GIGAスクールは学校内外の「支援」を活用するステップ2に突入 コンテンツを教える授業からコンピテンシーを育む授業への改善を

東北大学大学院 情報科学研究科
東京学芸大学大学院 教育学研究科
堀田 龍也教授

GIGAスクール構想は、ICT環境の整備が中心のステップ1から、学校内外のさまざまなリソースによる支援を活用しながら「個別最適な学び」と「協働的な学び」を着実に実現するステップ2に突入した。今、学校や先生に求められる行動とは――。
東北大学大学院 情報科学研究科/東京学芸大学大学院 教育学研究科の堀田龍也教授に提言いただいた。

東北大学大学院 情報科学研究科 東京学芸大学大学院 教育学研究科 堀田 龍也教授

子供の資質・能力を伸ばすための
「学びのインフラ」が1人1台端末

「不連続な変化の時代」に必要とされる人材像とは?

 GIGAスクール構想で整備された1人1台端末やクラウドの本格活用が始まって2年目も半ばが過ぎました。これまでが1人1台端末やクラウドに慣れるステップ1とすると、今後は整備されたICT環境と学校内外のさまざまな「支援」を活用して、「個別最適な学び」および「協働的な学び」を実現するステップ2と言えるでしょう。

 その意味では、ちょうど節目のタイミングでもありますので、ここで一度基本に立ち返り、GIGAスクール構想の本質をおさらいしたいと思います。

 2022年8月1日現在の日本の人口は1億2478万人ですが、28年後の2050年、現在小学6年生が40歳になる頃には9500万人まで減少していると言われます。加えて、社会全体のデジタル化・オンライン化、DX加速の必要性が高まっていく。日本は、少子高齢化と社会に必要とされる人材像の転換が同時かつ急速に進行する「不連続な変化の時代」にあると言えるでしょう。

「今までの授業のどこでICTを使うか」という
発想では情報端末は十分に活かされない

子供たちに主体的・対話的で深い学びを提供

 このような社会の変化を見据え、子供の将来に必要となる資質・能力を考え、今どのような教育をしておかなければならないかを逆算して出てきたのが、現在の学習指導要領です。そして、そのためのインフラがGIGAスクールの1人1台端末と位置付けられます。

 図1は学習指導要領とGIGAスクール構想の関係を表した資料ですが、一番上の「2030年の社会と子供たちの未来」を念頭に置きつつ、どのような資質・能力が必要かということが書かれています。これを身に付けさせるには「主体的・対話的で深い学び」に向かう授業改善が必要です。

 そのためには個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実が必要で、これらをスムーズに行うにはGIGAスクールで導入した端末を、高速ネットワークに接続してクラウドを活用することが不可欠という考え方です。

 ですから、「今までの授業のどこでICTを使うか」という発想では、情報端末は十分に活かされません。

図1 学習指導要領とGIGAスクール構想の関係
図1 学習指導要領とGIGAスクール構想の関係
(出典:文部科学省「GIGA StuDX推進チームの取組について」)

「指導の個別化」と「学習の個性化」

 「個別最適な学び」は、それぞれの子供の学習到達度に合わせた「指導の個別化」と、それぞれの子供の興味・関心・キャリア形成などに対応していく「学習の個性化」の2本柱から成ります。

 前者の「指導の個別化」は、学習内容の確実な定着を目指すものなので紙やAIのドリルを使えばある程度できます。しかし、学習内容の理解を深め、広げるのが目的である後者の「学習の個性化」は、子供一人ひとりにさまざまな学習リソースを使いこなせる程度の情報活用能力を身に付けさせていなければ無理です。

 例えば、あるクラスの総合的な学習の時間で高齢化社会を取り上げたとしましょう。ある子供は介護職員など支える人について調べたい、ある子供は病院での対応を知りたい、ある子供はもっと別の事柄をやりたいと言ったとします。

 40人クラスなら40通りのテーマが出てくる可能性があり、先生が全てに精通しているとは限りません。こういう場合、先生は万能な学習リソースではないことになります。でも、教科書、GIGAスクールの端末、インターネット、学習動画、図鑑、図書館などさまざまな学習リソースの中から疑問の解決にふさわしいものを選択し、そこから学び取る力があれば自力で結論を導き出すことができます。

 さらにこのような活動をしていると、先ほどの高齢化社会の話で言えば、介護職員を調べている子供が病院の話に行き着いたり、病院のことを調べている子供が介護職員との連携が求められることに気づいたりします。

 それぞれの子供の活動が可視化され、「あなたのテーマは私のやっていることに近いから、一緒に調べよう」という会話が自然に生まれます。これが「個別最適な学び」と並んで提示されている「協働的な学び」です。

 従来型の紙ベースの授業スタイルでは、同じ教室内にいても他の人の学習活動の様子は分からない。でも、1人1台のGIGAスクール環境なら、クラウド上で他の子供のやっていることが可視化されるので、「なるほど、こういうふうにまとめればいいのか」「こうやって検索すればほしい情報が手に入るのか」とインスパイア(刺激・啓発)されることがいっぱいある。

 端末はインターネットで教室の外とつながっているので、インスパイアの発信元はクラスメートだけでなく、異学年や他校の子供、地域の人、さらには学習動画を提供する教育YouTuberなどにも広がり、より高度な経験につなげることも可能と言えるでしょう。

さまざまな学習リソースを使いこなす
情報活用能力を身に付けさせよう

デジタル教科書・教材・ソフトウェアの連携

 GIGAスクール環境をベースに、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図る時代の流れは「デジタル教科書」の動向からも見て取れます(図2)。

 これからの授業は、紙の教科書の内容を基にした=質が担保されたデジタル教科書に、音声や動画などの「デジタル教材」や、オンライン上でのファイル共有・共同編集・対話などを可能とする「学習支援ソフトウェア」をいかに有機的に連携させるかがポイントになると言えるでしょう。

 デジタル教科書・教材・ソフトウェアを効果的に組み合わせることができれば、子供たちは自分のペースで多様な学習リソースにアクセスすることができるようになり、授業外でも情報共有や協働作業ができるようになる。つまり、個別最適な学びと協働的な学びの充実で、学校の授業だけでなく、家庭や地域でも主体的・対話的で深い学びが実現するのです。

 文部科学省は2024年度から英語でデジタル教科書を導入し、2025年度以降、算数・数学でも導入する検討を進めています。2022年8月30日に発表した2023年度予算の概算要求の総額は、2022年度当初比で11・6%増の5兆8949億円。デジタル教科書導入など、小学校・中学校のICT体制強化に重点を置いた内容となっています。

図2 デジタル教科書・教材・ソフトウェアの活用の在り方
図2 デジタル教科書・教材・ソフトウェアの活用の在り方
(出典:文部科学省「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた教科書・教材・ソフトウェアの在り方について(案)~これまでのワーキンググループにおける議論の整理~」)

ネットワーク環境のアセスメントは
専門家の協力を得ることが重要

ネットワーク環境の不備で困るのは子供たち

 一方、GIGAスクールを支えるICT環境で気になるデータがあります。

 文部科学省は2021年8月、「GIGAスクール構想の実現に向けた校内通信ネットワーク環境等の状況について」と題したレポートで、ネットワーク環境の事前評価(アセスメント)の実施状況を発表しました(図3)。それによると、アセスメントを実施した自治体などのうち、約半数(円グラフの緑部分)で「接続速度の不安定」「同時通信による通信回線圧迫の可能性」「センター集約型のため、回線が逼迫しており接続が不安定」などの課題が見つかりました。

 さらに大きな問題は、今後、アセスメントを実施する予定のない自治体などが54%に上った点です。

 校内通信ネットワークは、校舎の形や教室の位置などで接続速度や安定性が変わるため、文部科学省は2021年3月時点でアセスメント実施を推奨しました。それでも半数以上の自治体などが、これからも実施予定がないという状況です。アセスメントを実施した自治体などの約半数で課題が見つかったということは、実施予定がない自治体などでもアセスメントを行えば、同じもしくはより高い確率で問題が発覚するかもしれません。校内通信ネットワーク環境の不備でせっかくのデジタル教科書が教室で開けない。これで一番困るのは子供たちです。

 文部科学省では、アセスメントは学校の教職員や教育委員会の担当者のみで行うと、正確な評価や不具合原因の特定を行うのが困難なため、専門家の協力を得ることが重要と指摘します。校内通信ネットワークの安定化を図るには、専用機器を導入するのも有効です。例えば、本誌『チエルマガジン』で事例として紹介されている『Tbridge®』を活用するのも有力な手段の一つでしょう。

 このネットワーク環境のアセスメントの問題は、GIGAスクールの運用に関する地域間格差・学校間格差を図らずも浮き彫りにしたと言えるでしょう。1人1台端末の導入は済み、ある程度使われるようになった。ステップ2では、整備されたICT環境を使って「個別最適な学び」および「協働的な学び」を実現するフェーズです。学校内外のさまざまなリソースを活用して、先生が教える授業から子供が学び取る授業へどう転換すべきか。本誌『チエルマガジン』で紹介している取り組みやトピックを参考に実践してみましょう。

図3 ネットワーク環境の事前評価(アセスメント)の実施状況(令和3年5月末時点)
図3 ネットワーク環境の事前評価(アセスメント)の実施状況(令和3年5月末時点)
(出典:文部科学省「GIGAスクール構想の実現に向けた校内通信ネットワーク環境等の状況について」)

問題発見・解決できる子供を育てる

 1人1台とクラウドがもたらした学習環境の変化を前向きに受けとめ、「自分で問題を発見し、解決できる」子供を育てているのが春日井市立高森台中学校です。

 記事では一例として、2022年度から始まったGIGAスクールの端末やクラウドを使って校則を見直す生徒会主導で「ルールメイキングプロジェクト」を紹介しています。しかし、これは単に自立した子供たちがパソコンを上手に使って校則を決めたという単純な話ではありません。

 同校の水谷年孝校長先生は、「問題発見・解決で一番難しいのは、実は、問題を発見すること」と語っています。それなのに今までは、先生が「問い」を与えていた。これではいつまで経っても問題を発見する力がつかない。自分なりの問いを見つけてこそ、調べたくなり、自分で学びを進めていけるようになるというわけです。

 このような授業や学習活動を日々経験し、子供たちは先生に言われたからやるのではなく、一人ひとりが自ら進んで課題を設定し、自分の解決方法で取り組むことができるようになってきたのです。端末やクラウドを使って生徒会主導で校則を見直すプロジェクトも、この変化の延長線上での子供たちの自律的な取り組みと位置付けるべきでしょう。

 その春日井市の指導助言に携わっていらっしゃるのが、東京学芸大学 教育学部の高橋純教授です。授業でICTをうまく使うキーワードとして、「中途の共有」と「大きな目標への立ち返り」の2つを挙げられています。

 ICTやアプリを積極的に活用することによって、先生や子供の意思で自在に、リアルタイムに、学習の中途を共有・把握できる。長年、先生方がやりたくても実践できなかったことが「主体的に学ぶ」授業、それがGIGAスクールの1人1台の実現で、一人ひとりを主語にした教育ができるようになったと評価します。

 もちろん、1人1台をベースにした授業は前例がないので、どんなやり方が正解かはまだ誰にも分かりません。高橋先生は、授業研究で大事なことは「この方法は学校教育目標に沿ったものだろうか」などと常に大きな方針に対して問いかけ直すことだとし、立ち位置さえきちんと理解した上での挑戦であれば少々失敗したとしても、次につながると考えまた挑戦すればいいとアドバイスします。

校長先生のリーダーシップで外部の専門家などを巻き込む

授業や校務に精通している元校長がICT化をサポート

 春日井市では10年以上前から ICT活用を進めてきました。こうした土台もあって、今では1人1台端末やクラウドで授業を改善したモデルの一つとして全国の先生から注目を集めています。

 対して、GIGAスクール構想がきっかけとなりICT化に本格的に取り組んでいる学校も、この『チエルマガジン』では紹介しています。そのうちの1校である福岡市立百道浜小学校は、酒井美佐緒校長先生の明るいリーダーシップのもと、市の教育センターや情報科学を専門とする外部の専門家を巻き込み、授業や校務のICT化を推進しています。

 同校ではICTを取り入れたことで学校内での情報共有が進み、授業にも校務にも良い影響がありました。今後は福岡市授業改善推進モデル校として、教材などの授業の知見について学校の枠を超えて共有し合うなど、学校間連携にも意欲を見せます。

 整備されたICT環境を使って「個別最適な学び」および「協働的な学び」を実現するGIGAスクールのステップ2では、教育関係者や専門家などの外部の支援によりGIGAの実装を進めていきましょう。

授業や校務に精通している元校長がICT化をサポート

 その際、まず検討したい外部からの「支援」が『GIGAスクール運営支援センター』です。

 前橋市GIGAスクール運営支援センターの笠原晶子先生は、元前橋市立細井小学校の校長であり 授業や校務に精通しています。このような先生が同センターに所属しICT化のサポートや研修などを実施していることは、同市の学校の先生からしても大きな支援になるでしょう。

 文部科学省では2023年度予算の概算要求で、GIGAスクール運営支援センターの増設と機能強化に、2022年度当初予算の10倍となる102億円を計上しました。

 笠原先生は、現役時代は学校を背負い大きなプレッシャーを感じていたが、セカンドキャリアでは肩の荷が下り、自分に合った仕事に打ち込めていると話します。GIGAスクール運営支援センターは、先生のセカンドキャリアの一つとしても存在感が増すはずです。

 教育YouTuberが提供する学習動画も、学校を「支援」してくれるツールの一つです。

 教育YouTuberの評価は再生回数という数字で示されるため、公務員である学校の先生よりシビアな職務環境にあるとも言えます。それだけに教える技術の高いYouTuberも少なくありません。学校の先生が理解促進の一助として教育YouTuberの学習動画を参考資料に加えることで、子供にとっては自分の学び方に合った学習リソースを選ぶ観点の育成にもつながると考えます。

英語とICTの親和性は非常に高い

東北大学大学院 情報科学研究科 東京学芸大学大学院 教育学研究科 堀田 龍也教授

 GIGAスクール環境下では、先生は「教える」存在から「子供の学びを導く」存在への転換が求められています。それだけに先生の養成課程でもICTを利活用した学びを導く技術の習得の重要性は高まるでしょう。札幌国際大学 短期大学部 幼児教育保育学科の神林裕子准教授は、保育者の育成と小学校の英語教育に関する改善の研究に努めています。

 英語とICTは、ネイティブの音声が使えるなど親和性は非常に高い。同大学では保育の現場で外国とつながりのある保護者や子供たちとのコミュニケーションに生かしてほしいと、保育者の育成の際に、フラッシュ型教材を活用して英語で伝えるスキルを身に付けさせています。

 神林先生は幼児期の英語と児童期の英語への橋渡しでもICTは有効と考え、Google Workspace for Education の Google スライド™ で日本語と英語のバイリンガル絵本を作成する取り組みを実施。子供が積極的に英語で活動している姿が見られたそうです。

校務・学習系アプリの円滑なアカウント作成や管理

 学校現場を支える教育委員会では、GIGAスクールを先取りした自主的な取り組みや地域の特性に合わせた独自の対応が相次いでいます。千歳市教育委員会は2013年からICT関連の計画および事業を推進していたことが功を奏し、現場での円滑な活用を実践。ID管理には、二次元コードでログイン可能な低学年の児童に優しい製品を導入しました。

 千代田区教育委員会は2021年9月、ICT環境のリプレースを行い、セキュリティ対策の強化、利便性や操作性の向上などを進めています。個人情報システムとID管理製品の連携で、計16種類の個人情報系と校務・学習系アプリの円滑なアカウント作成や管理を実現しました。前述の校内通信ネットワークのアセスメントの箇所でも触れたように、実績のある専門業者とパートナーを組むことは、日々の安定運用のカギと言えるでしょう。

「子供が学び取る授業」への
パラダイムシフトが求められている

変化を前向きに受け止め、多様な人々と協業できる人材

 GIGAスクール環境の学校に求められているのは、従来までの「先生が教える授業」ではなく、「子供が学び取る授業」へのパラダイムシフトです。

 一般的に先生は、どうしても「何かを教えて学ばせなければならない」と考えがちです。しかし、1人1台端末が整備された今、分からない言葉はその場で検索すればいい。概念を理解した上で、細かい事象はいつでも調べる態度とスキルのほうが重要です。さらに必要な知識を集めるだけ集め、そこから「自分にとって今何が重要か」を判断できることのほうが、答えのない不連続な変化の時代を生きる子供たちには大事です。

 先生から教わることは大切でこれからもなくならないと思います。でも、そういう勉強の仕方しか知らないと、自らが直面している問題は解決できないでしょう。

 不連続な変化の時代は、これまでのような社会の変化にいかに対処していくかという受け身では対応は難しい。変化を前向きに受け止め、多様な人々と協業しながら社会的変化を乗り越える資質・能力が求められます。先生方も、GIGAスクール環境をベースに、慣れ親しんだコンテンツを教える授業だけでなく、コンピテンシー(資質・能力)を育む授業に挑戦してほしいと思います。

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