ICTが自然と活用される仕組みづくりを

―愛知県―
春日井市立高森台中学校

「チエルマガジン」では2019年春夏号で春日井市の教育情報化の歩みについて取り上げた。あれから2年が経ち、GIGAスクールへの過渡期となる今、どのように歩みを進めているのか。春日井市立高森台中学校の水谷年孝校長に語っていただいた。

ICTが自然と活用される仕組みづくりを
春日井市立高森台中学校

春日井市立高森台中学校

〒487-0032 愛知県春日井市高森台8丁目6番地

1978(昭和53)年、春日井市立藤山台中学校より分離独立し開校。「創造 知を練る」 「信愛 心を磨く」 「頑健 体をつくる」 を教育目標とする。

「便利なもの」は自然と使われる

 「“ICTは便利なもの”という教員の意識こそが、何よりもICT活用をスムーズに進めてくれる」

 愛知県春日井市の教育情報化は、20年以上前、この発想でスタートした。最初に着手したのは校務の情報化だった。

 1999年当時、春日井市の学校のICT整備は全国的に見て遅れていた。他の自治体でインターネットを授業に使う取り組みが目立ってきた中で、春日井市がまず導入したのは、主に教員の業務改善のためのツールだった。全ての教員にメールアカウントを配付し、さまざまなやりとりをメールでするように変えていったのだ。

 「先生たちに『これは便利だ』という感覚があれば、活用は自然とされていくのです」と水谷年孝校長。その言葉の通り、段階的に整備を行うたび、新しいツールの活用がスムーズに定着していった。

 校務のICT化が十分に定着したのを見計らって本格的に始めたのが、授業でのICT活用だ。まず、2008年に普通教室への実物投影機の整備に着手し、3年間で市内の全小学校への常設を実現。フラッシュ型教材など大型提示装置を利用したデジタル教材の活用も無理なく進めることができた。

 「常設」もまた、ICT活用のハードルを下げる大切なポイントだ。授業を行う教室にICT機器が常設されていない場合、使うたびに機器を運ぶ必要が生じてしまう。その状況下ではどうしても「準備が大変」「接続が難しそう」といったイメージが先行し、なかなか活用は広がらない。

 普通教室に必要な設備を常設することで、ごく日常的な授業の中で「このボタンを押すだけ」「普段、校務でPCを使うときと同じ」という感覚で気軽に使うことができる。すると、「ICTを使った方が効率的」というように、良い面に目が向き、好循環が生まれるのだ。

GIGAスクール構想も同じ

 これまで「校務の情報化」から「授業でのICT活用」へと至るまで段階的に整備を進めてきた春日井市。水谷校長は、今回のGIGAスクール構想を「3度目の大きなステップアップ」と捉えている。

 まず、今までと同じように「先生たちが便利になること」から活用を進める必要があった。そこで実行したのが、Chromebookなどの端末より先に、G Suiteやクラウド環境を活用することだった。

 最初の例が、校長同士での状況共有だ。2020年3月、新型コロナウイルスの影響による臨時休業という前例のない事態で、行事の運営方法を初めとした相談事項が山積していた。市内各学校の校長同士でさまざまな情報を共有する必要が生じた際に、G Suiteが活躍したのだ。メールでのやりとりでは煩雑だという話になり、水谷校長からGoogle スプレッドシートの活用を提案したという。相談や質問を入力する欄と、回答を入力する欄をつくり、意見の交換を効率的に進めることができた。「必要に迫られた状況で使うことが、便利さを知る上では一番ですから」と話す水谷校長。それをきっかけに、今では校長間の情報共有はほぼ全てGoogle スプレッドシートで行っているという。

 2020年4月には、全員分ではないものの、各学校に教員用のGoogleアカウントが発行された。

 このGoogleアカウントを春日井市内の学校で最初に使ったのは、授業動画ファイルの共有だった。臨時休業が決まってから学校ごとに作成していたものだ。動画ファイルを水谷校長が受け取ってアップロードしていたが、容量が大きいため受け渡しが大変だ。そこで、Googleドライブを使えば簡単に共有できることを紹介し、すぐに使い始めた。

 このように「クラウド」や「アカウント」はさまざまな“不便”を解消してくれるツールとして、さっそく先生方の業務に溶け込みつつあった。

「授業で使う」のも自然な流れ

「授業で使う」のも自然な流れ

 次に高森台中学校では、臨時休業中の教員研修のツールとしてGoogle Jamboardを使った。在宅勤務でそれぞれの自宅にいる教員と、職員室や教室にいる教員が、一つの場所で編集できるおもしろさがあった。

 ここまで体験すると、先生たちから「このツールは授業でも使えそうだ」という発想が出てくる。しかし、教員間でのみ使うのと全く同じ方法で児童生徒に使わせることは難しいだろう。すると、「授業で児童生徒に使わせるためにはどうすればよいのか」という疑問にたどりつく。

 そこで、Google Classroomの役割を説明する。Google Classroomを使えば、課題の配信だけでなく、さまざまなコミュニケーションをクラスごとに管理でき、生徒は自分のクラスにアクセスすれば簡単に情報を得ることができる。これまで主に業務上での便利なツールとして見えていたG Suite が、Google Classroomの存在によって「授業でも便利に使える」ツールになるのだ。

 授業で使う場合には、当然、生徒全員分のアカウントでの管理が必要だ。水谷校長は、この段階になって初めて「アカウント」や「ログイン」について説明したという。これまでファイル共有の際にはURLを「全員に共有」にしていたが、このままでは授業で使うのに適切ではない。そのためにアカウントというものがあり、ログインする必要がある、と。

 「生徒に説明するときには、もちろん最初に『ログイン』を指導しますが、今回、先生方にはこのような順番で徐々に説明をしてきました。操作を学ぶための研修というのはほとんどやっていません。クラウド環境を使って実際に研修での活動をしてみたり業務を行ったりする中で、便利さに気づき、さらに慣れていくと、『こういうこともできるのではないか』という発想が生まれるので、その流れに沿って無理なく進めてきました」

 それからは、校内の通常の教員研修をGoogle Classroom上で行っている。また、学校の枠を越えたクラスも存在しており、市の研修にも使われているという。活用は市内でも順調に広がっているようだ。

教師に求められる指導力

 今後、1人1台の端末が本格的に授業で使われるようになれば、教員に求められる指導力が高度なものになっていくことも確かだ。

 「ICTの本格的な活用によって、授業はどんどん効率化し、密度も濃くなっていくでしょう。学習のゴールのハードルは上がると思います。そして、アウトプットの機会や手段が増えることで、紙ではうまく表現できなかった子がデジタルではできるようになるといったこともあるでしょう。今まで以上に、個に応じた指導力が求められます」と話す水谷校長。

 GIGAスクール構想によってもたらされた急激な環境の変化。しかし身構えることなく、授業や業務を効率化する身近で魅力的なツールとして捉えることが必要だ。教育現場はこれから、日常的な活用を通してさまざまなノウハウを蓄積し、ICT活用の質を高め、幅を広げていく、そのスタートラインに立っている。

*Google、Chromebook、G Suite(Google Workspaceに改称)、Google Classroom、Google Jamboard、Google スプレッドシート、Google ドライブは、Google LLC の商標です。
*記事中の名称は取材当時のものです

校長<br>水谷 年孝 先生

校長
水谷 年孝 先生

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