公開日:2025/4/25

高いICT活用指導力をもつ教師が現場を変え、日本の教育を変革していく

教員養成の今 初等教育における教師の「ICT活用指導力」を育てる

―福岡県―
中村学園大学

教育現場においてICT活用の重要性が叫ばれて久しい。しかし、授業でデジタル端末を使用していても、ICTが教育の存り方を変えるほどには浸透していない。「現場の教師のICT活用指導力がカギになる」と語る中村学園大学教育学部の山本朋弘教授のゼミを訪れ、教員養成の今をレポートする。

高いICT活用指導力をもつ教師が現場を変え、日本の教育を変革していく
中村学園大学

中村学園大学
〒814-0104 福岡県福岡市城南区
別府5丁目7−1 中央本館

1953年設立、栄養科学部、教育学部、流通科学部を設置。「教育の中村」ともいわれ、幼児教育、初等教育における教員養成を充実させることを目指している。

社会人としての素養を身に付ける

 私のゼミの学生には社会人としての素養を在学中に身に付けてもらうためにさまざまな実践をさせています。そのうちの一つが「コミュニケーション」です。中村学園大学には附属小学校がないため、学生たちは基本的に出身校で教育実習を受けますが、山本ゼミではそれ以外にも学生自身が受け入れ先の小学校を探して、教育実習を行っています。また、教育実習以外でも、研究授業として3校以上に訪問するというミッションがあります。学生たちは自分で小学校に連絡したり、交渉したりする中でコミュニケーション力を養います。

 山本ゼミでは合宿の他に、新入生歓迎会や福岡県内の各地を訪問するなどイベントが目白押しです。イベントは全て学生が自ら企画し、実行していきます。何処で何をするか、記録やまとめ資料の作成は誰が担当するか、学生達がそれぞれ話し合って役割を分担していきます。イベントを成功させるためには学校内外の参加者とのコミュニケーションが重要です。こうした活動を通じて主体性も鍛えられます。

もう一つはスケジュール管理、タイムマネジメントです。ゼミで行う活動は年間で策定され、学生たちには4月の時点で共有します。これは学校や社会でも同じ仕組みです。学生にはプライベートも含めて自身の活動スケジュールを組み立てるように指導しています。自分で見通しを立てて行動するタイムマネジメントを学んでもらうのです。こうしたゼミでの活動は、教師になる前に社会人としての基本的な素養を育みます。

将来の教師に欠かせない資質

 基本的な素養以外に、教師として学び続けるために欠かせない資質があります。それは「現場力」と「研究力」です。「現場力」を養うためには教育実習や研究授業を通じて数多くの学校を訪問することが効果的です。1ヵ所ではなく、複数の学校を訪問することでそれぞれの学校が独自の工夫や改善を行っていることを学びます。また、自ら研究し続ける姿勢、「研究力」も重要です。テーマを自ら設定し研究することが自己研鑽となり、教師も成長し続けることができるのです。そのため、山本ゼミでは在学中の取組みとして、卒論のテーマを自らの研究をもって決め、最低1回は学会で発表することをミッションとしています。

振り返りと共有でお互いの学びが進む

 学生が主体となって行われたイベントや研修、研究は全て「振り返り」と「共有」を意識しています。具体的にはSlackのチャンネルを使って振り返りの記載と共有を行っています。ゼミの全員が閲覧できるので、他の学生にも見られているという意識が芽生え、自然と丁寧な内容で記載していくようになります。共有された学生もそうした内容をお手本として相互に学び続けていきます。「振り返り」や「共有」を通して協働的な学びをゼミ内で実践することで、より深い研究、より効果的な研修等が執り行われるようになっていきます。

教育現場でも社会の変化に対応した指導が必要

 社会人や教師としての基本的な素養に加え、これからの時代の教師に求められる力として「ICT活用指導力」があると考えています。ICT活用指導力とは、教師がICTを効果的に活用して教育の質を高めるスキルのことです。世の中ではデジタルトランスフォーメーションが起きており、社会全般で変化しているものは教育現場でもその変化に対応した指導が必要と考えています。子供たちを取り巻く社会が変化する中で教師たちのICT活用指導力が問われるべきですが、学校現場では制度の整備も認識もまだ追いついておらず、「基本は黒板とチョークを使って板書すること」と考えている教師も少なくありません。こうした現場の意識を変えていくためにも学生のうちから変化を見据えた研究を行っていくよう指導し、教師になった後もこの力を「現場力」と「研究力」によりさらに深めてもらいたいと考えています。

10年後の未来を見据えた教員養成を

3年生の学生は360度カメラとVRを使った理科の授業をテーマにしている。
3年生の学生は360度カメラとVRを使った理科の授業をテーマにしている。

 山本ゼミでは、10年先の教育を目指して日々活動を行っています。学生たちが、自分が教師になる1、2年先のことを考えて研究するのではなく、10年先の教育現場で役立つ可能性があるものをいち早く探るのです。この先はむしろ、今の現場の教師が驚くようなものを考え、研究してほしいと思っています。また、今後はAIとXRを教育現場にどのように取り込んでいくかが問われていくと考えています。膨大な情報の調査はAIに任せ、人間は独創性を鍛えるべきです。そして、子供たちの独創性を育てるためには、教師がこれまでに経験したことがないような授業をデザインする力を養うことが必要だと考えています。山本ゼミでは引き続き現場との関係性を大切にし、これからの時代に活躍できる教員を育成していきます。

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