「生きた英語」で話す力を高め、異文化を探求する姿勢をサポート

大阪府教育庁
教育振興室 高等学校課
教務グループ 首席指導主事
松下 信之

大阪府教育庁
教育振興室 高等学校課
教務グループ 主任指導主事
今井 尚人

大阪府は2021年9月にすべての府立高等学校に1人1台端末を導入し、さまざまな教科でICT教育を推進している。英語では「話す」力を高め、生徒が異文化の人たちとも即興的に応答できるように導いている。大阪府における高等学校の英語教育のキーマン2人に、これまでの歩みと現状、今後の方向性を聞いた。

大阪府教育庁 教育振興室 高等学校課 教務グループ 首席指導主事 松下 信之 氏 大阪府教育庁 教育振興室 高等学校課 教務グループ 主任指導主事 今井 尚人 氏

大阪府立の高等学校における英語教育の歩みは
常に社会のニーズと連動していた

英検準2級相当の生徒が全体の50%を上回る

 文部科学省は2013年度から毎年、全国の小学校・中学校・高等学校を対象に「英語教育実施状況調査」を実施しています。社会の持続的な発展を牽引し、グローバルに活躍する人材の育成の測定指標として、高等学校卒業段階では「CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)のA2レベル相当以上の割合を50%以上」としています。CEFRは外国語学習者の言語運用能力を客観的に示す国際標準規格で、CEFRのA2は英検準2級に相当します。

 大阪府立の高等学校の場合、CEFRのA2レベル相当以上の生徒の割合は、2018年度は28・2%でしたが、2021年度には51%に上昇しました。私たちは短期間で数値が大幅に上昇し、文部科学省の目標の50%も超えた背景には、大阪府が学校現場とともに10年以上にわたり進めてきた英語教育に関するさまざまな取り組みの成果と認識しています。

 府立の高等学校における英語教育の歩みは、常に社会のニーズと連動したものでした。社内公用語を英語とする日本企業が登場し始めた2011年度からは「使える英語プロジェクト事業」をスタート。機器などを活用した授業方法の研究の一方、学校の枠を超えて実施したアドバンストクラス制度は参加生徒にとって学習の動機付けとなり英語力が向上しました。

 2014年度からの「骨太の英語力養成事業」では、大学入試や卒業認定におけるTOEFL(英語能力テスト)などの外部検定試験の活用を踏まえ、英語科教員の指導力向上などに力を入れました。2018年度には、その年の3月に公示された学習指導要領で「聞く・話す・読む・書く」の英語4技能5領域を統合した指導が掲げられたこともあり、ネイティブ英語教員の配置やスピーキングにかかわる教材・テストの開発を進めました。

中核教員によるカリキュラム・デザインの実施

 ここまでの使える英語プロジェクトや骨太の英語力養成事業は、GLHS(グローバルリーダーズハイスクール)をはじめとした特定の高等学校を主な対象にした施策でした。そこで2019年度からは「広がる英語教育推進プロジェクト」として、府立高等学校の生徒すべてが英語を話す=異文化の人たちとも即興的に応答できる力の底上げを図っています。

 同プロジェクトは主に4つの柱で構成しています。1つ目の柱である「教員の指導力向上」では、すべての府立高等学校(2022年度に府立高等学校に統合された旧大阪市立高等学校は含まず)から1人ずつ英語科教員を選出し、学習指導要領に基づく指導と評価に関する1年間の研修を実施。この150人が英語科の中核教員となり、各校が自校の実情に応じた「PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルによるカリキュラム・デザイン」を実施するのが2番目の柱です。同時に、各校のカリキュラム改善につながる4技能の能力を測るツールの開発にも着手しました。

 3つ目の「それぞれの生徒の目標に応じた支援」では、大阪府教育庁主催のイングリッシュキャンプが挙げられます。ネイティブスピーカーとのコミュニケーション活動を通して英語学習への意欲を高めることを目的としたイベントで、各校の希望生徒が参加しました。道案内などの想定場面で英語を使うグループワークや、ネイティブスピーカーとのランチ、午後はグループ単位で寸劇を作り発表し合うなど〝英語漬け〟の1日を過ごすものです。

 最後の柱の「外部人材の活用等」はネイティブ英語教員の配置が該当します。任期の定めのない教員として任用し、日本の教員免許状を持っていない場合は特別免許状を取得していただきます。2023年2月末時点では8名のネイティブ英語教員がおり、クラス担任を受け持ち、部活動も指導している方もいます。ホームルームや部の練習では英語を積極的に使っていますので、生徒は普段の授業とは違った生きた英語に触れることができるでしょう。

MALL型のCaLabo®MXが英語学習をシームレスに支援

 大阪府では2021年9月に全府立高等学校に1人1台端末を導入しました。小学校と中学校では1人1台の学習環境が整っており、せっかく活用方法を身に付けたのに、高等学校では使う機会がないのはもったいない。今や大学でもオンライン授業が広がり、就職活動や社会人になってからもインターネットを使った情報収集は幅広い職種で求められています。大阪府の高等学校における英語教育の歩みは社会のニーズと常に連動してきましたので、その流れも踏まえました。

 対象生徒数が約10万人とボリュームがあり、先生のICTスキルはそれぞれ異なります。我々は学校現場における1人1台端末の活用をサポートするため、2021年に端末活用促進に向けた3年間のアクションプランを作りました。それを基に、各校が自校版の利活用プランを作成し、さまざまな取り組みを展開している状況です。

 英語学習に関しても、1人1台端末環境を活かした個別最適の学びの施策を実行したい。その一環として2022年8月、CALL教室を持つ15校に、チエル社の語学4技能学習支援システムのCaLabo®MXを導入しました。

 我々は、大勢の前で発表するプレゼンテーションや友人と協働作業するにはCALL教室がふさわしいと考えており、今後も使用していく方針です。その上で、ノートパソコンなど持ち運び可能な端末を利用するMALL型のCaLabo®MXは、自分のクラス、CALL教室、自宅など場所を問わず英語学習をシームレスにサポートしてくれると期待しています。

先生は「英語のファシリテーター」
生徒の学習意欲を高め、導いてほしい

「通じた!」という経験が大きなモチベーションになる

 英語を始めとした外国語の学習で一番大事なのは毎日触れることです。少しの時間で良いので毎日発音練習する、語彙を増やすといった積み重ねが力になる。言い換えると、英語に触れる時間を日々の中でどれだけ確保できるかがポイントです。その意味でも、学習場所を問わないCaLabo®MXは、1人1台端末を有効活用できるツールと言えるでしょう。

 導入してから約半年経ちましたが、現場の先生から「生徒の英語の発音が良くなった」との喜びの声が数多く届いています。これまで、「話す」力を育成するためのトレーニングとしてシャドーイングを行う際には、録音された音声を全員が聞き、一斉にシャドーイングを行うしか方法がありませんでした。しかし、シャドーイングの活動でつまずく箇所は生徒それぞれで異なります。CaLabo®MXを活用することにより、「話す」練習を自分のペースで、必要な箇所も何回も繰り返し学習できるのは非常に画期的なことと思っています。

 先生にとっては限られた授業時間を有効活用できます。例えば、生徒一人ひとりが英文を読み1人の先生が発音チェックする場合、生徒が英文を読むのに30秒、それに対する先生の指導で30秒、合わせて1人あたり1分程度かかってしまいます。40人クラスでしたらそれだけで授業が終わってしまいます。CaLabo®MXなら自分の音声を登録して先生のパソコンに送信できるので、生徒は自宅で何度も練習した一番出来の良いスピーキング音声を提出できるし、先生も空き時間などを使って確認・指導できます。そして授業では、生徒の英語に対するモチベーションや探究心を引き出すファシリテート役に集中できるようになるのではないでしょうか。

 大阪府の英語教育ではこれからも実践的なコミュニケーション能力の育成に力を注いでいきます。2023年度には「生きた英語プロジェクト」というコンセプトの新しい施策を立ち上げ、英語を活用する機会を今よりも増やして、生徒がアウトプットする力を養っていきたいと考えています。実際に外国人に英語を話して「通じた!」という経験は、生徒が英語を学習する大きなモチベーションになるでしょう。

 大阪府教育庁としては、府内のすべての高等学校において、一人でも多くの生徒が英語でコミュニケーションをとることの喜びを実感し、自ら進んで異なる文化や社会に飛び込み、探究していく姿勢をサポートしていきます。現場の先生方は「英語学習のファシリテーター」として、1人1台端末やCaLabo®MXなどのICT環境を活用しながら、生徒が英語学習に意欲的に取り組めるように導いていただきたいと思います。

今井氏(写真左)松下氏(写真右)
「2025年には大阪・関西万博が開催されます。府立高等学校の生徒が外国人観光客と英語でコミュニケーションをとる機会があるかもしれません。学習成果を活かして積極的に異文化に触れてほしいですね」と話す松下氏(写真右)と今井氏(写真左)。

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