公開日:2008/9/8

第6回「教師”総がかり”で教育の未来を切りひらく」

堀田龍也先生連続インタビュー

 大好評連載中の、堀田龍也先生のインタビュー「これでわかる『教育の情報化』」。最終回となる今回は、「情報社会に生きる、教師のあり方」について語っていただきました。社会も教育現場も激変を続ける今、そして将来、教師はどうあるべきなのでしょうか。

変わる社会、変わる教育

 家庭で子どもをしつけ、学校で勉強を教え、そして地域の大人たちも子どもを見守り、育んでいく。これが、今までの日本の教育でした。

 しかし、社会の変化は日本の教育に大きな影響を及ぼしました。核家族化と夫婦共働きが増えたことで家庭の姿は変わり、今までのような教育が困難になってきた。地域社会も昔のような「つながり」が薄れ、地域全体で子どもを見守ることが難しくなってきた。その結果、「学校にもっと頑張ってほしい。かつて家庭や地域が担っていた役割も、学校が背負ってほしい」という声が強くなって来ています。

 教師たちは、昔と同様、一生懸命頑張って、社会の要請に応えようとしています。しかし、学校と教師の役割や仕事は、増える一方。新・学習指導要領では新たに小学校英語が始まるほか、各教科の内容も増えますし、情報教育、環境教育、国際理解教育などにも取り組まなければいけません。また、生活指導でも次々と新たな課題が出てきていますし、校務もどんどん繁雑になってきています。  このままでは、教師はパンクしてしまいます。かといって、教師の数を急に増やすことも不可能。現代社会の変化に対応し、人々の要請に応えるには、今まで通りのやり方にこだわらず、教育現場も変化する必要があります。

だからこそ、「教育の情報化」

 その打開策の一つが、「教育の情報化」です。  たとえば「授業でのICT活用」は、教師を助け、楽にします。子どもたちの”多様化”が進んだ結果、均質な子どもたち向けの授業方法が通用しなくなってきていますが、プロジェクタで「大きく見せる」だけで子どもたち全員が前を向き、指示が通り、理解しやすくなる。少ない時間で、効率的に、子どもたちの理解を促し、学力を向上できるのです。

第6回・ICT活用.jpg

実物投影機、プロジェクタ、そして優れたICT教材を活用すれば、よりわかりやすい授業を実現でき、子どもたちの理解も深まる。 ※写真協力:宮崎県三股町立勝岡小学校

 「校務の情報化」も、時間に追われる教師を助けます。その一例が、通知表。子どもの活動や成果物をデジタルカメラで記録し、パソコンで通知表を作成すれば、手間も時間も大幅に削減できます。「通知表は手書きした方がぬくもりが伝わる」という意見があることも承知していますし、確かにその通りだとは思いますが、手書きする手間がかかって子どもを指導する時間が減ったのでは、本末転倒ですよね。それよりは、作成の手間を効率化してでも、より濃い中身を追求すべきではないでしょうか。

 「教育の情報化」は、限られた時間をより効率的に使い、教師も子どもも、みんなを幸せにする力を持っているのです。

教師も情報社会を前向きに生きよう

 情報社会の発展により、学校や教師は変化を求められています。しかしそれを後ろ向きにとらえるのではなく、教師も積極的に情報社会のメリットを享受してほしい。情報社会ならではの力を、活用してほしい。
その典型的な例が、「教材の共有」です。一昔前では、教材の貸し借りは学校内で行うのが限界でした。しかしインターネットが普及した今、北海道の教師が作った教材を、九州の教師が借りて使うことも簡単にできるようになりました。

 この便利さに気付いた教師たちは、インターネット経由で教材を共有し始め、「教材サイト」を開設する教育機関や企業も増えています。eTeachers(http://eteachers.jp/)もその好例ですね。全国各地の教師から寄せられたフラッシュ型教材を学年や教科別にデータベース化し、無料で自由にダウンロードして活用できるようになっています。登録されている教材の数は、実に6400件以上(平成20年8月20日現在)。このサイトを通じて、フラッシュ型教材を使い始めた教師も急増しています。

第6回・フラッシュ型教材.jpg

 授業の一場面で使うフラッシュ型教材は、共有・活用しやすい教材の一つ。授業の冒頭などで繰り返し取り組むだけで、知識の定着が進む。

「他人が作った教材を使うと、教師としての個性が失われる」と、教材の自作にこだわる人もいます。日本の教師は個性を発揮した授業を行ってきましたし、個性にこだわることはとてもいいことだと思います。
しかし、勘違いしないでください。人が作った教材を使っても、個性は失われません。人と同じ教材を使っても、同じ授業には絶対になりません。みんな同じ検定教科書を使っても、授業の手法やスタイルは人それぞれだったではありませんか。

 むしろ教材の共有化は、今まで以上に教師の個性を伸ばすと思います。優れた教材に触れ、活用することで、自分の授業を見直し改善する機会が生まれる。教材作成の効率化が図れたことで、空いた時間を授業研究や指導に回せる。教材は、教師の知恵の結晶です。教材の共有化は、すなわち知恵の共有化。情報社会は、全国各地の優れた教師の知恵を、居ながらにして学ぶ機会を創造してくれたのです。これはとても素晴らしいことです。

 教材だけでなく、インターネット上には授業事例や論文、著名な教師へのインタビューなど、教師を成長させる貴重な情報があふれています。
CHIeru.WebMagazine(http://www.chieru-magazine.net)も、先生方を支援することを目的に、多様な情報を掲載しています。

 情報社会が実現してくれた利便性を、教師も積極的に活用してほしい。より良い授業を作り、子どもたち一人ひとりを見守り育てるために、便利なモノはどんどん取り入れて、今までの自分を見直してほしい。そして、教師同士、学校同士でネットワークを築き、知恵を結集して”総がかり”で子どもたちの未来を切りひらいてほしい。それがこの情報社会に生きる教師の使命だと思います。

 これからも、チエルマガジンはWebと冊子の両方で、先生方のお役に立てる情報を提供していく所存です。皆様も是非ご意見・ご要望をお寄せください。力を合わせて、より良い教育を実現していきましょう。

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