コミュニケーションツールとして児童が使いたくなる機会を用意する

教員養成の今 幼・小の英語のつながりを大切にする工夫

札幌国際大学 短期大学部 幼児教育保育学科 神林裕子准教授に聞く

幼児期に英語に触れる子どもたちが増えている一方で小学校の外国語活動は3年生から開始する。幼・小で英語に触れるポイントについて、札幌国際大学短期大学部の神林裕子先生に話を伺った。

外国人の親子とも通じ合える
即戦力の保育者を育成する

 札幌国際大学 短期大学部 幼児教育保育学科の神林裕子准教授は、北海道教育大学附属札幌小学校をはじめ小学校教諭として教育の現場を経験したのち、札幌市教育委員会にて、小学校外国語・外国語活動を担当。英語教育をさらに研究したいという意思があり、2020年より現職で、保育者の育成と小学校の英語教育の改善の研究に努めている。

 同大学の幼児教育保育学科では、コミュニケーション能力等も重視した保育者の育成を行っている。また、同学科は昨今の英語のニーズに基づき保育英語コースを設置し、保育総合コースの科目のほかに、「保育英語Ⅰ~Ⅳ」「海外研修」を設定し、英語でのコミュケーションを学ぶ機会を提供している。

 「学生たちには海外研修を通して、海外文化を学ぶとともに自国文化を学びなおし、外国人と通じ合うためのツールとして英語を学び、保育の現場で外国とつながりのある保護者や子どもたちとのコミュニケーションに生かしてほしいと考えています」(神林先生)

 文部科学省の幼稚園指導要領解説に掲載されている「海外から帰国した幼児等の幼稚園生活への適応」では、「海外から帰国した幼児や外国人幼児に加え、両親が国際結婚であるなどのいわゆる外国につながる幼児」を想定。そういった幼児は、異文化における生活経験などを通して、日本社会とは異なる言語や生活習慣、行動様式に親しんでいるため、一人ひとりの実態は、在留国の文化的背景や、家庭の教育方針などによってさまざまである。その点を保育者は理解し、保育者自身がその幼児の暮らしていた国の生活などに関心をもちスキンシップをとりながら幼児の安心感につなげる関わり方をする必要があるとされる。

 同大学では保育者の育成の際に、フラッシュ型教材を活用している。「英語を聞いて分かる、見て分かること」を目標に利用していると言う。また神林先生はフラッシュ型教材を使ったスリーヒントクイズ(3つのヒントを元に、答えを推測する活動)として学生同士が英語で伝え合う取り組みについて説明する。「学生の後ろにフラッシュ型教材を置き、他の学生がスクリーンに投影されている写真についてヒントを与えます。英語で伝えるスキルを身に付けることとともに、自分自身の英語の学びに加え、保育者の観点からも日本語に置き換えると子供たちの言葉遊びにもなる点を伝えています」(神林先生)

日本語と英語の『バイリンガル絵本』を活用

 神林先生は保育者の育成に努めるとともに、小学校教師としての経験から幼児期における英語と小学校の英語のつながりについて課題を感じているという。「現状小学校では3・4年生が外国語活動、5・6年生が教科として英語を学ぶ環境になっています。たとえ、幼児期に英語や異文化を知るといった経験をしたとしても、1・2年生が、同様の経験をすることが少ないことは非常にもったいないと感じています」(神林先生)

 そう述べた上で小学校低学年での空白という課題を解決する一つの方法として、絵本の活用の可能性について説明する。

 神林先生は小学校教諭と教育委員会での実績から札幌市の雪学習プロジェクトの小学校外国語チーム兼アドバイザーとして活動している。その際、絵本作家のほんままゆみ氏の著書『ゆき ゆき ゆき』という日本語と英語のバイリンガル絵本に着目した。北海道出身の作家であり、雪学習プロジェクトに適していると感じたとともに、小学校の英語の実践にも生かせるのではないかと考えたと言う。

 実際に絵本の続きをスライドで作成する取り組みを雪プロジェクト外国語チームが6年生で実施したところ、児童が積極的に英語を使って活動している姿が見られたとのこと。また、制作した絵本の発表は低学年を対象として行われ、バイリンガル絵本の続きを考えるという活動は幼・小の英語とのつながりを強化するきっかけになると実感したと言う。

 「絵本は、幼児はもちろん小学生にも親しみやすいものなので幼児期の英語と児童期の英語への橋渡しとしての可能性を広げるツールであると考えています」(神林先生)

北海道教育大学附属札幌小学校における実践(雪学習プロジェクトのニューズレター33号より)
北海道教育大学附属札幌小学校における実践(雪学習プロジェクトのニューズレター33号より)

ICT環境の整備が遠距離の相手との距離を縮める

 「小学生が英語に継続的に親しみを感じ学習を行うには、単なる英単語や表現の練習ではなく児童が英語を思わず使いたくなる場面や状況を可能な限り増やすべきだ」と神林先生は続ける。

 ネイティブの外国人の先生あるいは地域の方と、英語で意思疎通を図ることは有用だが、これまではさまざまな要因で十二分には行われていない。「GIGAスクール構想によってICT活用の基盤が整いました。遠方の外国人とのコミュニケーションが容易になり、このことはその課題を解消する一つの有効な方法だと思います」(神林先生)

 また、神林先生は児童の遠距離の相手との意思疎通意欲を促す方法として、「テディベアプロジェクト」を例に挙げる。神林先生も小学校教諭であった時期に北海道と沖縄県の小学生の間で人形の交換を行い、その人形がホームステイをする様子を写真や動画で送り合ったと言う。

 「この取り組みを海外の小学校などと行うことができれば、児童はホームステイなどの様子を伝え合うために英語で書こう、話そうという意欲をもって取り組むのではないかと思っています。ICTを活用することで、海外の小学生とのやり取りもしやすくなりましたし、過去に比べて伝える手段も格段に増えました。1人1台の整備が整ったことでさらに発展的な取り組みが可能になると思います」(神林先生)

 これまでの小学校教員としての経験と日頃の保育者育成のノウハウが融合することで、さまざまなプロジェクトが今後も生まれ英語教育の発展に寄与するであろう。

過去の取り組みの様子。ICTを活用した海外の小学生とのコミュニケーションに期待がかかる
過去の取り組みの様子。ICTを活用した海外の小学生とのコミュニケーションに期待がかかる

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