公開日:2017/1/30

「学校情報化認定」で、自分の「現在地」を知ろう

JAET(日本教育工学協会)

教育の情報化の推進を支援する「学校情報化認定」をご存知だろうか。これは、JAET(日本教育工学協会)が行っている事業の一つ(文部科学省後援)で、「学校の情報化」の進捗状況をWeb上で自己診断し、一定水準以上に達していると判定されれば、「学校情報化優良校」として認定されるものだ。JAETは、どのようなねらいでこの事業を行っているのか。どのような基準で判定するのか。JAET会長で、横浜国立大学教育人間科学部の野中陽一教授にお話を伺った。

日本教育工学協会(JAET)
野中 陽一会長

「学校の情報化」が、どこまで進んでいるか。「現在地」を知る指標

―「学校情報化認定」をスタートしたねらいは?

 これまで日本では、「学校の情報化」が進んでいるのか遅れているのか、それを測る指標がありませんでした。文部科学省もICT機器の整備状況やICTを活用した指導力の調査は行っていますが、実際にどの程度学校の情報化が進行しているのかを測る指標がなかったのです。

 指標がなければ、自分たちの現状を正確に客観的に把握することができません。現状把握ができなければ、課題を見つけることができず、改善さえもできません。下手をすると、ずっと停滞したままになってしまいます。

 そこで、2011年に「学校情報化チェックリスト」を開発し、このチェックリストを用いた「学校情報化診断システム」を開始しました。自分の学校の情報化がどこまで進んでいるのか、他校と比べて遅れているのか、「現在地」を自覚してもらうことが、「学校の情報化」を促進することにつながると考えたのです。

―まずは、図1のチェックリストを開発されたわけですね。どんな工夫をされましたか?

 第一に心掛けたのは「シンプルさ」です。このチェックリストは、イギリスで行われている同様のチェックリストをベースに、文部科学省が取りまとめた『教育の情報化に関する手引』や『教育の情報化ビジョン』などの要素を加味して開発したのですが、参考にしたイギリスのチェックリストは、カテゴリーが八つもあり、設問が合わせて100以上という膨大なものだったのです。こんなに多くては、誰も試してくれませんよね(笑)。

 そこで、カテゴリーと設問を厳選しました。四つのカテゴリーで合計20問に絞り込みました。誰でも気軽に取り組んでもらえるようにするためです。

―シンプルで、誰でも気軽に取り組める。とても重要な条件ですよね。

 また、各レベルの文章を読めば、自分の学校がそのレベルに達しているかどうか、迷わず判断できるように、一言一句吟味しました。

 たとえば、「教科指導におけるICT活用」では、

レベル0一部の教員が(中略)
ICTを活用している

レベル1ほとんどの教員が(中略)
ICTを活用している

レベル2ほとんどの教員が(中略)
日常的にICTを活用している

レベル3すべての教員が(中略)
効果的にICTを活用している

 短い文章で、各レベルの違いが的確にわかるよう、知恵を絞りました。「迷わず簡単に自己評価できること」、これが第二の工夫です。

―確かにこれなら、各レベルの様子がイメージしやすく、迷いませんよね。

 第三に、「学校の情報化のルーブリック」として機能するように工夫しました。最近、小学校でもルーブリックを使う事例が増えていますよね。

 ルーブリックとは、評価基準であると同時に、今後の努力目標でもあります。チェックリストで現状を評価しつつも、そこで終わるのではなく、「今後は努力を重ねてレベルを一つずつ上げていきましょう!」と、チェックリストが努力目標としても機能するように設計したのです。

―開発に特に苦労された点は、どのようなところでしょうか?

 でも、チェックリストは一度つくったら終わりではないのです。先生方のご意見や最新の教育政策などを反映して、常にバージョンアップしています。現在のチェックリストは、もう4代目ですよ。

 実は最初に作ったチェックリストは、先生方から「難易度が高すぎる」とダメ出しをされたんです。学校の情報化を積極的に進めてきた先進校にさえ、「これでレベル2を取るのは無理だよ」と、あきれられました。

 難しすぎては利用者は増えませんし、やる気も出ません。基準に満たない学校をふるい落とすのが目的ではなく、励まして学校の情報化を進めてもらうのが目的ですから、難易度を見直しました。


「学校情報化優良校」の認定を受けるには?

―昨年1月には、このチェックリストを使った「学校情報化認定」を始められましたが、その理由をお聞かせください。

 我々が参考にしたイギリスのチェックリストも、自己診断が最終目的ではないんです。自己診断で一定基準を満たし、審査をクリアすると「ICTマーク」が贈られる。この「ICTマーク」にはかなりのステータスがあり、これを持っている=先進校の証しとして、尊敬の対象になるほどです。その日本版を作れないかと考え、「学校情報化認定」を始めました。自己診断で終わるよりも、こういう認定を受けられれば、モチベーションも上がりますからね。

―認定を受けるには、まず何から始めればよいのですか?

 まずはユーザー登録をして、チェックリストを使った「学校情報化診断システム」で自己評価してみてください。これは、ウェブ上のシステムで、誰でもすぐ、簡単に利用開始できます。

 そして、全項目の平均が2以上で、レベル0の項目がなければ、エビデンスを入力します。

―エビデンスとは?

 チェックリストへの回答が、本当であることを示す証拠の書類です。その種類はさまざまですが(図2参照)、たとえば、ICTを使って指導している様子を写した画像なども提出していただきます。

 本当は、学校を訪問して授業などを拝見するのがベストではあるのですが、予算の都合上、「優良校」の認定は学校訪問はせず、書類等のやりとりだけで行います。最低3名の審査員が審査し、全員のOKが出れば、晴れて認定となります。

―現在、何校が「学校情報化優良校」に認定されていますか?

 2016年6月現在で、125校です。小学校が全体の約7割を占めています。

 優良校として認定されると、「学校情報化先進校」への応募資格が与えられます。審査条件や内容は「優良校」よりも厳しくなっており、訪問調査も実施します。「学校情報化先進校」ですので、「先進的かどうか」を重点的に視察します。その後、学校訪問した審査員が作成した報告書を審査員全員が精読し、最終決定します。

―今年度からは、「学校情報化先進地域」の表彰も開始されましたが、このねらいは?

 実は、この「学校情報化先進地域」を増やすことが、我々の最終目標と言っても過言ではありません。学校の情報化を進めるのには、学校単位では限界があり、自治体の理解と支援が不可欠だからです。

 たとえば「教科指導におけるICT活用」にしても、ICT環境が整っていなければ、行うことはできません。そもそも公立学校なのですから、特定の学校だけで情報化が進んでいるのは好ましくありません。すべての学校で実施されるのが理想のはずです。

 そこで、「自治体内の公立学校の80%以上が学校情報化優良校の認定を受けている」ことを応募の第一条件とする「学校情報化先進地域」をスタートすることで、限られた学校だけでなく、市町村内全域で、学校の情報化を促したいと考えました。

―今年度、「学校情報化先進地域」として表彰されたつくば市は、その好例ですね。

 つくば市は、52校ある市立小・中学校のすべてが、「学校情報化優良校」という徹底ぶりです。学校間で格差を作らないこうした姿勢こそ、公教育のあるべき姿ではないでしょうか。

 また、「学校情報化先進地域」として自治体を表彰すれば、裏方に回りがちな教育委員会の努力を評価することができます。他の自治体も「うちもやってみようか」と、腰を上げてくれるのではないかと期待しています。

 現在は「表彰」制度ですが、将来的には「認定」制度に移行することも視野に入れています。


学校や自治体にとってどんなメリットがある?

―「学校情報化認定」を利用すると、学校や自治体にどんなメリットがあるのでしょうか?

 まず、チェックリストで自己診断するだけで、自分の学校の「現在地」を把握できます。全国平均値との比較も表示されますので、他の学校と比べて、何が進んでいて、何が遅れているのかまでわかります。そうすれば、今後どこをどう改善すればよいのか、方針が明確になりますよね。

 また、ユーザー登録をすると、他の優良校のエビデンスをすべて閲覧できるようになります。他校の成功事例は参考になるはず。優良校のカリキュラムや推進計画を参考に、最初は真似をすればよい。そして、実施しながら、自分たちなりにアレンジを加えていけばよい。優良校の事例を自校のロードマップとすれば、迷うことなく進んでいけると思います。

―ICT機器を購入する際に、予算を獲得しやすくなった、との声も寄せられているようですね(図3)。

 他校や他地域に比べ、何が遅れているのかがひと目でわかりますから、自治体を動かす説得材料にもなりますよね。

 最近は、自治体側も「学校情報化認定」を積極的に活用し始めています。

 たとえば、東京都八王子市は、このチェックリストで市内の学校を自己診断した結果、授業でのICT活用が滞っているのは、普通教室のICT環境の整備が遅れていることが原因だと判断しました。そこで、まずは、ICT環境の整備から着手するとともに、長期計画を立てて学校の情報化を進め始めています。

 また、滋賀県草津市は、「草津市教育情報化推進計画」の中に、「市内全校が学校情報化優良校の認定を受ける」ことを目標として盛り込んでいます。

 教育委員会の方々には、まずこのチェックリストを使って自己診断し、自分たちの現状を把握してほしい。その上で、今後の目標や計画を立て、予算を組む際の参考にしてもらいたい。学校単位ではなく、地域単位で情報化を進めるきっかけになれば幸いです。

4月には、文部科学省の後援も決定。ぜひ「活用」してほしい!

―今年4月には、文部科学省の後援も決定しましたね。

 国の教育政策に基づいてこの事業を進めてきたので、文部科学省に後援していただけることになったのは、とてもうれしいですね。文部科学省としても、学校の情報化が遅れている地域を後押しするためにも、この「学校情報化認定」を活用してほしいと考えていると思います。

―いわば「国のお墨付き」をいただいたわけで、今後は利用する学校や自治体がさらに増えそうですね。

 「学校情報化優良校」は、現在のところ、まだ125校ですが、当面の目標は、1、000校としています。1、000校が認定されるほど普及すれば、知名度もステータスも上がり、「みんなやってるし、うちもやってみよう」と、腰の重かった学校や自治体を動かしてくれるでしょう。

―最後に、小・中学校の先生方や教育委員会の方々に、メッセージをお願いします。

 今後も「学校の情報化」の流れが加速していくのは間違いありません。この流れに乗り遅れないためにも、「学校情報化認定」を利用して、「学校の情報化」を進めてほしいですね。

 優良校の認定を受ける自信があるなしにかかわらず、まずはチェックリストで自己診断してみてください。そうすれば、自分の学校の現在地がわかりますし、今後どうすればよいかも見えてきます。「学校の情報化」を始める第一歩として、ぜひ活用してみてください。

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