子供たちの学習観を変えるとともに先生や保護者の意識も変えていく

教育委員会訪問

―鹿児島市―
鹿児島市教育委員会

2015年の段階において2人で1台分の端末導入が進んでいたように、鹿児島市はICT環境を先駆的に整備してきた自治体だ。GIGAスクール構想が第2期に移行しようとしている現在、教育全般におけるDXをどのように捉え、施策に取り組んでいるのか。2024年度に設置した教育DX担当部長の木田博氏に話をうかがった。

子供たちの学習観を変えるとともに先生や保護者の意識も変えていく
鹿児島市の公立小学校での自由進度学習の様子。
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使い勝手を高めながら蓄積したデータを有効に活用

 鹿児島市では2024年度、教育委員会事務局に教育DX担当部長を設置した。従来は教育部の学校ICT推進センターが担っていたデジタルによる学びの支援をさらに拡張し、教育委員会内の各課を横断して推進する。「授業改善に向けたICT活用から、校務も含めて教育全体のDX化を進めるために設置されました」と教育DX担当部長に就任した木田博氏は、新ポストの目的を説明する。

 鹿児島市教育委員会には、教育部長や管理部長の下、13の主要セクションが存在する。これまで個別に進めてきたシステム対応を統合することで、利用者の使い勝手を高めながらコストを下げ、蓄積したデータを有効に活用していく姿を描く。既に動き始めたプロジェクトもある。「生徒指導を担う青少年課とは不登校の子供たちを対象にしたメタバース空間の構築を進めています。市立図書館では読み放題の電子図書箱、科学館では学んだことを深く知るためのアプリなどの開発を検討しています。1人1台端末が実現した現在、端末を使いやすい道具にして、アクセスログなどを学びの質の向上につなげていきたい。個別最適な学びと協働的な学びをもっと深化させたいと考えています」(木田氏)

 2001年に「KEIネット(鹿児島市教育情報ネットワークシステム)」というイントラネットを導入し、すべての市立小中学校・高等学校と教育機関をつなぐなど、ICT環境整備に先駆的な鹿児島市は、GIGAスクール構想を経て、どのような進化を遂げたのか。「現在では学校や自宅などロケーションフリーで端末がつながるといった考え方で運用するため、KEIネットのポータル機能をMicrosoft SharePointなどを通じてWeb上でも展開させました。2022年度に導入したデジタルドリルなどのログを見ても端末の活用率は右肩上がりで高まっており、授業で日常的に用いられるようになりました」(木田氏)

ネットワーク環境を集中管理
学校側の負担を減らす

 鹿児島市には、自由進度学習に段階的に取り組んでいる小中学校もある。子供が課題を解決するための計画を自ら立てて、学習者用端末を用いて自分の学習進度で進める。その過程で友達と教え合いながら主体的・対話的で深い学びを実現することを目指す。算数・数学といった系統的な学習を中心に、数時間にわたる単元をそれぞれの計画に沿って自由に進めていく。学習習熟の目安となるいくつかのチェックテストを挟むことで先生は子供たちの進捗を把握する。

 「確実に子供たちの学習観が変わってきています。従来の一斉授業では、内容についていけない子供がいる一方で、物足りなさを感じる子供もいました。ある小学5年生が1年間を振り返った作文で『集中力のない私でも、自分の学びを獲得するという意識に変わったことで一生懸命に取り組めるようになりました』と述べた様子が印象に残っています。子供たちのラーニングパートナーとして端末が存在しうる時代になり、先生には子供たちの様子をつぶさに観察しファシリテートする力が問われています。黒板での授業で一生懸命説明する熱意は大切ですが、学習自体が変わりつつあることは理解すべきです。それは保護者の方も同様です。学校や先生に代わって、保護者に学びの機会をDXで広げる意義を伝えるのは私たちの役割だと思います」(木田氏)

 学習の履歴は学習eポータルを通じて可視化し、子供も保護者もWeb上で確認できる。学校側の負担を減らすため、ネットワーク環境は市が集中管理する。すべての学校のネットワーク状況をモニター上で確認できるダッシュボードを開発し、学校内のどこで不具合が起きているのかがピンポイントで分かる。不具合発生時には学校側へ適確な指示が出せるため復旧も速く、ICT支援効率化・迅速化・連携化にもつながっている。

県域でドメインを統一し働き方改革につなげる

鹿児島市教育委員会の学校ICT推進センターの主要メンバーと木田氏(右端)。
鹿児島市教育委員会の学校ICT推進センターの主要メンバーと木田氏(右端)。

 シームレスな学びの機会を提供するため鹿児島県は2021年度、県内すべての公立学校に共通のドメイン「@kago.ed.jp」を導入した。児童生徒が他の市町村の公立学校に進学や転校をし、利用するデバイスやOSが変わったとしても、引き続き同じICT教育環境を利用できる。それは異動する先生にとっても業務負担の軽減につながる。学校現場の負担を減らすようアカウントの管理ルールも県主導で整備した。鹿児島県は有人離島を含む広域自治体で公立学校の児童生徒および教員に必要なアカウントは20万以上に上る。サードパーティ製のユーザーアカウント管理ツールを導入し、Excel上で簡単にライセンスの変更を可能にした。県域教育用ドメインの統一も当時、鹿児島県総合研究センターに在籍していた木田氏が携わった。「統一できる点は共有化して職員の働き方改革につなげながら、それぞれの自治体の良さを発揮できるような工夫を凝らしてきました」(木田氏)

 現在ではMicrosoft Teams for Educationを通じて市町村の垣根を越えた先生のコミュニティ作りを進めている。例えば、鹿児島市が主催するオンライン研修に他の市町村から参加することもできる。「県と市町村との交流が活発であることは、GIGAスクール構想第2期での共同調達でも有利に働くと考えています。校務DXに応用させていけば市町村間の格差を減らすことにもつながります。鹿児島市はそのリーダーシップを執っていく存在でありたいと思います」と木田氏は今後を見据える。

教育DX担当部長<br>文部科学省学校DX戦略<br>アドバイザー<br>木田 博 氏

教育DX担当部長
文部科学省学校DX戦略
アドバイザー
木田 博 氏

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