公開日:2009/1/26

第2回:『英語ノート』やICT、ALTをどう活用する?

小学校の「外国語活動」、いよいよ全国でスタート!
〜いま、小学校、教育現場、そして社会は何をすべきか〜

 小学校の「外国語活動」について、文部科学省初等中等教育局教育課程課・教科調査官の菅正隆先生に、独立行政法人メディア教育開発センター・准教授の堀田龍也先生が緊急インタビュー。第2回の今回は、教材やICT、ALTの活用方法について話していただいた。

『英語ノート』制作のねらい

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菅正隆(文部科学省初等中等教育局教育課程課・教科調査官)
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聞き手:堀田龍也(独立行政法人メディア教育開発センター・准教授)

堀田 外国語活動で使う教材として、文科省は『英語ノート』という教材を制作しました。国がこういう教材を作って全国の小学校に配布するというのは異例のことですね。

 現在、全国の小学校の約9割が総合的な学習の時間等で英語活動を行っていますが、時間数も内容も指導形態も学校によってバラバラという課題がありました。そこで最低限の基準として、学習指導要領に準拠した『英語ノート』を示したわけです。

堀田 どのような内容、そして思いが込められているのでしょうか?

 これまでに全国の研究開発学校が培ったノウハウやデータを文科省で集約し、この『英語ノート』に盛り込みました。どんな語彙があればいいのか、どういう表現を学ぶのが適切か、どんな学習テーマや場面設定が効果的か。研究開発学校が十数年にわたって積み上げてきた経験と知恵の結晶であり、実践的に楽しく学べる内容が詰まっています。
 ただし、「楽しい」と言っても、‘fun’ではなく‘interesting’です。子どもたちが様々なことに気づき、感動し、興味を持てるような要素を、『英語ノート』の各レッスンに盛り込んでいます。
 『英語ノート』は教科書ではなく教材的な存在ですので、「使わなければいけない」というものではありません。しかし、どんな授業をすればいいかわからないと不安な先生にとっては、道しるべになると思います。また、学習指導要領に準拠して作られていますので、中学校の英語教科書ともリンクすると考えられます。『英語ノート』を使った活動をすれば、中学校の英語科と無理なく連携できると思います。
 とはいえ、『英語ノート』だけやればいいというものでもありません。子どもたちの実態に合わせて、『英語ノート』を改善改良しながら、今まで培ってきた教材も活用しながら、子どもたちに合った、そして学習指導要領の目的に合った活動をしてほしいと思います。「おいしいところ取り」してもらえばいいのです。

堀田 学校によって、子どもの実態は様々ですからね。

 そうです。『英語ノート』の内容を、「難しい」と思う先生も、「簡単だ」と思う先生もいるでしょう。今まで、バラバラに英語活動に取り組んでこられましたから、差があるのは当たり前。自分のクラスに合った、授業を作っていただきたいのです。

『英語ノート』デジタル版をICT利活用のきっかけに!

堀田 『英語ノート』に対応した、『英語ノート』デジタル版も作られましたね。

 多くの先生方は、教科書とチョーク一本でこれまで授業をやってきました。しかし、まったく経験のない外国語活動を、今まで通り教科書とチョークのみで行うのは、厳しいと思うのです。私だって、「明日から物理を教えてください」と突然言われたら、もう眠れませんよ(笑)。
 では、国として、どういうサポートが必要かを考えたときに、まず音声CDが思い浮かびました。でもそれだけでは、テレビやゲームで優れた画面や画像に慣れ親しんだ今の子どもたちの興味や関心をひきつけられない。そこで、デジタル教材も制作したのです。
 それともう一点。電子黒板等でデジタル教材を見せれば、子どもの顔が上がる。先生の顔を見ながら、コミュニケーションを取れる。外国語活動では、コミュニケーション能力の向上を目的としていますから、これは大きなメリットです。

堀田 私はICT教育が専門ですので、この『英語ノート』デジタル版の活用を契機に、先生方がICT利活用の良さに気づいてくれればと、とても期待しているんです。

 私も、『英語ノート』デジタル版が大きな革命のきっかけになるのではと期待しています。これまで、文科省が「授業でICTを活用してください」とお願いしても、「良いのはわかるけど…」と先生方の動きは鈍かった。でも、外国語活動でデジタル教材や電子黒板などを使ってみることで、先生方もその良さや効果をわかってくれるはずです。そうなれば、他の教科の授業でも、積極的にICTを使い始めてくれるのではないでしょうか。情報教育とはまったく違う分野の外国語活動が、ICT活用普及のきっかけになれば、おもしろいですね。
 ただし、授業中ずっとICTを使うのではなく、必要な場面で、必要に応じて使い分けてほしいと思います。『英語ノート』デジタル版だけを授業中ずっと使っていたのでは、教師は「ただクリックする人」になってしまう。これでは、コミュニケーションにはなりません。ICTに依存しすぎずに、アシスタントとして上手に活用してほしいと思います。

ALTはあくまでアシスタント

堀田 外国語活動において、ALTはどういう位置づけなんでしょうか?

 ALTを活用することは大切ですが、ALTに依存し過ぎるのは危険です。ALTは、あくまでも先生方の苦手な部分をアシストしてもらう存在です。そもそも、外国語活動では、子どもが興味や関心を持てるテーマを適切に選び、子どもの実態に合った指導で意欲や好奇心を刺激していかなければなりませんが、それができるのは担任教師だけです。教育者ではないALTに丸投げしても、うまくいきません。

堀田 ALTに任せっきりでは、外国語活動における教員の指導力がいつまでも向上しないリスクもありますね。

 そうですね。現実問題として、ALTの確保は地方自治体の財政状況に左右されています。ALTが3人入っている学校もあれば、1人も雇用できない学校もある。今現在ALTを雇えていても、来年、再来年はどうなるかわかりません。「来年からはALTを雇えないので、先生が教えてください」となったときに、教師が自立して一人で全部教えられるようになっていただきたいのです。
 そういう意味でも、やはりICTが有効です。これは一つの例ですが、九州のある市では、ALTを雇う予算がないため、ALT無しでも英語活動ができるようにと、独自で英語のデジタル教材を作り、全小学校に電子黒板を整備しました。電子黒板を整備するには、最初はかなりのお金がかかります。でも、将来にわたってずっと使えるので十分元は取れるのです。

【『英語ノート』とは?】

 新・学習指導要領に基づき、文部科学省が制作した教材。「外国語活動」は教科ではないため、英語ノートは「教科書」ではないが、これを使えば誰でも無理なく授業を進められる作りになっている。5年生用の「英語ノート1」と6年生用の「英語ノート2」があり、電子黒板等で使える「英語ノート」デジタル版や、教員向けガイドブック、音声CDも付属している。
 5年生向けのカリキュラムは、次の9レッスンで構成されている(各レッスン3〜4時間)。

Lesson 1 世界の「こんにちは」を知ろう
Lesson 2 ジェスチャーをしよう
Lesson 3 数で遊ぼう
Lesson 4 自己紹介をしよう
Lesson 5 いろいろな衣装を知ろう
Lesson 6 外来語を知ろう
Lesson 7 クイズ大会をしよう
Lesson 8 時間割を作ろう
Lesson 9 ランチメニューを作ろう

◎第3回(最終回)は、3月9(月)に掲載いたします。

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