公開日:2012/11/14
フューチャースクールでのICT活用は、 まさに”誰でもできる”実践!
フューチャースクール推進実証校を訪ねて
広島市立藤の木小学校(広島)
フューチャースクール実践校に指定され、一人1台のタブレットPC(以下、TPC)の活用に取り組む広島市立藤の木小学校。そこで行われていたのは、従来の授業計画にTPCや電子黒板を上手に組み込みながら、ICTの効果を最大限に引き出す、“誰でもできる”実践だった。これまで培ってきた授業スタイルと、最新のICTが見事に融和した姿をレポートする。
TPCが子どもの思考力や伝える力を伸ばす!
一人1台のTPCを導入し、注目を集めるフューチャースクール。「一人1台のTPCで得られた最大の効果は何ですか?」と堀校長先生に尋ねると、「協働学習の充実ですね」という答えが返ってきた。
「子ども同士で考えを共有し、話し合い、考えを深めることに、TPCや電子黒板が役立っています。まずはTPCに自分の考えを書いた後、ペアや班内で見せ合って話し合い、最後にTPCの画面を電子黒板に映してクラス全体で共有し、考えを深めています」(堀校長先生)
こういった活動は従来から行われているが、TPCによって効果が大幅にアップしたという。その一つが、「情報量の増加」による「思考力の向上」だ。
「たとえば黒板に自分の考えを書いて発表するのでは時間がかかり、発表できる子どもの数が限られてしまいます。一方TPCを使えば、スピーディに次から次へと発表できるので、発表者の数が増え、受け取る情報量も増えます。情報量をたくさん与えて、たくさん考えさせることで、思考力が高まるのです」(堀校長先生)
友だちの考えにたくさん触れることは、子どもの心を揺り動かす。友だちの考えを見て自分との違いに驚き、どこが違うか比較し、それぞれの良い点を探るようになるのだ。またTPCは「伝える力」も伸ばす効果があるようだと、島本教頭先生は指摘する。
「考えをまとめたノートをみんなに見せるのは躊躇するのに、TPCにまとめた考えは見せることへの抵抗感が少ない、むしろ積極的に見せたがる傾向があることに気づきました。さらに、みんなに見られることを意識して、わかりやすく丁寧に考えをまとめるようにもなっています」(島本教頭先生)
この日見学した授業でも、子どもたちはTPC上のデジタルワークシートに自分の考えを一生懸命書き込んでいた。しかもその内容は、とても個性的。表をつかってまとめる子、イラスト付きで解説する子、考えのポイントを箇条書きで解説する子など、「伝える」ための工夫があふれていた。
「デジタルワークシートは先生方が自作していますが、フリーハンドで答えを書きこめるのが特徴です。これなら自分なりの考えを表現しやすく、一人ひとりの違いが浮き彫りになり、話し合いの材料も増え、考えも深まります」(堀校長先生)
思考力や伝える力の向上。これはまさに「情報活用能力」の育成に他ならない。
「さまざまな考えを伝え合い、受け入れ、高め合っていく。今後はこういう学習、こういう力が、必要になってくるでしょうね」(堀校長先生)
すべての先生が同様の実践を行うために、「学びのモデル」を作成
1年生から6年生まで、様々な教科の授業を見学して、気づいたことがある。まず、どの授業もICT一辺倒ではない点だ。TPCを45分間ずっと使っているわけではなく、電子黒板もピンポイントで活用。単元の目当てや課題など重要なことは黒板に書かれ、紙の手作り教材も併用されている。今までの授業と一見変わりはないのだが、それでいて授業テンポのアップや効率化、 より詳細な観察や話し合いの深化といったICTの効果も肌で感じる。
そしてもう一点気づいたのは、“どの先生も、同じようにICTを活用している”点だ。
「本校が本格的にICT活用を始めたのは、フューチャースクールになってから。『これが私なりのICT活用だ』と各教員がバラバラに取り組んだのでは、研究成果も上がりません。全校挙げて同じ方向を向いて取り組むには何が必要か。そこで作ったのが、“学びのモデル”です」(堀校長先生)
「つながる―広がる―深め合う」という研究主題を基軸に、「課題をつかむ(一斉学習)」「個人で考える(個別学習)」「ペア・班で思考する(協働学習)」と学習活動を分類し、授業の流れを整理。そして、「TPCは個別学習・一斉学習に有効」というように、どの活動でどのICTを使うと効果的か、校内での統一基準を作ったのだ。
「フューチャースクールに決まったことで、『今までの授業を180度変えなくてはいけないのか』と不安を抱く教員もいました。そこで『授業を変えなくてもいい。今まで通りの授業に、ICTをはめ込んでいけばいい』と、このモデルを示したのです。心がけたのは、“誰でもできる実践”。ICTが得意な先生にしかできないようでは、普及しませんし、学級間格差が生まれてしまいます」(堀校長先生)
ICTの使い方の基準を統一し、スキルアップのためのミニ研修をこまめに行ったことで、すべての教員がすべての学級で取り組めるようになった。モデルを作ることの大切さに気づいた同校では、学習態度や生活態度などの指導基準も作成。授業中の話し方・書き方・家庭学習などで必要な力や姿勢などを学年ごとにまとめたのだ。
「フラッシュ型教材」は、子どもにも教師にも効果あり
藤の木小では、「フラッシュ型教材」も活躍している。
「フラッシュ型教材は、授業の導入でのトレーニングに最適。声を出すことで、学習意欲が高まり、学習体勢が整います。問題数が多くバリエーションも豊富なので、復習がはかどる。たとえば去年習ったことの復習問題もすぐに出せるので、基礎学力の定着に効果大です」(堀校長先生)
子どもだけでなく先生方にも大人気で、フラッシュ型教材を自作する先生も増加中だとか。
「フラッシュ型教材でICTに慣れたことで、TPCもスムーズに使えるようになった先生もいます。ICTの“入門編”としても最適ですね」(堀校長先生)
子ども一人1台のTPCを導入し、“未来の教育”を研究するフューチャースクール。だがその実践は現在の授業を覆すのではなく、今の授業をICTでより効率的・効果的にするものであり、その土台にはどの学校にも通じる教育理念が脈打っていた。
「フューチャースクール推進実証校一覧」計20校
・小学校…10校
<東日本地域>
(北海道)石狩市立紅南小学校
(山形県)寒河江市立高松小学校
(東京都)葛飾区立本田小学校
(長野県)長野市立塩崎小学校
(石川県)内灘町立大根布小学校
<西日本地域>
(愛知県)大府市立東山小学校
(大阪府)箕面市立萱野小学校
(広島県)広島市立藤の木小学校
(徳島県)東みよし町立足代小学校
(佐賀県)佐賀市立西与賀小学校
・中学校…8校
(福島県)新地町立尚英中学校
(神奈川県)国立大学法人
横浜国立大学附属横浜中学校
(新潟県)国立大学法人
上越教育大学附属中学校
(三重県)松阪市立三雲中学校
(和歌山県)和歌山市立城東中学校
(岡山県)新見市立哲西中学校
(佐賀県)佐賀県立武雄青陵中学校
(沖縄県)宮古島市立下地中学校
・特別支援学校…2校
(富山県)富山県立ふるさと支援学校
(京都府)京都市立桃陽総合支援学校
広島市立藤の木小学校 堀 達司 校長
広島市立藤の木小学校 島本 圭子 教頭