緻密なブレンディッドラーニングの実践で英語の基礎習得への意欲を高める

2014年4月、工学部にロボット理工学科を新設した中部大学。同学科では設立の数年前から「工学者として必要な英語力の基盤を築く」カリキュラムと教授法について語学センターとプランを練った。そこに不可欠であったとされるeラーニングシステム「Glexa」の活用方法について、語学センター副センター長の小栗成子教授にお話を伺った。

中部大学
1964年に中部工業大学として誕生し、2014年に開学50周年を迎えた中部大学は、緑豊かな春日井キャンパスに7学部30学科が集結。2015年度からは、学生一人ひとりの意見や夢を尊重し、自主性や自発性を養う「テーラーメイド教育」を活発に展開している。
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変化を見逃さず根気よく学びの芽を育てる

 ロボット理工学科の英語カリキュラムは、1、2年次が必須、3年次が選択必須となっている。どの学年も年度始めに実施される『CASEC』(英語コミュニケーション能力判定テスト)のスコアに基づいて、1年生はA、Bクラス週1回、またはC、Dクラス週2回というクラスにレベル分けされる。その中で1年次には、特に耳と口を育てる基礎徹底が図られている。

 「英語嫌いの学生に、180分の授業が耐えられるのか?」という学科側の疑問に対して、「180分が楽しくなるのか地獄となるのかは、工夫次第」と答えた小栗教授。その脳裏には綿密なブレンディッドラーニングの授業構成が複数浮かんでいた。「A、Bクラスも90分では本当は足りませんよね?」高丸教授の次の疑問だった。その対処方法もすでに小栗教授にはあった。eラーニングとのブレンドだ。同学で20年以上、理系・文系を問わずレベル差の広い英語クラスを担当してきた小栗教授には、学びの濃度を上げるアイデアの引き出しが多い。また、1990年代始めから全国に先駆けてインターネットを英語教育に導入した実践歴と、複数の学会賞受賞歴もある語学センターは、いわばICT活用のエキスパートといえる。

 語学センターが学科と共に描いた英語教育プランは、「英語がなんとかなればよい」ということに留まらない。工学者となろうと、別分野に進もうと、どのような分野においても求められる「向学心」や「協調性」そして「互いを受容し合う心」を育てることも視野に入れている。「学業や研究、就労環境において、異なる文化や価値観を持つ人々と協働できる素地なくして、英語を用いてコミュニケーションをしていくことはかないません」と小栗教授は語る。高丸教授によると、ロボット理工の分野では、特にチームワーク力が求められるのだそうだ。英語と異文化への関心・受容力の形成へ向けた取り組みが、こうして誕生した。

図1 1年次時間割

図2 2年次時間割

教員が1チームとして学生全員を育てるチームティーチング

「”すべきこと”をしなければ英語力は定着しませんが、その”すべきこと”をどのようにさせるのかが教師に投げかけられた大きな問いです。これをすればOK、というような特効薬はありません」。ロボット理工学科での授業の一つ目の特徴は、授業体制だ。1学年80〜90人の英語力の差は広い。初年度は100%の学生が英語に対してネガティブ感を抱いていたと小栗教授は話す。「授業で英語力をつけてほしいというのなら、40人以上で一斉授業では困難な話です。語学センターの教員のうち授業を担当できるのは関山先生と私だけ。2名でこの90人の面倒をどうみるのかを、高丸先生と徹底的に話し合い、計画を立てました」

小栗教授と関山准教授が実践している当学科の授業は、ハイブリッド式だ。また、1年次の一部を除いて、20人程度のクラスサイズを上限としている。

「一教員が90分間一クラスを担当すれば簡潔ではありますが、見逃すことが必ずあると考え、各クラスに”担任”1名とするよりも、全クラスを二人で観ることを選びました。カリキュラムの適性を確認するために、学年全体を私が教えるか、もしくは見学するかできるような時間割配置もしています。もちろん、教員にとってもこれは新たな挑戦です。45分ずつ分担するので、45分間が濃く、忙しいです。90分一コマの間に二クラスを担当するので授業準備も実は倍になります。しかし、英語嫌いな学生たちに英語を頑張らせるのなら、私たち教員もそれ以上に頑張らなくてはならないのではないでしょうか。授業開始から45分後をめどに、学生は教員の指示によって教室を入れ替わります。移動時間は数分で、学生はすぐそのスタイルに慣れてくれます」と小栗教授は説明する。(図1、2参照)。このプランの背景には、学部生当時、先生ご自身が体験された母校(南山大学外国語英米学科)での授業がある。「45分LLでリスニング、45分英語ネイティブの先生と会話、という授業でした。ほっとする一瞬の隙もない、濃度の高い、緊張感のある授業でした」と小栗教授。

 このハイブリッドプランは、折しも更新計画が進められていたCALL教室や演習室を活用すること、eラーニングシステム、eラーニング教材を導入していくことを視野に入れて作り上げられていった。

 語学センターと同学科のあらたな挑戦は、2014年4月から実行に移された。「1年次には、”今までの英語と違うかも?”という期待感を持たせつつ、同時に”こっそりパソコンで遊べる?”という妄想を打ち砕きます」と小栗教授は笑う。「英語授業の中で、学習環境は道具のひとつ。しかし、いつどの道具を使うかが肝心で、入学してすぐにどのような学習を体験させるかが最重要です。1年次は時間の長短はあれ、全員がCALL教室を使用し、そこでの学習の中核がGlexaです」

アクティブラーナーを育てる段階的指導

 CALLでの授業や、語学専用自習室(SI Room)での自主学習または自宅などでのeラーニング教材を使った学習に学生自身が慣れたところで、カリキュラムは次の段階へと移る。2年次には「機器依存、すなわち”英語はパソコンで学ぶものだ”というような固定概念を持たせないようにします。モニターが作ってしまう壁がないLL教室を45分間使用し、一斉授業・協調的学習・個別学習を展開しています。LL教室を利用するのは、個別学習やペア実習におけるモニタリングをすることが必要なためです。学科の専門科目の授業もグループワークが主であるとお聞きしたため、共に、互いに学ぶことを英語授業でも行い、協調的に学ぶ楽しさを味わう時間を増やそうとしています」と小栗教授は話す。

 では、2年次、英語ネイティブ教員が授業の半分を受け持っている理由は何であろうか。「限られた時間とはいえ、1年次から努力してきたことを、2年次にはネイティブの先生のリードのもとでコミュニケーションアクティビティをします。主に、書く・話す実践です。それにより自信をつけさせたり、これから何を強化しなくてはならないのかを自省させたり、目標を新たに立てさせたりするのが狙いです。授業の半分の日本人教員との時間には、主に読む・聴くということを通してコミュニケーションに必要な力をつけます。2年次は授業時間内にGlexaを使用しませんが、授業での学習ターゲットの確認や応用などの宿題をGlexaで課すため、授業になくてはならないパートナーとなっています」と小栗教授は説明する。

 「ネイティブとの時間は、早い時期からのほうがよいのでは?」という意見に対して、小栗教授らは肯定的ではない。「英語の力も自信も何もない学生が、いきなりオールイングリッシュの授業に入れられると、沈黙するか小学校でのALTの時間の悪夢が蘇るかのいずれかです。入学時に英語への不安を訴えた学生は100%。なかには”小学校の時から何をしたらよいのか、わけが分からないのが英語だった”という学生もいました。推測していた通りでした。1年次に〈聴く〉〈発音する〉力を徹底的につけること、英語を口から出しても平気だという気持ちになることを優先しています。今までに経験が少ないことほど時間をかけてトレーニングする必要があるためと、2年次以上への準備だからです」と小栗教授は言う。確かに1年次の授業を取材している時にも、「英語専攻?」と思えるほど英語を口から出す練習量が多いことに圧倒された。しかも、二コマ連続授業でのトレーニングはのどが渇くほどだ。

 「授業中にこれほど”しゃべってよい”授業はないはずです。静かになると注意されますから(笑)。1年次の授業は、①ダイアログ・モノローグ・インタビューを聴いて内容を理解する、②音・文法・スペリングとフル稼働が求められるディクテーションのトレーニングをする、③eラーニング教材を使って、発音とプロソディのトレーニングをし、語彙の使い方と文構造を学ぶ、という3点が重点的に行われていますが、読むことについても、ペア音読するなど “音”を必ずつける工夫をしています」と小栗教授は述べた。

図3 図版提供:小栗成子教授

「英語嫌い」から「これならできるかも」への変化

 このような授業の中で、学生たちはどのような変化を見せるのだろうか。 「1年次の初回授業で私に背を向け、中学・高校と教科書を開けたのは定期テストの時だけだったという男子学生がいました。そんな彼が2年次にペアでダイアログを作文し、発表する姿を目にした時、涙腺がゆるみました。彼の口から英語が出てきているなんて…と。また、2年次の春学期、ドキュメンタリーを見せると”これ難しいから嫌だ”と言っていた学生たちも、秋学期にはドキュメンタリーの要点を理解しようとしました。英語が流れたとたん、解るわけない‼︎と、そそくさと耳を閉じてしまう学生は、1学期目の後半から減り、2年次になると頼もしいほどになります。ドキュメンタリーを観る彼らの姿は、とてもカッコいいです」と小栗教授は微笑む。教材の内容が興味深いかどうか、ということも見逃せない点だという。

「Glexa」の自由度が学習観に変化をもたらす

 同学科の英語授業は、究極のブレンディッドラーニングだ。その理由を小栗教授は「英語を使えるようにするためには、インプットとアウトプットをただ行ったり来たりするだけでは足りません。ましてや当学科のようなケースでは、インプットだけでも苦手な学生にアウトプットを強いればブロークンな英語にしかなりません。一方、アウトプットは無理だからとインプットだけをしていれば、”やっぱり英語はつまらない”と思い込まれてしまいます」と明かす。小栗教授によると「アクティブラーニングとは、見た目の積極性をいうのではありません。いかにインナーアクティブ(個々の内側での学習の活性化)になっているかは、外見だけでは判断ができません」と、学生の英語学習に対する印象を、どう変えるかを説明する。

 「学生たちは”あ、そうか。わかった!”という経験を重ねて、少しずつ自信をつけ、目標をあげていきます。英語に対する苦手感はすぐには消えるはずもありません。しかし、”苦手”の中身が変化していきます。それを”いつまでたっても苦手ではダメだ!”などと言わずに彼らの変化する姿を見守ってあげたいものです。Glexaでの課題に取り組んでいる時、自動採点されるものであれば、その結果によっては”よっしゃ‼︎”と歓声もあがれば、”はあぁ〜”とため息も聞こえます。そんな時こそ教員の出番です。課題のチャレンジ回数を制限している時など、”先生、もう1回させてくれない? このままじゃ悔しい”と懇願する学生がいます。授業中、指示した課題に取り組み終えると、自発的に”前回苦手だった課題を復習していてもいいですか?”という学生もいます。Glexaでは自分が納得するまで課題受講を繰り返せる設定ができます。プリントを”もうあと10回やらせてください”と余分にもらいに来る学生はなかなかいないと思いますが、Glexaではそれが当たり前です。自分のペースで学習できることを、”誰かに気を遣うことなく学べるから、授業が自分の時間になるし、待ち時間がない”という学生もいます」

 小栗教授は、授業は教員も学生も学ぶ場なのだと話す。「学習の様子を直に、あるいはモニターを通して確認しながら、あらかじめGlexaで用意している学習課題を適宜公開していきます。公開の順序も、授業中に修正することはしばしばです。真剣な眼差しや不安な表情を確認しながら、次にさせるべきことを練り直せるのも、Glexaのおかげです。何を、どのタイミングでどのくらいすれば、今日の学生たちの学習が最大限になるのかを授業中は常に考えています。課題を終えた学生の自動採点結果を見ながら次に行うべきことを考え、学習度合いに合わせて次にすべきことを選び、学生と一緒に授業を作り上げていく感じです」

「Glexa」と教員の役割

 「Glexaは、柔軟なブレンディッドラーニングを理解し、支えてくれる頼れる授業パートナー。時間・空間・人・教材の全てをブレンドさせてくれる、教員の強い味方」と、英語教育におけるインターネット活用に熟練した小栗教授のGlexaへの評価は高い。対面授業の中でGlexaを活用する場合、「ネットに接続できる環境であれば、持ち込みPCでもGlexaを使って授業ができます。課題は、Quiz(解答方法も選択可能)、BoardやForumなどから、学習に適したものを選ぶことができます。対面授業でGlexaでの個別学習をさせたくない場合やその時間が取れない場合でも、どこにアクセスするかを説明するだけで、学生は簡単に慣れてくれます。説明も注意事項も質問に応じて不明な点も説明を更新して、学生の様子次第ではさらに説明を更新していくことも容易です。また、提出・採点がゴールなのではなく、授業を通じて、学習=自分に力をつけることだという意識へと移行させることも、教員の役割です」と、さらに続けた。

 小栗教授らは、反転授業にも、復習にも、試験にもGlexaを使う。他の英語科目では、Glexaを宿題に活用。英語の授業以外でも、ゼミ形式での科目でも、BoardやForumを活用しインタラクティブな授業に役立てているという。「いつの間にか教員の身に染み付いている授業時間の配分を、見直す必要にも迫られます。Glexaで自動採点できるということは、印刷の手間を省いたり、紙を節約したり、大量な課題をアーカイブできるという効率さをもたらすだけではありません。実は対面授業の意義そのものを私たちに考え直させてくれます。無駄な時間を費やしていないか、授業の質はもっと上げられるのではないかと常に激励されているかのようです」と小栗教授は話す。

 「ブレンド型授業では、課題をオンライン・オフラインと分類すればよいのではなく、その場に学習者が集まっているからこそかなう学習を対面授業では優先し、そこで得た力を個別学習へとつなげていくように、丁寧に授業準備をしていかなければなりません。それもGlexaが気づかせてくれました。授業準備は膨大です」という教員チーム。しかし、各教員がそれぞれの得意とする部分を分担し合い、協力し合っているので、忙しくとも、苦しくはないのだそうだ。

 「本学科の学生たちにとって、Glexaは教員と自分の間を行き来する特別なワークブックです。”擦り切れる”ほど使ってほしい、と思っています。現在は、学期と学期、学年と学年の間などに使用できる総復習課題集を語学センターで作成中です。1年次、2年次に使用しているテキストの内容に沿って、”これだけのことを学んできたんだな””自分にはこれが身についているかな”といつでも確認できるように〈問題集〉機能を使って作成しているところです」と小栗教授は語る。

 Glexaが活用されているこの授業と出会ったロボット理工学科の学生たちの学習成果が、今後、彼らの学業、研究、就労で生かされる日が来るのが楽しみだ。

小栗教授が挙げる

Glexaの利点

①授業時間を最大限有効利用できること
②学習形態や学習のタイミングを切り替えられること
③教員がチームを構成して全内容を共有できること
④学習量とタイミングをコントロールできること
⑤目の前の学生に適した学習素材を作れること

Glexaを活用する際の教員の心得

①既製品のeラーニング教材と異なる特性を理解しようとし、
 その授業ならではの教材作成を楽しむこと
②Glexaで何を課せばベターであるかを選ぶこと
③Gelxa上の課題のタイムマネージメント力を活かすこと
④課題を「こなす」感覚に学生が陥らないよう注意すること
⑤自動採点の数値、クラスの統計だけでなく、個々の解答結果を次の指導へと
 反映していくこと

語学センター 副センター長<br>教授 <br>小栗 成子先生

語学センター 副センター長
教授
小栗 成子先生

工学部 ロボット理工学科 <br>教授 <br>高丸 尚教先生

工学部 ロボット理工学科
教授
高丸 尚教先生

語学センター <br>准教授 <br>関山 健治先生

語学センター
准教授
関山 健治先生

語学センター <br>助手 <br>加藤 鉄生先生

語学センター
助手
加藤 鉄生先生

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