公開日:2013/9/30

一貫した現場主義に基づく実践的な学びを…

東洋大学・国際地域学部は1997年の開設以来、一貫して「現場主義」重視し、国際感覚を持ったうえで地域に根ざした活動のできる人材育成に務めてきた。昨年、文部科学省の『グローバル人材育成推進事業』(タイプB特色型)に採択され、これまでの実績とノウハウを生かした教育内容の拡充により、学内の国際化を牽引する役割を担っている。

国際地域学部
芦沢 真五教授
国際地域学部 学部長
藤井 敏信 教授

地域の課題を世界的視野に
立って考える

 環境、貧困、紛争など世界が抱えるさまざまな課題に対し、国際的な視点に立って、地域を創造的に活性化させることのできる人材が今、社会で求められている。課題を抱える地域の現状を的確にとらえ、いかにして課題を解決に導くべきか。それには、国際感覚を持って世界を見つめる大きな視点と、地域に根ざして考えられる小さな視点の2つの視点が必要となる。

 ”Think Globally, Act Locally”を掲げる東洋大学の国際地域学部は、徹底して「現場主義」を貫き、地球的規模の課題に対して実践的に取り組む、いわばテーマ型(課題解決型)の学部である。国際地域学科と国際観光学科の2学科で構成され、地域づくりや観光振興に貢献し、地域を創造的に活性化させる人材育成を目指している。

 藤井敏信学部長は「国際地域学部という名称を冠した学部は、国内でも2つしかありません。学問分野としても比較的新しい領域です。東洋大学の国際地域学部は1997年の創設以来、学部主催の長・短期海外研修制度を拡充するだけでなく、専門科目の英語での講義を増やし、英語を中心としたカリキュラムを充実させ、大使リレー講義や国際学生シンポジウムなどの国際交流イベントも実施するなど、さまざまな取り組みを行ってきました。そうしたなかで採択された『グローバル人材育成推進事業』は、国際地域学部にとっても、学部における教育内容のさらなる発展を促す契機となったのです」と話す。

3つの段階に応じた
プログラムを用意

 事業推進にあたり、国際地域学部は、新しい「グローバル人材育成プログラム」(Program of Global Human Resources Development: GHRDP)をスタートさせた。これは従来、外国語学習や異文化コミュニケーション能力の向上を目的として実施してきた副専攻の「英語特別プログラム」(English Special Program: ESP)を発展させたもので、異文化理解や実践的能力の向上も強調したプログラムである。GHRDPにおいては、外国語力向上のための授業、外国語による専門科目の履修、海外研修や留学などによる現場体験、キャンパス内外での国際交流体験、卒業論文の英語化などを取り入れた。そして、GHRDPを履修した学生が無理なくステップアップできるように、1年次から4年次までを「導入期」「発展期」「展開期」の3期に分けた段階的なプロセスを設定した。

 まず、入学前から1年次に設定される「導入期」は、入学前e-Learningプログラムに始まり、入学後のアカデミックライティング指導、TOEFL/TOEIC特別講座、学内留学(Study Abroad in Hakusan, Toyo: SAIHAT)、語学研修プログラムなどを取り入れた。続く2年次から3年次前半の「発展期」には、長期留学も視野に入れ、専門性を重視した海外国際地域学研修や海外拠点研修といった現地研修に取り組む。さらに、3年次後半から4年次の「展開期」では、卒業や就職を意識して、海外インターンシップやゼミ専門研修、卒業論文の英語での執筆といった学びの集大成となる内容が組まれる。そして、卒業後には国内外の地域づくりや観光振興の現場のほか、国際展開を図る民間企業などへの就職を目指すという。

 そして、このプログラムを支えるため、国際地域グローバルオフィスを新たに組織して、学生の英語力強化、特にアカデミックライティングを支援する「ランゲージセンター」や海外拠点(タイ)を設置し、短期・長期における海外留学やSAIHATへの学生の参加を促進している。また、留学をはじめ、国内外におけるさまざまな国際交流活動に参加するたびにポイントが貯まる「国際交流ポイント制度」を創設し、累計で30ポイント以上を獲得した学生を学部長名で表彰し、GHRDP認定要件とすることで、学生の国際交流活動への積極的な参加を促す。さらに、GPA制度やポートフォリオと呼ばれる教育支援システムの導入などによって、学生が入学してから卒業するまでの学習成果や成長過程を学部全体で見守り、一人ひとりのキャリアプランに応じた学びを支援する体制を整えた。

 芦沢真五教授は、「最近ではポートフォリオを導入し、活用する大学も増えてきました。私たちはさらなる幅広い活用を考えています。学生一人ひとりが自分の学習の振り返りに使うことはもちろん、大学という組織としても、教員が学生の伸びを確認することに活用しています」と語る。ポートフォリオを導入するまで、教員は自分の授業を履修している学生の学修過程や成績などを管理することしかできなかった。だが、ポートフォリオを導入することで、自分の授業を履修していない学部に在籍する学生すべての情報を確認することもできるようになった。「つまり、一人の学生が4年間を通じて、どのような学びをして、どのような活動に取り組み、留学をしてどのような経験を積み、英語力がどれだけ伸びたのかなど、体系的に成長の様子を見ることができるのです」とポートフォリオ導入による効果を説明した。

国際地域学部でのグローバル人材へのプロセス

4つの能力修得のための
取り組み

 国際地域学部は、GHRDPで4年間を通じて修得すべき能力として、次の4つを掲げている。

(1)語学力・コミュニケーション能力の向上
(2)異文化理解・日本人としてのアイデンティティの醸成
(3)実践的能力の育成
(4)専門知識の英語による修得

オーストラリア・カーティン大学から来校した留学生と交流を深める学生たち

 これらの能力に対して、それぞれ認定要件が設けられ、(1)については「語学力基準」として、卒業時にTOEFL ITPスコアが550点に到達している学生を、全体の35%に上げることを目標とした。(2)については、現場での異文化体験や日本文化の紹介などの「国際交流体験」を重視することとし、SAIHATを中心として行われるさまざまな国際交流イベントへの参加度を目標に設定し、卒業までに5割の学生が自主的に参加することを目指す。(3)については、留学や研修、インターンシップなどの「現場経験」や「卒業論文の英語化」などで認定する。(4)については、「外国語による専門科目の履修」を要件として、受講者数を年間で延べ800名に達することを目標とする。

プログラムを支える体制も整備

学生たちは、国際地域グローバルオフィスを積極的に活用

 GHRDPでは4年間を通じて、留学や研修などさまざまな海外体験を積むことができる。事業の採択により、国際地域グローバルオフィスやランゲージセンターが独立組織として設置されたことで、国際化に向けた教職員の増強も可能となった。教員については、海外で1年以上、実務や教務、研究に従事した経験者を採用し、英語による専門科目の割合を増やしていく。さらに、研修先を開拓する研修コーディネーターを採用したことにより、教員と連携しながら海外研修の機会を拡充したほか、1対1でアカデミックライティングの指導にあたるネイティブ教員がランゲージセンターに常駐するなど、学生の学びを教職員が一体となって支援する体制が整った。

 「オフィス開設からまだ半年ほどですが、利用者が日に日に増えています」と、芦沢教授は国際地域グローバルオフィスが積極的に活用されることを喜ぶ。そして「オフィス内は活気にあふれています。ランゲージセンターのライティング相談を受講する学生が次々と訪れては、ネイティブ教員の熱心な個別指導を受けていますし、TOEFLやTOEICの対策講座を受講したり、長期休暇中には特別講座も開催されたりしています。また、研修コーディネーターたちは、研修をより充実させるために研修内容について議論したり、学生がコーディネーターを訪ねてアドバイスを受けたりする姿もよく見受けられます」と利用状況を説明した。

 海外留学にも学生が意欲的に参加するようになった。東洋大学では、全学組織である国際センターが主催する交換留学や認定留学などの制度のほか、各学部で主催する留学や研修がある。国際地域学部の学生は全学でも群を抜いて海外へ出ており、国際センター主催の海外語学セミナーや留学に参加した学生は昨年度87人で、学部主催の海外研修・ゼミ研修が278人と、合計で365人が何らかのセミナー、留学や研修などに参加している。なかでも、6カ月〜1年の期間で留学する交換留学や認定留学を経験した学生が23人と、他学部に比べると圧倒的に多い(M9表参照)。

 芦沢教授は留学や海外研修のあり方について、次のように語る。「かつて大学における留学は、短期語学研修か長期留学しか選択の幅がありませんでしたが、昨今は留学も多様化しています。英語力を身につけ、現地で専門分野を英語で学び、フィールドワークなどで実践的に学び、現地の人々と共に学び合うといった研修などの効果を、今後どのように分析、検証していくかを考えていかなければなりません。学生の異文化適応能力を測るテストなども取り入れ、客観的に検証することを考えています」。

2012 年(平成 24 年度)における海外留学・経験者数(実績)

留学の種類と派遣人数(単位:人) 全学対象(所属別)

海外国際地域学研修参加者推移(2005 年度~2012 年度)

国際地域学部生のみ対象

※2013年度は、5カ国(フィリピン、韓国、イギリス、アメリカ、オーストラリア)で研修を開催。
※アジア工科大学は当研修の基礎となった研修で、2001年度より実施。通算では100名以上の学生が参加している。
※セントラルランカシャー大学は2013年度より新設。

現地へ赴き、現地の人々と共に
活動する

バングラデシュでのゼミ研修。「現場主義」を貫き、海外研修では実践的な学びを体験

 国際地域学部ではGHRDPを通じて、段階を追って学びを深めるさまざまな海外研修の機会をふんだんに用意している。1年次の「語学研修」は、英語研修が中心の語学力向上を目指す研修プログラムだ。協定校であるフィリピンのサウスウエスタン大学で、現地大学生との1対1の英会話練習や文化交流なども体験する。2年次は専門講義への参加やフィールドワークを中心とした「専門研修」があり、フィリピン大学セブ校やタイのチュラロンコン大学、韓国の建国大学で、約2週間にわたり研修を行う。フィールドワークでは、異文化理解や都市問題などの課題について実践的に学ぶ。「語学+専門研修」のプログラムもあり、英語力の強化とともに、現地の文化・生活や観光政策などについての理解を深める。この研修はイギリスのボーンマス大学、カナダのサスカチュワン大学、オーストラリアのカーティン大学で実施する。さらに3年次には「ゼミ専門研修」として、学生が所属するゼミで海外研修を行い、専門分野について調査研究に取り組む。ベトナム、タイ、カンボジア、台湾、インドといったアジア諸国をはじめ、アフリカ、ヨーロッパ、太平洋諸国など、研修先はゼミの研究テーマに沿って世界各地に広がる。貧困問題や環境問題、地域文化、観光振興など、幅広いテーマでの調査研究を行う。

 現地へ赴き、現地の人々とともに、その地域の活性化を考えるといった実践的な学びを行うことが、国際地域学部の海外研修の特色だ。

 「何不自由ない日本で生まれ育った学生たちが、たとえば開発途上国へ行き、1カ月間シャワーのないようなところで生活し、スラム街に住む貧困層の人々とともに活動しながら、その地域の課題を探り、人々が自立した生活を送れるような支援策を考えるといったことを実地で学ぶのです。そこで何を見聞きし、何を感じて理解したのか、そして、現地で学んだことをもとに、日本の地域活性化や街づくり、観光振興に活かす手だてを発見してほしい。それが、私たちの目指す”Think Globally, Act Locally”の精神なのです」

 藤井学部長は、現場主義の大切さを強調する。地域で起きている課題を世界の問題としてとらえ、地域のために何ができるかを考える。そうして研修を終えると、学生たちは”タフ”になって帰国するという。

 「英語を学ぶのであれば、海外へ行かずとも日本でも学ぶことはできます。しかし、その地域の課題や人々の暮らしなどは、実際に現地へ赴かなければ理解することなどできません。このような研修での経験を、どのように自分の将来に生かしていくかということも重要です」と藤井学部長は言い切る。

大学での学びを
将来にどう結びつけるか

 国際地域学部での学びを生かして、卒業後にどのような進路をたどるのかは、学部としても「今後の課題」だととらえている。

 藤井学部長は「創設当初は、国際機関への進路を目指す、という目標を掲げていました。しかし、必ずしも学生たちの就職先はそうとは言えません。ほかの人文・社会科学系学部と同様に、一般企業への就職も多いのが実状です。大学の学びと就職をいかにマッチングさせるか、という課題があります」と語る。

 しかし、なかには、英語力を生かして客室乗務員になるという夢をかなえた学生もいれば、観光分野への就職を果たした学生もいる。国際ボランティア団体に就職し、社会問題の解決を目指して活動する卒業生や、大学卒業後に韓国へ渡り、韓国の法律事務所で活躍している卒業生のように、たくましく生き抜く力を身につけ、世界に挑戦する人材も育っている。

 在学中から国際NGOの活動に関わったり、貧困層への学習支援活動に携わったりという実践経験を積む学生も少なくない。今後はタイの海外拠点を基盤に、現地の日系企業やNGO、国際機関、現地行政機関などでのインターンシッププログラムも予定されている。

 「4年間の大学生活をどう過ごし、どう学ぶか。国際地域学という学問は研究領域が幅広く、4年間では専門性を絞りづらいかもしれません。就職活動が早期に開始されるという問題もあります。学生たちには在学中に豊かな経験を積んでほしいと願っています。大学での学びを通じて、自分の足で立ち、自分の頭で考え、行動できる人に成長していってほしいものです」と藤井学部長はメッセージを送る。

創立者・井上円了の想いを
受け継いで

 国際地域学部が『グローバル人材育成推進事業』の採択を受け、GHRDPを推進するなか、東洋大学も現在、「グローバル人財(人という財産)の育成」を目指して、「哲学教育」「国際化」「キャリア教育」の3つの柱を掲げている。国際地域学部の取り組みは、大学全体の国際化を牽引する役割も担う。東洋大学は「諸学の基礎は哲学にあり」という建学の精神に基づき、どの学部においても、「考える(哲学する)」ことを大切にした教育を行い、自分で考え、行動できる人財を輩出してきた。

 「今、社会で求められるグローバル人材とは、本学が育てたい人財そのものです。それは創立者である井上円了の哲学に通じます。国際地域学部としても、その想いをしっかりと受け止め、社会が求める人材を育てていきたいと考えます」と藤井学部長。

 「GHRDPは、これまでの実績もあって順調にスタートを切りました。しかし、いずれ変局点が必ず来ると思います。その時をどう乗り切るのか。それには、今後のプログラムの内容を、いかに差別化していくかがカギとなるでしょう。また、今後は優秀な学生を海外から受け入れる体制も強化しなければなりません。変革の時代において、世界のさまざまな課題の解決に向けて、国際地域学部が果たす役割はますます大きくなっていくことが予想されます。国際地域学部で学んだグローバルな人財が、地域をインターナショナルな世界に直接つなげていけたらと考えています」と結んだ。

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