不安定なネットワークは教育機会を奪う
GIGAは「見えないところ」が大事

―大分県―
玖珠町教育委員会

文部科学省から、GIGAスクール構想における「ネットワークアセスメント(評価)」の重要性が発信されている。大分県の玖珠町教育委員会に環境改善の考え方や取り組みを聞いた(取材は2023年度に実施。所属・役職は、取材時時点)。

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CBTやデジタル教科書に備えて根本的な改善を施すタイミング

GIGA環境の整備には「ネットワークアセスメント」が欠かせないといわれています。

平川 日本の企業や官公庁において、 400台といった数のPCが一度に接続し、同じタイミングで同じサイトや同じ動画を見る機会はまずないでしょう。しかし、学校ではこのような多台数同時接続が毎日、何度も生じます。1つのアクセスポイントにクラス全員分の40台がぶらさがっている学校も珍しくありません。膨大なデータ通信量を支えるネットワーク環境が求められるという意味では、学校は今の日本で最先端の空間といえるのではないでしょうか。

 だからこそ、ネットワークアセスメントは重要であり、GIGAスクール構想を進めるうえで取り組むべきさまざまな課題の中でも、特に優先順位が高くなければならないと考えます。

 玖珠町では、学校のネットワーク環境はより良い授業実現の起点であり、道路や橋などと同じ公共インフラという位置付けです。そのため、ネットワーク環境のアセスメントと適切な増強は、GIGAスクール構想の推進における自治体の責務であると考えます。

GIGAスクール構想では、PCやクラウド型の教材ソフトなどに注目が集まりがちです。

衛藤 そのPCもクラウド型の教材ソフトも、ネットワーク環境が脆弱では本来の機能を活かすことができません。GIGAスクール構想が本格スタートして4年経ちました。当時に比べると、あらゆる学校で科目を問わず端末を積極的に活用する授業が増えたと思います。

 にもかかわらず、外部のインターネット環境も校内ネットワークもGIGAスクール構想以前のままというのは厳しいと考えます。これからはCBT(注)やデジタル教科書が本格普及し、教材ソフトの質の向上で必要な通信は増えるでしょう。校内ネットワークの通信負荷がさらに増すのは容易に想像できます。

平川 校内ネットワークの通信負荷の軽減策としては、メインのコンテンツサーバに代わってキャッシュサーバで代替配信するなどの手段があります。しかし、数年のうちに訪れるであろう通信量の増大のインパクトを考えると、ネットワークアセスメントをきちんと実施し、想定データ使用量に見合った根本的な改善を施すタイミングに来ていると考えます。

モニタリングで原因を把握してネットワーク切り離しを決断

玖珠町では、チエルの無線通信可視化・安定化ソリューション『Tbridge®』(ティーブリッジ)を導入して、校内ネットワーク環境の改善やモニタリングを実施していますね。

平川 『Tbridge®』を導入したのは2019年4月に開校した玖珠町立くす星翔中学校です。7つの学校が統合した町内唯一の中学校で、生徒数は約370人です。

 開校はGIGAスクール構想の前ですが、「授業でPCを使うのが当たり前の時代が来る」と校内イントラネットは10ギガ(Gbps)で組み、アクセスポイントも50カ所以上に設置しました。当時は10ギガベースのネットワーク構築は一般的ではありませんでしたが、末端のスイッチも、すべてのポートが10ギガに対応したものを揃えました。この先、1人1台端末時代が到来したとしても、イントラネットワーク環境にはまったく問題ないと自信がありました。

衛藤 その後、2020年にGIGAスクール構想が動き出し、町内の小学校にも1人1台端末が整備されました。さまざまな学校で端末を活用した授業が行われるようになると、サクサクつながっていたくす星翔中学校でも端末がつながりにくい事案が発生し始めたのです。

児童生徒や先生は不安ですね。

衛藤 CBTで残り1問となった時に画面がクルクルし始めると、後日紙で最初から回答しなければなりません。入力し終えた分の回答を覚えていなければ、公平な評価が難しくなります。不安定なネットワーク環境は教育機会を奪うことにもなりかねないのです。

 デジタル教材を同じタイミングで開いたり動画を同時視聴したりすると、隣の友達は見ているのに自分のPCはつながらないといったケースも報告されました。このような事態が日常的に発生し続けると、子供も先生も、端末活用から距離を置いてしまうでしょう。

平川 そこで2023年3月、くす星翔中学校に『Tbridge®』を導入しました。一般に無線LANは、多数接続などでパケットロスやパケット再転送、Delay(遅延)が増加して帯域幅を十分に使いきれなくなり、遅くなることがあります。『Tbridge®』の安定化機能は、このような混雑時の通信環境を改善するので、校内ネットワークの通信速度は向上しました。

衛藤 安心したのもつかの間、2023年8月末には夏休み明けの町内の小学校・中学校のネットワークが突然つながりにくくなりました。『Tbridge®』の管理画面でセッション数などをモニタリングすると、夏休み前と変わりありません。学校以外に原因があるのではと調べたところ、教育委員会が入っている庁舎内の行政関係のネットワークで輻輳が起きていて、学校関係を含むネットワーク全体を圧迫していることが判明しました。

 そこで行政関係のネットワークから教育関係のネットワークを切り離し、インターネットに直接振り分けました。私たちは、Google Chat™ などを通じて学校側と緊密に連絡を取り合っていますが、ネットワークを分けた後は「つながらない」という声は届いていません。

図1:『Tbridge®』による通信プロトコル(通信手段)上のボトルネックの解消
図1:『Tbridge®』による通信プロトコル(通信手段)上のボトルネックの解消
(注) CBT: Computer Based Testing。コンピュータを利用する試験方式

適切なネットワーク管理には、モニタリングによる原因の正確な把握も重要です。

図2:『Tbridge®』の導入効果
図2:『Tbridge®』の導入効果

衛藤 『Tbridge®』は、校内ネットワークをモニタリングする上での体温計のような存在といえるでしょう。私たちは熱っぽいと感じたら体温計で測り、「38度近いので病院へ」「36度台だから様子を見る」など判断して重症化を防ぎます。同じように、学校からつながりにくいと連絡がきたら、『Tbridge®』でセッション数やログを確認。データを基に「校内ネットワークの不具合か」「外部のインターネット環境が原因か」を検討し、適切な対処ができます。

 1人1台端末による児童生徒の個別最適な学びや協働的な学びは、ネットワークが正常につながっていることが前提です。GIGAスクール構想は「見えないところ」が大事といえるでしょう。

*Google Chat は、Google LLC の商標です。

教育政策課 指導企画監<br> 兼 GIGAスクール推進室 室長<br> 衛藤 公彦 氏

教育政策課 指導企画監
兼 GIGAスクール推進室 室長
衛藤 公彦 氏

教育政策課<br> GIGAスクール推進室 主任<br> 平川 拓也 氏

教育政策課
GIGAスクール推進室 主任
平川 拓也 氏

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