ICTを活用して全国の学校がつながる!

熊本県立熊本聾学校

左:熊本県立熊本聾学校 小学部 堤 雅子 先生
右:熊本県立熊本聾学校 中学部英語担当 山田 京子 先生

「まずは、九州内の特別支援学校14 校で一緒に研究をし、成果をあげ、全国の先生方とのネットワークを広げて行きたい」と語る山田先生

熊本聾学校は、聴覚に障がいのある幼児・児童・生徒のための県内唯一の特別支援学校である。九州地区でも、福岡県を除けば聴覚障がい特別支援学校(以下、聾学校)は、各県に1、2校しかない。そのため、専門性の継承は大きな課題となっている。2013年度から、文部科学省の「特別支援学校ネットワーク構築事業」を受け、県の枠を超えた広域的な取り組みを行い、専門性の向上や学力向上を目指した授業づくりの研修を進めてきた。既に、いくつかの研修を終え、その後、九州地区の各聾学校で実践的な取り組みが始まっている。ICTの活用を中心とした交流や授業実践の取り組みを紹介しよう。

テレビ会議システムの活用

オーストラリアのアデレード高校とのクラス交流

佐賀ろう学校とのテレビ交流

九州地区聾学校との交流

 聾学校によっては、学年に1、2人の児童生徒しかいない学級もある。他学年の児童生徒と遊ぶことはできるが、学習時に意見の交換をすることは難しい。

 そこで、九州地区全ての聾学校にWebカメラを配置し、テレビ会議システムを導入した。事前に聾学校間の担任同士で連絡を取り合い、同じ単元を同時に学習する試みだ。

 例えば、小学部の国語の単元では、物語の続きを自分で作り、テレビ会議システムを使って、児童それぞれが絵を見せながら、自分の作った物語を発表することができた。

 また、他県に住む児童たちと手話での会話を通して、自分たちが日頃使っている手話の一部が熊本弁で、隣の県であっても通じない表現があることなどを知ったり、ご当地クイズを出しあったりするなど、交流も深まった。高等部の生徒では、数学の問題を解き合う様子も見られた。

 テレビ会議システムの導入により、少人数クラスにおいて有意義な授業交流だけでなく、教師にとっては、研修や講演等を配信することで、遠隔地でも研修の機会を作ることができた。日程調整等の事前の打ち合わせに時間がかかることや、安定して受信できるシステム環境の管理、同時に接続できる学校数の問題など、課題はまだあるが、今後も積極的に活用していく方針だ。

外国の聾学校との交流

 実践的な英語力を高め、英語への意欲や関心を高めるために、オーストラリアの高等学校の聾教育課程の生徒たちとテレビ会議を通じて、英語で交流をした。

 生徒たちはお互いに、聞こえなくても、英語での筆談で外国との交流が可能だ。国が違うと、手話も違う。あらかじめ用意しておく文もあるが、相手からの質問にとっさに書く英語での返事に、躊躇することなくペンを走らせながらの英語筆談を通じ、生徒たちの英語への興味関心もアップしたという。本校では、多くの生徒たちが英検にもチャレンジしている。

基礎・基本の習得を目指し、フラッシュ型教材を活用

フラッシュ型教材を活用した授業の様子

フラッシュ型教材研修会

外部講師を招いてのフラッシュ型教材研修会

 特別支援学校では、個々の障がいの実態に応じた配慮を加えながらも、小・中・高等学校の学習指導要領が示す内容に準じた教育を行っており、学力保障や進路保障は課題であり、学力向上に向けた授業の充実が求められている。

 普通学級で、基礎・基本の習得に、フラッシュ型教材が活用され始めていることを知った山田先生は、佐賀県や富山県で行われた『フラッシュ型教材活用セミナー』に参加し、基礎・基本の定着に適した教材だと確信を持った。

 そこで、山田先生は、特別支援学校でのフラッシュ型教材の共有活用を推進することを目的に、2013年7月、富山大学の高橋純准教授を講師に招き、九州地区聾学校の代表職員を集めて、「フラッシュ型教材の作成と活用」をテーマに研修会を開催した。

まずは校内で教材の共有

 「この研修で、フラッシュ型教材を短時間で作れることを学び、本校の小学部の先生の宿題として、教材を分担して作ることにしました」と、教材作りの中心的役割を果たした堤先生は話し、「現在、教科別、季節の言葉、行事の言葉、とカテゴリ別に400近い教材が、校内ネットワークの中に置かれています。また、1年生ではひらがなで表現していた言葉を、2年生では漢字にするなど、一人の先生が作ったものに後付けして、学年レベルの教材も簡単に用意できるようになりました」と加えてくれた。

フラッシュ型教材の活用・実践へ

 聾学校で使われるフラッシュ型教材は、視覚による答えの確認ページが加えられている。実際の授業では、少しでも発声のある児童生徒は、音声でどんどん発言し、発声が困難な児童生徒は短時間で口形と指文字を使って、どんどん答える。次のページで文字を見て答えを確認し、リズミカルに授業が進む。

 児童生徒たちは生き生きと目を輝かせて、フラッシュ型教材に挑戦するという。

地域から日本全国へ、次なるステップは海外へ

 2014年度のネットワーク構築事業の目標は、年度内に学校生活や授業で使う手話動画の作成だ。すでに英語の基本的な文章の撮影は終了している。これは、プロのアメリカ手話通訳者に登場してもらい、世界に通用するSigned EnglishやSigning Exact Englishのような、書く力を伸ばす英語教材となること請け合いである。

 シンガポールで開催されたアジア太平洋聴覚障がいの会議でもフラッシュ型教材を紹介するなど、山田先生は足取り軽く、聴覚に障がいのある児童生徒のために、教材作りや教材集めに挑み続ける。

 この記事をきっかけに、特別支援教育のネットワークがさらに強くなることを願うばかりである。

山田先生から全国の先生方へ
eTeachersを利用して教材を積極的に共有しましょう!

 全国にいらっしゃる特別支援教育に携わっておられる先生方の中には、たくさん教材を作り、活用していらっしゃる方も多いと思います。フラッシュ型教材を活用し、県の枠を超えてその障がい種に適した教材を共有化することで、より効果的な授業作りができることを期待しています。

山田先生自作の指文字フラッシュ

『eTeachers』 は、チエルが事務局のフラッシュ型教材ダウンロードサイト。登録会員数は、全国の先生方26,979人、共有されているフラッシュ型教材は14,000以上にのぼる(2014年9月現在)。

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