外国語活動でも算数でも「一人1台のタブレット」が躍動する!
外国語活動の先進地域が編み出した、ICTの効果的な使い方。
―大牟田市立銀水小学校・拡大授業研究会レポート―
福岡県大牟田市は、小学校高学年での外国語活動が全面実施されるより10年以上前から、市内すべての小学校で外国語活動に取り組み、ICTを効果的に活用している。そしていま、同市は一人1台のタブレットの活用も始めている。今回は、同市立銀水小学校で行われた、「拡大授業研究会」の模様をレポートする。
1. 一人1台のタブレットで英単語・表現を「個別学習する」
大牟田市では、以前から外国語活動にICTを積極的に活用してきた。動画や音声教材によってネイティブスピーカーの発音を子供たちに届け、指導案や教材をイントラネット上で共有することで、「英語を教えた経験がない」「担任自身英語が苦手」という先生方の不安を払拭し、担任主導で外国語活動を進めてきた。
その大牟田市が、新たな一歩を踏み出し始めている。「一人1台のタブレット」を使い、「主体的・協働的に学び、学力を確かに身につける子供」を育もうとしているのだ。
一人1台のタブレットで、好きな英単語・表現を自学自習
「前時までは、オススメの国の旅行プランを、グループごとにつくりましたね。では今日は、その旅行プランを友だちに提案しましょう。まずはグループごとに、興味を持ってもらえる提案の仕方を考えてください」
6年1組担任の和田なつみ先生が日本語でそう指示すると、子供たちは車座になって話し合い始めた。
「相手が何を好きかを聞いてから、それに合ったものをオススメしよう」「じゃあ〝Do you like sweets?〟と聞いて〝Yes.〟と答えたら、この写真を見せながら、その美味しさを英語で伝えよう!」
そう言いながら子供たちがタブレットを操作すると、おいしそうなピザの写真が表示された。子供たちはタブレットを使い、これまでに「オススメ旅行プラン」を協働的につくってきたのだ。
作戦を練り終えた子供たちに、和田先生は次のように指示をした。
「友だちに旅行プランを紹介する前に、英語の発話をしておきましょう。質問や説明で使いそうな英単語を自分で考えて選び、発話してください」
すると子供たちは、慣れた様子でヘッドフォンをつけて、自分のタブレットと向き合った。そして、チエルのフラッシュ型教材『小学校のフラッシュ英単語/英語表現』を開くと、各自で練習を開始した。「sweet」などの形容詞を練習する子もいれば、「salt」「play」などの名詞や動詞を練習する子もおり、その練習内容は一人ひとり違っていた。タブレットを使うことで、自分の好きな英語の自習ができるのだ。
タブレットを説明・勧誘のツールとして活用
そしていよいよ、友だちに「旅行プラン」を勧める活動が始まった。グループごとにブースを設け、友だちを呼び込んで、説明を開始する。たとえば、ヨーロッパのグループでは、このようなやりとりが行われた。
勧誘者:What country do you want to go?
お客:I want to go to Italy!
勧誘者:Oh! Do you like cheese?
お客:Yes!
勧誘者:(ピザの写真を見せながら)It’s pizza!
お客:Oh! I like pizza very much!
勧誘者:Do you like a beautiful spot?
お客:Yes, I do!
勧誘者:(青の洞窟の写真を見せながら)This is a beautiful spot in Italy!
なかなか英単語が出てこないで口ごもる子もいたが、どの子も伝えることを決してあきらめない。たとえば「石碑」を表す英単語がわからなかったある子は、「えーっと… old stone!」と知っている単語を駆使して伝えようとしており、身振り手振りを交えて、時には日本語混じりになっても、懸命に伝えようとしていた。
タブレットが、協働的な学びを促進し、学習意欲も伸ばした!
活動を終えた子供たちは、充実した表情で感想を述べた。
「英単語が思いつかなくても、タブレットで写真を見せれば、わかってくれた」
「事前にフラッシュ型教材で英単語の練習をできたのがよかった」
と、勧誘する側の子供たちがタブレットの良さを述べると、
「きれいな写真を見せてくれたので、行ってみたいなと思った」
「説明がとてもわかりやすかった」
と、お客側の子供たちも、満足げな表情を浮かべていた。「もっとやりたい!」との声も聞かれた。タブレットがあったからこそ、対話的な学び、協働的な学びがスムーズに進み、学習意欲も高まったようだ。そうした様子を見て、和田先生は子供たちに「伝えたいことを伝えるのって、難しいね。でも難しいからこそ、一生懸命工夫して、伝わった時はとてもうれしかったでしょう? これが、コミュニケーションの面白さなのです」と話した。
続いて、6年2組の算数「比例と反比例」の公開授業が行われた。銀水小学校では、算数でも一人1台のタブレットを活用している。注目すべきは、先生が自作したデジタル教材を使っている点だ。今日の授業でも、エクセルで作成した自作教材を用いたが、一つのエクセルファイルの中にたくさんの教材が盛り込まれ、授業の展開に合わせてタブを切り替えて使っている。
2. 算数で、自作のデジタル教材を一人1台のタブレットで使う
見通し
反比例のグラフを予想してタブレットに書く。
前時で正比例のグラフを学習した子供たちに、担任の柴田祐道先生は、授業の冒頭にまず、こう指示した。
「反比例のグラフはどのような形になるでしょうか。教材を開き、【見通し】タブをクリックし、タブレットに書き込みましょう」
慣れた手つきで、タブレットに書き込んでいく子供たちの画面を、柴田先生はチエルの『らくらく授業支援』を使って電子黒板に一覧表示し、その内容をリアルタイムに把握する。気になる子供を見つけたらすぐ机間指導に向かい、誰を指名するかも一覧表示を見て決めていた。
問題
三つの表をグラフに書く。
「予想が当たっているかどうか、実際にグラフを書いてみましょう。全部で3問ありますので、タブレットにグラフを書いてください」
子供たちは自作教材のタブを押して【問題1】に切り替え、xとyの数値が書かれた表を見ながら、方眼シートにグラフを書き込んでいった。種明かしをすると、【問題1・2】はy=12÷xとなる反比例だが、【問題3】はy=12-xで反比例ではない。
「書き終わったら、隣の友だちと交流してください」
子供たちはタブレットを見せ合い、自分の考えを説明し合った。
確認
数値を入力してグラフを表示させ、答え合わせをする。
続いて答え合わせに移る。自作教材の【確認】タブを押すと、問題1・2・3のyが空欄になっている表が現れた。子供たちがこの空欄に数値を書き込むと、エクセルの機能によって自動的にグラフが描画される仕組みだ。先程自分が書いたグラフと見比べ、合っているかを確認していった。
指名された子供が発表する際には、タブレット画面を電子黒板に映し、説明する。黒板に転記する必要がないので、時間を短縮できる。
比較
三つのグラフを重ねて比較する。
問1・2・3のグラフのどれが反比例なのか、グループで考える。自作教材の【比較】タブを押すと、問1・2・3のグラフが並んで表示された。
「先生! 三つのグラフを重ねて見比べたいです!」と、子供から声が上がると、柴田先生は微笑み、「重ねられますよ。グラフをタッチしてドラッグしてみてください」と答えた。
重ねて比較することで、問1・2が反比例であり、問3は違うことに、子供たち全員が瞬時に気づくことができていた。問1と問2が、同じ反比例の式であることも、理解できていた。
もっと
反比例のグラフが曲線になることを実感させる。
「反比例のグラフは、原点を通らない直線になる」と、理解した子供たちに対して、柴田先生はこう疑問を投げ掛けて、子供たちを揺さぶった。
「みんなが書いたグラフを見ると、点が並んでいるだけで、先生には曲線に見えないんだけど?」
すかさず子供たちが「もっと点を打てば、曲線に見えるはず!」と反論すると、「では、もっと点を打ってみましょう」と、【もっと】のタブをタッチさせた。するとy=12÷xの関係にあるxとyの表が表示された。yだけ空欄で、欄の数はさきほどの問題よりもずっと多い。子供たちが電卓を片手にyの数値を入力していくと、エクセルのグラフ化機能で、y=12÷xのグラフが浮かび上がってきた。
「曲線っぽくなってきた!」と、子供たちから歓声が上がる。授業もさることながら、自作教材も見事な出来栄えだった。子供たちの実態に合わせてスモールステップでつくられた授業に、教材がぴったり合っており、子供たちからどのような意見や要望が出てくるかを予測してつくられていた。おかげで子供たちは、反比例のグラフについて意欲的に学習し、その特徴を体感し、話し合いながら理解できていた。