公開日:2025/5/22

ハイスペック機器を導入しDXを通じて「本物の体験」を

「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」採択校

―東京都―
東京都立五日市高等学校

文部科学省「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」は、全国の公立および私立の高等学校を対象に、ICTを活用した文理横断的な探究的な学びを強化するために上限1,000万円の補助金を支給する。施設の有効活用に悩んでいた東京都立五日市高等学校の「DXハイスクール」を活用した取り組みについて取り上げる。

ハイスペック機器を導入しDXを通じて「本物の体験」を
東京都立五日市高等学校

東京都立五日市高等学校
〒190-0164
東京都あきる野市五日市894

東京都あきる野市五日市にある都立学校、設立は1948年で定時制も設置。2年生から、大学への進学を目指すアドバンスコース、地域の特徴を生かしたアイデアの商品化を目指すマネジメントコース、探究学習に力を入れるアウトドアコースに分かれて学習を行う。高大連携授業や、地元企業を招いた講義なども実施している。

「DXハイスクール」の申請を思い立ったきっかけ

空き教室になってしまったパソコン教室。
この部屋の有効活用が申請の出発点だった。

 東京都立五日市高等学校は4年前に商業科を閉鎖し、使用していたパソコン室が空き教室になっていた。この施設の有効活用という課題に加えて、先生方にはもう一つ悩みがあった。

 「私が顧問をしているESS国際交流部や、本校が力を入れている『探究学習』では生徒たちが自前のスマホを使ってたくさんの動画を制作していました。目的は地域学習の一環だったり、コンテストに応募するためだったり、提携校である台湾の高校との相互交流だったり、さまざまです。せっかく作るのだから外部に見せても遜色ないものにしてあげたい、動画制作や発表のための環境をしっかりと整備してあげたい、それが申請の出発点でした」(中村俊佑先生)

補助金申請をどのように進めたのか?

 「DXハイスクール」では選択科目である「情報Ⅱ」の設置や探究的な学びの充実が求められている。そのため、申請にはカリキュラムの改編が必要だった。

 「中村先生と私を含めて校内に『DXチーム』を結成しました。このチームのメンバーが中心になって、『情報Ⅱ』の設置など、カリキュラムの改編に着手することにしました。担当者がやると決めたときに校長先生も納得してくださり、申請が本格的に進み出しました」(東濱卓先生)

 「やると決めたあとは約3ヶ月で書類を作成、申請を実現させました。申請に当たっては『本校の魅力を高めるために何が必要か』を心がけました。また、書類作成にあたっては予算の部分など、私たちだけでは対応できない部分もあったため、本校の経営企画室の室長にもチームに加わってもらい、密接に連携するようにしたことも円滑に進んだ要因だったと思います」(中村先生)

 通常の授業に加え、学年・分掌・部活動の顧問など、教員としてさまざまな業務を抱えながらの申請作業だったが、すでにDXチームのメンバーの間では、施設の有効活用と生徒のポテンシャルを引き出すという課題が明確だった。そのため、申請準備は比較的スムーズに進んだという。

補助金採択によって描く未来のビジョン

パソコン教室の隣にある、生徒たちの放課後の居場所「五高カフェ」。

 「今回の採択によって導入するのはハイスペック端末や撮影機材、高輝度4Kプロジェクター、大型スクリーンなどが中心です。これまで生徒が作ったプレゼン資料や動画は環境が整備できていなかったため体育館のカーテンに投影せざるを得ない状況でした。今後は生徒にハイスペックなパソコンでクオリティの高い動画を作って、整備された環境で発表してほしいと思っています」(東濱先生)

 ハイスペックな機器が設置されるパソコン教室の隣には、試験的に開催されている「五高カフェ」がある。放課後に誰もが自由に立ち寄れるスペースで、五日市高等学校の卒業生であるファシリテーターのもと、参加者はそれぞれ勉強したり相談や会話等ができる。生徒の中にはゲームのプログラミングに関心を持ち非常に優れた能力を発揮する生徒たちもおり、新たに導入されるハイスペック端末を使って自由にプログラミングするなど、自分のスキルを伸ばす環境が整うはずだ。

 東濱先生は「DXハイスクール」を目指すことと、学校運営は切っても切れない関係にあると言う。また、中村先生も現在の五日市高等学校の生徒たちのニーズを考えることを大切にしている。

 「本校の場合、勉強が苦手な生徒が多く、大学進学を目指すよりも学び直しのニーズが大きいのです。そのため、生徒たちには『学ぶ楽しさ』を味わってほしいと思っています。自分たちが作った動画やポスター、プログラミング制作物などを地域や他校に向けて発信し、社会とつながる『本物感』を感じてほしいのです。『DXハイスクール』によって導入するハイスペックな機器はそのためのツールになるでしょう」(中村先生)

 一方、進学に関しては総合型選抜を受験する生徒が増えているという。総合型選抜で合格するためには、在学中の部活動や探究学習での成果が重要だ。実際、中村先生が指導した生徒で1年生からESSに入部し、地域活性化のための観光プランの提案と実行内容を発表した結果、見事に総合型選抜で難関大学への合格を果たしたという。今後、DXの環境整備によってVR等を活用した生徒のオリジナルな作品制作ができ、探究学習がさらに深化すれば、総合型選抜で理系大学に進学する生徒も増えてくるかもしれない。

「DXハイスクール」の採択を目指す他校へのアドバイス

 最後に「DXハイスクール」の採択を目指す他校へのアドバイスを尋ねてみた。

 「せっかく『DXハイスクール』を目指すなら、受身ではなく、生徒への気持ちを原動力にして挑戦してほしいと思います。私たちの場合は、申請前から施設の有効活用が課題になっていたため、比較的スムーズに申請・採択が実現したと思います。もし、申請を考えているなら、学校の課題を明確にしておくと良いのではないでしょうか」(東濱先生)

 「申請作業は大変かもしれませんが、目の前の生徒がより豊かで『本物』の経験をし、取り組みの成果を学校外にも発信できるようにするためにはどんな環境が必要なのか、生徒目線で考えてほしいと思います。そして、今後は『DXハイスクール』を採択された高校とアイデアを共有できたら嬉しいです」(中村先生)

 「DXハイスクール」としての夢はまだまだ広がり続ける。

東京都立五日市高等学校<br>主任教諭(商業科)<br>東濱 卓 先生

東京都立五日市高等学校
主任教諭(商業科)
東濱 卓 先生

東京都立五日市高等学校<br>主幹教諭(英語科)<br>中村 俊佑 先生

東京都立五日市高等学校
主幹教諭(英語科)
中村 俊佑 先生

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