公開日:2017/8/4

私学助成における大学と高等学校への支援とは

Special Interview

文部科学省「平成29年度 私学助成関係予算」より

わが国の学校教育において、私立学校は学校数、学生・生徒等の数ともに全体の大半を占めるなど、大きな役割を果たしている。私学の振興を図ることは、学校教育の発展を図るうえでも重要であり、国や各都道府県は私立学校の振興を重要な政策課題として位置づけ、「私学助成」を行っている。現在、私立大学や高等学校に対する支援にはどのようなものがあるのか。文部科学省高等教育局私学部私学助成課・課長補佐の一色潤貴氏と坂本貴氏に、「平成29年度 私学助成関係予算」についてお話を伺った。


文部科学省
高等教育局 私学部 私学助成課 課長補佐

坂本 貴

文部科学省
高等教育局 私学部 私学助成課 課長補佐

一色 潤貴

「私学助成」の目的とは?

 近年における少子化等の影響もあり、私立学校をめぐる経営環境は大変厳しい状況にある。各学校法人も危機感を持ち、さまざまな努力を行っており、新しい時代の要請に応えた学部・学科の見直しや、特色ある教育活動の展開、経営の効率化等による経費の削減など、成果を上げているところも少なくない。国や都道府県は、経営基盤を安定させ、質の高い教育を継続的に実施していくために、私立学校の運営費に対して「私学助成」を創設し、補助金を交付している。

 「私学助成」の目的は①私学の教育条件の維持向上、②学生等の修学上の経済的負担の軽減、③私学経営の健全性の向上︱にある。2017年度の私学助成の予算額は、4、304億円(前年度比0.3億円増)を予定しており、その内訳は、「私立大学等経常費補助」が3、153億円(前年度同)、「私立大学等教育研究活性化設備整備事業」が13億円(前年度比10億円減)、「私立高等学校等経常費助成費補助」が1、036億円(前年度比13億円増)、「私立学校施設・設備の整備の推進」が102億円(前年度比2億円減)となっている。

私立大学等に関する予算

 まず、私立大学等に関する予算としては、「私立大学等経常費補助」「私立大学等教育研究活性化設備整備事業」に分けられる。一色氏によれば、ここ数年「私立大学等経常費補助」は減少傾向にあったが、2017年度はその意義を重視し、前年度同額を確保できたという。

 「私立大学等経常費補助」はさらに、「一般補助」と「特別補助」に分類される。「一般補助」は、大学等の運営に不可欠な教育研究に係る経常的経費について支援するものだ。「私立大学等経常費補助」に占める「一般補助」の割合は約85%と大きい。2017年度予算では、2、689億円(前年度比13億円減)となった。一方で「特別補助」は、2002年度移行の18歳人口の急激な減少を見据え、自らの特色を活かして改革に取り組む大学等を重層的に支援するものとされる。2017年度予算では、464億円(前年度比13億円増)となった。

「私立大学等改革総合支援事業」に「プラットフォーム形成」を新設

 2013年度より、私学助成の改善とさらなる充実を図り、私立大学の質の促進や向上を目指してスタートした「私立大学等改革総合支援事業」は、2017年度も継続され、2017年度予算では、176億円(前年度比9億円)となった。これは、教育の質的転換や地域発展、産業界・他大学等との連携など、大学の特色化に向けた改革に全学的・組織的に取り組む大学に対して重点的に支援するものだ。1〜5のタイプ別に申請を受け、「私立大学等改革総合支援事業委員会」の審議を踏まえて選定する。一色氏は「2017年度は、タイプ『プラットフォーム形成(5〜10グループ)』を新設しました。これは、各大学等の特色化・資源集中を促し、複数大学間の連携、自治体・産業界等との連携を進めるためのプラットフォーム形成を支援するものです」と説明する。申請にあたっては、教育機関・自治体・産業界等を含めたプラットフォームを形成し、地域における高等教育に関する中長期計画を策定することになる。タイプ5は単独校ではなく、複数校による申請に基づき、採択される。

 タイプ1〜4については従来通りだ。「タイプ1『教育の質的転換』は350校、タイプ2『地域発展』は160校、タイプ3『産業界・他大学等との連携』は80校、タイプ4『グローバル化』は80校を採択する予定です。この他、タイプ1〜4の新規採択校50〜60校とタイプ5採択校を対象に、取り組みの実施に必要な設備費がある場合は、『私立大学等教育研究活性化設備整備事業』より活性化設備費として13億円、施設・装置費として3億円を一体的に支援していきます。申請は例年5月頃より開始しており、次年度も同様の予定を考えています」と一色氏は述べた。


二つのタイプで助成する「私立大学研究ブランディング事業」


 2016年度より実施した「私立大学研究ブランディング事業」は、2017年度も同様に実施する。これは、学長のリーダーシップの下、優先課題として全学的な独自色を大きく打ち出す研究に取り組む私立大学・私立短期大学に対し、経常費・設備費・施設費を一体として重点的に支援するものだ。地域で輝く大学等への支援を行うタイプA「社会展開型」と、イノベーション創出など経済・社会の発展に寄与する大学等への支援を行うタイプB「世界展開型」の二つのタイプを設けている。2017年度は予算額は79億円(前年度比6.5億円増)で、前年度より10〜20校多い、50〜60校を新規選定する予定だという。

 申請にあたっては、1大学等につき、タイプA・Bのいずれか1件とし、「私立大学研究ブランディング事業調査回答票(以下・回答票)」と「私立大学研究ブランディング事業計画書(以下・計画書)」を文部科学省へ提出する。選定方法について一色氏は「申請大学から提出された書類は、『私立大学研究ブランディング事業委員会(以下・委員会)』で、事業の実施体制と事業内容を総合的に審査し、選定校を決定します。実施体制については、回答票の点数に基づき、全学的な取り組みを進める体制が整備されているかを審査します。また、事業内容については、計画書に基づき、事業の具体的な内容を書面により審査することとしています」と説いた。

 選定校に対しては、3年もしくは5年を支援期間とし、5年の場合は3年目までの進捗状況について、4年目に委員会が中間評価を行う。中間評価の結果に基づき、4年目以降の経常費補助の措置額を調整し、取り組みの進捗状況が著しく不十分な場合には、4年目以降の経常費補助は不交付となることもあるという。

 一色氏は「2016年度は予想を上回る198校もの申請が寄せられ、40校が選定されました。選定された大学は、各大学における研究の進捗状況や成果の発信・普及が義務づけられ、文部科学省のホームページ等を通じて発信することに努めていただきます。2016年度は5月末に募集通知を出しましたが、2017年度はそれより早く通知することを予定しています」と話した。

【事業イメージ】

授業料減免や復興特別補助も

 なお、私立大学等の学生の経済的負担を軽減するため、「経済的に修学困難な学生に対する授業料減免等の充実」として、2017年度は前年度より大幅に増額した102億円を予算とし、対象人数も前年度より1万人増の約5.8万人とした。この他、東日本大震災によって被災した、福島・宮城・岩手の3県に所在する大学の安定的教育環境の整備や、被災学生の授業料減免等への支援としては、「被災私立大学等復興特別補助」として、2017年度は18億円を用意している。

私立高等学校等に関する予算

 私立高等学校に関する予算は「私立高等学校等経常費助成」として、「私立高等学校等経常費助成費補助金」と「私立高等学校等経常費補助」に区分される。私立高等学校等への私学助成は、各都道府県が実施しており、国は都道府県への支援を行っている。

 大学への助成と同様に、「私立高等学校等経常費助成費補助金」は「一般補助」と「特別補助」に分類される。「一般補助」は、都道府県が、私立の高等学校、中学校、小学校および幼稚園等の教育に係る経常的経費について助成する場合、国から都道府県にその一部を補助するものだ。2017年度予算では、「一般補助」が879億円(前年度比7億円増)で、「特別補助」は130億円(前年度比6億円増)となった。

都道府県に対して国が補助

 「特別補助」のうち「教育改革推進特別経費」は、都道府県が、私学の特色を生かした教育の質向上に取り組む学校に助成を行う場合、国が都道府県に対して、その助成額の一部を補助するものとしている。2017年度の予算額は65億円(前年度比2億円増)であり、そのうち「教育の質の向上を図る学校支援経費」として、20億円(前年度比2億円増)は、「次世代を担う人材育成の促進」や「次期学習指導要領に向けた取組の促進」など七つの特色ある取り組みそれぞれに対して、対象となった学校数に応じた補助に充てられる予定だ。

 また、「授業料減免事業等支援特別経費」も「特別補助」に含まれている。私立の高等学校等が、生活保護世帯や家計急変による経済的理由から授業料の納付が困難となった生徒に対して授業料減免を行い、都道府県がその減免額に助成を行う場合、国が都道府県に対してその助成額の一部を補助するものだ。2017年度予算では、2億円(前年度比1億円減)とされている。

ICT環境整備より耐震化対応を優先

 「私立学校施設・設備の整備の推進」の予算も組まれている。2017年度予算額は前年度より2億円減の104億円となっている。坂本氏によれば、そのうち「教育・研究装置等の整備」の予算額は53億円(前年度比7億円減)であり、各学校の個性・特色を活かした教育研究の質向上のための装置・設備の高機能化等を支援するものとされる。「プロジェクター等による学習支援システムを整備するなど、ICT教育設備の整備への支援への需要があります。一方で、東日本大震災や熊本地震を受け、また、今後発生が懸念されている南海トラフ地震等に備えて、児童生徒の安全を確保するため、学校施設の耐震化等防災機能強化の促進が課題とされています。私立学校施設の耐震化率は、高等学校等で約86%、大学等で約89%と、その対策が国公立と比べて大幅に遅れているのが実情です」と、坂本氏は私学助成の現状を説明する。

 そして、「今後、耐震化への対応が進んだのちは、グローバル人材育成を後押しするような私立学校の取り組みを応援していきたいと考えています」と展望を語った。


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