづらいことなく、小さなメモ書きでもはっきり見えます。学生は隣の中間モニタで私の操作を見ながら、一緒に自分のパソコンを操作できるなど、授業の効率が大きく向上したと感じています」(萱津先生)
『GLEXA』はPC教室にとどまらず、さまざまな場面で活用されている。萱津先生は「授業のポータルとして、授業概要やスケジュールなどを伝えるほか、資料や課題の提示、レポートのフィードバックなどに使っています」と説明する。学生も自分が提出したレポートを確認できるため、誤って作成中のファイルを送ってしまった場合なども、ファイル差し替えが簡単に行える。
「『GLEXA』は学生や教材の登録が容易なため、操作に慣れていない先生でも簡単に使えるのもメリットです。オンデマンドの授業でも、教材や資料の配付、課題の提出などすべてがシステム内で完結します。現在では、英語や情報科目以外の授業でも多くの教員が『GLEXA』を使っており、『GLEXA』なしでは授業が成立しないとおっしゃる先生もいるほどです」と語る萱津先生の尽力により、長野県立大学のICT教育は着実に進展している。
グローバルマネジメント学部
准教授 博士(工学)
萱津 理佳 先生