公開日:2008/11/13
CALLシステムで英語を使う環境を作る(WebMagazine限定版)
CHIeru.WebMagazine限定版
チエルマガジン4号(2008年秋冬号)ではお伝えしきれなかった先生たちのお話をCHIeru.WebMagazine限定版でご紹介します。
文教大学を訪問して、3名の英語科担当の先生方に、CALL教室を使った授業の効果などについてお話を伺った。
−CALL教室はどんな授業で使われていますか?
塩沢先生:
秋学期はスピーキング中心の『CALL103』という授業で使っています。1年生の必修の2クラスを教えていますが、最初から最後まで『CaLabo EX』を使った授業です。
生田先生:
春学期はリスニング・スピーキングを中心とした2クラス、秋学期は2年生以降を対象とした「通訳入門」という専門科目を担当しています。『CaLabo EX』の「サイマル」機能を使って、簡単な通訳のシミュレーションを行っています。特に新しいバージョンになってから、使いやすそうな感じですね。1年生対象の授業では、ウォーミングアップのために学生たちが会話の練習をするときに、素材を渡してヘッドセットで「ランダムペア」を組むと、すごくエキサイトしますね。
阿野先生:
そうそう、「わぁ、聞かれてる」とか(笑)。
生田先生:
自分では最初そんなにおもしろいとは思っていなかったのですが、学生は組んだ相手によって一喜一憂します。それで1つのコミュニティを形成していくようで、学生間のコミュニケーションを図る上では非常に役立っていると思います。
塩沢先生:
インターネット上のニュース番組を聞き取りして吹き込んだり、ペアレッスンで読み合って意見を言ったり。自分の声の録音もしています。さらに、TVコメディーの一部(1〜2分の動画)とスクリプトを使って各自で練習をしてから、ランダムペアでの役割練習も行っています。 1年生の必修では教員間で共通の教材を使っていますが、今学期は試行段階としてe-Learning教材が授業でどのように使えるのか実験中です。授業中に1レッスン、課題として1レッスン。先週からちょうど使い始めたところです。毎週のように英語科の教員で会合をしているので、そのときにどのように使ったのか情報交換しています。
生田先生:
実際に他の先生方の経験談を伺うことによって、「自分も使ってみようかな」と思えるので、できれば非常勤の先生方とも情報交換の機会を多く持ちたいと思っています。中には積極的に授業を見学されている先生もいらっしゃいます。『ムービーテレコ』は塩沢先生が先に使っていらして、実際の教材を校内のパブリックスペースに置いてくださったことがきっかけで使うようになりました。
−現在、何名くらいの先生方がCALL教室をお使いですか?
塩沢先生:
10名くらいですね。
生田先生:
専門科目もCALL教室が空いていれば使えるのですが、必修科目で埋まってしまって使えない場合はPC教室になることもあります。CALL教室を実際に使っていらした先生方はその便利さがわかっているので、外国人の先生方も、やはりCALL教室を使いたいとおっしゃいます。それまでは「どこのPC教室でもいっしょ」みたいに思っていらしたのが、一度使うと「CALL教室を使いたい」という要望がたくさん出て教室が埋まってしまい、今学期は2名の先生にPC教室に移っていただかざるを得ない状況でした。
−先生方がCALL教室を使いたい理由、PC教室との差は何ですか?
生田先生:
CALL教室では、学生たちがログインすると出席表として教卓側に名前が届きます。また、学生たちのモニターを見ることができたり、直接コミュニケーションがとれたりもします。その他にも、ヘッドセットで学生どうしの会話ができる、チャットができるといった機能があり、特に大人数のクラスの場合に学生間のコミュニケーションを図ることができるので、実践的な練習ができます。 PC教室では、インターネットやe-Learningを利用するといった使い方はできますが、こうしたコミュニケーションの機能がないので、いったんCALL教室で授業された先生は、「やはりCALL教室がよい」と言うのではないでしょうか。
−各CALL教室は何席ですか?
阿野先生:
1教室35台です。
塩沢先生:
他大学ではCALL教室は60人、どーんと100人ということもありますね。
生田先生:
現在は1クラス平均だいたい25名ですが、もともと英語の科目は少人数で行っていて、だいたい20名を原則としていました。
CALLシステムを導入するときには、「コンピュータだから大人数でもいいよね」という意見が英語科以外の教員から出ました。学生たちにやらせておけるから、少人数である意味はないのではないかと。しかし、わたしたち英語科の教員はそのようには考えていなくて、パソコン環境だからこそ、むしろ個人ベースでコミュニケーションする機会が増えていると思うのです。できるだけ人数が少ないほうが、授業効果は上がると考えています。 一方的に教材を渡して時間内に演習をさせる場合には、大人数であっても可能だと思いますが、それだけでは教師は必要ありません。やはり一人ひとりの進度をチェックしたり、特にライティングのフィードバックをしたりするには、CALL教室であっても少人数であるべきと考えています。
阿野先生:
そうですね、自習でCALLを使うだけでなく、授業の中でCALLを使うので。今日の授業でもそうですが、活動の中にちょっとCALLを入れるという授業にしたいので、そのくらいの人数が限界かと思います。
塩沢先生:
学生もヘッドセットをつけて、ずーっと画面に向かって作業をしているというのは集中できないみたいなので。ヘッドセットをつけているのは、授業の中で1/3か1/4くらいの時間で、あとは結構移動させたりしています。阿野先生の授業でもたぶんそうですよね。
阿野先生:
そうですね。今日の授業でも、たぶんヘッドセットをつけているのは15分か20分くらいだと思います。
−専門科目の「通訳入門」の授業ではどのような使い方をされていますか?
生田先生:
素材は、塩沢先生のお話にあった共通教材からレベル中程度の一部を使っています。基本的には『CaLabo EX』を使ってシャドーイングの練習をしていますが、「サイマル」機能を使うと自分の声が耳に入らず聞くことに集中できるので、便利な機能だと思って使っています。録音するときにも、同時に録音する方法と切り分けて録音する方法とがあるので、それを使い分けて自分の録音を確認させます。シャドーイングは英語なら英語、日本語なら日本語をそのままリピートさせるのですが、これは同時通訳の練習のひとつで「音を瞬時に拾っていく」能力を育てるのに必要なトレーニングです。それを最初は同じ言語で行っていくので、サイマル機能を使っています。
ある段階で日→英、英→日にしていくのですが、学生たちのレベルがさまざまなので、簡単で日常的な英語の文章を作成させて、それを日本語で話すという練習をペアでさせています。その録音にも『CaLabo EX』を使っていますが、たぶん、他大学の通訳コースでも使われているのではないでしょうか。
学生たちが一生懸命シャドーイングしていると、客観的に聞いていても「すごいな」と思います。わたしたちの頃にはなかったシステムなので、こういうもので練習できるのは恵まれているなと。
また、録音したものを自分自身で聞いて振り返るほか、音声ファイルとして保存できるので、それをそのまま提出・回収したりできるのは、とても便利ですね。こういった機能は、試験や、録音して提出する課題などに使っています。
阿野先生:
(音声などの)試験結果をデータで、USBメモリやCDなどで持ち運べるのが便利ですね。最後にこちらからクエスチョンを出し、ムービーテレコで音声を一斉録音・保存して、CDに焼いて研究室に持ち帰って評価しています。非常にラクです。以前は一人ひとり面接形式の試験をやっていたのですが、「これから試験やるよ」と言って1分間で終わってしまいますからね。
CALLを最初に使い始めた頃は「動機づけ」のためと思っていました。学生たちの英語力を高めるには教員が英語で授業を進めるのが一番効果的ですが、学校の授業・教育環境の中では、個別の会話練習をする時間や場所は限られています。そこで、CALLシステムを使って、ランダムにいろいろな形で学生たちの会話のコミュニティを作るのです。
実際に「英語を使う」環境を整え、英語を”リンガフランカ(国際語)”として捉え「英語の授業だから日本人同士でも当然英語でコミュニケーションするのだ」と意識させることで、学生たちが喜んで取り組む場面を設定できているのではないかと思います。
英語シミュレーション体験とはいえ、授業で使っている質問は、全然知らないレストランで話をしているといった、いわゆるテキストに書いてあるようなものではありません。実際に学生たち自身のことを尋ねるなどの質問を中心に授業をしているので、CALLシステムを使って、限られた空間・限られた時間の中でできるだけたくさんの人とコミュニケーションできているのではないかと思います。
−CALLをわざと使わない場面は? CALLを使わないほうがよいことは?
阿野先生:
例えば出席管理するとき、CALL教室では必ず名前を呼ぶことにしています。前期は、一切名前を呼ばないで、画面上の座席表を一瞬でチェックして済ませるという授業もありましたが、「Face to Face」のコミュニケーションが少なくなります。ファーストネームを呼んでいくところから入って、基本的には「Face to Face」のコミュニケーションを持ちたい。パソコンに向かう前には何かをやって、向かった後にはまた次の何かをやるという活動を必ず入れています。 Conversationのときには、やらなくてはならない環境を作るために、ヘッドセットの会話に集中したらその後にはスピーチするという活動を毎回入れています。いま話したことを、必ず誰かに皆の目の前でスピーチをさせる。それもいつあたるかわからないように、一人ひとりに配っておいたトランプの札であてていますね。チャットも同じように、その後に必ず他の学生の内容も読ませる。記録に残っているので、読んで楽しませます。
シャドーイングもそうです。練習は、定着のために必要で、それを『CaLabo EX』でさせる。そして練習とは別に発表の場も作らなくてはいけない。発表も「フリーペアレッスン」でできるけれど、やはり、皆の前で大きな声を出して発表するという場を、敢えて作ります。ちゃんと練習をやっていればできるけれど、練習をやっていなければできない。
インプット/アウトプットがあって、その間の「インテイク」の部分で『CaLabo EX』を使って集中させる、CALLシステムの役割はその部分かなと思います。CALLではない教室の授業だとインテイクはなかなかできなくて、インプットを与えてアウトプットの活動をさせるのですが、CALL教室だとインテイクという一段階を踏めるのがよいところです。ただ、危ないのは、練習だけで授業が終わってしまうと、「何のために練習をしているのか」ということになってしまいます。だから、途中の1/3くらいをCALLで集中させる。 オーラルで「ペアレッスン」をやった後に written というのも、同じテーマで3〜4回と会話させると何回も頭の中で単語を反復しているので、書くときにラクになる。そこでテーマを変えてしまうと一からスタートになってしまうのでだめですね。
生田先生:
コミュニケーションの基本はやはり、人とFace to Faceのコミュニケーションです。
今、メールなどの多様なデジタルでのコミュニケーションがあるので、CALLの中でおこなっているコミュニケーションは実は、現代社会では自然だと思うのです。だけど、やはり人間どうしが地声で話をするというのは大切なので、CALLで練習したことを、必ずFace to Face のコミュニケーションに持っていく必要がある。むしろそうすることによって学生たちのコミュニケーションの場をさらに広げていくことができているのではないかと思います。
阿野先生:
本当にFace to Face でやると、face expression とか gesture とか使えてしまうのだけど、CALLを使うと言葉に集中できるという価値はありますね。言葉に集中して、その後に顔に向かうと、言葉をベースにしながら違う表現を足していけます。
生田先生:
顔が見えない場合、きちんと発話しないと通じないということはありますね。
阿野先生:
あと、沈黙が本当の沈黙として残っていくじゃないですか、顔を見合わせているとなんか笑ったりしてうまく通じるのだけど、授業の中ではそれができない状況をつくる。つまり緊張感の設定をしないといけないんですね。 そこへインターカムで介入していって大勢と話すのも必要ですが、CALLでもやはり学生たちに直接話す場として、机間巡視は絶対必要だと思いますね。
生田先生:
システムに頼るのではなく、教員の裁量は大きいですよね。どこの学校でも導入前に、(例えば英語以外の先生が)CALLシステムを入れたら英語教育は何とかなるんじゃないか、と考えて導入するケースがあるらしいですが、それを使って学生たちの指導ができる担当教員があまりいなければ難しいと思います。
阿野先生:
導入したときのオリエンテーションで、これができる、これもできる、という機能の説明だけ並べちゃうと、皆「自分はこんなにはできないな」と思って終わってしまいます。
事例で「こういう所でこれが使える」というと、「あ、これができるなら」と思ってもらえることが多いのではないかと思います。活用事例が先にあって、これをやりたいからこれを使えばいいのだなと実感できる。そうすることによって、活動が全部つながっていくような指導ができると思います。
−CALLを使わない先生が使うようになるきっかけはどのようなことでしょうか。
また、その後どのようにして操作を習得されていきますか。
生田先生:
1つは、他の大学で使う機会があって、講習を受けたりして使うようになる、というケースがあります。
あとは、自分でPCを使うようになると、ライティングに関して学生たちとのやりとりがメールで簡単にできるということから、PC教室で授業をもちたい、と希望された先生もいました。
そうした先生方は、最初はPC環境だけあればよいということでしたが、今では出席管理・座席に名前が出る・英語モードが使える点が便利でCALL教室を使いたいとおっしゃっています。
阿野先生:
LL助手室の存在が大きいですよね。後期からはいった先生も、LL助手室のスタッフ(2名)に「どうやって使うのですか」ってよく聞いていましたよね。
塩沢先生:
「駆け込み寺」的になっています。(笑)
阿野先生:
授業中でも目の前にあるのですぐに行けますし。わたしも最初に使い方を聞いたのですが、とても丁寧に教えてくれました。
生田先生:
ここまでCALLの科目を広げることができた理由として、サポートシステム(体制)は大きいと思いますね。
塩沢先生:
非常勤の先生は、ご自分の授業のときしかいらっしゃらないので、その場で教えてもらえるのは大きいですね。
阿野先生:
先ほど1時間目の授業でも情報センターに電話して2回来ていただいたのですが、トラブル対応も、こうしたサポートがあるので安心できますね。
塩沢先生:
助手室と情報センターの連携・対応がとてもよいですね。
生田先生:
ここではCALL教室内に内線電話があります。他大学では電話が設置されていないことも多く、何かあったときに授業を中断し、自分で走って呼びに行かなくてはいけない。
しかもすぐに来てくれるとは限らないといったことを聞きます。ここではすぐに対応してくれるというサポート体制があるから、CALL授業を続けられるのです。
塩沢先生:
毎時間、担当のスタッフが来て教室のチェックをしてくれます。
阿野先生:
そうそう、1時間目も9時前にはチェックを済ませてくれていますね。
−今後の展望についてお聞かせ下さい。
生田先生:
来年から英語教職課程を立ち上げ、教科教育法の中で、コンピュータやメディア機器を使って教えるというのを、1つのテーマにしてやっていきたいと思っています。CALL教室を実習の現場にしながら、CALLシステムを活用できる英語の先生たちを送り出していきたいと考えています。
阿野先生:
操作の説明だけではなくて、自分たちがCALLシステムを実際に使って練習して「こういうことができる」と気づくことが大事だと思います。
生田先生:
中高でこうしたCALLシステムでの授業が普及すると、わたしたち大学側では受け入れがラクになります。その反面、大学でも独自のより進化した教材を使っていかないとならないでしょう。そのあたりを今後検討していきたいと思っています。
CHIeru.Magazine 2008 Autumn/Winter 4号版の活用事例はこちら
国際学部 国際理解学科 教授 塩沢泰子先生
国際学部 国際理解学科 教授 生田祐子先生
国際学部 国際理解学科 准教授 阿野幸一先生