公開日:2014/4/1

来るべき2020年に向けて学習規律と基礎・基本の徹底の上でこそ、新しい学習活動が成立する

東北大学大学院 情報科学研究科 堀田 龍也 教授

「一人1台の情報端末」時代は、すぐそこまで迫っている。
2010年度から総務省が実施してきた『フューチャースクール推進事業』および、11年度から文部科学省が実施してきた『学びのイノベーション事業』の実証校による研究成果が上がっていることを受け、普通教室で活用できる児童生徒用のタブレット端末の整備に意欲を見せる自治体が増えつつある。
そうしたなか、実証校を通して、とくにデジタル教材の不足という課題が浮き彫りになってきた。
「一人1台の情報端末」時代を迎えるまでにすべきこととは何か。
東北大学大学院の堀田龍也教授にお話を伺った。

「未来型の学校」は何が違うのか

 2010年度にスタートした総務省の『フューチャースクール推進事業』および、11年度から文部科学省が実施してきた『学びのイノベーション事業』による実証校での研究成果が公表されるにつれて、全国各地の自治体や先生方は、「新しい時代の教育環境」への関心を高めています。

 では、想定される「未来型の学校」はこれまでの学校と違うのでしょうか。現在のように、先生にしっかり教えてもらい、教室で仲間と共に学ぶという授業は見られなくなってしまうのでしょうか。

 答えは「NO」です。黒板だけでなく電子黒板も、紙のドリルだけでなくフラッシュ型教材等のデジタル教材も、紙の教科書だけでなくタブレット端末でのデジタル教科書も…と、普通教室で先生や子供たちが使う道具のバリエーションが広がるという変化が見られるものの、授業である以上,その考え方や進め方そのものは変化しません。「一人1台の情報端末」時代が到来すれば、個々の学習活動は便利になります。そして、学びを深めたり共有したりしやすくなります。しかし、授業の流れや授業計画が大切であることは、今までと変わらないのです。

 普通教室のICT環境が整っていくことによって、先生は授業をこれまでより効率よく進めることができるようになります。そのなかで捻出した時間を利用して、昨今のグローバル化に伴って必要とされる国際的な視点を加味した学びや、多様な子供たち同士の学び合いを大切にした協働学習の機会をより多く取り入れることができるようになるのです。

 「未来型の学校」の実現は、「劇的に授業が変わる」ということではなく、「今、先生方がなさっている授業が、より進めやすくなる」という地味な変化の連続でしかないのです。しかし、この「授業を進めやすくなる」研究をしっかりしておかなければ、新しい課題に対応した学習活動を入れ込むことができないのです。

「韓国・ハンビット初等学校に学ぶ

タブレット端末を使った授業の様子。(ハンビット初等学校にて)

 文部科学省が11年4月に策定した『教育の情報化ビジョン』では、次期学習指導要領の全面実施が想定されている20年度に向けて、日本の教育の情報化が進むべき方向性を示し、「21世紀にふさわしい学びと、あるべき学校の姿」を謳っています。一方、13年6月に閣議決定された『日本再興戦略』では、「10年代中に『一人1台の情報端末』による教育の本格展開に向けた方策を整理し、推進する」と明言しているように、現行の学習指導要領において必要なデジタル教材の開発や、教員の指導力向上にも取り組むとしています。このことからもわかるように、まずは『日本再興戦略』に示された整備をし、その上で『教育の情報化ビジョン』がイメージする学習環境の整備をしていくことが大切です。

 国による実証研究の成果もあって、独自に、「一人1台の情報端末」環境の整備に積極的に乗り出す自治体が出始めました。こうして、準備が整っている自治体から、「一人1台の情報端末」時代を見据えて動き始めているのです。これが日本の現状です。

 では、ICT先進国として知られる韓国では、いま、どのように教育の情報化が進んでいるのでしょうか。韓国では1980年代から政府主導で教育の情報化を進めてきました。日本でいう電子黒板等の大型提示装置がすべての普通教室に整備されたのは05年頃です。その上で11年6月、日本の文部科学省に相当する教育科学技術情報部と国家情報化戦略委員会により『スマート(SMART)教育推進戦略』が発表されました。これにより、15年までにすべての小中高にクラウド型の教育環境を整え、児童や生徒がいつでも教育プログラムにアクセスして学習できるようにするというものです。教科書もすべてデジタル教科書へ移行していくとされています。

 このようなICT先進国である韓国の教室へ一歩踏み入ると、日本の授業の雰囲気とあまり変わらないことに驚きます。むしろ日本よりも、学習規律や基礎・基本の徹底といったところに重点が置かれています。私や富山大学人間発達科学部の高橋純准教授は、チエルと韓国のハンビット初等学校(京畿道坡州市)の共同研究にコーディネータとして携わっていますが、同校を訪れた際、子供たちは先生に対してきちんと挨拶をし、学習規律を守れない子供は先生から指導を受けているシーンを何度も見ました。近年の日本では忘れがちになっている規律の厳しさや学ぶ姿勢の大切さを垣間見ることができました。ハンビット初等学校は、京畿道教育庁指定の「革新学校」です。13年7月にスタートした共同研究では、5年生1学級の普通教室でどのようにタブレット端末を活用して授業を行うことができるかを実証研究し、データ収集や分析を行っています。研究にあたっては、チエルが開発したタブレット対応の授業支援システム『T-CAT』(韓国での製品名)を、日本市場での発売に先駆けて導入しました(日本での製品名は『らくらく授業支援』)。この共同研究の成果が、日本で発売されるシステムに組み込まれることになります。

 先進的な研究を行いながらも、教育の基盤となる学習規律の徹底は怠らない。ハンビット初等学校から私たちが学ぶべきことは多くあります。日本の教育の質の高さは、これまでの学校教育がしっかりとなされてきたことの証だと思います。しかし、「ゆとり教育」と言われる時代を経て、学習規律や基礎・基本をどこかに置き忘れてきてしまったのではないでしょうか。もっと、学習規律や基礎・基本をしっかりと身につけ、粘り強く取り組もうとする日本人らしさをつけていくことが、国際競争力が求められるこれからの時代には大切なのではないでしょうか。

「どんな教材が必要なのか

藤の木小学校では、児童が書き込むワークシート型の教材もよく使われていた。

 次期学習指導要領がスタートするとされる2020年に向けて、日本でもこれから一人1台の情報端末がさらに整備されていくでしょう。教室で学ぶときには、互いに支え合い、助け合って学んでいきます。ICT環境のさらなる整備によって、先生方が授業の計画が立てやすくなったり、学習活動を進めやすくなったり、子供たちの学びの様子をより把握しやすくなる必要があります

 環境整備が進んでいくなかで、さらに充実させていかなければならないのがデジタル教材です。現在はまだ、市販のデジタル教材が不足しているのが実状です。

 フューチャースクール実証校のひとつである広島市立藤の木小学校では、すべての児童および教員に一人1台のタブレット端末が配布され、校内には無線LAN環境が完備されました。各教室には電子黒板が設置され、指導用ソフトウェアや教材はクラウド上の共有フォルダに保存できるようになっています。しかし、「一人1台情報端末」環境を前提とした授業で役立つデジタル教材はほとんど市販されていませんでした。そのため、授業で使う教材の多くは、先生方やICT指導員がExcel やPowerPointなどを使って自作しました。この4年間で自作された教材の数は、およそ1000個にも達しました。

 13年9月に開催された日本教育工学会第29回全国大会で、同校の小島史子教諭が発表した「フューチャースクール藤の木小学校における自作教材の傾向」によると、児童が使用する教材が全体の44%を占めるのに対し、教員が使用する教材は56%と、教員が使用する教材の方が多いことがわかりました。

 教材は児童用、教員用とあり、次のように分類されます。

(児童用)

A―1 児童が読み取る学習活動で活用する教材(教科書型)

A―2 児童が書き込む学習活動で活用する教材(ワークシート・ノート型)

A―3 児童が調べる学習活動で活用する教材(資料集型)

A―4 児童が動かす学習活動で活用する教材(デジタル特有型)

 児童用の教材でもっとも活用されたのは、A―2でした。この結果から、デジタル教材のなかでも、ワークシート・ノート型の教材が必要であることが明らかになりました。次いで、A―4。実物投影機で紙の教材を映し出せば、内容を共有することはできますが、「動かす」ということは、タブレット端末を使わなければできない活動です。

(教員用)

B―1 教員が一斉提示をするために活用する教材

B―2 教員が活用するフラッシュ型教材

 B―1は、課題の把握や前時の復習など、教員が児童に教材を一斉提示し、考える場面で使用しています。基礎・基本の徹底にはB―2を活用しています。

 一人1台のタブレット端末がある学習環境にも関わらず、児童用よりも教師用の教材の方が多く作成され、使われました。このことからもわかるように、一人1台の情報端末が整備されても、授業である以上は、先生から児童に向けて提示する教材が重要であることには変わりはないということです。

45分間の授業をいかにつくるか

授業冒頭では、先生が電子黒板に課題提示をして、個別活動へ移る。

 藤の木小学校の授業を参観すると、先生方は授業の冒頭で電子黒板に画像や映像を映し出し、「これは何だと思いますか?」「これ、不思議だと思いませんか?」と、子供たちに問いかけるシーンに多く出会います。そして、その日の課題を提示し、「では、今日はこの課題について考えていきましょう」と、子供たちに考える活動をさせるのです。

 課題を提示すると先生は、あらかじめ用意しておいたワークシート型の教材を配布し、子供たちに考えを書かせたり、問題の解き方を書かせたりします。そうして子供たちが何を書いているのか、理解できているのかなど、巡回機能を使って確認し、個々に指導・助言をしていきます。そして、数人の生徒を指名して考えを発表させて、学び合うのです。

 45分間の授業をスムーズに進めるためには、ある程度のコントロールが必要です。一斉指導でまず今日の課題を提示し、個別学習で一人ひとりが考え、グループで協働学習を行い、その結果を発表し、最後に個別学習でまとめる。授業の一連の流れのなかで、どのようにICTを活用し、どのような教材を用意し、タイムマネジメントしていくのかを考えなければなりません。授業の内容はもちろん毎時間違います。先生は「今日の授業はこんなふうに進めよう。ここを理解させよう」などと、その日の授業を設計しますが、それに必要な教材を簡単に作ることができ、子供たちに配布や回収をし、確認ができる。そうした授業の流れを支援するシステムが必要になりました。チエルが今春発売した『らくらく授業支援』は、韓国のハンビット初等学校やフューチャースクール実証校での研究成果をもとに、忙しい先生方の負担を軽減し、授業の充実を図るためのお手伝いをするシステムとして開発されたのです。

先生を支えるシステムづくりを

 今後はさらに、デジタル教材の充実という課題への対応策を考えなければなりません。それには、藤の木小学校をはじめ、フューチャースクール実証校でどのような教材が作られ、よく使われてきたかを分析・検証する必要があります。そして、よく使われる教材を市販教材として開発していくとよいでしょう。

 市販のデジタル教材は今、まだまだ不足しています。これは深刻な問題です。しかし、どれだけ市販の問題集があっても、先生がプリント教材を自作することがあったように、市販のデジタル教材が増えても、自作のデジタル教材が残っていくと思います。目の前にいる子供たちはみな違いますし、先生の教え方も人それぞれ違うからです。

 先生が忙しくなりすぎて、教材を作る時間を取れなくなってしまったら、日本の教育の質は落ちていくと思います。だからこそ、忙しい先生が簡単に使える教材や、授業をしやすくするシステムが必要なのです。忙しい先生が簡単な操作で必要な教材を取り出せるようなシステムも必要ですね。

 「一人1台の情報端末」時代を迎えるにあたって、これから必要なのは、ICT環境の整備とともに、教育の質を維持・向上させていくデジタル教材や授業支援システムの整備に他なりません。

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